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98 手がかりが増えたのはいいけどなんか俺の立場ヤバくなってない?

  親愛なるナミコちゃんへ


 まずはあなたの体を勝手に使ってしまったことお許しください、てへぺろ!


 なんて堅苦しいことを書くのは窮屈だしあまり時間がなさそうなので用件だけ伝えるね


 もう少しだけ私に付き合って その間この体を大事に使うことは約束するから


 詳細はここには書けないけど、もう少したら全部終わると思うから


 それまでの間入れ替わった時に出た課題は全部任せていいよ。


 だからお願い、あとちょっとだけ私に付き合ってください


 ああそれからナミコちゃんのノートに書いたアレは嘘だから安心して


 でも出来れば憎たらしいあの男にちょっとした仕返しをしたいから


 何も言わずノートを読ませて欲しいの アイツがどんな顔するのか見ることが


 出来ないのは残念だけど、その分ナミコちゃんが楽しんでくれたら嬉しいなあ


 おっと忘れるところだった ナミコちゃんの弟のケン君さあ、私にちょうだいよ 


 メッチャイケメンだし頭いいし、なんてったって優しすぎるっしょ


 結婚するならあの子しかしない!






 

「これで大体理解できたでしょ? 名前とか肝心な情報は全然書いてないけど、間違いなく昨日の私が書いたものだから。まあ信じるかどうかは高遠君しだいだけどね。あと弟は絶対に渡さないから」


 それだけは譲れないからと、ビシッと俺を指さしてくる。


 俺が弟を欲したわけではないんだがなあ・・・・・


 内容はともあれ文章の雰囲気は昨日の中の人に近い気がする。完全に信じるわけではないが、波子屋さんがこれを自作自演する意味はなさそうだ。


「辻褄とか筋は通ってるな。俺も昨日の波子屋さんが本人だとは思ってなかったし、これが真実と言われても反論はないな」


「じゃあさっきの許してくれる?」


「逆に反省はしてるの? 思いっきり楽しんでいたようだけど、そこんところどう説明してくれるのかなあ?」


「あーえーと、反省はしてます。だけど楽しんでたのも事実です・・・・はいスイマセン」


「まあ正直に話してくたし普通じゃない事情もあったしな。今回は許して進ぜよう」


「ははー、ありがとうございますお代官さまー」


 バンザイの恰好から腰を折り曲げひれ伏せの真似をする波子屋さん。


「なんか古いな」


「じゃあ、許してくれてありがとニャンッ! の方が良かった? それだとあざと過ぎてるから私的にはどうかなあって」


 猫ポーズは可愛いが、確かに目の前でやられると媚びられているようで俺もあまりいい気がしないな。

 

「そんなことより、これからどうするつもりだ? 悪意は今のところなさそうだが、手紙に書いてある通り向こうの事情が片付くまで放置するのか?」


「うーん、何か目的があるようだしこの際協力できないかなーって思ってる」


「つえーな。自分の体が勝手に使われていると知ったら、普通は自分の精神を疑ったり、怒ったりするもんじゃないの?」


「でももう『勝手』ではなくなったわけだし、ここまで来たら最後までやり遂げたいかなあ」


「まさかテスト期間までこの状態を維持知って、あわよくばソイツに受けてもらおうとか思ってないよな?」


「ははは・・・まさかそんなこと」


「考えてたのかよ」


「だって絶対私より頭よさそうなんだもん。それにそれくらいの見返りがあったっていいじゃん」


「長い目で見たときは見返りどころか損すると思うけどな。まあそれは自分で選べばいいことだし、そこは口出ししないから。それと・・・・うーんそうだなあ、その手紙を書いた人物を仮に中の人Aとしよう。つまりナカエさんだ」


「ナカエ・・・・うん、センスわっる」


 君は口悪いけどね。


「波子屋さん的にはナカビさんは存在してそうなのか?」


「ナカビって中の人Bってことだよね? そのセンス裏の田んぼに捨ててきた方がいいと思うけど」


 センスっていうか分かりやすく言っただけなのに、そこまで言う?


