十三話 リベンジ
「話す義務、あるんですか?」
放課後に生徒会室で始まった話し合い(と言う名の事情聴取)は、金髪一年の非協力的な一言で開始早々凍り付いた。
「義務はないな。だが、君はそれでいいのか?」
「どういう意味ですか?」
不信感を露わにしつつ聞き返す。
「君はレリックスの次期党首候補何だろう? そんな君が学校で問題を起こしたとなればいろいろと都合が悪いんじゃないか?」
「……」
図星だったのだろう。黙り込む金髪一年。
数秒の後、渋々と言った体で口を開く。
「……イライラしてて、それでやりました」
それはつまり、特に理由もなくイーグルは蹴られたという事か。その事実に俺は無意識に歯ぎしりをしてしまう。
「落ち着け」
俺が苛立っている事を察したのか、生徒会長の冷静な一言。
「この話し合いは主に君たちの確執を低減することを目的としている。お互いが納得できるところを模索していくんだ。そのためにリレイ君、君は彼女に何を要求する?」
「もう昨日みたいに殴ってやりたいと思う程腹を立てているわけでもありませんし、謝罪があればそれで満足です」
今は生徒会長――あんたの方が殴ってやりたいんだけどな。そんなつぶやきを心の中で挟む。
「そうか……。こう言ってくれているが、君は謝罪する気はあるのか?」
「流石に悪いことをしたという認識くらいはありますし、謝って許してもらえるのなら……」
その時の金髪一年からは、彼女が本当に反省しているであろうことがうかがえた。俺に対して悪いことをしたと認識しているから簡単に目を合わせられないし、顔を上げることもできない。そのどちらも、自分のことを『悪くない』と思っている人間には出来ない芸当だ。
金髪一年はおもむろに席を立った。そしてチョコチョコと小さな歩幅で俺の石の隣まで移動する。
彼女は、不承不承と言いたげな表情をして目線を壁へと向けていたが、俺にはもうそれが恥ずかしさと申し訳なさを隠すポーズにしか見えない。
必死に感情を隠そうとしているその様子がどこか可笑しくて、俺はプッと吹き出した。
途端、顔を真っ赤にして顔をこちらに向ける金髪一年。
「え、えと……。あの、その……先輩のイーグルを傷つけてしまって、すいませんでした!」
少しどもりながらも、彼女は結構大きな声で謝りながら頭を下げた。
その不器用な謝罪は、だからこそその内心を顕著に映し出していて、俺にそれを『許さない』なんていう不躾な真似は出来なかった。
♢
「それで、話って何ですか。生徒会長」
金髪一年の謝罪の後、話し合いが一区切りついたと判断した生徒会長は帰宅するように指示を出した。――俺を話しがあると引き留めて。
「君の父親は確か、シィレイ・アナクロス――軍で『ストームブリンガー』と呼ばれていたパイロットだったと記憶しているが?」
「よくご存じですね。その通りです。それが何か?」
「昨日少し調べたんだ。あの一年生に機体を傷つけられてあれほど激昂していたのにもそれで納得がいったよ。あれは君にとって親父さんの形見のみたいなものだ」
この男、何が言いたいんだ? 俺は生徒会長の言いたいことが分からない。
俺がオヤジの息子だってことはちょっと調べれば分かる事だし、イーグルのことだって生徒会長が軍とのパイプを持つBHF製造会社の総取締役息子なら、いくらでも知りようはあるはずだ。
だが、なぜ今ここでそれを言う?
「回りくどい言い方は止めにして、本題に入ろうか。……リレイ・アナクロス君。俺は君に決闘を申し込む」
デュエル。様々な場合に用いられる言葉だが、今の場合、その指し示す意味は明白だ。
つまり、BHFで一対一の勝負をしよう、ということ。
俺の口角は自然と吊り上がっていた。
「理由は?」
「君は親父さんのようにはなれない。それを教えてあげようと思ってな」
それは昨日よりも明らかな挑発だった。
「開始早々撃墜なんてみっともない真似だけは止めて下さいよ?」
「それは君も同じだろう?」
室内で散る、見えないけれど熱い火花。
視線と言う名の闘志がぶつかり合った瞬間だった。