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 夕食の後、従姉である律子ねえさんが本当にあの小学校で働いているのか祖父ちゃんに電話して確認してみることにした。


『ワシも教師になったという話は聞いとらんが、確か教員免許は持っていたはずだぞ』


「そうなの? そんな話全然聞いたことないんだけど。伯母さんに確かめたら分かるよね?」


『なぜ娘に聞く? 直接本人に問いただせばよかろうに』


「祖父ちゃんも知ってるだろ、俺があの人のこと苦手なことさ」


『まだそんな昔の話を気にしてるのか? お前も律子もいい大人になったんだし、いい加減いとこ同士仲良くしたらどうだ? それに律子のことだ、そんな昔のこととっくに忘れてるはずじゃ』


「向こうが覚えてなくても俺がバッチリ覚えてるんだよ。ということで伯母さんの連絡先教えてくれ」


『別に構わんが・・・・ん、ちょっと待ってろ。婆さん今なんて言ったんだ?・・・・・・おおそうかそうか。もしもし、連絡しなくても婆さんが律子のこと知ってたみたいだぞ。お前が使役した妖怪が小学校で見た高遠律子という教師はどうやらワシの孫で間違いなさそうじゃ。なんでもお前がそっちに引っ越した時に婆さんがたまに気にかけてあげてくれと連絡していたらしい。その時に今年から小学校の教師になったことを聞いたんだとさ』


 まったく祖母さんも余計なことをしてくれたもんだ。まあ心配しての行動だから仕方がないんだけど、せめてこっちにも教えておいて欲しかったよ。


「マジか・・・」


『まあなんだ、仲良くとまではいかなくても一度会って話くらいはしてもいいのではないか? それに大雑把にしか聞いとらんが、教師という立場なら色々と都合が良かろう』


 祖父ちゃんには真や波子屋さんのことを従姉の話をする前に掻い摘んで説明してあった。特にアドバイス的なことは何も返ってこなかったが、それでも話は真剣に聞いてくれた。真が大ごとにしたくないと思っていることも伝えてあったので、敢えて何も言ってこなかったのかもしれない。


「明日何も収穫がなかったらその時に考えるよ。ああそれとガラス渡りは使役してるとか全然そういうのじゃないから。見返りというかちゃんと対価を支払ってるし、どちらかと言えば探偵を雇ったような感じかな」


『そうか・・・・・・』


 今の発言に思うところがあったのか電話の向こうが静かになる。通話時間表示は止まっていないので電話が切れたわけではない。


「祖父ちゃん?」


『ああいや何でもない。風呂入るからもう切るぞ、じゃあな』


 最後妙な感じで話が終わってしまったが、一応収穫はあった。十中八九律子ねえは真の通う小学校で教師をしている。真のクラスの担任は男性教師と聞いているので彼女ではないことは確かだ。もし彼女が担任で俺が真の親だったとしたら、間違いなく転校させている。それくらい信用や信頼を置けない人物なのだ。


 祖父ちゃんはそこまでとは思っていない様子だった。あの祖父ちゃんに限って人を見る目のない節穴ってことは無いだろうが、だからこそ余計に気に食わないのだ。


「そう言えば肝心のこと聞くの忘れてたな」


 従姉がこっち側の人間かそうでないか、これは重要なことだ。彼女を頼る場合、前者であれば話を進めやすい。しかし後者だった場合、どう話を切り出すか? ここから考えなくてはならないからだ。


 高遠家は男子にのみ異質な力を得るようなので、女性である従姉が能力者である可能性は低い。しかも祖父ちゃんの娘の子供なので、家族内に能力者がいる可能性も当然低いはず。俺自身踏み込んだのはつい最近のことだし、彼女が今日の今日まで全く関わらずに暮らしていたとしても全く不思議ではない。寧ろそう考えるのが普通だろう。