「うーんそうだなあ・・・・・今のところいないと思うなあ。まあでも私じゃない時の記憶ってサッパリ無いからさ、断定はできないかな。もしかして三人目に思い当たることでも?」


 あるか無いかと訊かれればあると答えるしかない。波子屋さんは当事者だし彼女のことは話してもいいか。


「まだ確かな話ではないんだが、実はうちのクラスの小島さんも波子屋さんと同じ現象が起きてるかもしれないんだ」


「小島さんってあの小島さん? いつも文字さんと一緒にいる。そう言えば彼女今週ずっと休んでるよね。つまり私と同じ入れ替わりが原因でってこと?」


「その可能性が高い。けど何度も言うが今のところ確証はないから断言はできないんだけどな。ただ有力な情報は耳にしてる」


「そっかー・・・・・・でもちょっとおかしくないかな?」


「何が?」


「だって昨日は授業中からだったけどさ、私の場合それ以外は普通に家から学校に登校していたわけでしょ? 私の記憶には無いけど、セイコやタマコ、それに色々な状況がそれを証明してるわけで、つまり私が言いたいのはさ、なんで小島さんの時に限ってナカエさんはそうしなかったのかなあって」


 言われてみればそうだな。今現在ここにいるのは身も心も波子屋さん本人だ。仮定の話になるが、その場合いま小島さんの体に別の人物が入り込んでいるとしたら、それはナカエの可能性が一番高いってことになる。もし小島さん本人のままだったら学校に来ない理由が無いとまでは言わないが、理由としてはかなり弱くなる。


 俺は波子屋さん小島さん両名にとってのナカエさんは、昨日応接室で喋った人物だと推測していた。そしてナカビと言う人物は波子屋さんの場合は小島さんで、小島さんの場合は波子屋さん。つまり互いに入れ替わっているのだと考えていた。


 やはり根本的な考え方が間違っていたのだろうか?


 小島さんは入れ替わりではなく別な理由で学校を休んでいて、従って文字さん言っていた違和感は勘違いか、それとも入れ替わりではない別の現象が小島さんの身に起きているのだろうか?


 しかしタイミングの問題もある。二人とも先週の火曜日から妙な事態に陥っているし、それぞれ身近な人の証言もあり、波子屋さんの場合原因はともあれ現象自体は既に確認済みだ。残る小島さんに確認を取れればもう少しハッキリしたことが分かるのだが、やはり真のことは後回しには出来ない。


 ここは一つまた夏鈴さんに協力を要請した方が良いのだろうか?


「なにボーッとしてるの?」


「あ、いや、確かにその通りだなって。それよりそろそろ戻らないと辻の授業始まるぜ」


「あっホントだ、やばい。ねえ今の話後で詳しく聞かせてよ」


「また今度な。それと成戸宮さんや玉児村さんには内緒だぞ」


「分かってるって」


 そこでチャイムが鳴り始めたので二人して急いで教室に戻った。


 

 三時間目はタイミングよく移動教室だったので、その道中波子屋さん玉児村さんから波子屋さんの最近の様子をもう一度訊くことにした。もちろん波子屋さんも一緒だ。


 そして話を聞き進めていく中で玉児村さんが「そう言えばパターンがあったかも」と思い出したように言った。それに成戸宮さんも「あー言われてみればうるさい時と大人しい時あったかもねー」と同意していし、その横で波子屋さんは苦笑いを浮かべながらもそれを黙って聞いていた。それ以上の有力な情報は出てこなかったが、訊きたいことは聞けたので良しとしよう。


 昼休みになって中田牧子が俺のところにやって来た。久しぶりに河島さんと弁当を食べていたところに割り込んできたので、


「もう少し気を遣うこと覚えようか」


 コイツに注意してもあまり意味がなさそうだと思いつつも、言うだけ言ってみた。


「大丈夫だって、二人が食べ終わるまで黙ってるから気にしないでー」


 隣の席の空いていた椅子を無遠慮にギギーと引っ張り、俺達が使っている机に横付けしてから「よいしょっと」とオッサンみたいな声を出して腰を下ろす。


「そこに鎮座されたら余計箸が進まないんだが?」


「えっそう? 私は気にならないけどなあ」


「すみれを見てみろ、メッチャ迷惑そうにしてるし」


「わ、私は迷惑だなんて・・・・」


「でも食べづらいんだろ?」


「・・・・ちょっとだけ」


「ほらな。ていうか何しに来たんだよ。石渡ならそこに・・・・・ってあれ? いつの間にか消えた?」


 ついさっきまで一人で弁当を食べているのが見えたんだが、食べ終わってどこかに行ったのか?


