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93 対価は分割で   

「ふーん。じゃあ結局これと言った証拠は何もなかったってことか」


「あの真とかいう少年の冤罪を晴らす証拠は、ズラ。オラが見た限りじゃあ真がイジメられている様子はなかったズラ」


「それが一番重要なんだがな。でもクラスメイトでないとすればやはり人間ではない何かの仕業の線が濃くなってきたな」


「でも一日見ただけでは分からないズラ。それにもしイジメの延長だったらオラの出番はあまりないズラよ」


「そんなことないだろ。それこそイジメの証拠を集めたりするなんて、お前にとっては容易いことだと思うが?」


「今の子供たちは昔より陰湿で狡猾ズラよ。それこそ人間が使う機械じゃないと証拠なんて中々押さえられないズラ。残念ながらオラにはそれが出来ないズラ」


「スマホやボイスレコーダーか。そう言われてみればそうかもな。おっと、包丁使うからあんま動くなよ」


 ガラス渡りと円滑に会話をするため色々な場所に透明のデスクマットを敷いているが、料理しながら会話を続けるためにはそれでは不十分だ。そのため百均で購入しておいた半透明の淡いピンク色のプラスチック玉が連なったブレスレットを左手に装着している。見た目は殆ど子供のオモチャだが用途としてはかなり優れている。一つ難点を上げるとすれば、ガラス渡りが「あまり綺麗じゃないから嫌ズラ」と言って中々入ってくれなかったことだろう。ガラス渡りは透視度が高い物を好むようで、本人曰く芳香剤も何もない古いトイレの中にいる感覚らしい。


「よしもういいぞ。そう言えば俺が買ってやった水晶玉は何処に置いてあるんだ?」


 ガラスと少年事件を解決するにあたりガラス渡りには色々と協力してもらった。特に夢を操り改ざんし、そしてそれを不特定多数の人間に記憶として植え付けてくれなければ今も問題は解決していなかっただろう。それだけ彼の功績は大きのだ。

 そしてその見返りにガラス渡りから求められたのは、俺の生命力や持っているのかさえ分からない妖力などではなく、普通に存在する物品だった。それも一つだけでなく全部で十品。その一つが水晶玉だった。占いで見るような大きなものでは無く、親指くらいの小さなものだったのでそれほど高額なものでは無かったのですぐに購入することが出来たが、それでも数千円と一介の高校生には痛い出費だった。もちろん天然ではなく人工物だったが、ガラス渡りはそれでも満足げに受け取ってくれたので、その時は本当にホッとしたものだ。


 因みに残りの九品を一気に購入することは金銭的に厳しいので分割と言う形にしてもらっている。妖怪との取引で分割払いとはかなりシュールな気もするが、俺としては大助かりだ。


「ふふふ、秘密ズラ」


 得意げにガラス渡りが言う。まあでもコイツ自身では現実の物体を運ぶことが出来ないのでこの家の住人の誰かに運ばせたことは間違いないはず。そのうちひょっこり見つかるかもしれないな。


「ところで今回の報酬は本当にアレで良かったのか? なんなら前回の報酬の十品に上乗せする形でも仕方がないかなと俺は思っていたんだが」


「これがもし律樹の同級生の話ならそうしていたかもズラ。でも今回はまだ善悪の判断が不完全な小童ズラ。しかもキナ臭いのも感じるとくればなおさらズラ。ガッツくのはオラの性分には合わねえズラ」


「へー意外と優しいんだな妖怪って言うのも。まあ中学校とはいえずっと学校の中に住んでいたんだから子供に対して情も移るかあ」


「そ、そんなことより早くアレ寄こすズラー」


「なに素で照れてんだよ。ほらよっ」


 ポケットから用意していた百円玉を二枚取り出す。


「それをそこのテーブルの上に置くズラ」


 ガラス渡りが指差したのは食卓だった。言われた通り二百円をその上に置いた。


「置いたけどどうすんだコレ?」


 ガラス渡りは物体に入り込むことが出来ても動かすことはできない。そもそも自分では使えないのにお金なんか持ってどうするんだって話だ。


「心配ないズラ。ちゃんと奴には話を通してあるズラ」


 奴とは誰のことを言っているのか知らんけど、やはりこの家の住人だろうな。


「これで取引完了だな。仮にもう一度潜入してくれって言った場合も報酬は同じでいいのか?」


「このお金は全部解決するまでの報酬ズラ。終わるまで付き合ってやるズラよ」


「いいのか?」


「ガラスを濁らすようなことをオラがすると思うズラか?」


「いや知らんけど言いたいことは何となく分かったから」


「分かったならそれでいいズラ」


「お前が意外と優しいってことがな」


「フン! 勝手に言っているズラ。明日はオラと同じ妖怪の仕業の線で調べるけどそれでいいズラね?」


「おっ張りきってるな。ああでも幽霊の線もあると思うんだがそっちも調べられるか?」


「オラでは無理ズラ。さっきすれ違った猫の姿をしたアイツならもしかしたらとは思うけど、そもそもアイツが妖怪なのかそうじゃないのかオラにも分からないのが正直なところズラね」


