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9 アドリブ

「こらヨミあまりガッツくな。折角してくれたのにお前のせいで逃げられたらどうするんだ。悪いな一年、まさかこんな早く誰か来るとは思ってなくてつい嬉れしくてテンションがおかしくなってるだけだ。だからそんなに引かないでくれ」


 室内にいたもう一人の人物がヨミと呼ばれた先輩の肩を掴み窘める。彼は三年を示すネクタイをしていた。


「は、はあ・・・・・えーとここがアウトドア料理部でいいんですよね?」


 備品倉庫室の表札はドアの上に付いていたが、この部活の名前は何処にも表示されていない。しかもアウトドアとはいえ一応料理を主としているわけだから普通は調理実習室なんかを使うのでは? と疑問に思っていた。


「イエース、明るい未来を作り出すアドリブへようこそー」


「すいません間違えたようですね。失礼します」


 うん、ここはヤバそうだし次行くか。


「ちょーっと待った。君は見学に来たんだよね? どうして帰るかな」


「だってここはアウトドア料理部じゃないんですよね? 何をする部か知らないけど俺はアドリブには興味ないですから」


「だーかーらイエスって言ったじゃん。ここは・・」

「いいから、ヨミは黙ってろ」


 ヨミ先輩の口を塞ぎ言葉を遮る男の先輩。それでもモゴモゴと何か言っているようだったが、何を言っているか全くわからない。


「ホントすまんな。コイツの言い方が悪かった、ここは君の言う通りアウトドア料理部で間違いない。アドリ部と言うのは単純に単語の頭文字を並べたらたまたまゴロが良かったんで使っているだけにすぎん。かく言う俺も普段から使ってるから慣れてしまっていてな。それで話を戻すが見学に来たんでいいんだよな?」


 ああ思い出したぞ。確かこの人部活説明会で一人で壇上に立って話してた人だ。名前は確か青柳先輩だったかな?


「そういうことでしたか。気になったので一度覗いてみようと思って今日は来ました。ところで二人の他に部員はいないんですか?」


 この学校では七人以上いないと部活とは認められず同好会として扱われるみたいだ。大きな違いやはり支給される部費の額なのだろう。因みに菜園部は二、三年生合わせて五人しかしないらしく、あと二人入らないと割り当てられる土地と部費が制限されてしまうと説明会の時必死に訴えていた。ていうか部費は分かるけど土地ってどういう意味なんだ?


「現状は二十人ちょっとかな」


「え? ここってそんなに人気があるんですか?」


 普通に驚いた。ただの料理部だったらあり得るだろうけど、初めて聞いたような部活に人が集まるとは到底思えなかったからだ。


「あははは、実際活動しているのは四、五人ってところだよ。あとは籍だけ置いている幽霊部員ってとこだな」


「うちの高校って部活は強制じゃないですよね? 失礼ですけど何でそんなに多いんですか?」


「それはコイツが原因だ」


 そう言いながらヨミ先輩の頭を拳でゴリゴリする。ガチで痛そうだ。

 でもこの二人普段は中良さそうだな。実際のところは知らないが、初見の俺でも二人が親密なのはわかる。


「モゴ・・モ・・・モグァ・・・ぷはぁー  ったく痛いじゃないバカモモ。それにアタシは勧誘しただけで幽霊になんかしてないもん。あいつらが勝手に来なくなっただけでしょ」


「部活に入れたことは認めるんだな。だったら責任もってさっさと除霊してこい。あ、同好会になったら困るから程々にだぞ」


「いーやーだ。そんな面倒な事しませーん」


 一瞬の隙をついてモモと呼ばれた先輩から逃れたヨミ先輩は、そのまま片目ではなく両目の下を指で押し当てアッカンベーのポーズを決める。片目より両目でやられるとすごくバカにしているように見える。


「えっとすいません、だったら無理して辞めさせる必要ないのでは?」


「そうだそうだ! もっと言ってやれ新入部員」


「俺はまだ入ると一言も言ってないですよ。それと高遠律樹です」


「じゃあリッツー・・・は呼びにくいからリッキーね。じゃあここ入部届があるから先に書いちゃおうか」


「おい、またゴリゴリされたいのか?」


「うひゃーモモが怒った。リッキー早くコイツを倒して、アドリ部の未来はリッキーの拳にかかってるぜ」


 ヒャッヒャ言いながら俺の後ろへと身を隠し、何故か俺達を戦わせようとしている。


 ああなんかもうまともに相手するのが馬鹿らしくなってきたぞ。


「先輩、幽霊部員が居ると困る理由でもあるんですか?」


 なのでヨミ先輩を完全に無視することに決めた。


「部長会の役員をやらされるんだよ。会長は推薦か立候補だが、その他の役員は部員数が多いところが必ずやる習わしなんだ。だから俺は今副会長をやらされている。このまま秋になるまでにに二年が減らないとまたうちに役員が回ってくるから今のうちに辞めさせろと言ってるんだが、コイツ全然言うこと聞かないんだよ。自分がやらされるかもしれないって言うのにだぞ」


