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『おっさん、異世界でヒモになる ~パンツを盗んだら、なぜか女神と姫と王妃と女騎士に懐かれました~』  作者: 猫野 にくきゅう


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第42話 おっさん、魔王軍幹部(二人目)を弟子にする

 誠一の挑発に乗ったアザゼルは、杖を構え、怒涛の魔法攻撃を放ち始めた。

 その杖の先端からは、途方もない魔力が放たれる。


 巨大な火球、鋭い氷の槍、降り注ぐ雷……ありとあらゆる魔法が、嵐のように誠一を襲う。迷いの森の暗い空気が、魔法の光で満たされた。


 しかし、そのすべては誠一の妖刀・村正によって切り裂かれる。 誠一に宿る魔法制御技術と剣技が、アザゼルの放つ魔法の塊を完璧に両断していく。


 ザンッ! ザンッ! ザンッ!


 甲高い金属音が響き、切り裂かれた魔法は誠一を捉えることなく、迷いの森のあちこちに着弾する。


 森の木々が焦げ、地面が凍りつき、爆発音を轟かせた。


 ちゅど~~~ん!!!


 アザゼルは休むことなく魔法を撃ち続ける。


 その魔法の威力は確かに高い。だが、すべて誠一の刀によって切り裂かれ、無力化されていく。 

 まるで、水切りされた小石のように、魔法が弾かれていくのだ。


 少女たちは、ただ呆然とその光景を見つめていた。

 恐怖の表情はなく、ただただ驚愕に目を丸くしている。


「お、おじさん、すごすぎ……」


 リムムメイルが震える声で呟く。

 彼女の瞳には、誠一の姿が英雄のように映っている。


「……信じられない……魔法を、切ってる……」


 ルーナルが、フードの奥で小さく呟いた。

 その声には、魔法使いとしての常識を覆された戸惑いが滲んでいる。


「流石ですわ! 流石はわたくしが見出した荷物持ち! あのような薄汚い老人など、敵ではありませんわ!」


 シルフィーネが誇らしげに胸を張る。

 その表情には、自分が見込んだ者が、ただ者ではないという確信に満ちていた。


 そして十分後、勝負は明らかになった。


「はぁ、はぁ……」


 アザゼルは地面に両手をつき、荒い息を吐いていた。


 魔力はまだ潤沢にあるはずだが、その顔には驚愕と極度の疲労の色が浮かんでいる。一方の誠一は、息一つ乱さず、無傷のまま刀を構えていた。妖刀・村正の刀身に、魔法の残滓がキラキラと光っている。


「やったー! おじさんの勝ちだ!!」

「……口ほどにもない奴だった」

「当然の結果ですわ! お~ほほほっ!!」


 アザゼルはゆっくりと顔を上げ、誠一をまっすぐに見つめた。 

 彼の目は、もう怒りではなく、複雑な感情を宿している。


「儂を、殺さんのか?」


 アザゼルは不思議そうに尋ねる。

 冒険者は魔物と遭遇すれば、命を奪うのが常識だったからだ。


「……殺す気はない」


 誠一は短く答える。

 その言葉に、アザゼルはますます訝しげな顔をした。


「なぜだ? なぜ、儂を殺さない?」


「……お前には、まだ可能性がある」


 誠一は、どう答えるべきか分からず、とりあえずそれらしいことを言っておいた。


 誠一はすでに、王様からスティールした「怒りの感情」も、ベリアルから盗んだ「剣技」も時間切れで消えていた。村正は手の中にあるが、誠一はただのおっさんだ。刀を携えた、ただのおっさん。


 人殺しなどしたくないし、できるはずもない。


 しかし、アザゼルは誠一の言葉を深読みした。


(この男は、儂よりも遥かに魔法制御に優れていた。少ない魔力で大規模魔法攻撃を凌いだのだ。対して儂はどうだ? 長年の研究で上達した気になっていたが、その実、膨大な魔力に溺れ、制御をないがしろにしてきたのではないか? つまり、儂にはまだ伸びしろがある……この男は、それを見抜いたのだ!)


 アザゼルの目に、師匠を見つけた弟子のような、尊敬と憧れの色が浮かんだ。

 それは、彼が初めて魔法を学んだときの、純粋な探求心そのものだ。


「わかりました! あなた様のおっしゃる通り、儂はまだ未熟でございました! この身に溢れる魔力に頼りきり、肝心な制御をおろそかにしてきたようです! これからは、魔力制御を極めてみせましょう! つきましては……この私を、あなた様の弟子にしてくださいませ!」


 アザゼルは、その場で土下座した。

 土煙が舞い上がり、彼の真剣さが伝わってくる。


「えっ……!?」


 誠一は予期せぬ事態にただただ困惑する。

 どうすればいいのか分からない。しかし、アザゼルの真剣な眼差しに何か言わなければならないプレッシャーを感じた。


「……よかろう」


 と、重々しく言っておいた。

 誠一は深く考えず、まるで他人事のように口にした。


「ありがとうございます、師匠! このアザゼル、必ずやあなた様の教えに恥じない魔導士になってみせます!」


 アザゼルは深く頭を下げ、新たな目標を見つけた清々しい表情を浮かべる。

 彼の心は、希望に満ちていた。


「工房に戻り、さらなる精進に励みます!」


 そう決意を表明した後、アザゼルは誠一に「月影草」を差し出した。

 それは、迷いの森の奥でしか見られない、淡く神秘的な光を放つ薬草だ。


「師匠、これはお礼に」


「ほう、これは……」


 誠一は、アザゼルの差し出した草をまじまじと見つめた。「何だ、草か」と一瞬思ったが、人の好意を無にするのはいけない。


「……うむ」


 誠一は重々しく頷き、それを受け取った。


 その草が、冒険者ギルドの依頼にあった伝説の薬草月影草であることには、まだ気づいていない。

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