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学校の七不思議、最後の正体はオカマ

作者: 滝翔


ーー今年の夏休みはお婆ちゃん家に行けなかった

原因は歳の離れた兄貴が死んだから


赤と緑の紅葉が舞う海辺の駅

上旬の九月の中頃にその汽車はいつも通りに停車し

いつもと違う時期に駅に下車する少年は 手にぶら下げるリュックを背負い直す


「〝美味しい物を食べたかったら【貴縄きなわ駅】で一旦降りなさい〟…… だったね確か……」


毎年母親から言われていることだった

少年の祖母の住む田舎町【鎌足かまたり町】はそこまで広くはない

学校も役所もスーパーも一軒だけなのに何故か駅は二つある

祖母の家はもう一つ先に汽車を走らせた二つ目の駅の近くだ


「…………」


赤い大きなポストとネコを信じよと書かれた廃れた看板が印象的の駄菓子屋

そこでレトロなガチャガチャを回していると 身の毛がよだつ視線を感じた

横を振り向けばそこには 20代前半 スキンヘッドの男性がこちらを見ていた


ーー観光客狙いの不審者だろうか


男はブツブツと呟きながら距離を保っている

気味が悪くなり 少年は近くの飲食店へと走って行った




クーラーが効いている昔ながらの洋食店 店名は【ハーブの女王】

いらっしゃいませと声で出迎えてくれたのはこれまたスキンヘッドの男性


「可愛い坊やね♡ ご注文は?」


「じゃぁビーフシチューで…… あの…… この町はいつからスキンヘッドが増殖したんですか?」


「昔からいるわよ? 今まで坊やが関心無かっただけじゃない?」


「そうですか……」


食べ終えると何事も無く店を出る しかし後ろを振り向くとそこの建物は

フランス料理店から古風な蕎麦屋に変貌を遂げていた


「いよいよ暑さにやられてしまった……」


腹が膨れているのは事実なので 暫く小川が見える橋の上でボーっとしている

手入れされていない雑草だらけの河原を見回していると 何とそこに熊がいるではないか


「熊が寝てる……」


石段を降りてみるとこれまたスキンヘッドのおっさんが 指を咥えて眠っていた

逃げようと試みると都合悪く目覚めやがって


「あぁ~~♡♡ 良く寝た……♡♡」


「おぉぅ……」


「あら可愛い坊やこんにちわ♡」


「……熊だと思って近付いただけです ごめんなさい」


「太ましいけど熊は余計♡ アタシはオ・カ・マ♡」


「オカマの…… ツキノワグマさん……」


「ヤダァ!! そこまで大きくないわよ失礼しちゃうわぁ!!」


「……失礼します!!!!」


少年はその場から逃げて駅の方へ

その走り去る様子を見ていたオカマは両頬を手で覆ってうっとりしている


「まさかあの子って…… あらヤダ こんなことしてる場合じゃないわぁ」


土を払い オカマもまた何処かへ




再び駅へと戻る少年は 奥からやって来る汽車に安堵の表情

怖い体験をしてしまったが故に 後ろの町を一度も振り向かずに中へと乗車した

すると猛烈な寒気に襲われた少年は 恐る恐る自動スライドドアを振り返ると


「「「 こんにちわ~~♡♡♡ 」」」


「ぎゃぁぁぁぁああああああああ!!!!」


汽車は走り出す

自分の座る席の対面にはスキンヘッドの不審者が三人座っていて


「何でこんなに怖がってるのかしらこの子?」


「また変なちょっかい出したんじゃないのローズお兄たま?」


「……味見はまだよ?」


「ハァ…… 自己紹介をして場を和ませましょ?

