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83 崩れた法則性?

 乙女の相談ごとは秘めごととイコール。つまり人気が無いところで話を聞くのが常識と言える。


 と言うわけで何処かいい場所が無いかとその場に残った四人で話し合った結果、俺の家に決定・・・・・・するわけもなく、ダメもとで担任である大竹先生に電話して応接室を使わせてくれないかと頼んでみたら二つ返事手OKしてくれた。


 頼んだ俺が言うのもなんだけど・・・・・・・・そんなんでいいのかよ!


 最悪場所なんてどうにでもなると思っていたので冗談半分で聞いただけなのだが、まさか本当に許可が下りるとは思ってもいなかった。


「高遠君、あなた何者なの? 普通生徒だけで応接室なんて使わせてくれないよ」


 と言いながらもちょっと高級そうなソファーを全身で堪能している波子屋さん。


「な、なんかすごい緊張する」


 言葉通り申し訳程度にソファーに腰を掛けている成戸宮さん。


「もっと堂々としなってば。このソファーウチにあるやつより安もんだし遠慮せずこうドカーッてさ」


 家がかなりのお金持ちらしい玉児村さん。パンツが見えてしまうのでは? と思うぐらい股を大きく開いて座っているので、とてもじゃないが嬢様には全く見えない。


 奇しくもその場所には先日望月先輩が座っていたのだが、彼女の方が余程お嬢様然していた。でもまあ態度が大きいだけで嫌味は全く感じないのでこういうタイプは人として嫌いではない。


 三人とも下の名前ではなく、ナミコ、セイコ、タマコと苗字をモジった名前で呼び合っている。どうやら三人とも小学校からの付き合いらしく仲はとても良いようだ。


「何者でもないけどここなら誰にも邪魔されないし、声を抑えれば外からも聞こえないだろ。それで相談って?」


「・・・・うん。でもその前に聞いても笑わないって約束してくれる?」


 もたれ掛けるのをやめ姿勢を直しながら波子屋さんは言う。割とマジトーンだったのでこちらも真剣に返す。


「それくらい簡単のことだ。それと他人に口外しないことも約束する。もちろんすみれにもな」


「河島さんは別にいいんだけどそれ以外の人は助かるかも」


「結構悩んでいるつーか真面目な話なんだろ。そんな話を笑うやつあんまいないだろうに」


「アハハハー、アタシはナミコの話を聞いて笑っちゃったけどねー」


 悪びれることもなく玉児村さんが大声で笑いながら言うと、


「タマコ声デカいって。何のためにここに来たのか分からないじゃない」


 成戸宮さんが冷静に玉児村さんを窘める。


「いいのセイコ、タマコに悪気がない事は分かってるから」


 アハハとまだ笑っている玉児村さんを気にする様子もなく波子屋さんは続けた。


「高遠君はさ、記憶が一部だけ綺麗サッパリ無くなる経験ってある?」


 記憶。そのワードを聞いてまず思い浮かんだのがガラス渡りだった。だがアイツの力では記憶を消すのは不可能だと言っていたし、あくまで出来るのは記憶を追加するだけのはず。ただもし紹介した人物がガラス渡りのことを知っていて、尚且つ記憶を操る妖、程度の認識だとしたら、俺を選んだことの説明は一応つく。しかしそんな人物の心当たりは河島さんか夏鈴さん、そして文字さんくらいなものだが、三人ともガラス渡りがどこまでできるのか知っているのでその可能性は低いし、そもそも回りくどくする理由が見当たらない。


 まあ今は置いておくか。


「無いな。思い出せないってことはいくらでも経験あるけどさ、でもそういうことじゃないんだろ? もうちょっと説明くれないか」


「一番多いのは丸々一日分の記憶が飛んでたりすることかな」


「一日って二十四時間ってこと? それとも朝から晩までの記憶が?」


「どうだろ? 例えば金曜日の夜寝るまでの記憶はあるんだけど、気付いたら日曜日の朝だったとかそんな感じかな。だから土曜日は何時に起きてその日何をしてたのか全く覚えてないの」


