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『おっさん、異世界でヒモになる ~パンツを盗んだら、なぜか女神と姫と王妃と女騎士に懐かれました~』  作者: 猫野 にくきゅう


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第29話 冒険の始まりと新たな仲間たち

「……では、行くとしますか」


 冒険者登録を済ませた誠一は、翌日から冒険者活動を開始すべくギルドへ向かった。最終目標は魔王討伐だが、そのためにはまず、仲間を集めることから始めることにしたらしい。「一人で戦うのは怖いからな」と、誠一は内心で呟いた。


 どこか、逃避のようにも聞こえる言い草だ。


 ギルドへ向かう途中、誠一はふと目についた武器屋に立ち寄る。武器を装備して、少しでも強そうな見た目を手に入れたい、そんな安易な考えがあった。


 引き戸をガラリと開ける。


 店内に足を踏み入れた途端、ひやりとした鉄の匂いが鼻腔をかすめた。

 壁一面には、剣や槍、斧がずらりと並び、店の奥から差し込む薄暗い光を受けて鈍く光っている。


 磨き込まれた刃の冷たい輝きが、誠一の目に飛び込んだ。

 木製の棚には、使い込まれた革の盾や、武骨な金属鎧が無造作に陳列され、その重々しい存在感が、誠一に「ああ、異世界に来たんだな」という実感を改めて抱かせた。


「いらっしゃい! 何かお探しですか、お客様?」


 いかにも職人といった風貌の店主が、屈託のない笑顔で大きな声を出迎えてくれた。その声は店内に響き渡る。


 誠一は、壁に吊るされた一番シンプルな片手剣を指差す。柄は滑らかに磨かれ、実用性に特化したその剣は、初心者にも扱いやすそうに見えた。


「あの、すみません、この剣、おいくらですか?」


「へい、そちらは初心者向けの一番お手頃な剣で、銅貨30枚になりますね!」


 店主の明るい声に、誠一は思わず絶句した。


 銅貨30枚。


 昨日の冒険者登録で、すでに銅貨30枚を支払っている。

 彼の革製の財布に残ったのは、たったの銅貨20枚。手のひらに乗るわずかな重みが、誠一の胸にずしりと重くのしかかった。


「あ、そうですか……ははは……」


 誠一は引きつった笑みを浮かべ、そのまま店を後にした。


 武器は買えなかった。

 手元には冒険者ギルドで渡された、簡素な布製のポーチと、その時にもらったばかりの冒険者カードだけが残った。


「まさか、こんなに金がかかるとは……」


 誠一は、まるで重い荷物を背負ったかのように肩を落とした。

 彼の足取りは、先ほどとは打って変わって、重く沈んだものになり、再び冒険者ギルドへと向けられた。


 

 ***


 ギルドに到着すると、相変わらず店内は冒険者たちの熱気でムンムンとしていた。


 酒と汗の匂いが混じり合い、あちこちで冒険者たちのがやがやとした声や、グラスがぶつかる音が響く。

 掲示板には、様々な依頼が隙間なく張り出され、冒険者たちが群がって依頼書を読み込んでいる。


 誠一は、冒険者として活動を始めるため、再び受付カウンターへと向かった。


 たまたま空いていたのは、昨日誠一の冒険者登録をしてくれた、ギャル受付嬢のミリリィだけだった。彼女の明るい声と派手な髪飾りは、ギルドの喧騒の中でもひときわ目立つ。


「あ、ミリリィさん、こんにちは。あの、仲間募集の件はどうなりましたか?」


 誠一は、昨日の恥ずかしさも忘れ、早速本題に入った。


 冒険者ギルドでは、誠一の「荷物持ち」という適正職業を併記した募集要項を掲示板に掲載し、彼を仲間に加えたい、もしくは彼の仲間になりたい人を募っていたのだ。


 ミリリィは、端末を操作しながら、少し面倒くさそうに顔を上げた。

 指でカラカラと端末を回す仕草は、いかにも彼女らしい。その視線は、どこか遠くを見ているかのようだ。


「う~ん、一応ね、おじさんを仲間に誘いたいって人は、何人かいたけどぉ……」


 誠一は驚いた。


 昨日募集を開始したばかりで、まさか、ただのおっさんである自分を求める人がいるとは。しかも「何人か」だ。


(荷物持ちって、意外と需要あるんだな……!)


