97 これってホント?
小島さんが休んでいるのは誰かと入れ替わっているせい。
波子屋さんの事例から考えれば決してあり得ない話ではない。その誰かが波子屋さんならば話はだいぶまとまってくるのだが、昨日応接室で話した限り、波子屋さんの中の人が小島さんだとは考えにくい。小島さんが演技していたのなら可能性は残るが、とてもそうは思えなかった。
「このことって誰かに話したりした?」
まだ文字さんとの話は終わっていない。それにもう少し情報が欲しいところだ。
「誰にも言ってないわ」
「一応聞くけど、どうして俺に話したの?」
「一応ということはあなた自身にも心当たりがあるってことよね。まあいいわ教えてあげる。そんなの高遠君がその手の専門家だからに決まってるじゃない」
「・・・・えーと俺が専門家?」
どちらかと言えばまだ初心者みたいな感じなんだけどね。これと言って特別な力が使えるわけじゃないし。
「なによ、違うっていうの? じゃあ聞くけどあのズラズラうるさい妖怪を使役しているあなたが一般人とでも言いたいのかしら?」
「別に使役はしてないんだがな。まあ理屈は分かった。それで俺にどうしろっていうんだ?」
「だからまたその妖怪を使ってどうにか調べることが出来ないかと思ったのだけど、いけそう?」
「それは本人と相談してみないことには何とも」
仮に手伝ってもらえるとしてもまた対価を払わなきゃらなないんだよなあ。そうなると俺の小遣いにニョキッと羽が生えて羽ばたいていく運命に・・・・・
「なら早く相談して。確か一緒に住んでるんでしょ」
簡単に言うなあ。まあ対価のこと詳しく知らないから仕方ないと言えばそれまでだが。
「相談はする、だけどあんま期待しないでくれ。それよりもう少し詳しく聞かせてくれないか。先週の何曜日からだとか、違和感を覚えた時の小島さんが全部同じ感じだったとかさ」
「いつ始まったか? は分かるけど、全部同じだったかっていう質問は少し妙な言い方ね。まるでどこかで体験したみたいな物言いに聞こえるわ」
ギクッ! 鋭すぎやしないかい? でもこれはまだただの推測だし、明かすのはもう少し先でいいよな。
「似たような話を祖父ちゃんから以前聞いたことがあるだけさ。それでどうなんだ?」
「そうねえ・・・・・私が見た感じ二種類あった気がするわ」
「それは小島さん本人を含まずってこと?」
「ええそうよ。例えるならキョドり気味でテンション低いパターンとやけにテンションが高いパターンがあった気がする。でも基本は小島さん本人を演じている、そんな風に見えたわ。それと具体的にいつからって話だけど、私が気になりだしたのは先週の火曜日だった気がするわ」
それって波子屋さんの時と似てるな。確か波子屋さんは火曜日から一日おきに記憶が飛んだとか言ってたし。
それともし当てはめるとしたら昨日俺が喋った中の人はどちらかと言えばテンションが高い人だった気がする。もし仮に波子屋さんにもテンション低い人が入り込んでいた日があったとしたら、更に小島さんとの関連性が高まってくるな。こうなったら早いうちに成戸宮さんや玉児村さんに確認しておくかあ。
「なるほどねえ。ほかに気付いたことはある?」
「小島さんにしては食欲がなかったことと、他の人とあまり話さなくなったことかしら。まあでもこれって私の責任でもあるのよね。上から目線で言うつもりは全くないのだけれど、彼女って私とすみれ、それと光海くらいしか積極的に話をしないじゃない。一番よく話をしていた私は最近一也ばっかりだったから。それでも私の中で一也の次に話をしていたのは間違いなく彼女だったのよ。でも以前ほどではなくなったし、もしかしたらそのせいで色々と落ち込んで様子がおかしくなったのかなって考えた時もあったわ」
「だけどそうじゃなかったたんだな」