「そうなのか? てっきり妖怪同士ならみんな互いに判別できると思ってたけどその限りではないんだな。まあ妖怪かどうか怪しい時点で前提が違うか」


「この家にあの女がいる限り危害は加えてこないと思うけど、それでも用心するに越したことはないズラ」


 あの女。今回は間違いなく夏鈴さんのことを言っているはずだ。しかし忠告してくれた奴を同じ日に別の奴から気を付けろと忠告されるなんて、一体この業界はどうなってるんだよまったく・・・・・。


「ペロ氏がヤバい存在なのは理解してるさ。まあでも夏鈴さんだけでなく他にも楔になりそうな人がいるし、そもそも飼い猫みたいな奴だからそこまで警戒する必要もないだろ。それに孫七さんもあっさり家に入れたくらいだから案外無害なのかもしれんぞ」


「あまい、あまいズラ。妖怪を簡単に信用するといつか痛い目に遭うズラよ」


「ペロ氏は妖怪かどうか怪しいって言ってたと思うんだが? まあ一応警戒はしておくけどさ。そろより明日も頼むな」


「幽霊の方はどうするズラか?」


「うーんそうだなあ・・・・やっぱりトウラに頼むしかないかあ。アイツは霊が見えるようだしな。まあ理想は祖父ちゃんズの力で夏鈴さんが堂々と学校内に入れれば理想なんだが・・・・」


 あの三人に頼むのは出来れば最終手段にしたいし、それは大ごとにしたくないという真本人の願いでもある。その前に望月先輩に助力を求めるのもアリかも。波子屋さんの件は祭主先輩経由だからと言う理由で断られたが、真の場合は違う。もしかしたら案外協力してくれるかもしれない。


「なあ、それなら何で最初からオラでなくあのカエルに調べてくるよう頼まなかったズラ?」


「顔バレしてるんだよアイツは。さっきも見ただろ? トウラと出掛ける時はああやって必ず虫かごに入れて持ち運ぶから学校の連中に知れ渡ってるんだよ。だからあの姿のまま侵入して誰かに見られたら高確率で真のだってバレるんだよ」


 そうなれば騒ぎになるし、今現在かなり微妙な立場にあるのだから追い打ちをかけるようなことは避けたい。


「そうだったズラか。ならそっちは律樹に任せるからオラは妖怪が関わっていないか今度はもっと詳しく調べてみるズラ」


「頼りにしてるぜ。よし、話はまとまったし料理に集中したいからもう離れてもいいぞ」


 そう言うとガラス渡りは「ズラ~」と言い残して消えた。


 夏鈴さんや河島さん、そして散歩組もまだ帰ってきていない。家の中は静かなもので遅れがちだった作業をピッチを上げ進めていく。


 最初の内は『幽霊の方の対策はどうするかなあ』とか『波子屋さん今頃どうしているんだろう?』と雑念を思い浮かべながら手を動かしていたが、二十分が経過したころには意識は完全に料理モードになっていた。


 そんなところに左腕からスッとガラス渡りが現れ、


「そうそう言い忘れていたズラ」


「うおっ あっぶね!」


 ちょうどゴボウをささがきしていたところへ急に現れたので、驚きのあまりうっかり指を切りそうになる。


「ハハハ、大丈夫ズラ?」


「笑い事じゃねーよまったく。もうちょっとタイミングみて出てこいっつーの。そんで言い忘れてたことってなんだよ?」


 危険なので包丁をまな板の上に置きながら訪ねる。


「あの学校に律樹と同じ高遠って人間がいたんだけど、知り合いズラ?」


「それはないな。妹たちは青森にいるしこの辺りに小学生の親戚はいないはずだ。それに高遠ってそこまで珍しいい苗字じゃないしな」


「違うズラ。子供でなく大人の女ズラよ。ちょっと背が高くてもしかしたらと思ったけど、やっぱりただの偶然だったズラね」


「そう言うことだ・・・・・・・・いや待てよ」


 すっかり失念していたがこの辺りに親戚の子供は間違いなくいないが、大人だったら一人だけいたことを思いだす。しかし彼女は結婚して苗字が変わったはずだし、そもそも教師ではなく一般企業に就職したと聞いている。そうなるとやはり思い過ごしで間違いなさそうだ。


「その人の下の名前は分かるか?」


 それでも念のために確かめてみることにした。下の名前が分かればハッキリするだろう。


「そう思って調べておいたズラ。その人間の名前は高遠律子、子供たちからは律子先生と呼ばれていたズラよ」


 律子・・・・・まさか。


「ん、やっぱり知り合いズラか?」


「・・・・まだ分からない。だが俺の父方の親戚に同姓同名の従姉がいるんだ」


 もしその人物が彼女なら小学校に繋がりが出来ることになるのだが・・・・


「仮にそうだったとしてもきっと一筋縄にはいかないだろうな」


 一言でいうなら悪女。


 それが俺の従姉に対する印象だった。






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