「あーアイツなら図書室じゃない。教室じゃ気が散るからそこで教えるって言ってたし」


 気が散るって言うより居づらいんだろうな。まあそれは自業自得なんだけど。


「ならお前も飯食ったんなら図書室行けよ。ていうかずっとそのままアイツに教えてもらえ」


「えー、それはちょっとなー。ていうかさあ、最初に教えてくれるって言ったのは先輩なんだし、途中で放り出すなんて先生は許しませんよ」


「いやお前は完璧に生徒側だろ。それとスマンがしばらくは面倒見てやれんからアイツで我慢してくれ。別に嫌ってわけじゃないんだろ?」


「まあそりゃ今でも結構好きだし悪くはないんだけどさあ、先輩と比べるとイマイチというか・・・ん、すみれちゃんなにその顔。アタイ今なんかおかしなこと言った? ってあーもったいない」


 河島さんは中田の言葉に「えっ?」と驚き、思わず箸で掴んだミートボールを口に運ぶ前にポロリと床に落してしまい、今度は「あわわわ」と慌てふためきだす。


 なんか珍しいものを見た気がする。


それもそのはず、河島さんは中田が石渡のことを好きだったという事実を知らないのだ。


「あっいや、意外というかなんというか・・・・・」


「あー先輩が勉強教えるのが上手いってことでしょ? そうそうアタイも最初はびっくりしたけど、やっぱり人って得意なこと一つや二つはあるもんだよねー」


 それ絶対間違ってるからな。ていうか俺のことバカにしてたってこと?


「え、えーとそうじゃなくて・・・・・ゴ、ゴメン、何でもない」


「気持ちは分かるが少し落ち着こうか。それとそれは食べない方が良いと思うぞ」


 床から拾い上げて弁当箱のフタの上に避けておいたミートボール。それをまた河島さんは食べようとしていたので止めさせた。そこでようやく気付いたのか、河島さんは「そうだった」と言って掴もうとしていた手を戻した。


 まったくどんだけ動揺してるんだか・・・・


「それで一体何の用があってそこに居座り始めてる? というか結局図書室には行くのか、行かないのか?」


「行くよー」


「ならさっさと行きやがれ」


「あははー先輩冷たすぎー。ちょっとだけ訊きたいことがあっただけだし、終わったらすぐ向かうし」


「訊きたいことねえ・・・・なんか悪い予感しかしないんだが」


「そんなこと無いって。それでえっとねえ、先輩って浮気してるの?」


「ブフォッ!」


 飲み込みかけた白飯を思わず軽く吹きこぼしてしまった。飛距離は大したことなかったおかげで正面にいた河島さんにかからずにすんだとはいえ、一歩間違えれば大惨事だったぞ。


「い、いきなり何ぶっこんできやがる!」


「だってアタイのクラスで話題になってるよ。二組の高遠が彼女がいるのにも関わらず他の女に手を出してるって。まあそれ以前から女癖が悪い奴だって有名だったけどね。それでしちゃったの?」


「しちゃってない! いや浮気どころかそもそも・・・」


 俺達は付き合ってはないと思わず言いそうになってしまったが、すぐに思い留まる。


「そもそも?」


「そもそも・・・・そうだ、そもそも俺にそんな甲斐性はない」


 そんでもって女性をたらし込んでなんかもいない。いい加減この厄介な噂を何とかしないと俺の学生生活に支障が出る。思い切ってガラス渡りにでも頼んで何とかしてもらうか?


そんなことを考えていたら河島さんが「ふふふ」可笑しそうに微笑んで、


「甲斐性って律樹君、もし手に入れたら浮気するってこと? だとしたら私は悲しいなあ」


さっきまで動揺していたのは演技だったの? と思うくらい今は悪ノリしている。


勘弁してくれ・・・


「先輩、カイショウってなに?」


 こっちはこっちで別な意味で面倒くさいことになっている。ていうか高校生なんだしそれくらい知っとけよ。


「ググれ。それと甲斐性があっても絶対に浮気はしないから安心してくれ」


 言った瞬間、付き合ってもいないのに俺は何を言ってるんだ? と思ったが、いくら考えても答えは出なさそうだったのでそのまま話を進める。


「ほら質問に答えたからこれでいいだろ?」


「うん、そだねー」


 そう言いながら立ち上がる。


おっ、割とすんなり引いてくれるか。そう思っていたが、そこはやっぱり中田牧子だった。


「この間バーベキューした時にいたイケメン君とも仲良さげだったよねー。もしかしてそっちも手を出してたり?」


「出すか! さっさと行け!」


 弁当の袋を中田に向かって思いっきり投げつけるが、中田は「キャハハ―」とそれをヒョイッと躱して逃げるように教室から出て行った。


 まったく今日はなんて日だよ。


 波子屋さんからは俺に襲われたとか言われるし、中田には浮気してるでしょって根も葉もないことを言われた。特に波子屋さんの方はシャレにならん。もし公の場で言われたら軽く三回は死ねるぜ。


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