一方的に接してたら この子からすればまるで私達ってカマッテちゃんじゃない」


「あっ…… 因みに坊や オカマはカマッテちゃんの尊敬語じゃないからねん♡

そして熊ちゃんと呼ばれてしまったアタシはローズマリーっていうの」


そして乗っている左側から順に 頼んでもいないのに自己紹介が始まる


「私はハニーレモン さっきはジッと見つめててゴメンなさいね♡」


「フレンチラベンダーよ 変に長いからローズ・ラベンダー・レモンで略して頂戴♡

それで良いわよねお兄たま?」


紹介されたからと言って警戒を解けるものでもない


「さぁ次は坊やが自己紹介する番よ?」


「……神木初楽かみきそら 13歳」


「ソラ君ね…… 覚えておくわ♡」


「結構です……」


過度の緊張の所為か猛烈に襲われる眠気を我慢できなかった

特にオカマ達が何かをしてくるわけでもなく 次の駅まで短い仮眠を取るソラ




次の駅で停車する揺れでソラは起きる

前方に座っていた筈のオカマはいなくなっていた


ーー夢…… であって欲しい……


下車すると去年の夏と変わらない風景がそこに

さっきの駅とは違い 目に入る物全てが緑に覆われ

山の天辺に聳える学校を中心に 町の景観がさっきと一変する


ーー何だか身体がスッキリしている 距離的に15分以上だけど何だろう……

まるで一日分寝てた感覚だ


勿論疲れていないので駅の階段を飛び越え お婆ちゃん家へ向かおうとするソラは

ガードレールを越えて対向車線に出ようとした瞬間 首の襟を後ろから思いっきり掴まれた


「痛ってぇ!!」


尻餅して顔を上げれば 今度は30代くらいの女性が現れる


「新たなオカマ……」


「誰がオカマよ!? 歴としたレディーに向かって…… 急に飛び出したら危ないでしょ?!」


学校の方向を一点に見つめる女性はそのまま歩を進める


「はぁ…… やっと辿り着けた……

条件は何を満たしたんだろう…… いやそもそも不確定要素が多過ぎなんだからさぁ……

まさかあの少年が要因…… それとも人数が限られてたとか……

私とあの少年がここに来て他の乗客は見当たらない…… 他の乗客達は何処へ……?」


たまにこちらをチラ見しながら ボソボソ独り事がエグい女性は町の通りに入って姿を消す

ソラは気にせず反対側へと歩いて行き 慣れ親しんだ茂みに隠れる石段の近道を通れば

茅葺き屋根の家を畑が囲う いつものお婆ちゃん家が一望出来た


「お婆ちゃん!!」


「あらソラ君また来たのぉ??」


「……ん?」


「連絡の一つも無く来たからビックリしたわぁ」


「あれ…… 電話で連絡入れて来たんだけどなぁ……」


「まぁこれから晩食だし一緒に食べましょうなぁ!!」


囲炉裏がある畳に座らされたソラは落ち着かない

腑に落ちない感覚が身体をむず痒くさせているのだが

誰かにどう質問したらいいか分からないソラは 現状の不可解さにハテナマークを浮かべていた


「もう少しでお兄さんも帰ってくるからねぇ~~」


「……お盆は既に終わってますぞお婆ちゃん?」


「お盆? そんなのとっくに済ましてるよ~~」


「……噛み合わない」


ソラは不意にスマホを開く 日付は2024年になっていた


「去年……?」


すると玄関扉が勢いよく横に引かれ 独り暮らしの家に誰かが上がってくる


「ただいまぁ!!」


「……幹久みきひさの兄貴がいる」


「おぅソラぁ!! どうした連絡も無しに 家出か?」


「…………」


ソラと幹久とお婆ちゃんで夕飯を戴く中

状況を整理するよりも何事も口に出すソラは質問を漏らしまくる


「兄貴は何で死んだの?」


「すごいこと聞くなソラは…… う~~ん…… 因みにお前の目の前にいる俺は何だよ?」


「……兄貴」


「……これはどう答えたら良いんだ婆ちゃん?」



「ソラは人の死を新鮮に見てるんだよ さっきもお盆の話をしてたからねぇ

簡単に無視出来ることをソラは無視出来なくなったのさ 大人になったんだねぇ」



茶化されたのか諭されたのか

幹久もソラもハテナマークを浮かべてご飯を食べる

少年にとって兄貴と一緒に入るお風呂は違和感が無い

亡くなって間もないのもあるが こうも早く再会すればその実感が湧かないのも無理はない


「兄貴はここで何してるんだっけ?」