 範囲が広いな。ちょっと確認してみるか。


「夢はどう?」


「夢?」


「日曜日の朝起きた時何か夢見てたなあ、とかなかった?」


「うーん、あんま覚えてないかも。夢ってほら起きた時は何となく覚えてるけど気付けばすぐ忘れてるじゃん」


 まあ余程印象に残らない限り忘れるのが普通だよな。


「それでいつ頃から始まったの?」


「先週から。正確には火曜日かな」


「つい最近だなあ。病院とか行ってみた?」


「行って脳の検査してもらったけど何処も悪くないって医者から言われた。だけど絶対おかしいよ! だって普通昨日のことを思い出せないなんてありえないでしょ!?」


「落ち着けって。興奮したところで何御解決にもならねえから」


「ゴメンなさい・・・・・でも不安で不安で仕方がないのよ」


「だからって焦ってもどうにもならんぞ。それでどんな些細なことでもいいから何か思い当たることはないのか? 例えばそうだなあ・・・・・記憶以外のことで気になることとこさ」


「そんなの記憶がない時自分が何をしてたかに決まってるじゃん」


「そりゃそうなんだけど、今聞いているのはそれ以外でいつもと違うことあったり違和感を覚えることが無かったかってこと」


 不安が勝り切羽詰まっているせいか波子屋さんは冷静に思考することが出来なくなっているようだ。それを見かねたのか玉児村さんが「ちょっといい?」と口を挟んでくる。


「アタシの考えというか最近のナミコをみて感じたこと言ってもいい?」


「もちろん」


「アタシらいつも一緒にいるじゃん。そんで最近のナミコってたまによそよそしいと言うかアタシらを避けることが多いんだよね。別に喧嘩とかしたわけじゃないし、その時それとなく聞いてみてもナミコはぐらかすんだよね」


「私そんなことしてないし」


「分かってるって。アタシが言いたいのはそんな状態の時が欠落した時間になってるんじゃないかと思ってるってことなんだけど、高遠君はどう思う?」


「ねえねえ、その答え合わせって今すぐにでも出来るんじゃない?」


 その可能性はあるなと考えていた矢先、成戸宮さんがそんなことを言った。


「答え合わせ?」


「うん。私もタマコと似たようなこと思ってたんだけど、昨日ナミコに打ち明けられてからずっと考えてたんだ。だからね、ナミコの記憶がない時間とナミコが変だった時間が被ってないか確認したらいいんじゃないかなって」


 なるほど、結果がどう出るか分からないが確かめる価値は十分ある。それにしても二人に相談を持ち掛けたのは昨日だったのか。病院には行ったとはいえこの一週間ずっと一人で思い悩んでいたんだな。


「いいと思うぜ。因みに二人は何処まで聞いてるんだ?」


「アタシはどの程度なのかまでは聞いてないかな。昨日はナミコ一人で相談しに行ったし。でもさっき聞いて驚いた。まさか丸一日記憶がないとかヤバいでしょ」


 相談・・・・ああ俺を紹介した人物のところか。


「私も一緒。多分だけどあまり言いたくなかったんじゃないかな。そうでしょナミコ?」


「・・・・・二人ともゴメン。私二人に伝えるのが怖くて・・・正直言うと昨日も言うか言わないかギリギリまで悩んでたの。信じてもらえるか不安だったって言うのもあるけど、それ以上に二人と一緒に過ごしたはずなのにその記憶が無いとか言ったら嫌な気持ちにさせちゃうかなって・・・・」


「そんなこと気にしなくたって良かったのにー。ねーセイコ」


「そうそう。タマコは爆笑してたけどね」


「それ言い過ぎー。爆笑じゃなくて失笑? だから」


「そっちの方がだいぶ失礼な感じがするけど。まあ暗い顔してたナミコを励まそうとわざと笑ったってことは分かってるから別にいいんだけどね」


「・・・・ありがとう。昨日二人に打ち明けてからだいぶ気持ちが楽になったのは本当だから。でもまだ・・・・」


「ほらそんな顔しない。ここにいる女性の味方高遠様がナミコの悩みをズバッと解決してくれるから安心しなってば」


 そんな期待されてもなあ。それと女性の味方ってなんだよ。スゲー含みあるセリフにしか聞こえんのだが?