 誠一は、少しだけ胸を張った。

 自分の適正が、意外なところで役に立つと知り、わずかな自信が芽生える。それは、異世界に来てからの数少ないポジティブな感情だった。


「じゃあ今日は、その人たちと話し合いですね! 早く魔王討伐の旅に出たいので!」


 誠一はやる気に満ちた表情で言った。


 その目には、未来への希望が輝いているかのようだ。

 ミリリィは、そんな誠一を見て、普段の軽いノリとは違う、少し心配そうな表情を浮かべた。彼女の表情には、受付嬢としての責任感と、彼へのわずかな優しさが滲んでいた。


「はぁ~……あのね。荷物持ちだからって危険がないわけじゃないから、油断しちゃだめだよ? 特に、おじさんとパーティー組みたいって言ってる人たち、ちょっとワケありだから。気を付けなきゃダメだかんね?」


 ミリリィは、まるで小言を言う母親のように忠告した。

 その言葉には、ギルドの受付嬢として、多くの冒険者を見てきた彼女なりの経験と優しさが込められているように見えた。


「わかってます! お任せください!」


 誠一は根拠のない自信を見せた。

 彼は自分を必要とされたことに気を良くしていた。背筋を伸ばし、わずかに胸を張る姿は、どこか滑稽にも映る。


「おじさんを仲間にしたいのは、そっちのテーブルの三人ね。条件のすり合わせは自分たちでしてもらうから」


「わかりました」


 誠一はミリリィに背を向け、飲食スペースへと向かう。

 ミリリィは、小さくため息をつき、心配そうに誠一の背中を見送った。その視線は、まるで未知の危険に飛び込む我が子を見送る母親のようだ。


 ミリリィが指差す先には、ギルドの一番奥まった席に、三人の女性が座っていた。


 彼らを取り巻く空気は、ギルドの喧騒の中でもどこか異質で、静かに存在感を放っていた。誠一は「なるほど」と頷き、意気揚々とそのテーブルへと向かった。彼らの個性的な雰囲気が、誠一の期待感を高める。



 ***


 テーブルにいたのは、先ほどミリリィが言っていた「ワケあり」そうな三人の女性冒険者だった。誠一は、少し緊張しながらも、自己紹介をした。


「あ、あの、荷物持ちの冒険者です。小山内誠一と言います。よろしくお願いします!」


 誠一の言葉に、三人の視線が、まるで獲物を捉えるかのように一斉に彼を捉える。その視線は鋭く、誠一の全身を上から下まで値踏みするかのようだった。まるで、獲物の品定めをする猛禽類のようだ。


「こんにちは、おじさん! あたしはリムムメイル。エルフだよ! よろしくね!」


 緑色の長い髪を三つ編みにした、民族衣装風の飾り気の少ない服を着たエルフの少女が、屈託のない笑顔で、まるで旧知の仲であるかのようにフレンドリーに挨拶した。


 彼女の瞳は森の奥深さを思わせるエメラルドグリーンで、無邪気な光を宿している。その声は澄んでいて、まるで小鳥のさえずりのように誠一の耳に心地よく響いた。誠一は、その明るさに少し戸惑った。



「……よろ、しく……」


 次に声を上げたのは、常にフード付きの黒いローブを深く被った少女だった。


 紫色の髪がフードの隙間からわずかに覗く。彼女は骨でできた小さな杖を握りしめ、消え入りそうな声で呟いた。その大きな瞳は不安げに揺れ、誠一の視線を避けるように下を向いている。


 彼女がネクロマンサーのルーナル・ルナルミーだと、誠一は直感した。彼女のかすれた声は、まるで風に揺れる木の葉のようだった。その存在は、影のように儚い。



 そして、最後に口を開いたのは、最も高慢ちきな雰囲気を漂わせる少女だった。


 かつては高級なシルクのドレスをまとっていたであろう彼女は、今ではくたびれたローブを羽織っていた。

 薄い金髪は手入れが行き届かず、少しボサつきがちだが、その顔立ちは整っている。彼女の整った顔立ちと、まるで宝石のような冷たい眼差しが、誠一を射抜く。


「貧相な男ですわね。まあ、高貴なるわたくしには付き人が必要ですから、この男で我慢して差し上げますわ」


 彼女は、誠一を上から下まで値踏みするような視線を送り、ふんぞり返った態度でそう言った。


 その声には、高慢な響きが込められており、まるで上から見下ろされているかのような圧迫感があった。彼女が破産した元貴族令嬢の魔術師、シルフィーネ・アークライトだろう。


 誠一は、三人の個性豊かな少女たちを見て、よこしまな妄想が膨らんでいく。


(いきなり女の子とパーティを組めるとは……。みんな可愛いしラッキーだな。女の子三人に男は俺一人、これはハーレム? ハーレムなのか!?)


 こうして、ただのおっさんである小山内誠一と、一癖も二癖もあるワケアリ少女たちの、ポンコツ冒険者チームが、今、結成されたのだった。


 彼らの冒険は、一体どこへ向かうのだろうか。

 そして、誠一の妄想は現実となるのか?

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