第4章:禁断の儀式と、男への昇華
麗奈は、俺の熱を十分に高めると、一度手を離した。
空気に触れた肌がひやりとする一瞬、俺は激しい喪失感に襲われた。
「まだよ、秀樹。最高のカタルシスは、焦っちゃだめ」
麗奈は、息を整える俺の顔を覗き込み、唇の端だけで笑った。
そして、静かに立ち上がり、ベッドルームへと向かう。
「さあ、ついてきなさい。次の舞台は、こっちよ」
その背中は、まるで物語の結末を知る案内人のようだった。
俺は、足元がおぼつかないまま、彼女の後を追った。
ベッドルームは、リビングとは違い、重厚な暗幕が引かれ、外部の光を完全に遮断していた。
そこには、二人の過去や、淳史との記憶など、何も持ち込ませないという、麗奈の強い意志を感じた。
キングサイズのベッドに、麗奈は静かに横たわった。
彼女は、目を閉じ、長い息を吐く。
その姿は、まるでこれから起こる創造的な行為に備える、芸術家そのものだった。
「秀樹。私を、あんたの小説にしなさい」
麗奈は目を開け、俺に手を差し伸べた。
俺は、その手を取り、震える身体で彼女の上に覆いかぶさった。
肌と肌が触れ合う瞬間、俺たちの間にあった三十年の壁が、音を立てて崩れ去るのを感じた。
俺が求める行為に慣れていないことを知っている麗奈は、焦ることなく、俺の未熟さを優しさで包み込んだ。
彼女は、俺の背中に手を回し、ゆっくりと、しかし確信を持って、俺を禁断の場所へと導いていく。
「怖がらなくていいわ、秀樹。これは、バカにされたあんたが、私から奪い取る儀式よ」
その言葉は、俺のプライドを、そして男としての欲求を刺激した。
俺は、もう「家族」でも「幼馴染」でもない。
彼女の言葉通り、今、俺は、彼女を征服しようとする一人の男なのだ。
そして、一線を越える瞬間。
それは、激しい痛みであり、同時に永遠に続くような喜びでもあった。
俺の三十年間の空虚が、麗奈という現実によって、一気に満たされていく。
「あ……麗奈……!」
俺は、意識が飛びそうになりながら、彼女の名前を呼んだ。
それは、愛であり、感謝であり、そして、この禁断の状況への罪悪感を伴う、本能の叫びだった。
麗奈は、痛みに顔を歪ませながらも、俺の背中を強く抱きしめた。
「秀樹……! あなたの熱……熱いわ……! 淳史とは……違う……」
その言葉が、俺の脳裏を貫いた。
淳史とは違う。
それは、彼女の無意識の本音なのか、あるいは、俺を男として解放するための、小説家としての演出なのか。
どちらにせよ、俺の心は激しく揺さぶられた。
麗奈は、すぐにその痛みを快感へと転換させた。
彼女は、まるで俺の初めての反応を全て吸収し、それを自分の創作のエネルギーに変えようとしているかのようだった。
俺は、彼女の身体の上で、自分自身を、そして麗奈という永遠のテーマを、初めて深く知った。
三十年間、ただの幼馴染という殻に閉じ込めていた情熱が、今、溢れ出し、彼女の身体に注がれていく。
それは、禁断の愛の証明であり、孤独の終焉だった。
やがて、全てが極限に達し、俺たちの世界は、純粋な光に包まれた。
俺は、麗奈の身体の上で、ぐったりと力を失い、呼吸を整えることすらできなかった。
「ふふ……最高の題材ね、秀樹」
麗奈は、汗で濡れた髪をかき上げ、満足そうに微笑んだ。
その表情は、女の悦びと、作家の達成感に満ちていた。
俺の筆下ろしは、終わった。
しかし、俺と麗奈の禁断の物語は、今、始まったばかりだった。
俺は、彼女の胸に顔を埋め、親友の妻であった彼女を抱いた罪悪感と、彼女に男として認められたという深い感動に、ただ打ち震えていた。