「んじゃとりあえず成戸宮さんの提案通り答え合わせしようぜ。と言っても俺は聞いてるだけになるけどな」



 そして答え合わせの結果、ある程度波子屋さんの置かれた状況を掴むことが出来た。


 波子屋さんの記憶が飛んだのは先週の火曜日が始まりで、例え話で出たように丸一日の記憶がないそうだ。しかもその一回だけでなく、木曜日、土曜日と一日間隔という短い周期で起きていたのだ。そしてその三日は成戸宮さんの予想通り波子屋さんの言動に違和感があったと二人とも感じてた時期と一致した。


 だがここでとある疑問が頭に浮かんだ。


「状況は分かったんだけどさ、今日って月曜日だよね。変な言い方になるんだけど今ここに居るのはいつもの波子屋さんなんだよね?」


 ここ一週間のサイクルで言えば今日は記憶がない日にあたる。だけど彼女にそんな様子はない。もしかしたら今は記憶にあっったとしても明日の朝になったら今日のことを忘れるパターンも考えられるが、どちらにせよ確たるものはまだない。


「言いたいことは分かるよ、私だってそこまで馬鹿じゃない。一日置きに起きてること自覚してたし、なんなら昨日夜『明日また記憶とぶのかなあ?』って不安でなかなか眠れなかった。今だってここに居る自分が本当の自分なのか少し疑っているくらいだし・・・・」


 自信の無さがストレートに言葉として吐き出されている。そんな感じだ。 


 一週間の約半分の記憶が無いというのは相当堪えるはず。俺だって同じ状況に陥ったら正気ではいられなくなる。


「今日のナミコはぶりっ子全開だったから本人で間違いないっしょ」


「だねー。男に対してメッチャ媚びてたし、これがナミコじゃなかったら一体誰だって話だよ」


「ちょっ、いくら何でもそれは言い過ぎじゃない? 私男になんか媚びてないし」


 まあ確かに媚びているかどうかは別にして、話をしている時に目の前でクネクネされたら可愛いアピールしていると勘違いされてもおかしくはないよな。


 しかしもうちょっと慰め方を考えた方が良いんでないかい? 親友なら彼女を励ます言葉、もっとあると思うのだが・・・・・


「ほら、いつものナミコだ。大丈夫だって、自信持ちなよ」


「うんうん媚びてない媚びてない。そうだよね高遠君?」


「あっ、うん。そうだな。俺も媚びてないと思うぞ」


 俺的には微妙なところだけど・・・・・ていうか俺に同意を求めるな。


「それより今日記憶が正常だったことに何かヒントがある可能性があると思わないか?」


 一日おきと言うパターンが崩れた。確証は全くないが、もしこれが不変的なものだったとしたら、それを捻じ曲げた何かしらの要素が解決の糸口になるかもしれない。


「確かに。でも今までと何が違うんだろうね?」


 うーん、と首をかしげる成戸宮さん。それは俺も知りたいところ。


「アタシはもう終わったのかもって考えてるよ。だってそれが一番結果としてはいいでしょ。ナミコはそれじゃあ納得できないかもだけど、そんなの時間が経てば忘れるっしょ」


 玉児村さんらしいポジティブな考えだな。俺もそれが一番良い結果だと思う。


 しかし・・・・・


「杞憂で終わるならそれでいいけど、そうじゃないことも踏まえてもう少し考えた方が良いと俺は思ってる。悪いな、俺って結構ネガティブで面倒くさい性格なんだよ。決して波子屋さんを不安にさせたいとかそう言うのじゃないから」


「私自身も終わったとは思ってないから気にしないでいいよ。それとタマコの言葉も嬉しかったよ。本当はタマコの言う通り今日で終わればハッピーなんだけどさ、今日大丈夫なのは偶々なだけでまた同じことが続くんじゃないかって思ってるの。ううん、絶対続くはず」


 波子屋さんの今の言葉、ナーバス状態が故に出てきたのではなく、どこか確信めいたものを感じる。


「何か思い当たるんだね」


「無いんだけど、不思議とそう思うと言うか感じるの。ちょっと言葉にするのは難しいかな」


 直感ってやつか? 常識の範囲の事象ならスルーするところだが、今回の件に関してはそうではない可能性が十分にある。ていうか彼女が嘘を言っていないのなら十中八九そっち方面だろ。


「成戸宮さんや玉児村さんからの客観的な情報はもらったけど、些細なことでもいいから波子屋さん自身は今回のことについて何か思い当たること無いのか? ああそれとこのことを親には?」