「この町に就職したんだぞぉ? 兄貴の仕事に興味湧いてくれて嬉しいねぇ」


「どんな仕事?」


「お役所仕事だが…… 俺の場合は老朽化した建物や街灯の点検だな

補修の必要があれば近くの工務店や電気工事士に 解体が必要であれば隣町の建設会社に連絡だな」


「……そんな兄貴が来年に死んじゃうんだもんなぁ」


「だから死なないっての」


両手を握リ 隙間からお湯を噴射してぶっ掛けられるソラ

寝る時は蚊帳の中で三人川の字だ これも毎年恒例

床に就き イビキを書く兄貴を横目に徐々に事の重大さが身に沁みてくる


ーー……一年前の過去に来てしまったんだ ……どうしよう




朝が早い二人に釣られて早起きするソラは 庭でラジオ体操をしていると

作業服を着た役所の人間二人が慌てて家に近付いて来た


「大変だよ幹久ちゃん!! 貴縄の方でまた揉め事だってよ!!」


「またあのオカマ三人衆ですか?」



ーーオカマ三人衆ってまさか……



ソラが遠くで様子を窺っていると 幹久はすぐに役所の人間と同じ作業を装着し


「悪いなソラ…… ちょっとは遊んでやりたいがもう仕事に行かなきゃならねぇ」


「行ってら~~」


「あぁそうだ あの山の頂上の学校に近付くなよ?」


「……何で?」


「この町唯一の小学校だったんだが もう既に廃校してる

老朽化も町一番で放置状態だから危険なんだ」


「ふぅん……」


慌てて軽トラに乗る幹久はそのまま遠くへ行ってしまう

二人乗りな為 高齢の従業員は一人残っていた その人にソラは近付く


「あの…… オカマ三人衆って何ですか?」


「あぁ貴縄駅近くの町に住む女口調の三人のオッサンがいるんだよ

揉め事が絶えなくてねぇ~~ 何でも山の神社に勝手に忍び込んだらしい」


「山の神社?」


「小学校が見えるだろ? そこの頂上から少し下った先にあるんだ

何でもその神社に納められている

仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の書かれた儒教から伝わる珠々が盗まれてな?」


「何でそんな物を……」


「……良かったら山に連れてって上げようか? ワシがやる仕事なんて限られてるもんで

朝方ちょっとサボったところで変わらんし付き合ぅてくれ?」


「良いですよ!!」


ーー兄貴が死んだのは市内の実家だったけど 亡くなる前に一度は市内に帰って来ていたのだ

その顔は何かに取り憑かれたかの様 何日も食事を取っていない顔色で

誰とも話さず常に何処かをキョロキョロしていた まるで生気を抜かれたみたいに

死んだのはその翌朝 眠るように息を引き取っていたから 最初は誰も死んでたなんて思わなかった


高齢の従業員とソラは歩いて山の中へ

中腹で神社を見つければ 扉が派手に壊されていて異様な光景を目の当たりにした


「これをオカマ達が……」


「あぁ…… 学校はこのちょっと行った先のところだよ 娘もそこにおる」


既に使われていない所為か獣道となっていた

どうにか草を掻き分けけると グラウンドが野草畑になっている木造廃校舎が出迎える


「……怖ぇ やっぱり帰ろうかな」


しかしソラの言葉は独り事で終わった

いつの間にかあの高齢の従業員は姿を消していたのだ


「意地悪なお爺ちゃんだな……」


改めて学校を見つめると 何処からともなく声が聴こえる


〝 助けて…… 〟


「呼ばれてる気がする 間違いない」


ソラはグラウンドの茂みを掻き分けて校舎の中へ

内履きの無い下駄箱に新鮮味を感じながらも 一階から順に教室を覗いて回る

職員室の中も新鮮に思えた 学校の先生が普段集まるこの室内は紙でイッパイの印象だからだ

机だけが並ぶ殺風景な場所でソラはある物を見つける


ーー日記だ…… 誰のだろう


『○月×日

先月。女性教師が一人、屋上から飛び降りて死んでしまった。

ニュースにはならなかったが、その翌日から不穏な噂が飛び交う。

情報元の生徒の相談に乗ると、何度も自分に助けを求めるのだそう。

さらにその生徒にしか見えない人間がいるのだとか。

そう、飛び降り自殺した〝妃鹿きじか先生〟だった。

週明けに生徒は転校していった。何でも生徒の前に謎のオカマが現れたそうな。

奇怪な出来事が奇怪な出来事を呼び、私も怖くなったので学校の異動を願い出ようと思う。

