十七話 笑わせる♦
オールバックのイケメン、アデル・フェニーニ視点です。
「この国は平和、か。フッ、笑わせる」
リレイとの回線を切断した後、俺はコックピットの中で独りごちた。
今のレジデントが平和に見えるなど、俺に言わせたら有り得ない。
「だがまあ、一般的な目線で見たらそうなのだろうな……」
そう、今のレジデントは、表面上は平和だ。内戦もないし、紛争に介入しているわけでもない。それどころか、第二次技術闘争以降は戦闘らしい戦闘も起こってはいない。
だがそれは、あくまで結果論だ。何もなかったから平和だと言うのは、あまりにも楽観的過ぎる。
現在のレジデントと敵対しているのはデインクール公国だけとなっているが、それはあまり確かではない。
レジデントは中立の国だ。どこの同盟、連合にも属さず、独立して存在している。
この事を、戦争を眺めている第三者のような立場だと思っている輩がいるが、それは甚だ見当違いのものだ。
正確には、大海原にある孤島で、一人必死に針を逆立てているハリネズミと言った方がよほどしっくりくる。
この場合の針は軍事力で、大海原は三大国家。
つまりレジデントは、軍事力で他国を牽制しているに過ぎないのだ。
こんな綱渡り状態の現状を、平和と呼べるのだろうか?
「その針が鋭すぎるから手出ししにくいんだろうけどな」
全く、試合前に何を考えているんだろうか。幾ら機体の性能が良くても、集中力が足りていなければ宝の持ち腐れだ。
『――カウントを開始する。十……』
考え事をしていた所為だろうか。審判団の通信を聞き漏らしていたらしい。もうカウントが始まっている。
慌てて意識を集中させる。全ての神経を脳に直接繋げていく。そんな感覚。
バチィ! スイッチの切り替わる音と共に、視界に電流が走った。
『三……』
カウントは既に三を切っている。しかし俺に、先ほどまでの焦りはない。
『二……』
今の俺は、機械の身体。
『一……』
人の身では不可能なことを、平然とこなす鋼鉄の巨人!
『試合開始!』
そんな暗示を掛けながら、俺は果てしない宇宙に飛び出した。
この心にあるもの、その全てを焼き尽くすように。