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『おっさん、異世界でヒモになる ~パンツを盗んだら、なぜか女神と姫と王妃と女騎士に懐かれました~』  作者: 猫野 にくきゅう


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第43話 おっさん、魔獣を討伐する

 誠一との戦いを終え、弟子となったアザゼルは、早く修行をしたいと熱心に語り、魔界へと帰っていった。アザゼルという嵐が去った後、不自然なほど静かな森に、微かな風が吹き抜ける。


 その場に残されたのは、ただ茫然と立ち尽くす誠一と、三人の少女たちだった。


「結局、なんだったんだろ、あの人……」


 リムムメイルが呆然としたまま、小さな声で呟いた。


 信じられないような大規模魔法を連発していた当事者がいなくなると、途端に、これまでの出来事に現実味がなくなる。その顔は、先ほどまで興奮で上気していたのが嘘のように、ポカンとしている。


「……夢でも見ていたみたい」


 ルーナルが、どこか遠い目をしながら、消え入りそうな声で返す。

 彼女の視線は、アザゼルが消えた虚空を彷徨っていた。


「そうですわね。わたくしの救援に、騎士団も来ませんでしたし……」


 シルフィーネは、まだ騎士団が来ると思い込んでいたようだ。


 彼女たちは、誠一の圧倒的な勝利に興奮していたが、アザゼルがいなくなると、あれは夢だったのではないか、という錯覚に陥っていた。


 だが、誠一とアザゼルの戦いは、決して夢ではない。


 周囲には、アザゼルのまき散らした攻撃魔法の生々しい爪痕が残っていた。

 無残にへし折られた木々。えぐり取られ、黒く焦げ付いた地面。そして、そのあちこちに、ダメージを負い動けなくなっている冒険者たちが転がっている。


「うっ、うぅ……」


 誠一は、彼らの様子を見て、現実へと引き戻された。


「この人たちのことを放っておくわけには、いかないよな。けど、こんなにたくさん運べないぞ」


 気を失っているのは、成人男子ばかりだ。

 誠一たちが四人で協力しても、一人を運ぶのが精一杯だろう。彼が途方に暮れていると、リムムメイルがいいことを思いついた、という顔で提案する。


「町に戻って、救援を呼んでくるしかないよね!」


(だよなぁ……、俺たちだけじゃ、どうにもならないし……)


 誠一がそう考えた時、森の奥から、乾いた落ち葉を踏み砕くような重い足音が聞こえてきた。それは、まるで地響きのように、どんどん大きくなっていく。


「ええっ! なんか近づいてくるんですけど!?」


 リムムメイルが、恐怖に顔を引きつらせて叫んだ。

 その声は、葉の擦れる音のようにかすかに震えている。


「……モンスター……たぶん、おじさんの持っている『妖刀・村正』のせい……」


 ルーナルが、震えながら誠一の手にある抜身の刀を指差す。

 アザゼルの魔法を切った後も、刀身は血を欲するように、どこか不気味な光を放っているように見えた。


「騎士団はどこに行きましたの!? わたくしはここですわ! 早く救援に来なさい!」


 シルフィーネは、またもや混乱し、意味のないことを叫んだ。

 騎士団はとっくに解散している。


 救援になど来はしない。 


 来るのは、誠一の持つ妖刀に引き寄せられた、巨大な魔獣だった。

 誠一は、慌てて妖刀を鞘に納めるが、もう遅い。


 巨大な魔獣が、生い茂る木々の間から、その姿を現した。

 それは、見るからに強靭な筋肉と、鋭い爪、そして禍々しいオーラを放つ、巨大な獣だった。その毛並みは暗い夜の闇のように黒く、目は燃えるような赤色で、誠一たちを鋭く見据えている。


「こうなったら……スティール!」


 誠一は、奥の手を使った。

 男からは十分間だけ、相手の持ち物を奪うことができる。彼が奪ったのは、牢獄で寝転んでいる勇者の持つ「聖剣デュランダル」。


 次の瞬間、誠一の右手に、神々しい光を放つ伝説の聖剣が握られていた。

 ひんやりとした、滑らかな感触。ずっしりとした重み。まばゆい光が、薄暗い森の中に一筋の希望を描く。


 誠一はそれを抜きはらい、魔獣と対峙する。

 魔獣は、その鋭敏な嗅覚で、誠一が持つ聖剣の力を感じ取っていた。


「グルルルル……」


 魔獣は低く唸り声を上げ、地面を蹴った。


 聖剣を持った誠一を、真っ先に潰しにかかる。

 とんでもないスピードで距離を詰め、鋭い爪を振り下ろしてきた。その一撃は、風を切り裂き、轟音を伴って誠一に迫る。


 だが、聖剣を装備した誠一の視界は、まるでスローモーションのように、魔獣の動きを完璧にとらえていた。振り下ろされた爪、わずかに弛緩した筋肉、次の動作を予期させる重心の動き。


 すべてが手に取るようにわかる。


 ザシュッ!!


 誠一は、魔獣の攻撃を紙一重でかわすと、カウンターで切りつけた。聖剣の刀身が、閃光のようにきらめく。魔獣の鋭い爪は、まるでバターを切るかのように、いともたやすく切断された。


「すごい……! すごいぞ、この剣は……」


 誠一は、自分の腕前ではない、聖剣の力に驚きを隠せない。

 デュランダルは、まるで誠一の体の一部であるかのように、彼の動きを補正し、戦闘経験の無さを補っていた。彼の未熟な剣の軌道は、聖剣によって最適化され、迷いなく敵へと向かう。


「勝てる……!」


 誠一は、敵の急所を見極める。

 どこを攻撃すればいいかを、瞬時に察知した。聖剣が、まるで囁くように彼に教えてくれたようだ。


 誠一は、少し力を溜めて、敵の心臓に向けて、突きを放った。


 どっ!!


 鋭い衝撃波が、まっすぐに魔獣の心臓を貫く。

 その体は内部から弾け飛び、衝撃波は空高くへと突き抜けていった。


 魔獣は、一瞬静止した後、そのままドサッと音を立てて倒れ伏した。

 その巨体が地面に激突し、土煙が舞い上がる。


「これが、聖剣の力か……」


 誠一は、呆然と呟いた。彼の手には、まだ聖剣デュランダルが握られている。

 その刀身は、魔獣の血を一切吸うことなく、ただ神々しい光を放つだけ。


 森には、再び静寂が戻った。

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