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84 スマン妹たちよ

「本当は何か知ってるんじゃないの?」


 そう玉児村さんと成戸宮さんから問い詰められ困り果てていた。因みに他人の筆跡に気付かずにいた波子屋さんは「うーん」と唸りながらノートと睨めっこしている。


「えーと、もしかしたらと思っただけなんだが・・・・」


 これは嘘ではない。可能性の一つとして何者かが波子屋さんの課題をやったのでは? 推測していたからだ。しかしそんな推測は理に適っていたとしても現実的な話ではない。その証拠に二人はまだ俺を責め立ててくる。


「でもそれっておかしいじゃん。アタシらはナミコの記憶が何かしらの原因で飛んだだけだと思ってたから課題自体は自分でやったものだと思ってたし」


「そうだよねー。そう考えるのが普通だしまさか他人がやるなんて思いもしないから」


 いや可能性としては十分あり得るのでは? という考えは俺だから言えることで、実際はその答えに至るには別の視点が必要だった。


 今回の件に関してまだ姿が見えぬ第三者がいることは間違いない。それが課題をやった人物だけなのか、それとも他に関わっている存在がいるのか? どちらにせよ調べてみないことには何も分からない状況だ。


「いや本人に自覚が無いなら他を疑うのは当然だろ? それにまだ他人の字と確定したわけじゃない。波子屋さんがわざと別人の振りをして書いた可能性だってある」


「なんでわざわざそんなことする必要があるのよ? ねえナミコ、そのノートにある文字って間違いなくアンタのものじゃないよね?」


 まだ睨めっこをしていた波子屋さんが体をピクッとさせ、ノートから顔の上半分だけを出し「えっ?えっ?」とテンパり始めた。


「自分のでしょ、ちゃんとよく見て」


「えーと、多分他の人の字かな?」


「なんでそこ自信持てないのよ?」


「うぅ・・ゴメン」


「あーもう、別に責めてんじゃないの。ナミコのその適当な性格今に始まったことじゃないし気にしてないから。それで問題は誰が書いたってことになるんだけど・・」


 そう言って玉児村さんはこちらを見る。明らかに俺を疑っている目だ。


「相談されたばかりなのに俺が知るわけないだろ」


「でも何か隠してるよね?」


「別に何も隠しちゃいねえ。ただちょっと気になることがあったんだよ」


「じゃあそれ教えてよ」


 あまり嘘は吐きたくないがこれ以上この場にいる三人に変に勘繰られても後々困るだろうし、ここは曖昧に答えておくかあ。


「いいけどあまり触れ回らないでくれよ」


「分かってるって。早く早く」


「実は俺の妹も似たようなことがあったんだよ。結果から言うと夢遊病だったんだが、波子屋さんと同じように全く覚えていない空白の時間があったんだ。そんでその中にはやった記憶のない宿題とかもあってな、しかも夢現だったせいなのか筆跡がだいぶ違っていたんだよ。なんでそれを知ってるかというと、ある日の真夜中に妹の部屋の電気がついていたから気になってそっと覗いたら机に向かって宿題をしている妹の姿を見たんだ。翌日そのことを妹に確認したら本人はその時間は寝てたって言い張るし、でもやった記憶のない宿題は現実として残ってたって感じだったんだよ」


 スマン我が妹よ、勝手にお前を夢遊病患者に仕立て上げてしまった。


「うーん、言いたいことは分かるけど説明になってなくない?」


「どういうこと、セイコ?」


「だってほら、妹ちゃんは夢遊病だったけど宿題は自分でやったわけでしょ。でも高遠君はナミコの課題は最初から他人がやったんじゃないかって体で確認してきたよね? 妹ちゃんの話は何の根拠にもなって無くない?」


