第44話 おっさん、人命救助に尽力する
巨大な魔獣が倒れ、森に静寂が戻る。
誠一は、勇者からスティールした聖剣デュランダルを構えたまま、大きく息を吐いた。白い息が夜の冷たい空気に溶けていく。そして、役目を終えた聖剣は輝きを失い、霧散するように光の粒となって消えていった。
「お、おじさん、すごかったよ! なんかめっちゃ光って、一瞬で魔獣を倒しちゃった!」
興奮したリムムメイルが、目を丸くして誠一に話しかける。
彼女の明るい声が、静かな森に響いた。
「……すごかった……」
ルーナルも呆然と呟く。
彼女の瞳には、まだ魔獣が倒れた瞬間の、閃光のような光景が焼き付いている。
「流石ですわ、流石は、わたくしの荷物持ち! その働き、褒めてさしあげますわ!」
シルフィーネは高慢ちきな口調だったが、その顔は興奮で紅潮していた。
彼女の金色の髪が、わずかに月明かりを反射して光る。
彼女たちの言葉を聞きながら、誠一はふと良いことを思いついた。
「あの、ルーナルさん。この魔獣を操れませんか?」
誠一は倒れた魔獣の死体を指差して尋ねた。
その巨大な体は、月明かりの下で黒い塊となって横たわっている。
誠一の意図を汲み取ったリムムメイルは「なるほど! あの死んだ魔獣を操れれば、あの冒険者の人たちを運んであげられるね!」と声を弾ませる。
「……操れる。ん!」
ルーナルは力強く頷き、小さな杖を構えて呪文を唱えた。
一分後――
薄紫色のオーラが魔獣の体から立ち上り、その巨体がゆっくりと動き出す。まるで魂を吹き込まれたかのように、魔獣の死体はルーナルの制御下に置かれた。
「わたくしの魔術で、この者たちを魔獣の背に乗せてあげましょう!」
シルフィーネは気を失った冒険者たちを一人ずつ、超能力のような魔法で魔獣の背に乗せていく。その魔法は、物を宙に浮かせたり動かしたりする際に、わずかに青白い光を放つ。どうやら、物を浮かせたり動かしたりする魔法が得意らしい。
「ねえねえ、シルフィーネさん、そんな魔法があるなら、それで運んであげられないの?」
リムムメイルが不思議そうに尋ねる。
「馬鹿ですわね! この魔法は長時間は持ちませんわ! せいぜい数分といったところですわ!」
シルフィーネは得意げに胸を張る。
「……じゃあ、無理だね……」
ルーナルは納得したように呟いた。
「よし、準備もできましたし、町に帰りましょうか」
全員が魔獣の背に乗せられたのを確認し、誠一は移動を開始する。
冒険者たちを乗せた魔獣を先頭に、誠一たちは森を進んだ。
魔獣はルーナルから「森を出よ」と命じられているため、迷うことなく一直線に森の出口を目指す。巨大な魔獣の重い足音が、森の静寂を破って響く。その足音に、森の魔物も恐れをなしたのか、彼らに近寄ってくることはなかった。
やがて町の入り口に辿り着いた誠一たちは、町の外で魔獣を待機させる。
そして、誠一とリムムメイルの二人が、冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの職員たちは、誠一の話に驚愕した。
「十八名の冒険者が、行動不能……!?」
「どうやって運んできた?」
「いったい、迷いの森で何があったんだ?」
信じられないという表情で、職員たちが誠一を見る。
「それで、倒れている冒険者たちは町の外に?」
「はい。救援をお願いします」
誠一の言葉に、ギルドの職員たちが総出で、けが人たちの回収に向かった。
彼らは困惑と驚きを顔に浮かべながら、ギルドを飛び出していった。
辺りはもう真っ暗だ。
空には満月が浮かび、星々が瞬いている。
一日の間に、アザゼルとの戦い、魔獣との戦い、そして冒険者たちの救助と、目まぐるしい出来事が立て続けに起こった。
「今日はもう疲れた。みなさん、解散してそれぞれの宿で休みましょう」
誠一の言葉に、三人の少女たちは素直に頷いた。
疲労が、その小さな肩にのしかかっているようだ。
「そうだね! おじさん。今日はもう眠いや! 祝勝会は明日にしよう」
リムムメイルが優しく微笑む。
その笑顔は、一日の緊張を解き放つかのようだった。
「……おじさん、おやすみ」
ルーナルは誠一に小さく手を振る。
「今日の働きは見事でした。流石は、わたくしの下僕! これからも、頑張って働きなさい」
シルフィーネはいつもの高慢な口調で言いながらも、その瞳には疲労と、そして安堵の色が浮かんでいた。
誠一は三人と別れ、お城の地下牢へと戻った。
ふかふかのベッドに身を沈めると、すぐに深い眠りに落ちていった。
明日は祝勝会だ。




