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82 紹介者 (unknown)

 文字さんから(愛の)ソニックをくらい吹き飛ばされた一哉。検査の結果骨に異常はなく全身打撲と診断されたわけだが、先週の一週間はまるで漫画のように体の面積の大部分を包帯だらけにして登校していた。本人曰くここまでする必要はなかったようなのだが、文字さんが過剰なまでにシップを体中に貼り付け、それが剥がれないようにするため包帯を巻いてたらしい。そのおかげで教室内はシップの匂いが充満し、一哉がクラス中から顰蹙を買っていたのは言うまでもないだろう。


 これがミイラ男の真相・・・・・と言うほどでもないが。


文字さんが起こした超常現象が原因とは言え、それ以外はただ怪我をしただけの普通の生徒。一哉が何かしらの力の影響を受け、本当のミイラ男になったわけでは決してない。


 そして応接室で望月先輩の話を聞いてから既に一週間が経過しているわけなのだが、今のところ大きな動きはなかった。と言うのも望月先輩や夏鈴さんが俺達をあそこに呼んだのは助力を求めるためではなく、単純にあの公園に存在していたエネルギーがあの場にいた俺達の体に取り込まれたり付着していないかを先輩が直接自分の目で確かめることだったのだ。怨霊の話をしてきたのはあくまで注意喚起の意味で、精々何か気になることがあったら教えてね、くらいのものだった。


仮に霊的なエネルギーが誰かの体に付着していたらすぐに除去する手筈だったらしい。不純物が無かったり少なかったりする純度の高い霊的なエネルギーは、怨霊に限らず霊的な存在にとってのご馳走らしいのだ。幸い誰の体にも付着したり取り込まれたりしていなかったので、あの日は一通りの話をした後はすぐに解散となった。


 実際現状どうなっているのかは俺の耳には入ってきていない。何度か夏鈴さんに訊ねてみたが、「心配しなくても平気よ」みたいな事しか返って来なかった。


 と言うことで自分が知る限り身の回りで不審な出来事や不穏な動きは確認できず、一応霊的なことに関しては平穏な一週間を過ごしていた。


 しかしそれ以外はと言うと・・・・・


「ほら一哉早く口開けなさいよ」


「箸使えるし自分で食べるってば」


「ダメよ。せっかく食べさせやすいものを選んでお弁当作ってきたんだから無駄になるじゃない」


「いやそこ普通は食べやすいとか箸で掴みやすいとかだろ。なんで食べさせることが前提なんだよ、おかしいだろ」


「口答えしない。いいから早く口開けて」


「・・・・・ハァ」


 ははは、こりゃ今日も一哉の負けだな。


 こんな感じのやり取りが始まってから一週間が経過しているが、今のところ文字さんが全勝している。まあ別に勝負しているんじゃないんだろうけど、傍から見れば強引な文字さんに対し圧倒されるだけの一哉って構図だ。


あの日を境に無事二人は中学時代の関係に戻れた。いや既に彼氏彼女の仲なので正確には関係が発展したと言うべきだろう。


 そして二人は、特に文字さんの方はそのことを周囲にまったく隠そうともせず、翌日から一哉に対し積極的に近づき可能な限り一緒にいるようにしていた。朝は一緒に登校し休み時間も毎回一哉の席に移動していた。何度も文字さんが来るので一哉の隣の席の女子生徒は気を遣ったのかそれとも文字さんの圧に負けたのかは分からないが、休み時間が来る度にサッと立ち上がり席を空けるようになっていた。そしてそれは昼休みも同様で、文字さんが作ってきた弁当を一緒に食べ、それが終わっても時間ギリギリまで二人はベッタリだった。二人とも部活に所属していないので当然放課後は一緒に教室を出ていく。


 そんな感じの一週間を彼らは過ごしていたわけだが、今週は少しだけ様子が違っていた。


 昼休み一緒に弁当を食べるのは変わらないのだが、


「じゃあ一哉また後でね」


 いつもならそのままイチャイチャタイム継続なのだが、今日は食べ終わって少ししたら文字さんの方から席を離れていく。


 と言うのも先週の異常なまでの文字さんの行動を危惧した河島さんと小島さんが文字さんを窘めた。詳細は聞いていないがおおよその見当は付く。あんまりしつこいと嫌われるよとか、変わり始めつつある一哉の評判に影響が出るから。まあそんな感じだろう。


 イチャイチャと表現したが、文字さんは決して人前で一哉に抱きついたり露骨なボデータッチをしているわけではない。精々腕と腕が当たるくらいなもので、一定の距離は保っていた。これまで避けられていた反動がそのまま出ているとはいえ、彼女なりにある程度はセーブしているようだ。