 取り合えず祖父ちゃんにRhineしてみるかあ。


『あの人ってこっち側の人?』


 祖父ちゃんならこれだけで俺が何を言いたいのか伝わるはずだ。まあ風呂に入ると言ってたし、最悪そのまま寝ちゃうかもだけど、年寄りは朝早いから明日学校行くまでには返信が来るだろ。


 自室を出てリビングに入る。しかしそこにはいるはずの人物・・・ではなく猫がいなかった。正確にはこの家の住人は全員この場にいたのだが、一番肝心な奴の姿が見えない。


「あれ、ペロ氏は?」


「猫ちゃんなら少し前に帰っちゃったよ」


 ダイニングテーブルで教科書とノートを広げていた真が視線を上げ答えた。その隣には河島さんが座っている。彼女の前には何も置かれていなかったので真の勉強を見ていただけのようだ。


「もう少し話聞きたいから待ってろって言ったのによー。飯も食わせてやったのになんて恩知らずな猫だぜまったく」


「ふふふ、可愛い猫ちゃんだったよね。あの子って円城先輩の家で飼われてるんだよね。最初会ったときはいきなり喋りだしたから驚いちゃったけど、なんかあの話し方と容姿とのギャップがありすぎて逆にシュールで可愛かったよね。また今度来ないかなあ」


 うん分かる分かる。あのギャップは反則だよな。それと河島さんも順応早えな。


「飼っているっていう表現が正しいか分からんけど、少なくても同居はしてるっぽいな。真とトウラみたいな関係じゃね?」


 なんか久しぶりにまともに河島さんと話をしたような気がする。と言っても顔を合わせれば挨拶はしてたし、なんだかんだ言ってもまだ二日も経ってない。だけど何だろう、安心に似たこの高揚感は?


「え? じゃあ猫ちゃんもトウラと同じで元は人間だったの?」


 ひょっとして僕の仲間かなあ? そんな感じで嬉しそうに訪ねてくる真。


「知らん。でも今はまだ謎だが、ガラス渡りが言うには妖怪かどうかも怪しいようだからその可能性はあるかもな。それと危険だからあんま関わるなとも言ってたぞ」


「えーあんなカワイイのに?」


「可愛いものが全て人畜無害だと思ってたら大人になったとき大怪我するぞ。それに綺麗なものには棘があるって聞いたことないか? まあ誰とは言わんが、酒好きで少し頭がイカレタ人の場合、ちょっと怒らせただけで鋭利なものが飛んできそうだけど イッテー!」


 ソファーの方で孫七さんやトウラと酒を酌み交わしていた夏鈴さんの方を見ながら言ったら、突然右の肩に何かが突き抜けるような激痛が走った。


 な、なんだ? 何かが飛んできたようには見えなかったが・・・・・・・


「お兄ちゃん?」

「ど、どうしたの律樹君?」


 ん、なんで家の中なのに下の名前で呼んだ? いや痛くて今はそんなことどうでもいい。


「あいててて・・・・あ、ああいや何でもない。ちょっと肩に穴が開いただけ」


「だ、大丈夫!? ていうか穴が開いたってホントなの?」


 一応痛みが走った肩を服越しに確かめてみるが穴は開いていないようだ。そもそも出血もしていないのでそんなわけないとは思っていたが、あまりにも痛すぎて思わずそう口走ってしまったのだ。

 夏鈴さんは一度たりとも俺の方を向くことはなかったが、斜め後ろからでもニヤリと口角を上げていたのが見えたので犯人はあの人で間違いない。ていうかこんな魔法みたいなこと出来るの彼女以外ありえないし。


 しかし自分の容姿が優れていることは認めるんだな。それと今ので自ら己の棘を実証したのもワザとか? 