 へーそういう集まりみたいのもあるんだな。それにしても・・・・・


「そんなに二年生が多いんですか?」


「三年は俺ともう一人だけだ。残りの約二十人は全て二年で、その中で顔を出すのはソイツの他に二人ってとこだな。まあそのうちの一人は殆ど来ないが。つまり部をこの先存続させるためには、ある程度の人数の一年を確保する必要がある。じゃないと来年の秋には同好会に格下げされるかもしれん。俺には直接関係ないが、それでも寂しいことには変わりないしな」


 なるほどね。てっきり最初は自分が面倒な事をやりたくないから減らそうとしているのだと思っていたけど、既に自分は役員をやっているからそうではなく、完全に残された後輩のことを思っての発言だったんだな。うん、いい先輩だなあ。


「事情は何となく分かりました。ところで説明会でも聞きましたけど、ここって学校の敷地内だけじゃなくて外でも活動しているんですよね。どれくらいの頻度でやってるんですか?」


「敷地内でやる時は当然申請が必要で顧問が同伴じゃないと認められないな。それは学校外でも同じなのだが、ぶっちゃけ名目上部活とは関係ないことにすれば面倒な手続きは不要になる。なのでやろうと思えばいくらでもできるが、対外的には学内外合わせて月に一回か二回ってところだ。それ以外はほぼ活動していない」


 おお、何て理想的な部活なんだ。これなら家事に影響は出ないし負担になることはなさそうだぞ。


「おっ、その表情は前向きに考えてくれているようだな。別に急いで入る必要はないぞ。部活体験はまだ二週間丸々あるし好きにしたらいい。それと最終日にあたる来週の金曜日に校内で活動する予定なんだが、今回は初心者向けにカレーと串焼きを企画している。もちろん学校の許可は既に済んでいるし入る入らないは別として良かったら参加してくれな。その場合準備があるから二日前までには言ってもらえると助かる。因みに活動は月一、二回と言ったがこの二週間は誰かしらここに居るからいつでも遊びに来てくれ。それともし他に興味ある奴がいたら連れてきてくれよ」


「だからアタシが一年勧誘してくるって言ったじゃん。もちろんリッキーも大歓迎だけど、もっと増えた方が楽しいでしょ?」


 ヨミ先輩が俺の後ろからひょっこり顔を出しそんなことを言った。しかしモモ先輩はあからさまなしかめっ面をさせながら答える。


「その結果が今の現状だ。お前は俺が言った通りサッサと半分辞めさせてくればいいんだよ。じゃないと俺みたいに強制的にやらされてしまうぞ。大変だぞ、文化祭に体育祭、それにこの間みたいな部活説明会の時も裏かとして駆り出される羽目になってもいいのか?」


「うーん・・・それはビッキーに任せたらよくない?」


 リッキーの次はビッキーかよ。この人こういうアダ名を付けるのが好きなのか? あとくしゃみしたらテレポートしちゃいそうな名前だな。


「お前本気で言ってるのか?」


「うん」


「絶対だめだ! アイツが人前に出るのが苦手なことお前も知ってるだろ。それにアイツが矢面に立たされて笑われるのをお前は黙って見ていられるのか?」


「それは無理。ビッキーがそんな目に遭ったらアタシ絶対そいつらの両足切り落としちゃうかも」


 切り落とすとかいきなり物騒な話になってるんだが、たとえ冗談でも怖いですよ先輩。


「だったらどうすればいいか言わなくても分かるよな?」


「・・・・うぅ分かった、頑張ってお願いしてくる」


「それでいい」


「あとねあとね、やっぱり一年生の勧誘も任せてほしいの」


 モモ先輩に言い包められしょんぼりしたのも束の間、直ぐにニカッと明るい表情に戻りさっきと同じことを言い始める。


「だーめーだ!!」


「えー、モモのケチ」


「ケチじゃない」


「あのー、どうしてそこまで頑なにやらせないようにしてるんですか?」


 話に内容的に去年ヨミ先輩は多くの新入部員を勧誘したことになる。だったらその能力を発揮すれば割と簡単に集まるのではないかと思うのだが。


「二年はコイツの他に女子はもう一人だけだ」


「てことはつまり残りは男子ですね」


「それがどういうことか分からないか?」


 んーそう言われてもなあ・・・・・まあ確かにヨミ先輩って美人でも美少女でもないが、何となく異性として惹かれるものがある気はする。しかしだからと言ってそんな露骨に男だけが集まるだろうか?