最後に、この町の名簿にオカマを名乗る住民は一人も住んでいない』


「怖くなって来た…… 特に謎のオカマ」


職員室を出ると隣の教室へ そこには黒板に小学校らしい落書きが書かれている


「鎌足小学校七不思議……

・トイレの花子さん ・与件によって時間異動する駅 ・増える階段 ・人体模型

・ベートーヴェン ・合わせ鏡 ・三位一体の怨霊

何処にでもあるもんだね~~」


〝 懐かしいわ~~ 〟


驚いて後ろを振り向くソラ 教室の出口にいたのは一人の女性


「あれ……? お姉さんはさっき駅で会った……」


〝 こっち来てぇ…… 〟


ソラが廊下に出ると 女性はスタスタと奥の収納庫へ

跡を付いて行こうとしたソラはフェイントをかまし 窓を開けてグラウンドに出た


「えぇ…… まだ昼間だろ?」


そこは夜になっていた 普通じゃない事が起きているのは明白

すると怪しい女性はいつの間にか窓の向こう側に戻って来ていて


〝 何でぇ…… 何でぇ…… 〟


「……怖いから帰ります」


〝 行かせないないわぁ…… お腹空いてるんだもん…… 〟


女性の身体は肥大化し 伸びる手足は無理矢理こっちに来ようと窓を割り始める


「……アンタが妃鹿先生ですか?」


〝 匂いが同じ…… あぁ食べたい食べたい アナタが好きぃ…… 食べたい…… 〟


「……同じ?」


〝 タマを寄越しなさい!! 〟


踵を返し 全力で逃げるソラ

しかし一度山林に入れば何処を走っているのか分からない

一度でも立ち止まろうものなら 背後から追ってくる四足歩行の化け物に食われてしまう


「持久力に自信は無いからどうしよう…… ハァハァ……

大声出しても無駄だろうし…… でも逃げなきゃ殺されるし……」


ただ只管前へ走る 暫く走れば何かに頭が衝突した


「えっ……? これって見えない壁?」


最初から閉じ込められていたのだ ソラが後ろを向けば気持ち悪い化け物が迫って来る


「……兄貴はこれに殺されたのかな?」


〝 戴きまぁす!!!! 〟


アングリと大きな口は縦に裂け どうしようもない状況の中 ソラの取る行動は


「俺…… グイグイ攻めてくるお姉さんは苦手ですぞ!!!!」


すると見えない壁にヒビが入り 差し伸べられた手はソラの肩を掴む

驚く少年に気を遣わず そのままこちら側へ強引に引っ張った


「ハァハァ…… えっ?」


あちらの異空間の亀裂は徐々に塞がり 化け物である妃鹿が襲ってくることはなかった


「大丈夫? 怪我してない?」


「はい…… ありがっ」


助けてくれた人物の顔を見てソラは顔を青ざめる

目の前にいたのも妃鹿だったからだ


「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!!」


ソラは全力でお婆ちゃん家までダッシュして帰る

取り残された妃鹿は溜息混じりに


「何なのよも~~」




不思議とここは通常の世界だと理解出来た 理由は空気が澄み切ってて美味い

お婆ちゃんの家の明かりが見え 今までの人生で嘗てない程の安心感を得て帰宅する


「たっ…… ただい…… まままま……!!」


「動作不良起こしてるぞソラ?」


「あにっ…… 兄貴……!! おば…… お化け!!」


「お化けに会ったんか?! 旅のし甲斐があるじゃねぇかソラ!!」


茶の間で水を飲ませて貰ったソラはようやく落ち着いた


「なんか…… 騒がしくない?」


「あぁそれなんだが……」


奥の部屋に繋がる襖を引けば 一難去ってまた一難


「あらぁ? あの時の坊やじゃないの~~」


「……うせやろ?」


そこにお邪魔していたのは件の三人のオカマだった


「アタシよローズマリーよん♡ また会えて嬉しいわぁん♡」


ウインクから発されるハートのマグナム弾を何とか回避するソラ


「何で俺を知ってんだ? 一緒にタイムスリップして来たの?」


何となくお婆ちゃんを入れて六人で談笑している異様な空間

異様な空間はお腹いっぱいなのに 緊張状態だった為かソラの身体は元気だった

少年の問いに答えてくれるのはレモン


「実はアタシ達…… アンタのことを前々から知っていたのよ」


「……何故?」


「アンタがこの時代にタイムスリップして来たから」