 それはきっと文字さんなりに一哉を気遣っているからだろう。


 当初の周囲の反応は決して良いものでは無かった。ガラス渡りの記憶追加の効果が表れ始めたのはまだ少し先のことだったし、何よりヘイトの高い一哉にいきなり文字さんと言う美人な彼女が出来たのだから特に男子からの反感は大きかった。女子も「意味わかんない」と呆気にとられる者が多く、中には文字さんを敵視する者まで現れた。


 それもあってか文字さんはいつも一緒にいながらも露骨なことは避けていたように見える。まあいくら怪我をした一哉のためとはいえ、「あーん」はダメだと思うが・・・・


 しかしそれも改ざんされた噂が広がるとともに周囲の視線も変わっていった。特に今週に入ってからは顕著になってきて、今まで近づくことがなかったクラスメイトが、一部とはいえ一哉に話しかけるようになってきたのだ。


まあこんな感じで割と良い方向に向かっているのは俺としてもうれしい限りなのだ。


「ねえ先輩聞いてるー?」


 一哉のことを思いふけっていると、隣に座っている女子から「ボーッとしてないでよ」と脇腹を突かれる。


「おい人がせっかく感傷に浸ってるのに邪魔するな」


 隣の席の女子と言っても今いるのは本当の席の持ち主でもなければ河島さんでもない。


「カンショ―? お尻に指突っ込むやつ?」


「小学生か!」


 指ではなく頭を軽くチョップしツッコミを入れる。


「イッター・・・あーもう、せっかく今覚えた単語全部山に帰っちゃったじゃん」


「なら登山部にでも入って取りに行くんだな。確かあそこ人が少なくて今でも募集掛けてたはずだぞ」


 相変わらず俺の休み時間を邪魔しに来るのは中田牧子だった。昼休みになって数分で教室にやって来て教科書とノートを広げ始めるのは毎度のこと。どんだけ飯食うの早いんだ? という疑問はさておき、広げたはいいが全く勉強が捗らないことにいつもイライラさせられていた。ていうかお前の脳ミソの本体何処かの山に置いてきたってことか?


「別に入部しなくても山くらい行けるし。それよりここ教えてよー」


 勉強を教えると約束した手前断るわけにもいかずここ一週間毎日中田の相手をしているのだが、想像以上に覚えが悪く俺は手を焼いているのだ。一応河島さんも手伝ってくれる話になっているのだけど、どういうわけか彼女が今までこの件で手を貸してくれたことは一度も無かったりする。今日の休憩時間の時みたいに明らかに俺が困っていると助け船は出してくれるのだが、直接中田に勉強を教えることはない。成績は悪くない方なはずなので教えられないということないはずなのだが・・・・・


「数学の問題か・・・ついさっきまで英語やってなかったっけ?」


「ああほら同じ教科ずっとやるより定期的に変えた方が効率がいいって言うじゃん」


 それは確かにその通りなんだが、


「でも最初物理から初めて既に三教科目だぞ。そんでもって始めてから十五分も経ってない」


 お前のその時間間隔おかしくね?


「おーメッチャ効率的じゃん。やっぱアタシ出来る子なんだなー」


「バカか。普通は一時間くらいやってから次に行くんだよ。いくら飽き性だからと言っても最低三十分は集中力持たせろよ」


「だって時間短いし分からないところだけ教えてもらった方が良いでしょー?」


「それはある程度の理解力があるやつに話だ。お前の場合九割方解らないんだからまずは一教科に集中することを覚えろよ。家でもこんな感じで勉強してるのか?」


「家で? するわけないじゃん。第一そんな暇ないし。アハッ ウケル」


「・・・・・・・」


 何処にウケル要素が存在した?


「まあいい。次の授業が始まるまでは数学一本だからな」


「アイアイさー」


 こりゃ良いのは返事だけだな・・・・



 放課後になり部活に行く準備をしていると、クラスメイトであるクネクネ女子に声を掛けられた。後ろには友人らしき女子生徒二名が控えていた。


「ねえ高遠君、今日も部活行くの?」


 が菜園部とアドリ部を兼部している俺は意外と忙しかったりする。どちらも基本活動日数は少ないのだが、菜園部の方はこの時期種蒔きや苗植えなどやることが多い。アドリ部は別に決まった日以外は行かなくてもいいのだが、ヨミ先輩に気に入られてしまった河島さんは週三ペースで顔を出しているので俺もそれに同行する形だ。河島さん曰くヨミ先輩のお誘いをどうしても断り切れないようだ。それもそうだ。あの空気を全く読まない先輩のしつこさから逃げるのは相当の精神力の持ち主でなければ難しいだろう。まあ何だかんだ言って河島さんは嫌そうではないのでそのことは放っておいているが。