「ええ。彼女だって子供ではないし、私が一也のことどれだけ想っていたのか小島さんには話していたから理解してくれていると思った。実際今もそうだと信じてる。もしこれで全部が私の勘違いで悪いのは全て私だとしたら、一也と別れる以外だったらなんだってするわ」
「まあまあそこまで自分を追い詰めなくても。でも話は分かった。やれるだけのことはやってみるさ。だがそれにはやっぱり直接本人と会う必要があるんだけど、彼女の家って何処にあるか知ってるか?」
「当然よ。早速今日行くの? なら私もついていくけど、流石に一也は連れていけないから置いていくしかないわね」
「あー悪い。今日は無理なんだ。ていうか今週いっぱい行けるかどうか分からないんだよなあ。家の場所訊いたのは最悪の場合ってことだ。もしかしたら明日は来るかもしれないしな」
本当は真の件が無かったりすでに解決していたのならすぐに小島さんの家に向かっていたかもしれない。そう考えるとやはり協力者を増やすべきだろうか? いやいや、いくらこっち側の人間である文字さんや河島さんであっても不確定な要素が多い状態で巻き込むことはやはり危険だ。もし頼むとしたらそれこそ専門家か強力な力の持ち主に限るだろう・・・・・・・・ん、専門家?
「そう・・・・アナタも色々と忙しいみたいね。それが何なのかは訊かないでおいてあげる。その代わりあまりすみれに心配かけてはだめよ。あの子気丈に振舞っているだけで、心中が穏やかでない時もあるはずよ。だからもっとちゃんと見てあげて。まあ私が言えるのはこれくらいね」
「ああ、肝に銘じておくよ」
切りがいいタイミングで委員長と和也が入ってきた。その後も続々とクラスメイトが教室に流れ込んできて、一番最後に波子屋さん達三人が滑り込んできたところでチャイムが鳴った。波子屋さんは二人と楽しそうに喋っていたので、今日の中の人は本人なのかもしれない。
「ねえちょっといいかな?」
一時間目の授業が終わって俺のところに現れたのは毎度お馴染ランキングトップの中田牧子ではなく、最近ランキングを上げてきた波子屋さんだった。因みに中田は石渡と廊下で話している。見ては無いが中田の声が大きいのですぐに分かった。念のため昨日のうちに中田に対し『しばらく忙しいから石渡に見てもらえ。じゃないともう一生面倒は見ない』とメッセージを送っていた。後から読み返すと『面倒を見る』とか違う意味に捉えられてしまいそうだが、中田のことだ、変な感じがいはするまい。
「今日の中の人は?」
「アハハハハー今日の晩御飯は? 的なノリで軽く聞いてくるねー。まあでも今日はナミコで間違いないから安心して。それよりここじゃアレだし階段の方行こうよ」
「あんま時間ないけど仕方ないかあ」
このタイミングで来たということはなるべく早く話がしたいのだろう。
「ちょっとこれ読んでくれる?」
人気が少ない方の階段に着くなり波子屋さんは一冊のノートを手渡してきた。それは以前見せてもらった日記のような記録帳だった。
「更新したんだな。まあとりあえず読んでみるぞ」
一番最初のページはやはり前回見たものと同じ内容だった。しかしパラパラとめくり一番最後に書かれたページの中身を読んで思わず絶句してしまった。
「こ、これって・・・・・」
「ねえ、これに書いてあることってホントなの?」
「そんなわけないだろ! 俺にはすみれがいるし、しかも学校内でこんなことする分けねえだろうに!」
「本当に?」
「ちょっ、まさかここに書いてあること本気で疑ってるのか?」
「でもこんなこと書くってことは昨日高遠君と私の間に何かあったってことだよね? じゃなきゃ書く意味が分からないし」
「俺も知らんがな。まず言っておくが、昨日の昼休み波子屋さんと応接室で飯食ったことはここに書いてある通り本当だが・・」
「じゃあやっぱり・・」