「親には喋ってない。あんま迷惑かけたくないし、だから病院にも一人で行った」


「そうか・・・」


 まず親に相談するのが普通っぽいが、俺も人の事言えないし家庭事情だって色々あるからな・・・・


「それと心当たりはないかも。正直不安過ぎて余裕がなかったって言うか、そもそもこんなこと普通じゃあり得ないじゃん」


「そうだな。不安だろうし今は無理して考えなくてもいい。もし何か思い出したらその時・・」


 今の彼女にこれ以上の負荷をかけるわけにはいかないとこの場は一旦引こうとしたら、波子屋さんは「ああそう言えば」と何かを思い出したようでそのまま続けた。


「課題がやってあった」


「課題?」


「そう学校の課題。同じクラスだから分かると思うけど、先週毎日のように課題出たじゃん。でも火曜日、木曜日の記憶がないのに課題だけはやってあったんだよね」


「それは火曜日と木曜日に出た課題がってこと?」


「ううん、月曜から金曜日までの分全部」


「ちょっと待ってナミコ。火曜と木曜日はいいとして、なんで記憶のある月、水、金は自分でやった記憶が無いのよ?」


「えーと・・・・月曜日は弟と遅くまでゲームやってて気づいたら十二時過ぎてたから明日でいいやってなって、水曜と金曜もまあ同じ感じかなあ、アハハハハー」


「もしかして記憶がない間に課題が終わっていることに味をしめたとか言わないよね? だとしたらアンタいい性格してるわー」


「ま、まさか。それに記憶をなくして課題どころじゃなかったんだからね。それにいくら記憶がなくても自分がやったことには変わりないんだから別にいいでしょ」


「それもそうだけど・・・・」


 なんか成戸宮さんの指摘通りの感じもするが、それどころじゃなかったていうのも本当のことだろうな。

 

 だけどこれで一つだけハッキリさせられることが出てきたぞ。


「なあ先週の金曜日に出た物理の課題って明日提出だったよな。今その鞄の中にノート入ってるか?


「ん、ちょっと待ってね・・・・・・ああちゃんと持ってきてる」


「いや今日物理の授業無かったからある方がおかしいと思うんだけど?」


 玉児村さんの非難は尤もだが、今回の場合そのズボラさは非常に有難い。


「そんでこれを見てどうすんの?」


 テーブルの上にノートを広げ首をかしげる波子屋さん。開かれているページは明日提出のところだ。


「ちょっと見させてもらうぞ・・・・・・・・・ああやっぱり・・・・あっ!」


 そこで自分が今まさしくやらかしてしまった事実に気付く。


 でもまだ三人は気付いていないようだしこのまま黙っていれば・・・・・・


「なに一人で納得して一人で驚いてるの?」


「い、いや何でもない。俺の勘違いだったから気にすんな」


「そう? ならいいんだけど」


 波子屋さんが納得しかけたその時、彼女の正面に座っていた玉児村さんが「怪しいなあ」と言いながらノートを手に取り俺と同じようにパラパラと捲りだした。


 気付くなよ・・・・・・


「あーこれナミコの字じゃないね、ほら」


 願い空しく秒で玉児村さんに気付かれてしまった。そして成戸宮さんもノートを受け取り、


「どれどれ・・・・・あーホントだ。最近のページ殆どナミコの字じゃない。パッと見じゃ分かんなかったけどもっと前のページのと見比べれば違いが良く分かるね」


 玉児村さん同様、ノートに書かれた文字が一人だけのものでないことをあっさりと見抜いた。


「ねえナミコ、これアンタも気付いてたんでしょ?」


「えっ? これ私の字でしょ?」


「マジで言ってんの? ていうか自分と他人の字くらいすぐ分るでしょうに」


「そう?・・・・・・・・うーん言われてみれば違うかも。でも三人とも良く分かったね」


 どうやら本気で自分の字と他人が書いた字の区別がついていなかったらしい。波子屋さんって割と適当な性格なんだな。


 だがそんなことより今考えるべきことは・・・・・


 「ねえ」と玉児村さんと成戸宮さんが同時に俺を見る。


「ど、どうした?」


「どうした、じゃないよ。なんで高遠君はこのことに気づいたの? これって最初から疑ってないとノート見せてなんか言わないし」


「そうそう。ノート見た時なんか自分の推測当たってましたって感じだった。それってつまり・・・」


 ああ出来ればその先は聞きたくない。しかし彼女らはそれを許すはずもなく、


「高遠君、本当は何か知ってるんでしょ?」


 

 ああ困ったなあ。何て言い訳すればいいものやら・・・・・・・



 


 




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