十話 怒りと非難
倉庫と倉庫の間の、日の差し込まない薄暗い空間。ある意味密室に近いその場所で、俺と、金髪一年と、生徒会長が視線を交わしていた。
金髪一年が俺に向ける視線は毛を逆立てるような警戒心溢れるものだったが、だからこそ内心で怯えている事が分かった。さしずめ追い詰められた子猫と言ったところか。
金髪一年の視線の意味は理解できる。分からないのは生徒会長の視線だった。刺すような鋭い視線。それは、俺の行為を非難しているように思えた。
どこに生徒会長から非難されるいわれがあるのか? その疑問の意も込めて、生徒会長の質問に答える。
「この生徒に自分の機体を傷つけられましたので、その意図を聞くために捕らえようとしていました」
「捕らえる?」
「はい。逃走しようとしたものですから」
俺の返答を咀嚼しているのだろうか。生徒会長はしばしの黙考の後、
「だから、殴ろうとしたのは正当だと言いたいのか」
そう、冷たく言い放った。
ああ、そういう事か。生徒会長は、俺が他の生徒を故意に傷つけようとしたことを非難しているのか。そこに至る経緯がどんなものであろうと、俺のしようとしたことは悪で、避難されるべきことだと、そう言いたいのか。
「正当でないのは理解しているつもりです」
言葉は、自然と口から漏れていた。俺の思いを理解してもらいたい一心で。
「ですが、俺は単純に謝られただけではこの一年生を許せそうにありません。俺の機体は――」
「とても大切なものだから、か?」
「ッ!」
言おうとしていた事を先回りされ、俺は言葉に詰まる。
「君が話しているのは感情の話だ。これはそう言う類の話じゃない。許せないから怒りに身を任せて暴力を振るうという行為自体が、非難されるべきだという事を話しているんだ。君は、もう少し上級生としての自覚を持った方がいい。後――」
生徒会長の次の言葉は、俺にとってとても容認できるものではなかった。
「たかが機械だ。人間が傷つけられたわけじゃない。そこまで興奮することじゃないはずだ。落ち着いて――」
「ふざけるなッ!」
そう叫んだ時には、俺は生徒会長に掴み掛かろうとしていた。
制服の胸元めがけて飛び掛かる俺を生徒会長は冷たく一瞥した後、半身身体を逸らして避けた。
俺はその勢いのまま、無様にも地面に這いつくばる。
生徒会長は地面に倒れ込む俺を見ると、気疲れしたようにフウッと息を吐き出した。
「とにかくこの件は、生徒指導部の方で預からせてもらう。君が許せないのも理解できないではないが、今は頭を冷やすためにも一旦帰宅してほしい。後日、連絡を入れるようにする」
頭上から生徒会長の声が響く。その声は掴み掛かられたにもかかわらず怒気を一切感じさせないもので、それが一層俺を惨めにさせた。
その後、生徒会長に連れられて校門を出るまで、俺は俯いた顔を上げることが出来なかった。
俺の思いは、生徒会長には届かなかった。