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89 Who are you?

 学校に近付いていくにつれ「おはよー」と挨拶をする声が増えてくる。そんないつもの通学路を愛車(前の住人の不用品)で漕ぎ進めていた。


 最近は自転車をまだ購入していない河島さんと登校していたので、二人一緒の時は自転車を押して歩いていたのだが、彼女は今日俺より早く夏鈴さんと家を出たため久しぶりのソロ登校になった。


 今日は天気も良く暖かい。いつもだったら自転車で颯爽と突き進んでいるうちにテンションも徐々に上がっていたものだが、昨日二件ほど案件を抱えてしまい、それが頭の中をグルグルメリーゴーランドのように周回していたため、テンションは若干右肩下がり気味だ。


「おう高遠、今日はカミさんと一緒じゃないのか?」


 自転車を定位置に置いた後、下駄箱で大空とバッタリ会った。


「おはよう大空。いつも一緒だと俺が束縛しているように思われそうだから今日は別々にしたんだよ」


 本当のところ昨日学校で別れてからあまり河島さんとは話をしていない。夕食は一緒だったけど大した話はしていないし、朝も向こうが急いでいたみたいだから挨拶した程度だった。


 なんとなく避けられているような気がするけど、俺の気のせいだよな?


「はは、夫婦円満の秘訣ってやつか。それはそうとあの話聞いたか?」


「どの話か知らんけどたぶん聞いてない」


 また厄介ごとでなければいいのだが・・・・・


「ほら来月課外授業あるだろ、この間班決めしたやつ」


「ああそうだな。まだ候補先出てないけど、どうせ去年と同じか似たような所だろ」


 去年の一年生が何処に行ったのかという参考資料は配られていた。それには地元の新聞社や工場、農業関係や小売店など様々な業種が書かれており、各班の希望をとって振り分けられる仕組みのようだ。


「なんでも今年は面白そうな場所が幾つか追加されているって噂だ」


「面白そうな場所? テーマパークとか水族館とかか?」


 ああいう所の裏方には興味はある。たった一日と言えど普段見ることのできない作業風景を見学できるのは確かに面白そうではあるしな。


「それも面白そうだが実はまだ詳しい場所は分かってないんだよなあ。なんかそんな噂だけが先行してるって感じ」


「でも火のないところには、ってやつか」


「そう言うこと。もし俺達の班と被って抽選にでもなったら譲ってくれ」


「俺にその決定権があれば構わんけど、たぶんそれはないと思うから諦めろ」


「・・・・文字さんかあ」


「彼女と言うより女子三人かな。ぱっと見文字さんが一番影響力ありそうな雰囲気があるかもだけど、実は結構すみれも物申すタイプだし、小島さんだって二人に対しては物怖じしないから結構大変なんだようちの班は」


 要するに互いに遠慮せず言い合える関係ってことだ。


「ゴメンなさいね、私が一番怖そうで」


「うおっ、いつからそこに?」


 真後ろから不機嫌そうな声がして振り返ってみると、僅かな距離のところに一哉と手を繋ぐ文字さんがいた。


「たった今よ。それで私が班の中で一番悪そうだって言ったのよね?」


「なんか最初と言ってること変わってない? ていうか一言もそんなこと言ってないし」


「でも影響力があるというのはつまりはそういうことでしょ? 高遠君が私のことどう思っているのかこれでよく分かった。それとすみれはズケズケと遠慮しない空気読まない人間で、小島さんは身の程知らずの怖いもの知らずだっけ? 二人にもちゃんと伝えておくわ」


「いやちゃんと聞いてたはずなのに、なんでその曲がりに曲がった解釈に変換されるわけ? ていうか一哉も聞いてたんだろ?」


「ゴメン律樹。玲美は今日ちょっと朝から機嫌悪くて俺にもどうしようもなくてな」


「それを全て受け止めてこその彼氏だろうに」


 あははーと呑気に笑っている場合か! コイツが文字さんと付き合うようになってから明るくなったのは喜ばしい事なのだけど、浮かれ度合いが半端ない。今みたいにへらへらしていることも多いし、なんかボーッとしている様子もよく見かけるようになった。今までの反動もあると思うが、この状態はしばらく続きそうだ。


「おはよう橋本に文字さん。高遠は今日カミさんと喧嘩して別々に登校してきたから少し落ち込んでるんだ。だからそれ以上は勘弁してやってくれ」


 そう言った後「じゃあ先に教室言ってるわー」と大空はそそくさと立ち去ってしまった。


 本人は仲裁に入ったつもりなんだろうけど、誤情報を投下した挙句逃げ出すなんて鬼畜過ぎるだろ。


「知ってるわ。もう高遠君には愛想が尽きたって昨日の夜電話がきたもの」


「えっマジで?」


 それは初耳と言うかホントなの?


