第46話 地下牢はハーレムへの道
「「「「誰?」」」」
リムムメイル、ルーナル、シルフィーネ、ミリリィの四人が、突然の乱入者に声をそろえた。
そこに立っていたのは、この世のものとは思えないほどの美貌を持つ、銀髪の女性。柔らかな銀糸で編み込まれた髪は、ギルドの照明を浴びて淡く輝いている。彼女たちの質問に、女性はただ優雅に微笑むだけだった。
「あっ、ひょっとして女神さまですか?」
誠一は、その顔に見覚えがあった。
いつもとは違う銀色の髪に戸惑ったが、周囲の空気を問答無用で清浄するような澄んだオーラと、見る者を魅了する不思議な存在感は、まさしく女神アクア・ディアーナのものだった。
誠一の言葉に、女神は嬉しそうに微笑む。
「ええ、そうです。たまには気分転換をしたくて、来ちゃいました。この、銀色の髪も素敵でしょう?」
女神アクア・ディアーナは、髪の色を変えて地上に降臨していたのだ。
「私も宴会に参加させてください。良いですよね、誠一さん?」
女神の問いかけに、誠一は「断る」という選択肢を考えられなかった。
ここで断れば、どんな神罰が下されるかわかったものではない。冷や汗が背筋を伝うのを感じながら、誠一は震える声で答えた。
「も、もちろんです!」
***
賑やかな冒険者ギルドの酒場。
誠一は五人の美女に囲まれ、宴会を楽しんでいた。テーブルには豪勢な料理が並び、香ばしい焼き鳥の匂いが立ち込めている。
リムムメイルは焼き鳥を頬張り、ルーナルは静かにグラスに注がれた水を口に運ぶ。シルフィーネは高価なワインをぐいぐいと飲み干し、口元についた泡を気にも留めない。ミリリィは誠一の隣で、楽しそうに身を乗り出して話しかけてくる。
そして女神は、まるで恋人のように誠一の隣に寄り添っていた。その柔らかな肌が触れるたび、誠一の心臓は不規則に跳ねる。
「おじさん、もっとお肉食べて! おじさんが頑張ってくれたから、こんなに美味しいご飯が食べられるんだよ!」
リムムメイルが、焼き鳥を誠一の皿に乗せる。
湯気の立つ肉から立ち上る香ばしい匂い。
「……おじさん、無理しないでね……」
ルーナルが、誠一のグラスにそっと水を注いだ。
カラン、と氷がグラスに触れる音が涼しげに響く。
「まったく、下僕のくせに、このわたくしにまで気を使わせるなんて、大したものですわね」
呆れたように言いながらも、シルフィーネの表情はどこか嬉しそうだ。
誠一は、美味しい料理と美女たちの優しさに囲まれ、至福の時間を過ごした。しかし、内心では「なぜ俺が、こんな美女たちに囲まれているんだ?」という困惑と戸惑いが渦巻いていた。
***
宴会が終わり、誠一はリムムメイルとルーナルをそれぞれの部屋まで、無事に送り届けた。
「おじさん、今日はありがと! また明日ね!」
「……おやすみ、おじさん」
二人を見送り、次にシルフィーネの部屋に向かう。
「まったく、下僕はここまでで十分ですわ。さっさと帰りなさい」
いつものようにツンツンしているが、シルフィーネの瞳はどこか寂しそうに見える。その表情に、誠一はふと胸が締め付けられるような気持ちになった。
「はい。おやすみなさい、シルフィーネさん」
一礼して、自分の部屋へ戻ろうとする誠一。
その隣には、女神とミリリィだけが残っていた。
「じゃあ、部屋に帰りましょうか、誠一さん」
女神が、しなだれかかるようにして言った。
その言葉に、ミリリィが眉をひそめる。
「ちょっと待って、おじさんとその人は一緒に暮らしているの?」
ミリリィの怪訝な表情に、誠一は慌てて否定する。
「いえいえ、一緒に暮らしているわけではありませんよ。たまに遊びに来るくらいです」
「それは聞き捨てならないわ! 私だっておじさんと一緒にいたいのにっ! よし決めた。私も今日は、おじさんの部屋に泊まる!」
ミリリィはそう宣言し、誠一に詰め寄る。
そのまっすぐな瞳には、譲れない強い意志が宿っていた。
「えっ? ちょっとミリリィさん、それはマズいですよ! 女神さまはともかく、俺とミリリィさんが一緒に泊まるなんて……」
「何がマズいんですか? その人は良くて、私は駄目なんですか!? そんなの不公平だわ!」
「そういうわけでは……」
誠一はミリリィの勢いに押され、言葉に詰まってしまう。
女神は、二人のやり取りを面白そうに微笑みながら見ていた。その余裕のある表情に、誠一は抗うことすらできなかった。
結局、誠一はミリリィに押し切られる。
女神とミリリィの二人を連れて、地下牢へと帰り、一夜を共にすることになった。誠一の頭の中には、これから起こるであろう事態への恐怖と、ほんの少しの期待が入り混じっていた。
***
地下牢に日の光は届かないが、朝になれば天井に設置された魔道具が自動で点灯し、部屋全体を淡い光で満たす。
誠一は、その光で目を覚ました。寝ぼけた頭でぼんやりと天井を見つめると、隣には美少女二人が穏やかな寝息を立てている。
一人は銀髪の女神、もう一人は明るい茶髪のギルド受付嬢だ。
「どうやら俺は、女神さまに『初めて』を奪われる宿命にあるようだ……」
もはや、どうにでもなれ、といった気分だった。
その時、ごぉ……、という重い音を立てて地下牢の鉄の扉が開く。
冷たい空気が流れ込み、誠一の頬を撫でる。
「誠一さま、朝食をお持ちしましたわ」
そこに立っていたのは、アリア姫、セレニア王妃、そしてシルヴィアだった。
三人は部屋の様子を見て、凍りついたように立ち尽くす。
そして次の瞬間、声を上げた。
「誠一さま! わたくしも同じことをしてもらわなければ気が収まりませんわ!」
アリア姫が、顔を真っ赤に染めて誠一に詰め寄る。その瞳には、強い嫉妬と焦燥感が浮かんでいた。
「あらあら、これでもう、遠慮することはなくなったかしら?」
セレニア王妃が、意味深な笑顔で誠一を見つめる。
その笑顔の奥には、底知れぬ自信が見え隠れしていた。
「誠一殿、あなたの騎士である私が、その役目を担うべきなのです」
シルヴィアが、真剣な顔で誠一に迫った。
彼女の視線は、誠一の隣で眠る二人の美女に向けられている。
美少女二人と眠っていたところに、さらに三人の美女が詰め寄るという、前代未聞の状況。誠一は、逃げ場のないこの地下牢で、今日も美女たちの誘惑に翻弄されることになるのだろう。
彼の魔王討伐への道は、まだまだ遠そうだ。




