第9章: 力の重み
空気が重くなった。八代山田の圧倒的な存在感が、周囲を支配していた。
彼の自信に満ちた態度は苛立たしいほど揺るぎなく、まるで戦いの結末をすでに知っているかのようだった。
タケシが瓦礫の中から立ち上がる。
口元の血を拭いながら、鋭い視線を向けた。
だが、その目には警戒の色が浮かんでいた。
ユミはまだ動けない。
ハチロウの謎の能力によって、完全に拘束されている。
ケンジはユミを守るように立ち、アイコはタブレットを操作しながら、敵の能力の弱点を探していた。
俺はただ、ハチロウの目を見据えた。
本能が警鐘を鳴らしている。
——この男は危険だ、と。
「お前ら、本気で何か変えられると思ってるのか?」
ハチロウが腕を組み、余裕の笑みを浮かべる。
「この国はすでにギャングとマフィアのものだ。
正義なんて入り込む隙はない。」
「俺たちは正義の味方じゃない。」
俺は静かに言い、ゆっくりと前に出る。
「生き残る者だ。だから、お前たちを根こそぎ潰す。」
ハチロウが眉をひそめる。
「面白いな。なら、見せてもらおうか。」
空気が、一瞬にして張り詰めた。
次の瞬間——
俺は超人的な速度で駆け出した。
敵の銃口が俺を狙うが、遅すぎる。
弾丸が頬をかすめる。
だが、すでに俺は地を滑るように移動し、
最初の敵の手首を打ち抜いた。
銃が地面に落ちる。
敵が次の武器を掴む前に——
顎を蹴り上げ、一撃で沈めた。
タケシも隙を見逃さない。
敵の肩を踏み台にして跳び上がり、空中で回転。
側頭部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
男が無言で崩れ落ちる。
ケンジは落ちていたナイフを拾い、素早く投げつけた。
ナイフが敵の肩に突き刺さる。
悲鳴を上げた敵に、ケンジの拳が突き刺さる。
だが——
ハチロウは、微動だにしなかった。
次々と部下が倒れる中でも、彼はただ静かに俺たちを見ていた。
まるで、子供の遊びを見ているかのように。
「……それで終わりか?」
ハチロウは、退屈そうにため息をついた。
「失望したな。もっと楽しませてくれよ。」
その瞬間——
彼は消えた。
俺の目でさえ、追えなかった。
一瞬前まで目の前にいたはずの男が——
次の瞬間には、俺の背後にいた。
「遅すぎる。」
——ドゴォッ!!!
俺の腹に、凄まじい衝撃が走る。
体が吹き飛ばされ、木箱をいくつも突き破る。
地面を転がりながら、口の中に鉄の味が広がった。
タケシが反撃に出る。
しかし——
ハチロウは指一本動かさず、タケシの拳を空中で止めた。
そして、軽く捻るだけでタケシの腕をねじり上げ、
そのまま壁に叩きつけた。
ケンジが動く。
だが、ハチロウはただ一歩横にずれ——
拳を、ケンジの胸に突き刺した。
ケンジの体が弓なりにのけぞり、呻きながら崩れ落ちる。
アイコが叫ぶように言った。
「ダメだ……速すぎる!
このままじゃ……負ける!」
俺は、ゆっくりと立ち上がる。
唇の端を拭うと、指先が赤く染まった。
ハチロウは静かに笑う。
「これは戦いじゃない。
ただの授業だよ。」
その瞬間、俺は悟った。
——俺たちは、まだこの男と戦う準備ができていなかった。