「理解に苦しんでいるようだから教えるが、入部した男の大半がコイツ目当てだったんだよ」


「だからそれは無いって言ってるじゃん。アタシなんかのどこが良いのよ。二十人も入ったのはアタシが誠心誠意頭を下げ回ったおかげなの、何度も同じこと言わせないで」


「と、コイツは言っているが実際はそうじゃない。確かにコイツのおかげと言うのは否定しないが、その後がまったくもってよろしくない。日に日に来る奴は減っていくしオマケに俺は副会長をやらされる。まあ部費は多く貰えたから悪いことばかりでもないんだけどな。しかし実際の活動人数が少ないと逆に肩身が狭い思いをするからやはり減らすのがベストだ。しかし最初は意気揚々と入ってきた奴が何で来なくなったのかそこだけがサッパリ理解できなくてな。別にコイツに彼氏が出来たわけでもないしそんな気配は微塵もなかったんだが・・・・」


 この人本気で言っちゃてる?、それは周りから見てあなた達の関係性がただならぬものだと感じたからとしか考えられないですよ。


 それにしてもヨミ先輩目当てでかあ・・・・・数人くらいだったら分かるけど二十人ともなると俄かには信じられないな。


「来なくなった理由は別として、もしかして男子ばかりに声を掛けてたから結果的にそうなったのでは?」


「違うよー、アタシ男女関係なくいっぱい声掛けたし。寧ろ女の子の方が多かったと思うよ」


「そうだな。俺が見てた範囲でもそんな感じだった気がする」


 ますます分からなくなってきた・・・・よし、この話は止めよう。


「そうだったんですねー。じゃあ俺は次行くんで、ありがとうございました」


 今日は退散しよう。ヨミ先輩は変わってるけどモモ先輩は常識人っぽいしとりあえず前向きに考えても良さそうだ。あとビッキー先輩という人物も何気に気になるし。


「分かったー 入部届はリッキーの下駄箱に毎日入れておくからいつでもおいでー」


 それは怖いので絶対にやめてくださいね。


「知り合いに聞くのも忘れずにな」


 任せてください。今のところ友人より知り合いの方が多いですから。


「では失礼しました」


 ガラガラとドアを閉めた後部室内が騒がしくなったようだが(主にヨミ先輩の声で)気にせず次へと向かうことにした。



 さて、今度は菜園部だけど部室は確か武道場だったはず・・・・・何故?





(たのもー)


 心の中で呟く。だって道場と聞いたら男ならこのセリフ言いたくなるよね。


 そんなことを考えながら目の前にある横開きのドアに手を掛け開けようとするが、


 ん? ドアが開かないぞ。もしかして今日は誰も来てないのか?


 年季の入ったそのドアはビクともしない。


 地図には確かにこの武道場が菜園部の部室と示されていた。しかし校舎から続いている渡り廊下の先にあった武道場の入り口は施錠がされているのか入ることが出来なかった。


 うーん・・・・とりあえず今日は帰るか。まだ二週間あるし急ぐ必要もないしな。あ、一応帰り際水堀さんに聞いてみるか。もしかしたら活動する日を知っているかもしれないし。


 下駄箱に向かう前に事務室に寄った。ノックしてから扉を開けると数人の事務員が机に向かって仕事をしていたが、水堀さんの姿は見当たらなかった。


「あらどうしたの、何か用かしら?」


 ドアから一番近いところで仕事をしていた中年の女性事務員が話しかけてくる。


「水堀さんに少し用があったんですけど、別に急ぎではないのでまた今度きますね」


「もしかして書類の提出か何か? だったら私が預かるわよ」


 そう言えば自転車の許可書まだ出してなかったな。祖父ちゃんと連絡付かないからどうしようにもできないけど。


「いえ、頼まれていたことで少し確認したかっただけなんで」


「そお? 彼女なら二十分ほど席を外すって言ってたから、後もう少しで戻ってくると思うわよ。なんならここで待っててもいいわ」


「本当に急ぎの用事じゃないんで大丈夫です。では失礼します」


 頭を下げ事務室のドアを閉めた。



 今日は帰るか。


 そのまま下駄箱に向かい外靴を取り出すと、パラッと一枚の紙が落ち、何だ? と思いながらそれを拾い読んでみる。



 それは日付と部活名が記入された入部届だった。


 日付は今日、部活名はアウトドア料理部(アドリ部)と書かれており、後は名前とクラスを書けば完成してしまう大変親切なものだった。


 まさかものの数分で俺の下駄箱を見つけ出し投函するなんてスゲー行動力だよ。何か怖いを通り越して笑いが込み上げてきそうだ。


 これだと前向きじゃなくて後ろ向きに考えた方が良さそうだな・・・・・・・・



 いやそれよりも、


 アドリのあの二人、そして一哉と文字さん・・・・・・・・


 どうして俺の周りにはよー!!ラブコメチックをかましている奴ばっかりなんだ

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