因みにこの会話に付いて行けるのはソラとオカマだけ

兄貴は脳をショートさせて風呂に入りに行き お婆ちゃんは話半分で楽しんでいる


「タイムスリップは客観的に見れば混乱が混乱を招き

時間が滅茶苦茶になってしまうと思われてるけど 実は一方通行なのよ

私達は言わば〝アンタが兄貴を救った世界線のオカマ〟ということになるわね」


「……んぁ?」


「アンタが居たのは兄貴が死んだ世界線だけど

今この時代ってソラ君が二人いる状況なの 誰も気付いてないけど……

そして今の〝アタシ達がいる世界〟と〝兄貴を失ったソラ君の居る世界〟が繋がったのよ」


「うんうん…… で? 何で繋がったの?」


「それは…… ねぇローズお兄たま?」



「オカマパワーよ♡」



背筋が震えたが 害が見当たらない分ソラの不思議な感覚は消えない


「じゃぁまぁ…… この世界で兄貴を救えば良いんですね?」


「そういこと…… 救えなかったらこの世界のソラ君も兄貴を失うだけって話

因みに世界を繋ぐ発動条件はアタシのフランス料理を食べる事よ」


「ラベンダーさんの?」


黄泉戸喫よもつへぐいじゃないけど…… まぁトリガー的な?」


「ほぅほぅ……」


「じゃぁまぁやる事は決まったということで…… この子を助けて上げましょお兄たま?」


するとローズは立ち上がり 拳を振り上げた


「それじゃぁソラ君達をハッピーエンドにさせましょう!!」


「「「「「 おーーー!!!! 」」」」」


何故か一緒に拳を振り上げてくれたお婆ちゃん

すると縁側より外では その異質な光景を覗いている者がいた


「何なのこの視界が渋滞する家は……?」


「……うわっ出た!!」


ソラがオカマ達の背後に隠れてその女性を指差す


「あの妃鹿ってお姉さんが化け物!!」


「あらそうなの?? ……でも変ね」


すると靴を脱いで妃鹿はズカズカと茶の間に乱入してくる


「ちょっとさっきから失礼じゃない!? せっかく訳わかんないのから助けて上げたのに?!」


「っ……!!」


ソラは目を合わせない様にレモンの後ろに隠れている

そのレモンが彼女の顔をジッと見ていて


「ん~~…… 確かにあの廃校舎に巣くっている怨霊にそっくり…… どういうことラベンダー?」


「そうねぇ…… まずはアナタのことを教えて頂戴」


ローズとソラが別室で相撲をしている中

茶の間ではオカマ二人とお婆ちゃんによる彼女の事情聴取が始まっていた


「つまり…… 目が覚めたら小さな病院にいたと?」


「生前以降の記憶が無いの 覚えているのは…… 好きになった人くらいかなぁ」


「好きな人って……」



「おぅお風呂上がったぞー」



バスタオル一枚腰に巻いた幹久の登場で 妃鹿の鼻から血が噴き出す


「エッッッッロ♡♡♡♡ 幹久様の身体エロ過ぎてウケるぅ♡♡♡♡」


「アンタは…… 当時俺の担任だった妃鹿先生か?! えっ亡くなったって聞いたけど……」



「ちょっと待って!!」



レモンが二人の胸部に手を当てる


「やっぱり…… 妃鹿さんの魂は幹久さんの物よ」


「つまり怨霊の妃鹿が幹久の魂を食らって 彼女が再び命を吹き返したってとこかしら?」


「他人の魂で蘇るなんて聞いたことないけど……」



「馬鹿ね…… 愛よ 愛」



相撲を終えたローズが舞い戻り 華麗に名言をお茶の間に突き付けた




夜も更け 幹久とお婆ちゃんが寝静まる頃

ソラが身支度を調え 外で待つ四人のもとへ


「寝る前に話してくれたけど 近々兄貴はあの校舎に調査に行く予定だったらしい」


ここにいる五人で校舎の怨霊を討伐しようという話で決まった

最後にラベンダーが妃鹿に確認を取る


「本当に良いのね? 怨霊を倒せばアナタは消えるのよ?」


「この時間のアタシが何を考えているのかは知らないけど…… 幹久様に手は出させないわ」


「年下の男を好きになるなんて…… 応援させて貰うわ!!」



「……じゃぁ皆さん よろしくお願いします」




そしてソラ達は校舎へ グラウンドに足を踏み入れればさっそく怨霊の妃鹿が現れる


〝 お腹空いた…… お腹空いた…… 幹久様ぁ…… 早く来てぇ…… 〟


「キンモォ!! あれアタシなの?! キンモォ!!」


〝 雌に興味無い…… 逝ね…… 〟