「確かに! でも夢遊病の話はナミコの状況と割と近い気がするけど」


「えっ、私夢遊病だったの?」


「いやまだ分からんし。でもその可能性は否定できないっしょ」


「でも夢遊病って夜中に徘徊とかそんなイメージだよね。それに記憶がない日のよそよそしさもなんか違う気がする」


「だったらその線でもう一度医者行って確かめればいいじゃん。でもその前にセイコが言ったことについて高遠君の言い分はどうなの?」


 その点についてもちゃんと考えてあるぜ。


「ああそれな。妹は双子なんだよ。夢遊病の方が姉で少し気の弱い妹に色々と押し付ける癖があってな。たまに宿題ととかも押し付けてたことあったからさ。ほら波子屋さん弟がいるって言ってただろ、もしかしたら記憶がない間に無理やり押し付けたのかなって」


 ちょっと無理がある話だが一応話の筋は通っているはずだ。それに『ちょっと気になる』と前置きしてあるので多少無理筋であっても問題はないはず。


 スマンもう一人の我が妹よ。勝手に気の弱い子設定にしてしまって。


 別に彼女らにこの話を完全に納得してもらう必要はない。あくまで俺の推測となる根拠を示せば一定の理解は得られるはず、だったのだが・・・・・・


「・・・あり得る」


「は?」


 何があり得るんですか玉児村さん?


「だからナミコなら弟に課題を押し付けても不思議じゃない。寧ろそうしない方がおかしいかも」


「ちょっタマコ何言ってんのよ。私そんなことしたこと・・・・・・・ない?」


「アハハ何でそこ疑問形なの? でもタマコの言う通りケンに課題を押し付けるのは全然不思議じゃないかも」


 何故か二人の共感を得てしまい、しかも当の本人である波子屋さんもこれを完全には否定しなかった。


「因みにそのケンというのは弟だと思うんだけど今何才なの?」


 もしかしてうちと同じで双子って可能性もあるな。二人の話し振りからして弟の方が成績は優秀そうだし別に学校に通っているのかな?


「中二だよ。だけどナミコより、ううん、ここにいるアタシらより頭がいいって」


「マジで?」


「マジマジ。ケンの優秀さはエグイよー。何てたって全国模試トップクラスだからね」


「そりゃスゲーな。なら取りあえず弟に確認してみればいいんじゃね?」


 それだけ優秀で尚且つ一緒にゲームするくらい仲が良いのなら確かにあり得ない話じゃないな。


「それは絶対にない!」


「えーどうしてよー。そんなの聞いてみなきゃ分かんないじゃん」


「違うの。ケンは今家に居ないのよ」


「居ないっていつから?」


「先週の水曜日から。あっ別に何かあったわけじゃないよ。ほら二人とも私のおばあちゃんの家知ってるでしょ?」


「知ってるも何も何度かお邪魔してるし。うちらの中学の学区から少し外れたところにあるよね」


「そうそう。でね、その家の近くに最近新しく塾が出来たんだけど、しばらくの間通ってみて今まで通っていたところと比べるつもりみたい。だから取り合えずその間はお祖母ちゃんの家に住むことになったの。ああでもどちらに通うにせよ最終的には家に戻ってくるんだけど、今はママとあまり顔合わせたくないってのもあるんだと思う。なんとなく二人には分かるでしょ?」


「あーナミコのママさん熱心だからなー」


「だねー。上の子がコレだからケンにシワ寄せがいったんだねー」


「コレとか言うなし」


「まあまあ落ち着けって。それじゃあ弟の線は消えたってことだな。ほかに兄弟は?」


「いないよ。私とケンだけ」


「そうかあ・・・・」


 まあ俺的にはこの線はあまり期待していなかったっていうか殆ど考えていなかったから別にいいのだが、この場ではこれ以上の収穫は望めそうにないのでお開きにしたい。


 だがその前に・・・・


「もう一度聞きたいんだが、俺を紹介した奴とは連絡取れるのか? 出来れば今すぐ連絡してもらって会ってくれるか確認してほしい」


 今のところ一番気になるのはこの三人に謎の人物が俺を指名したことだ。彼女らには秘密にしてくれと頼んだらしいが、それはあまりにも身勝手過ぎはしないか? ある意味俺に責任を擦り付けたのと同じような気がするし、だとしたらその真意を確かめたいところだ。