「冗談だったのだけど、その様子だともしかして心当たりでもあるのかしら?」


「・・・・ないし」


 昨日から今朝に掛けてあまり話せてないから一瞬信じてしまっただけだ。ていうか今のは流石に趣味が悪すぎぞ文字さんや。


「ならいいのだけど。そもそもすみれが今日早く登校することは私も聞いてたしね。それと小島さんは今日お休みするとも聞いてるわ」


「風邪でも引いたのかな?」


「体調が優れなとしか聞いてないけど多分そんな感じではないかしら。ほらそこどいて、私の靴取れないじゃない」


 シッシと俺を払い除け靴を履き替える文字さん。その間も一哉の手を離そうとはしなかったので少し履きづらそうにしていた。一哉も同様だった。


 その後は自然と三人並んで教室へと向かっていく。その道中の話題は今日学校を休んだ小島さんのことだった。


「そういえば最近小島さんの様子がおかしいのよね」


「そうなの? 別に俺はいつも通りに見えたけど? まあ最近色々あってあんま話はしてないんだけどさ」


「私も以前ほどはしなくなったわ」


 そりゃあ文字さんの場合、今みたいに基本一哉とベッタリだし小島さんだって遠慮してあんま近づこうとは思わないだろうからな。


「でも席替えして運よく小島さんと前後の席になれたから話す機会自体は逆に増えたわ。当然一緒にいる時間は当然減ったけどね。でも彼女を蔑ろにしているつもりはないし、お昼だって一緒に食べようって誘ってるのだけど『邪魔しちゃ悪いから』って断られるのよ」


 先週席替えが行われた。俺は廊下側の後ろから二番目。河島さんは真ん中辺りで一哉は窓側から二列目の中間付近。そして文字さんと小島さんが窓側の一番後ろとその前になり、二人以外は見事にバラバラになったのだ。


「付き合い始めたばっかりだし普通に遠慮してるんだろ。それに最近は別の女子とも仲良くしているみたいだし、お昼も別にボッチって感じじゃないから変な心配はしなくてもいいんじゃね?」


 俺が見た限り小島さんは二人が付き合いだしてから他の女子と話す機会が多くなった。当然その中に河島さんも含まれるのだが、お昼に弁当を一緒に食べることはしていない。


 小島さんは河島さんとは仲が良いが河島さんの友人とはそうでもないようだ。それに俺と河島さんは学校では彼氏彼女の関係という設定なので週の半分くらいは一緒に食べている。従って河島さんが抜けた時の事を考えると余計一緒に過ごすことが難しいのかもしれない。その変わり別の女子とお昼を一緒に過ごしている小島さんの姿をよく見るようになった。しかしそれ以外の時では一人でいることも多くなっている気もする。


まあ女子の人間関係は俺にはよく分からないし、下手に首を突っ込めばとばっちりを受けそうなので基本遠巻きに見ているだけだ。


 とにかく二人が付き合ったことで小島さんと文字さんの関係性が微妙に変化してきている事だけは事実だ。


「そうなんだけどそれだけじゃなくてね。最近話しかけても上の空というか心ここにあらずって感じなことがよくあって、なんだか顔色も優れない気がするのよ」


「もともと体調が悪かったから今日休んだんじゃないの?」


「それはそうなんだけど・・・・・やはり心配だわ。もし明日も休むようなら家に行ってみようかと思うのだけど、高遠君はどう思う?」


「心配ならそれもアリじゃないかな。でも一哉は置いてけよ。その方が向こうも何かと話ししやすいだろうしな」


「それもそうね。じゃあもしそうなったら悪いけど明日は一人で返ってくれるかしら?」


「OK。そうだ、もしそうなったら帰り律樹の家に行ってもいいか?」


 明日は厳しそうだな。と言うよりしばらくは真や波子屋さんのことがあるしそんな暇ないんだよなあ。


「悪い一哉。色々あってしばらく家に来るのは勘弁してくれ」


「別にお前たちの邪魔をするつもりはなかったんだけど、まあ俺の都合なわけだし別に気にしないさ」


 そこで教室に到着し、俺は入ってすぐの席だったので二人とはそこで別れた。


 一足先に来ていた大空は土井と楽しそうに話していた。その土井と一瞬目が合ったが直ぐに逸らされた。土井とはバーベキュー以来一度も言葉を交わしていない。同時に河島さんにもちょっかいを出すことは完全に無くなったようで、まだ警戒は必要だが、土井の付き纏い案件は一応一区切りついた感じだ。


 ん、石渡がこの時間登校しているのは珍しいな。アイツはあの時以来ギリギリで教室に入るようになっていたのにな。


 石渡が体育倉庫を滅茶苦茶にしたことが一部の生徒の間で噂になり、その影響で肩身が狭くなってしまった石渡は孤立気味で日々を過ごしていた。なんでもっと大々的に噂が広まらなかったのか不思議だったが、一哉の冤罪が有耶無耶になり始めた今となっては割とどうでもよくなっていた。


 やはり孤立しているというのは誰であれ見ていて気持ちのいいものでは無いが、身から出た錆でもあるし、イジメに発展している様子もないので現状は放置でいいだろう。


「おはよう高遠君」


 トントンと肩を叩きながら挨拶してきたのは波子屋さんだった。振り返りその顔をよく見ると目の下には大きな隈があった。


 この波子屋さんは昨日の彼女だろうか?


