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『おっさん、異世界でヒモになる ~パンツを盗んだら、なぜか女神と姫と王妃と女騎士に懐かれました~』  作者: 猫野 にくきゅう


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第41話 剣聖、業火を斬る

「なんか、静かになったね。爆発はもうないのかな?」

「……怖い」

「怖くなんかありませんわ! 騎士団が待っているのですわ!」


 誠一たちは、爆発音と悲鳴が聞こえる方角を目指し、森の中をひたすら進んでいた。折れた枝が足元でパキリと音を立てるたび、希望と恐怖が入り混じり、この先に何が待ち受けているのかを想像する。


 ようやく爆発音の中心にたどり着いた時、戦闘はすでに終わっていた。


 そこには嵐が過ぎ去ったような光景が広がっていた。

 地面は無残にえぐられ、木々はなぎ倒され、煙と焦げた匂いが混じり合う、熱気を帯びた空気が重く立ち込めている。


 その中心に、フードを深く被った老人が一人、静かに立っていた。


 彼の足元には、数多くの冒険者が倒れている。

 みな意識を失っているようだが、どうやら全員生きているらしい。老人は、彼らを連れ帰って人体実験をするつもりだったので、魔法を直撃させずに行動不能にする程度の威力に抑えていたのだ。


「なんだ、まだいたのか……」


 老人は、誠一たちの姿を認めると小さく呟いた。

 その声は静かでありながら、底知れぬ威圧感を放っている。彼は再び杖を構えた。その先端から不気味な赤黒い光が漏れ出す。


 その瞬間、誠一は本能的に「ヤバい」と察知した。

 状況はよく呑み込めていないが、あの老人が杖を構えたら自分たちがただでは済まないことだけは分かった。


 考えるよりも早く、彼の口から特技の名が飛び出した。


「スティール!」


 誠一は狙いを定めず、この一帯にスキルを発動する。

 彼の目は、老人の手にしている禍々しい杖に向けられていた。漆黒の表面に赤黒い魔力が脈打つ、おどろおどろしい品。あれを奪えれば、戦いを有利に進められるはずだ。


 しかし、誠一が奪い取ったものは、杖ではなかった。


 スッ……。


 誠一の身体に、高度で複雑な魔導技術がインストールされる。

 時を同じくして、老人アザゼルの身体から、長年培ってきた膨大な魔法知識と技術が大幅に欠落したような違和感が走った。


「なんだ? 調子が悪いような……」


 ドオッ!!


 アザゼルが放った魔法は、狙いを大きく外し、誠一たちを捉えることなく森の奥で派手に爆発した。魔法制御を奪われたアザゼルは、自分の魔力がうまく動かせないような違和感に戸惑う。


「おかしい、狙いを外すとは……?」


 彼は慎重に魔力を再構築し、狙いを定めて再び魔法を放とうとした。


 誠一は、自分の「スティール」が成功したことを悟った。

 奪ったのは、杖ではない。


 「魔法制御技術」だ。


(よく分からないけど、これで俺が有利になったってことだよな?)


 そう結論づけた誠一は、即座に第二の「スティール」を発動する。


「スティール!」


 彼は、魔剣士ベリアルから【剣術】を、そして王様から【怒りの感情】を再び奪い、「剣聖」となった。


 そして腰に差している、ゴブリンから奪った「妖刀・村正」を抜き放った。


 狙いを定めたアザゼルの魔法攻撃が、今度はしっかりと誠一に向かってくる。

 それは、大木を揺るがすほどの熱気を放ち、周囲の空気を歪ませる巨大な火の玉となって、誠一たちを丸ごと飲み込もうとしていた。


「おじさーん、なんとかして!!」


 リムルメルが、恐怖に引きつった声で誠一に助けを求める。


「……もうダメだ。死ぬ……」


 ルーナルが、フードの奥で小さく呟く。

 その表情は絶望に染まっていた。


「ひぃっ! お父さま、お母さまーーー!」


 シルフィーネが、恐怖で絶叫する。


 だが、誠一は慌てない。


 彼は、ゆっくりと、その巨大な火の玉をまっすぐに見つめた。

 燃え盛る炎が彼の瞳に映り込み、その熱気が頬を撫でる。誠一の魔力は微々たるものだが、今、彼の中にはアザゼルから奪った「魔法制御技術」がある。


 少ない魔力でも、使い方次第だ。


 彼は剣技と魔力制御を組み合わせ、アザゼルの放つ特大魔法を斬るという神業に挑んだ。


 ザンッ!!


 誠一が刀を振るうと、刀身に宿ったわずかな魔力が、火の玉の魔力と共鳴し、その巨大な塊を物理的に両断した。切断された火の玉は、轟音を響かせながら誠一の左右を通り過ぎ、森の奥で爆発を起こす。


 ドォォォォン!!


「なんだと……! 馬鹿な……。魔法を、斬った、だと……?」


 アザゼルの顔に、初めて動揺の色が浮かんだ。


 彼の長い人生で、こんな光景は一度たりとも見たことがない。

 魔法に魔法をぶつけ、相殺し無力化する術はあっても、物理的に「斬る」などという、常識外の行動はありえないからだ。


「おじさん、すごーい!」

「……え、嘘でしょ……?」

「流石はわたくしの下僕の荷物持ち! わたくしを身を挺して守ったこと、褒めてあげますわ!」


 三人の少女たちは、一瞬の静寂の後、歓喜の声を上げた。

 彼女たちの瞳には、再び尊敬と驚愕の色が宿っている。


 誠一は、自分の成し遂げた神業を冷静に受け止めていた。

 彼は妖刀・村正を構え、アザゼルをまっすぐに見据える。その切っ先が、老人の喉元を狙うかのように光を反射する。


「さっきので終わりですか? もうないなら、次はこちらから行きますよ?」


「……調子に乗るなよ。小僧が!!」


 アザゼルはしわの刻まれた顔を、屈辱と怒りでゆがめる。

 彼の眼光が鋭さを増す。


 誠一は、勝利を確信していた。

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