一章 プロローグ
宇宙。
それは、地球に住む人々にとって夢であり、未来への希望を体現するものだった。
しかしそれは、もう過去の話。
総人口の七分の四。それが現在、つまり西暦で換算すると2437年、今の年号でフロンティア(以下Fで省略)237年に宇宙で生活している人間の総数だ。
人々の生活の場は月面やスペースコロニーなど、太陽系のあらゆる場所に作られた。
しかし、作る過程では相当な苦労があったようだ。なんせ宇宙空間は無重力で、既存の機械では全く作業が進まない。
そこで科学者たちは、宇宙で作業をするにあたって従来の重機などは適切ではないと考え、人間の五感を機械に伝えるシステム、『リンク・システム』を用いて人型感覚同調ロボット『Humanoid Frame』。通称『HF』を開発した。
『リンク・システム』も『HF』も初めは単純に、より良くしようとして生まれたものなのだが、このような発明は得てして悪用されるものだ。
当然のことながら、宇宙に出たからと言って『国』というシステムは消えなかった。
EUの流れを組む貴族国家『デインクール公国』。アジア諸国をまとめた日本を中心にしたアジア連合国『大和』。そして南北アメリカ大陸を統合して新たな体制を作った『アメリカ統合連合』。
この三つの大国は、宇宙に出ても資源や土地を求め争いを続けてきた。
宇宙での戦いに、機動力と繊細な挙動を行う事の出来るマシンはうってつけだった。
『Battle Humanoid Frame』。『BHF』と呼ばれるそれは、HFの概要を基に戦闘用に開発された人型感覚同調ロボットだ。全長十二メートルもの巨体を有するBHFは、宇宙戦闘における新たなセオリーを生み出した。
現在では、宇宙空間における戦闘のほとんどはBHFで行われており、その高い汎用性と機動力によって様々な任務、状況下で使用されている。
F97年に勃発した『三国間大戦』。それは宇宙で行われた初めての大規模戦争であり、BHFが実戦投入された戦いでもあった。
『三国間大戦』は、月と地球のラグランジュポイントの争奪戦だった。しかし、戦いは超長期化の様相を呈し、次第に疲弊していった三国は最終的にラグランジュポイントを中立宙域に指定することで終戦に至った。F109年のことである。
その後、月と地球のラグランジュポイントには四基のスペースコロニーが建設され、その四基のコロニーからなる中立国家『レジデント』が建国された。
『レジデント』は多くの優秀な学生や研究者を募る『学問の国』としての面と、中立を維持するために大規模な軍力を保有する軍事国家の面を持つ国で、優秀な人材と自由な国風によって、三大国家に並ぶ強国と称される。
宇宙に出ても争いを続ける三大国家。そして月と地球のラグランジュポイントという重要な場所に位置する『レジデント』。
人が機械に乗せる想いとは――。