「おはよう。どうしたんだ、寝不足か?」


「寝不足と言うより昨日一睡もしてない」


「マジか。もしかして不安で寝れなかったとか?」


「ううん、不安だから寝なかったの。だって昨日はたまたま記憶が残っていただけかもだし、今日飛ばない保証はどこにもないでしょ?」


「だから寝なかったのか。でもそう何日も続けられるもんでもないし大変だろ」


「気を抜いたらここで立ったまま寝られる自信ある。だから私がもし寝そうになったら叩いてでも私が寝ないよう協力してよ」


「任せろ、と言いたいところだが授業中はどう考えても無理だぞ」


 俺と波子屋さんの席は離れている。しかも彼女の後ろの席はあろうことか石渡なので頼むにも頼めないはず。


「頑張るつもりだけど・・・・たぶん無理ね。でも出来るところまで頑張ってみるわ」


「でも寝たからって記憶が飛ぶとは限らないだろ。あんま無理はするなよ」


「ありがとう。あーいま席に座ったら速攻寝ちゃいそうだし自販機行って何か買ってくるかなあ」


 そう言って自分の席には向かわず踵を返し教室から出て行った。


 どうやら今の彼女は記憶を無くしていない波子屋さんのようだな。確かに寝なければ記憶が維持されるという理屈は理解出来る。しかしあの様子ではそう長いことは持たないだろうし、寝不足が原因でフラついて階段を踏み外して落っこちたり、車に轢かれでもしたらそれこそ一大事だ。ていうか友人二人は一緒じゃないのか?


 教室内に玉児村さんや成戸宮さんの姿はない。いつも三人一緒に登校しているのに今日に限って彼女一人だけとは珍しい。


 心配だし波子屋さんについて行くか?


 そう思い教室から出るとまだそう遠く離れていない所に波子屋さんがいるのを発見。同時に友人二人が心配そうな表情で波子屋さんに話しかけているのが見えたので駆け付けることはせずしばらく様子を覗ったあと教室へと戻った。


 あの二人が付いているなら俺の出る幕ではないな。


 午前の授業が終わり昼休みになる。


 河島さんとは今日のお昼を一緒に食べるか打ち合わせはしていなかったので、授業の合間にどうするのかとメッセージを送った。すると『今日は友達と食べるからゴメンね』と返ってきたので本日は一人飯を堪能する運びとなった・・・・はずだったが、


「高遠君ちょっといいかな?」


 今日は俺の大好物の唐揚げだーと呑気なことを考えながら弁当箱を広げていると、目の下の隈が若干薄らいだ波子屋さんが俺の机へとやって来た。


 化粧して隈を誤魔化したのかな?


「いいぞ。もしかしてあのことについて何か気付いたのか?」


「あのこと・・・・あっうん、まあそんな感じかな。それでここじゃ話し辛いし場所変えてもいい?」


 もしかして解決に繋がりそうな重要なことでも分かったのか? それなら、


「それは全然いいけどタマちゃんとセイちゃんは一緒じゃなくて良いのか? ん、と言うよりあの二人は何処に行ったんだ?」


 事情を知るあの二人も同席してもらった方が良い。しかし何故か教室には二人の姿はなかった。そして何となく二人の名前をお道化て呼んだのだが、


「タマちゃん? セイちゃん?・・・・・ああ彼女たちなら食堂で食べるって」


 何故か波子屋さんはすぐにはピンとこなかった感じだった。


 「私はこれだから」とコンビニの袋を俺に見せてきたので、今日彼女らが別々にお昼を食べることになった理由は理解した・・・・・したのだが、同時に違和感が湧き起こる。


 直感もあった。それと今まで彼女たちから聞いた話を総合すると、記憶のない時の波子屋さんはいつもと様子が違っていたとのこと。


 それを考えると今こうして会話を交わして違和感を覚えるということは、その疑念は増していく一方だ。


 おそらく今こうして俺の目の前に立つ波子屋さんは、記憶が飛んでいた時に存在していた波子屋さんか、もしくはそれとも違う別の存在の波子屋さんである可能性が高い。


 その答えはここにいる人物に訊ねれば分かることだ。


 だがその前に、


「そんじゃあ昨日と同じ場所にするか。俺は先生にまた許可貰ってくるから君は先に行っててくれ」


 『同じ場所』が何処のことを言っているのか昨日の彼女ならすぐに理解できるはずだ。これで少なくてもここにいる人物が波子屋さん本人かどうかだけは判断できる。


 ジーと目の前にいる人物の目を見据えながら『君は一体誰だ?』という視線を送る。本人でないのなら、言葉はなくてもこの疑いに満ちた視線だけで察するはずだ。


 向こうもそんな視線を受けながらもたじろぐ様子はない。それどころかお返しとばかりに

自信に満ちた視線を返し、そして口を開いた。


「応接室だよね。ホント高遠君って何者なのって感じだよ」


 はっ? えっ? 一体これどういうこと?


 まさかの返答に呆けてしまった俺。そんな俺に対して目の前にいる人物は、


「部屋の前で待ってればいいんだね」


 と言って先に教室を出て行った。



 もしかして波子屋さん本人なの?


 結構自信のあった推測だけに、外してしまったショックは大きかった。


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