「行くよ。なんかあった?」


 今日はアドリ部の方だ。


「そっかー。もし部活ないなら相談したいことがあったんだけど、忙しそうだしまた今度でいいや」


 別に忙しくはないんだけどね。土井は退部せずぞのまま在籍しているので念のためボディガード役として河島さんについて行くだけだし。それに何もなかったとしてもおいそれと承諾するわけにもいかない。


「相談に乗ってあげたら?」


 じゃあまた今度な、と声を掛けて去ろうと思ったら自席で待っていてくれたはずの河島さんが近くまで来たいた。


「いいの? ああでも変なアレじゃないから安心して」


「アハハ、そんなこと思ってないから」


 屈託なく笑う河島さんだが、本当にいのか?


「心配しなくても大丈夫だよ。ヨミ先輩だけでなくモモ先輩もいるしね」


 それはその通りなんだが俺が言いたいのは他にもあって・・・


「なんて言うか・・・嫌じゃないのか?」


 彼女の本心が何処にあるのか分からないが、一応学校では付き合っている体で行動している。そんな関係でも俺だって河島さんが他の男と一緒だったらヤキモチ焼くし、それは逆の立場でも同じではないだろうか?


「うーん何て言うか・・・まあその話はあとでしよ」


「だ、大丈夫? もしアレなら一緒に聞いてもらってもいいんだよ? ていうかゴメンね、彼女である河島さんに断りを入れておくべきだったかも・・・・」


「いいのいいの。でも一つだけ聞かせて」


「な、なに?」


「どうして高遠君なのかな?」


 それは俺も思った。何の相談をしてくるのか全く想像できていないけど、俺でなければならない理由ってなんだ?


「・・・実は最初は高遠君じゃなくて別な人に相談したんだけど、その人は『私では無理だから解決してくれそうな人紹介してあげる』って言われたの」


「それで俺にか。一体誰なんだ、俺を紹介した人って」


 思い当たるとすれば夏鈴さんか望月先輩、もしくは千堂さんや文字さんって可能性もある。でもその四人だった場合、彼女の相談内容は一般とはかけ離れたものになってしまう可能性が高い。だとすれば今目の前にいるクラスメイトは・・・・


「ゴメン。紹介されたことは話してもいいけど、誰に聞いたかは喋らないでくれって頼まれてるの。でも変な人じゃないって事だけは確かなんだけど・・・・ああそうそう、同じ学校の生徒だってことだけは伝えていいって言ってたかな」


「学年は?」


「それは・・・・ちょっと確認してみないと分からないかも。ホントゴメンね」


「いや謝らなくてもいいさ。でも可能なら後で確認しといてくれると助かる」


「それじゃあ・・・」


「ああ、解決出来るかは分らんけど取りあえず話くらいなら聞くぜ」


 正直紹介した人物が誰なのか気になる。それに相談内容によっては特定出来ないまでも人物像くらいは浮かんでくるかもしれないしな。


「良かったねハシヤさん」


 ああそうそう、このクネクネ女子波子屋って言うんだった。あんま関わりなかったから忘れてたよ。


「うんありがとう。このまま河島さんも私の相談聞いてくれる?」


 それはちょっと上手くないかもなあ。恋愛とか友人関係のと、ごくありふれた内容だったら河島さんが同席していても問題ないんだけど、今回の場合そうではない可能性がある。だとしたら出来るだけ彼女がそう言った特異的な事情に近くないことをアピールするため、最初から聞かない方が良いような気がする。関わってしまい彼女の活躍により解決しちゃいましたってなればもうバレたも同然、今後の生活に支障が出てくるかもしれない。


「河島さんはほら、部活の先輩に呼び出されてるし今日はちょっと無理なんじゃないかな?」


 遠回しに来ない方がいいぞと伝えてみる。


「・・・・そうだね。私も相談に乗ってあげたかったけど遅れるとミヨ先輩の抱きつきが長くなるから私はそろそろ行くね。部活のことは気にしなくて良いからちゃんと波子屋さんの話聞いてあげて。ああでも終わったら連絡は絶対だからね」


 どうやら伝わってくれたらしく安堵する。


 ヒューお熱いねー、ホント仲いいよねー、と後ろにいた波子屋さんの友人らが囃し立ててくる。


 にしてもヨミ先輩の抱きつき癖には困ったものだな。



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