80 偶然ではありませんでした
とりあえず学校へ戻ることになった。夏鈴さんは先に行ってしまったのでゆっくり三人で歩いて向かっている途中だ。なぜ三人かと言えば「念のためここに居た人間は全員一緒に行動するように」と夏鈴さんからお達しがあったからで、その理由は後で説明するとのことだった。
どうやら俺は何かをやらかしてしまったようだ。
しかもこの世で最強かもしれないあの夏鈴さんが他者に助力を求めるくらいだ、余程のことがあの公園で起きてしまったのかもしれない。
文字さんがあの場所で力を使ったことも関係しているのだろうか?
「何で私までわざわざ学校に戻らないといけないのよ」
「まあまあそう言わずに頼むよ千堂さん」
「あんたに命令されるのが一番ムカつくんだけど」
「ゴメンね。出来れば公園で起きた時のことを千堂さん視点で教えて欲しいの。あそこじゃなんだし学校でゆっくりと聞きたいかなあって」
「やだすみれったら、私のこと光海って呼んでよ。高遠、アンタが呼んだらシメるから」
いや普通に呼ばないから安心しろ。ていうか扱いの差!
「じゃあ光海って呼ぶね。そう言えばこの間律樹君の家に来たんだよね?」
「コイツだけの家、じゃなくて二人の家でしょ。でもそれがどうかした?」
「正確には私たち以外にも住人がいるシェアハウスだけどね。それで突然お邪魔した理由って玲美絡みのことだって聞いてるけど、なんであのタイミングだったのか気になってさ」
彼女はその際真実を知っているにも関わらず石渡が怪しいとミスリードを仕掛けてきた。事実が明らかになった今、それは文字さんを庇うため俺が真相に辿り着けないよう仕組んだものだと思っているのだが、今の発言からして河島さんは別の意図があったと推測しているように感じる。
「・・・・まあいっか。いいよ教えてあげる。私があの時コイツの家に言った理由はある人に頼まれたから。もちろん玲美がやったことをこのまま隠し通したいって思ってたし、石渡を利用して時間稼ぎをしていたことも事実よ」
「じゃあ剛志と会ったのは偶然なんかじゃなくて待ち伏せてたってことか?」
「違う違う、アレは本当にただの偶然。アイツが高遠の家に来ることなんて知らなかったわ。でもアンタの家にお邪魔するような関係でもなかった私にとっては都合が良かったから利用させてもらっただけ。下村とは良い意味で中学時代に接点が無かったのも大きいかも」
「接点がないのにか?」
「まあその話はいいじゃない。それより誰に頼まれたか気になるんでしょ?」
「気になるというよりもう分かってるって感じかな。どうせ押切が言ってきたんだろ?」
「気付いてたの?」
「まさか。今の話を聞いてアイツか小山さんくらいしか思い浮かばなかっただけだ。でもってモンちゃん信者である千堂さんが小山さんと繋がっているとは考えにくかったから、残った押切が情報提供者ってこと」
「情報提供者? 押切君は光海に何かを教えたってこと?」
「別に大したことじゃないさ、俺がいつ家に帰宅するかを教えただけだよ。俺が何時頃家に着くかを知っていたのはRHINEでやり取りしてた剛志と直前まで喫茶店で一緒だった押切しかいない。違うか?」
タイミング的に店を出た後に連絡したのではなく、店内にいる時既にメッセージを送っていたはず。じゃないと先に到着し家に上がり込んでいた剛志とバッタリ会えるはずがない。
「そうよ、押切はアンタの帰宅する時間を教えてくれた。でも重要なのはそんなことじゃなくて彼から何を頼まれたかってことでしょ? もしかしてそれも把握してるの?」
「残念ながら。ついさっきまで千堂さんの独断で家に来たと思ってたから疑いもしてなかったさ。それで何をアイツから頼まれたのかここまで来て言わないってことはないんだろ?」
「当然よ。玲美にとっては他の皆に知れ渡るより一哉ただ一人だけに真実を知られる方を恐れてたんだから。でもそれもついさっき終わった。つまり私だけでなく玲美にとってもこのことに関して隠す必要性はなくなったってこと。だから言うわ、彼にはアナタが本当はどこまで知っているか確かめて欲しいって頼まれた、それだけよ」
「それくらい自分で訊けよ・・・・ってわけにもいかないからこそ頼んだのかあ」
確かに初めて会った時からガラスと少年事件(旧)を調べていることを押切には話していた。だが当事者五人全員が口をつぐんでいた状態の中、完全な部外者の俺が真相を解き明かせるとは押切も思っていなかったのだろう。
しかも事件は異質な力によって引き起こされたもの。当時であればその五人の内の誰か一人でも追及していれば異質な力は別として、少なくても文字さんが犯人だと言い当てられていたかもしれない。しかし二年近く経過してしまった今では事件を掘り起こすこと自体が難しくなっており、更に半端な証拠だけで解明出来るわけがなかった。
つまり警察やフィクションに出てくるような優秀な探偵ではない限り、そして五人の内の誰かが自白しなければ、真相はずっと闇に埋もれていたはずだった。
だがそんな時に突然現れては無作法かつ無遠慮な言動でその闇を霧散する人物が現れた。
それが俺だ。
俺が文字通り闇雲に闇の中を右往左往していただけなら押切も大して気にも留めなかったはず。しかしあの喫茶店で『もしこの世に不思議な力が存在してたら?』みたいなことを小山さんにカマを掛けたことが、彼の俺に対する認識を変えたのだろう。