「最後まで聞けって。本当なのはここまでで、それ以降のことは全部でたらめだ。ああ家に帰ってからのことは知らんけどな。第一昨日急に応接室から飛び出したまま教室にも戻ってこなかったのは波子屋さんだからな。その辺はあの二人から聞いてないのか?」
「聞いてるけどさ、でもそれって高遠君が私の体が別な人と入れ替わっていることを良いことに無理やり襲おうとしたから逃げ出したんじゃないかと普通は考えちゃうじゃん」
「あっ・・・・」
確かに状況だけ見たらそう見えても不思議はない。特に波子屋さんからしてみれば自分の体を傷物にされそうになったと疑うのは当然だ。
「その反応はやっぱりここに書いてあることは全部本当だったんだ・・・・私初めてだったのに」
そう言って波子屋さんは両手で顔を覆い「うぅぅ」と泣き始めてしまった。
「だから違うって。襲ってもないし、ましてや傷物なんかにはしてないつーの。ほらこの記録だと襲われそうになったから逃げた、と書いてあるから少なくても傷物にはなってないだろ」
だから安心しろとは言えないが、少なくても波子屋さんの身は無傷だと言いたい。だが今何を言っても確かな証拠を出さない限り無駄な気がする・・・・・
でもこればっかりは厳しそうだ。昨日あの場には他に誰もいなかったので無実を証明するのは難しい。ん、そう言えばそもそも逃げ出した時ペロ氏がいたよな。しかも彼女はペロ氏を見て驚いて逃げ出した感じだった。ここはひとつ彼に証言してもらえれば・・・・・・なんて出来るわけないよなあ。ただの猫ではないけど、喋らせたらそれはそれで大騒ぎになってしまう。
現状打つ手なし。かといってこのままここを離れてしまえば余計疑われてしまうし、ホント困ったよ・・・・・
「ふふふふふふ」
どこからか不気味な声が聞こえてくる。確かめるまでもなく目の前にいる波子屋さんだった。
「波子屋さん?」
もしかして子のデタラメナ内容を全部信じて気でも触れてしまったのか?
「ふふふふふ・・・・・・・・アッハハハハハー」
顔を覆い隠していた手を外し、不気味な声は高らかな笑い声へと変わった。
「へっ? ちょっどうしちゃったんだよ」
「ハハハハハー・・・・・ゴメンゴメン、高遠君が何もしてないこと最初から知ってたから」
「でもその涙は・・・・」
明らかに彼女の両目から涙が流れた跡が残っていた。
「ああこれね。超面白すぎて涙でちった、てへっ」
はあ? なんじゃそりゃ! 何から何まで全部嘘だっていうのかよ。
「てへっ じゃあねえ! メッチャ焦ったじゃねえか。ていうかこんな質の悪いことわざわざ仕掛ける必要あったのか? あんまフザケルようなら俺ももうこの件から手を引くからな」
冗談じゃない。いくら何でもこれは酷過ぎる。まだ大したことはしてないとはいえ、これではやる気が萎えてしまう。
「ホッントゴメンね。私も途中から悪ノリしちゃったけど、最初はやろうかどうか迷ったんだから」
「結果やってしまったなら同じだろ。他に言い訳があるなら一応聞くだけは聞くが、気持ちは変わらんと思うぞ」
「それは困るって。あーだから私は反対だったんだけどなあ。いくら女の子に優しい高遠君でもこれは流石にまずいでしょって思ったもん」
「何を言って・・・・もしかして中の人と話をしたのか? ていうか直接会ったってことか?」
「まあまあ焦らないでって。まずこのドッキリを考えたのは高遠君の言う中の人だから・・」
「じゃあ直接会ったんだな。だったら・・」
「最後まで話聞きなさい。ってこれってさっきと立場変わってるよね? ウケルー」
「・・・・・・・・・・」
「ジーッ見られると恥ずいじゃん。まあいいけどさあ。今度はこれを見てよ。たぶんこれで大体のことが分かると思うよ」
そう言って胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出し俺に差し出してきた。