「口悪ぅ……!! 幹久様はアタシが唾付けてんだからねぇ!?」



「同一人物同士で罵り合ってる……」



長い手と足で這い寄ってくる怨霊に レモンは携帯していた珠々を取り出して


「はいソラ君」


「これって寺から盗んだ奴?」


「私達は使えないからソラ君が特攻隊長ね!」


「えぇどうやって使うの?!」


「気合いよ気合い!! ソラ君の厨二語彙力を見せて頂戴♡」


「……理を乱す邪悪なる怨霊を払いたまえ!!!!」


珠々から発される眩い光は怨霊に悲鳴を上げさせた それを良いことに五人は畳み掛ける


「オカマの得物を横取りだなんて良い度胸じゃないのぉ!!!!」


「別世界の兄貴の仇ぃ!!!!」



「自分自身に攻撃って変な感覚ぅ!!!!」



殴る蹴るという物理制裁はソラからすれば爽快だったが

次第に自分が痛めつけられている様に妃鹿は我慢ならなかった


「ちょっとほどほどにお願いね皆さん?!」


次第に怨霊の身体は透けていき 改心したのか成仏していく


「終わったわね……」


「アタシ達に掛かればこんなものよ こんな下級の怨霊なんざ」



「本人を前にして言いたい放題ねアンタら……」



そんな人間の妃鹿の身体も透けていく


「有るべき世界に戻って行くのね…… 怖がらせてごめんねソラ君」


「お姉さんはその…… 何で自殺なんかしたの?」


「自分で自分を許せなかったのよ 小学生に好意を抱く自分を教師として……」


「…………」


「でも結局未練タラタラだったんだろうなぁ……

大人になった幹久様の裸を拝見した時 欲情が止まらなかったもん……」


「……ちゃんと成仏してクレメンス」


最後は手を振ってお別れ けして悪い人だとは思えなかったソラだった




その夜の内に駅に向かうソラをオカマ達は見送ってくれる


「せっかくお兄さんを助けたのに一言もお話しなくて良かったの?」


「だって未来で生きてるんでしょローズさん?

この世界の兄貴はこの世界にいる俺の家族だから 横取りは駄目かなって」


「あら大人じゃないソラ君」


「自分で何言ってるかイマイチしっくり来ないんだけどね」


駅に近付けば 例の電車が都合良く現れる


「妃鹿さんは何でこの電車に乗ってたんだろう?」


「オカマパワーかもね」


「その言葉万能ですなぁ ネットでトレンド入りするかもね」


「無理よぉ…… 今の時代じゃぁ特に」


扉が開いて乗車するソラ しかし今度のオカマ達は乗らなかった


「元の時代でもまた会えるの?」


「約束は厳しいわねぇ…… 気付いていると思うけどアタシ達も怨霊なの」


「……オカマパワーって呪力なの? でも結局そのオカマパワーで何とかなるんでしょ?」


ソラの問い掛けに笑って返してくれるオカマ達


「オカマってワードわね 世間ではもう差別用語なの

でもそれってアタシ達を救ってくれる物じゃなくて寧ろ忘れ去られようとしてるのよ」


「……世の中には良かれと思ってやってる人達もいるかもしれないのに」


「アタシ達はオカマのまま死んでそのまま怨霊になってしまった

だからオカマを語り続けられなければ アタシ達という怪異は消滅してしまうのよ」


「……まぁ俺が暫く覚えているから安泰ですな!!」


「そうね!! ソラ君が覚えててくれればアタシ達も前向きに彷徨っていられるわ♡」


三人のオカマは扉が閉まる前にポーズを決めて


「「「 男は度胸!! 女は愛嬌!! オカマは最強!!!! 」」」


「またね~~!!」


手を振って元の時代に帰るソラ

急に訪れる眠気には相変わらず逆らえなかった




元の時代に戻って一年後

お決まりの夏休みに一家で遠出

スケジュール通りに一旦は貴縄駅で降り

今年は蕎麦屋で昼食を取って 兄貴とお婆ちゃんが待つ家へ


オカマ達は見えなくなっていたけど

この町に来れば不思議と いつでも会えるという自信が漲り

耳を澄ませば 愉快な笑い声が聞こえてくるのだった


〝〝〝 男の道をそれるとも 女の道をそれるとも 踏み外せぬは人の道ぃ!!!! 〟〟〟


「いやそれパクってるパクってる……」




おわり♡

ご愛読ありがとうございました♡

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