「あ、ああ平気だ。それより河島さん風呂まだでしょ? 真は俺が代わりに見ておくから先に入ってきていいよ」


 本当はまだかなり痛みが残っているけど、真や河島さんの手前、あまり情けない姿を見せるわけにはいかん。


「じゃあお言葉に甘えて入ってこようかなあ。ああそれと明日は一緒に学校行こうね」


「もう早く登校しなくて大丈夫なのか?」


 その質問に答えたのは河島さんではなく夏鈴さんだった。


「すみれの用事はだいたい終わったわよ。ワタシはまだやることがあるから先に行くけど、すみれはゆっくりくればいい。ああそれと明日は雨が降るから自転車で行くのは止めた方がいいわ」


 確か天気予報だとしばらく晴れが続くって言ってた気がするけど、もしかして異世界人である夏鈴さん特有の勘ってやつか?


「じゃあ傘も持っていかないとな・・・・・・って、そんなことよりさっき何やってくれたんですか? 死ぬほど痛かったんですけどー?」


 つい今しがたのことだったのに、何事もなかったかのようにシレッと会話に入ってきたからうっかり忘れてたぜ。


「さあ?」


「いや嘘つくなって。どう考えても夏鈴さんしかありえないから」


「一体何のことを言っているのか分からないけど、レディを悪く言うのは感心しないわ」


「分かってるじゃねえか・・・・いやもういいや」


 この人を問い詰めたところで俺が不利なのは永遠に変わらん。悔しいけど諦めるのが吉だ。それに不思議といつの間にか痛みが消えちゃってるし、襟ぐりを引っ張って覗いてみても肩に傷痕はおろか痣すら出来ていない。 なんか逆にスゲー不安になるけど、やった相手が夏鈴さんということでこれ以上のことはないはず・・・・・・だよね?



 ペロ氏や真と遊び疲れたのか、テーブルの下で丸くなってて大人しくしていたペンシーが、河島さんが部屋を出ようとすると「キャンキャン」と鳴いた。


「今日は私と入りたいの?」


「キャン!」


「ホント? 嬉しいなあ。じゃあいっぱい綺麗にしてあげるからね」


「キャンキャーン!」


 マジこの仔犬、人間の言葉が分かってるんじゃねえか? って思うくらい賢すぎるぞ。まさか最近俺の周りで流行ってる『中の人』がいたりしないよな? それが女子なら問題ないんだけど、もし男だったとしたら絶対に許せん! 


「今日はすみれと入るのか。昨日ワシと入ったときのぼせ気味になってたから気を付けるのだぞ」


 そう言えば昨日は孫七さんと入ってたっけな。かなり風呂好きなのは知ってたけど、ご老体と一緒に入ったくらいだしやっぱ考えすぎか。


 俺も犬か猫の体に入り込んで河島さんと一緒に・・・・・・なんて馬鹿なことを考えている場合ではなかった。俺が河島さんを風呂に入るよう促したのは真と二人きりで話をするためだ。


 なんか最近『中の人』が身近になってしまったせいか、俺もワンチャン出来るのでは? と思わず勘違いしてしまっている自分がいるのが悲しい・・・・



 河島さんとペンシーはお風呂に向かったが、大人たちの宴は続いている。

 

 タイミング的には今しかない。

 

「真、ここだと落ち着かないだろうし、勉強の続きは俺の部屋でやろうぜ」


「えっ? 僕ここでも平気だよ」


 あー伝わんなかったかあ。確かに孫七さんたちは酒を飲んでいるとはいえ騒がしくはない。適度な雑音があった方が集中力が上がると聞いたこともあるが、今は不要だ。


(昨日の話だよ。夏鈴さんたちには聞かれたくないんだろ?)


 そっと耳元で囁く。その言葉で真はハッとした表情になり、いそいそと教科書とノートを閉じ始めた。


「そんな急がなくてもいいって。なんか適当に飲み物持っていくから先に部屋行っててくれ」


「うん」


 冷蔵庫からペットボトルのお茶を二つ持って自室に戻ろうとした際、夏鈴さんがチラッと俺を見て意味深な笑みを浮かべていたが、そのままスルーした。

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