あの時動揺を見せていた小山さんとは違い至って冷静に見えていた押切も、実のところ心中は穏やかでなかったことになる。
それは文字さんに対しての向き合い方の違いが大きな差として表れたとも言える。
小山さんは隠し通すことで文字さんを執拗に問い詰めていた自分の非を晒されることを守りたかった。つまり自分ファーストだ。しかしそれを非難するつもりは全くない。
そして押切は隠し通すことで文字さんを守りたかった。まあ単純明快な理由でそれ以上でもそれ以下でもないだろう。
つまり二年近くが過ぎ中学も無事卒業して既に安全圏に入ったと安心しきったところ、あたかも『俺は知ってるんだぞ』みたいなことを突然言われ、心の準備を全くしていなかった小山さんは思わず動揺してしまった。
反対に押切は今の今までずっと文字さんのことを考え心配していたに違いない。いつどうバレるか普段から想像し、もしかしたらアイツも怯える日々を送っていたのかもしれない。そう考えると押切は無意識に心の準備が出来ていたということになる。
「だからと言ってすぐ行動に出るとはな。まあ実際動いたのは千堂さんだけど」
「私だって、いきなり何なの!? って思ったけどさ、アイツがそんな頼みごとを私にしてくる時点でかなり追い詰められていることは分かったし、そうじゃなくても最近玲美の様子がおかしかったから私にとっても他人事じゃいられなかったってわけよ)
「おかしかった?」
「アンタは知らないかもしれないけど玲美って必要以上にまず人に話し掛けるような人間じゃなかったの。だというのにちょっと顔見知りっていうだけでアンタを呼び出したり、最近はクラスの子とも仲良くしだしたりさ。だけど私の扱いはこんな感じのままだし・・・・・」
それってただの嫉妬じゃね? それに普段からの接し方に問題があるような・・・・
「でもそれは仕方ないんじゃない? ああ千堂さんの扱いじゃなくて文字さんが変わった方の話ね。さっき赤裸々に語ってた時言ってたじゃん、いつかは一也に本当のことを言わなきゃいけないと思ってたって。要はそのための第一歩として俺を利用しただけだと思うぞ。自分で言うのもなんだけど効果が覿面すぎてその時期が早まっただけに過ぎんしな。まあ本人がどこまで考えたかまではさすがに分からんけど、少なくても彼女にとって望まぬ結果だったとは俺は思ってない」
「そんなこと私だって分かってる。だけどなんかこう・・・・・とにかくアンタが絡んでいる時点で納得できないのよ!」
それはあなたの感想でしょ? とか言いいけど止めておくか。
「納得できないなら直接文字さんに抗議してくれ。それで押切のことなんだが・・・」
「なに? アイツのことを聞かれてもこれ以上のことは私は何も知らないわよ」
押切の言動に関して腑に落ちないことがあったのだが、この様子だと大した情報は出てきそうもないな。
「いや忘れてくれ」
「ふん、もうとっくに忘れたから。それで学校に着いたわけだけど、どこで話をするっていうの? そのためだけに階段上って教室に行くとか止めてよね」
「私は菜園部に行くつもりだけど、光海ちゃんを一人にするのもアレだし二人で先に夏鈴さんのところに行っててもいいよ」
「それは止めといたほうがいいな」
「どうして?」
「どうしてって、夏鈴さんは念のためとはいえ俺たちに一緒に行動しろって言ってただろ。この意味河島さんなら理解できるんじゃないか?」
「ああそう言う・・・・」
何がどうなってどう危険なのか分からないけど、あの場にいた俺たちが離れ離れになるのは好ましくないということだ。
「一体どういうことすみれ? 子供じゃあるまいし私は一人になっても全然いいのだけど。と言うか話って今日じゃなきゃダメなの?」
千堂さんから話を聞くというのは彼女を一人にさせないための建前でしかない。かと言って本当のことを話すわけにもいかないし、こりゃ少し困ったことになったぞ。
ピコン!
「噂をすればなんとやらだな。夏鈴さんからメッセージきた」
「夏鈴さんは何て?」
「えーと、今すぐ三人で応接室に来ること、だって」
またあの応接室かあ。あそこって生徒や無役の先生がおいそれと使っていい場所じゃない気がするけど、この学校ってどうなってるの?
「応接室? 三人って私もってことよね。何でそんなところに呼ばれるのか意味わかんないし、もしかして私たちに誰かお客さんが来てるってこと?」
お客さんではなくおそらくさっき言っていたこの学校に在籍している望月という生徒が一緒にいるのだろう。河島さんにはここに来るまでの間にこっそり伝えてあるので戸惑う様子はない。
「さあな。でも先生に呼ばれた以上このまま帰るわけにもいかんだろ」
正確には臨時講師みたいな人にだけど。
「それもそうだけど・・・・・まあでも緑川先生がどうしてタイミングを図ったかのように現れたかってことと、あの公園で何が起きたのか予め知ってたかのような手際の良さは私も気になってたし、寧ろ問いただすには好都合だから行ってあげてもいいわよ」
助かる、と言いたいところだけどまた面倒くさいことのなりそうな予感しかしないな。
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