一話 レジデント3
「私達の所属している国『レジデント』は、正式名称を『レジデントコロニー群共和国』と言って、この月と地球のラグランジュポイントにある四基のコロニーからなる国です。主な産業としては精密機械や部品など、高度な技術を必要とするものが挙げられ、その技術力は世界でも一、二を争う程だと言われています」
長い棒を持った教師が、それをグルグルと回しながら話す。ちょっとウザい。
「『レジデント』は四基のコロニーから成り立っていて、それぞれ決まられた役割を持っています。今私達が生活しているコロニー『レジデント3』は軍事施設とその工場があり、主に国防をの役割を担っている事になります」
「でも最近では、民間の企業なんかもかなりの数入ってきていますよね?」
教師の説明にある生徒が疑問をぶつける。熱心なことだ。
「そうですね。元々、『レジデント3』に軍事施設が集められている理由は戦争状態になった時に民間人を巻き込まないためです。ここ数十年、『レジデント』では戦争状態に陥ってませんから、比較的土地の余っている『レジデント3』に企業が進出してくるのも無理はないでしょう」
で、どこまで話しましたっけ? と教師がクサい演技を挟みながら授業の軌道修正をする。
「皆さんは、何故『レジデント』が三大国家の傘下に入らず軍事力を背景に中立を謳っているか分かりますか?」
そんな教師の唐突な問いかけに、クラスのみんながう~んと唸り声を上げ始める。
俺は教師の質問の答えが分かっているので、視線を宙に彷徨わせていると、
「なあリレイ、今の質問の答えって分かるか?」
隣の席の、まあ知らない仲ではない男子生徒が話し掛けてきた。リレイと言うのは俺の名前だ。
「『レジデント』の基本理念は来るもの拒まず去る者追わず、他国の争いごとには我関せず。これは建国者が掲げたってことは知ってるよな?」
「おう」
「この理念に『レジデント』は今も従っている。亡命者のもたらした技術によってこの国は発展しているし、中立を保っていられる。三大国家からの亡命者でこの国は成り立っていると言ってもいい。つまり『レジデント』って国は、三大国家についていけなくなった人々が自由と平穏を得るために建てた国なんだ。だからこその中立国家で、それを実現するために大きな軍事力を持ってるってこと。これは先生の質問の仕方がちょっと分かりにくいな」
「そうか~。半分くらい理解できたぜ、サンキュー」
「半分かよ」
そんな感じで話していると、教師が俺の語った内容とほぼ同じ答えを話し出した。
「ハ~ァ。お前の言ったこととほとんどおんなじこと言ってるぜ、あの先生」
妙な声を上げながら隣のバカが感嘆の声を漏らす。
「しかしな、何でお前そんなに頭いいのに、士官学校のパイロットコースなんてバカの終着点みたいなとこにいるんだ? お前ならもっと――」
「俺は託されたからな。その責任は果たしたい。今の理由はそれだけだ」
「?」
わけがわからん、と言った表情をする隣のバカ。
「分かんないならいーんだよ」
俺がそう苦笑いと共に言葉を返すと同時に、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
「よし、今日はここまで。昼から君達は訓練だから、遅れないように行動してください」
起立、気を付け、礼。一連のルーティンをこなした後、教師が教室から出て行く。
そうだ。八年前から変わらない。俺は、ただ守りたいだけなんだ。
♢
BHF。現在、宇宙空間での戦闘で用いられている人型感覚同調ロボット。
その運用のされ方はさながら数百年前に存在した航空機のようなもので、偵察、爆撃、制空戦……など、様々な使われ方をされる。
このレジデント宇宙軍士官学校のパイロットコースに所属する者は、主にこのBHFの操縦技術を学ぶ。
午前中は座学。そして午後からはこうして訓練場に出てBHFの操縦訓練と、一日の流れは大体こんなものだ。
パイロットスーツに着替え、訓練用のBHFが格納されてある倉庫に集合する。
「おそ……くはないか。全く、何故お前等は、実技訓練となると急に人が変わったように優等生になるんだ?」
集合時間の二十分前に集合完了した俺達に、呆れた表情を隠そうともせずにそう言ってのけるのはBHFの実技を担当する教官の一人、エルフィ・ラフだ。
この人、実はレジデント宇宙軍の元エースだ。類稀な指揮の才能と高い中距離戦闘能力。この二つを以て、彼の率いた部隊の損害率は全部隊中最小、尚且つ最大の戦果という、ちょっとありえないくらいの功績を残している。
個人的にはそんな人物の指導が受けられるなんてとてもラッキーだとは思うのだが、周りの生徒は常に不満げだ。
まあ、その気持ちも分からなくもない。だってコイツまともに教えないんだもん。
「まあいいや。各自指定のBHFに乗り込めー」
気の抜けた合図とともにクラスメイト達が一斉に動き出す。
「あ。リレイは自分の機体だぞ」
言われんでも分かっとるわ!