「連絡先は知らないんだよねえ。私達も話したのは昨日が初めてだったし」


「聞くだけは聞いてみるけど多分明日になるかも」


「全然かまわんぞ。それとその人を頼った理由を聞いても?」


「理由かあ・・・まあ噂かなあ」


「噂ってどんな?」


「その人って・・・・・あっ高遠君それ誘導尋問でしょ? 騙そうたってそうはいかないんだからね!」


 おいおい人聞き悪いこと言わんでくれよ波子屋さん。別に気になったことを訊ねただけだし。


「いやいやいや、騙そうだなんてそんな」


「だって噂の内容聞いたら誰のことかって絶対バレるじゃん」


「聞いただけで知れるようならちょっと想像すれば俺にも分かりそうな気がするんだが?」


「でも今は心あたりないんでしょ?」


「まあ正直思い浮かばないな」


「でしょ。でももしここで私が噂のこと喋ったら自分では思い当たらなくても高遠君のハーレムの・・・ゴホン、友達に聞いたら誰か知ってるかもしれないじゃん。だからこれ以上はダメ。明日ちゃんと聞いてあげるからそれまで待ってて」


「おい今聞き逃せない単語が出てきたが、それ全くの誤解だからな」


「ハハハー、誤解も何も事実じゃん。しかも生徒だけじゃなくあの事務の綺麗なお姉さんもそうなんでしょ?」


 玉児村さん、あんたもか・・・・


「ねえ・・」


 成戸宮さんまで? と思ったがそうではなかった。


「こうしてここで一緒にいる時点で私達も周りからその一員に見られてしまうのでは?」


 室内は沈黙に包まれた。










 彼女らとは応接室でそのまま別れた。結局話を聞いただけで具体的なことは一切決まらなかったが、それでも別れ際に波子屋さんから、


「高遠君ならなんとかしてくれそな気がする」


 と全く根拠に乏しい期待を掛けられてしまった。


 しかし自分からではないとは言え、首を突っ込んでしまった以上出来ることはやるつもりでいる。あんな性格のせいかそれとも友人に恵まれたおかげか、記憶を一日単位で失うというかなりクライシスな状況に陥っているのに、そこまで波子屋さんが取り乱していないのは不幸中の幸いといったところだろうか。


 なんにせよ、これは単純に彼女だけの話ではないことは確かだ。


 本当に波子屋さんの脳に異常がないのなら、これは確実に超常現象的な部類の案件だ。それが怪異や妖怪の仕業なのか、それとも霊的なものなのか、はたまたそれ以外の何かなのか。とにかく今ある情報だけでは何も分からない。そして無知で無力のこの状態で突き進めば、最悪誰かに取返しにつかない災厄が降りかかる恐れがある。


 それに根本的な部分で腑に落ちない点があることも不安材料の一つだ。


 彼女たちはあの場において一番重要なことを誰も口にしなかった。敢えて突っ込まなかったがどう考えても不自然すぎる。


 そしてやはり一番解せないのは俺を紹介した人物だ。一体何者なんだろう?


 これらの疑問を打破するべく頼りになりそうな人物にメッセージを送ることにした。


『相談があるのですが今電話してもいいですか?』


 すぐに返信が来る。


『いいよ でもちょっと待ってて』


 待てと言われれば待つしかない。向こうにだって都合があるってもんだ。


 ピコン


 三分後、同じ人物から文章だけではなく今度は地図も添えらたメッセージが届く。


『今からここに来て』


 電話でも良かったんだけど直接会って話せるならそれに越したことないか。


 河島さんに今日は一緒に帰れないとメッセージを送る。今日土井はアドリ部に来ていないようなのでその点についてはあまり不安はないが、ここ最近起きた色々なことを踏まえれば完全に安心することはできないので念のため夏鈴さんに一緒に帰ってもらうよう頼んでから学校を後にした。

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