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77 トモダチハーレム?

 先週の始め、つまり日曜日の未明にガラス渡りが関係者に対し記憶をバラまいた翌日の月曜日。一也は高校から少し離れた公園に放課後になったらすぐ来るようにと文字さんから呼び出されていた。


 この時に全てを一也に打ち明けると文字さんから聞いた俺は「同席した方がいい?」と申し出たが「自分の不始末くらい一人で何とかするわ」と断られた。


 だったらもう俺に出来ることはないと判断し河島さんと菜園部に向かった。大体の事情を知る河島さんが「あの二人大丈夫かなあ?」と心配していたが、文字さんが決めたことだしこればっかりはどうしようもないから、とだけ言っておいた。


 しかし鈴原先輩を中心に部員全員で一学期から夏休みまでの菜園計画を話し合っていたらマナーモードにしていたスマホが振動し、ポケットから取り出し画面を確認すると『文字』と表示されていた。しかもメッセージではなく通話着信だ。


 正直嫌な予感はしていた。


 放課後になって既に一時間は経過しているしそろそろ何かしらの決着がついている頃合いだ。


 「ちょっと抜けますね」と断りを入れその場を離れる。その際河島さんに視線を送り、彼女はその意図を察しコクリと頷く。そしてそのまま靴を履き建物に出て電話に出る。


「もしもし?」


『ああ良かったすぐに出てくれて』


 声の持ち主は文字さんで間違いなさそうだ。だけどなんだか様子がおかしいぞ。慌てているというより取り乱しているみたいだ。


「大丈夫か、何かあったのか?」


「きゅ、救急車呼んだ方がいいかしら?」


「一旦落ち着こうか。怪我をしたのはひょっとして一也の方か?」


 真実を知って逆上した一也が文字さんに暴力を振った可能性も一瞬頭に浮かんだが、どうやらそんな感じではなさそうだ。


「ええ。目は開いてるけど声かけても全然反応しないの」


 それってかなりヤバいんじゃ・・・・・


「なら早く救急車を。何なら俺が呼ぶか? 場所はあの公園でいいんだよな?」


 ・・・・・・・・・・・・おい、どうして黙るんだ?


 通話は切れてない。カラスの鳴き声が電話越しから聞こえてきているので通話状態も問題ないはず。


「文字さん?」


「何かあったの高遠君?」


 河島さんがやってくる。適当な理由を付けて抜け出してきたようだが、その表情に明るさは一切ない。おそらく戸惑っている俺を見てただ事ではないと気付いたのだろう。


「いきなり声が聞こえなくなったんだが通話問題なさそうなんだよ、ほら」


 その証拠にとスピーカーモードにしてから通話時間表示が動いていることを見せる。


「一也に何かがあって救急車を呼ぶかどうか迷ってた感じだったんだが、いまいち状況が掴めなくて・・・」


「しっかりして律樹君! だったらやはり救急車を呼ぶべきだよ。通話がそのままってことは玲美ちゃんにも何かあったのかもしれないでしょ。もし勘違いだったらゴメンなさいってすれば良いだけだし、その時は一緒に謝ってくれるでしょ?」


「お、おう」


「決まりね。律樹君のスマホはそのまま通話状態にしたまま公園に向かって。私は救急車呼んでから行くから」


 こんなこと考えたらすぐ分かることだっていうのに・・・・・情けないな俺。


『・・・・・待って、一也が何か言ってる』


 連絡は任せ急いで公園へと向かおうとした矢先、手に持っていたスマホから文字さんの声が聞こえてくる。その声は河島さんの耳にも届いたようで、スマホを操作していた手を止め俺が持つスマホを注視している。


「一也は無事なんだな?」


 声が途絶えている間に何があったのかを聞くより先に一番肝心なことを確認する。


『無事とは言い難いけど少なくとも意識は段々戻ってきてるわ。それと出血はないようだけどまだ体は動かせないみたい』


「救急車は呼ばなくて大丈夫なの?」


『すみれ? ええ、多分大丈夫だと思うけど・・・・・』


 どうも要領を得ない返答が続いているが、意識が戻ったことで明らかな救急車案件ではなくなったってことか?


「だったら今から私たちもそっちに向かうから一旦切るよ。もし容態が悪化したらすぐに救急車呼ぶんだからね」


『・・・・分かったわ』


 どうやら最悪の事態って訳ではなさそうだが、だからと言って些細な事って感じでもない。


 もしかしたら文字さんはあの力を使って・・・・・いやまた暴発したって可能性もあるか。どちらにせよあの力のの影響だとしたら彼女は一也の目の前でそれを使ったことになる。


 意図的に? それとも無意識で?


「なにボーっとしてるの? 鈴原さんには私から事情を説明しておくから律樹君は先に行かないと」


「ス、スマン河島さん」


 河島さんって普段は大人しいけど時々こんな風に思い切った行動することあるよな。しかも・・・・


「ダメだよ律樹君。学校内ではすみれって呼ぶって決めたじゃない」


 こんな状況でも意外と冷静だったりもする。


 同棲を学校からは黙認され生徒からは付き合っていることを公認されている俺達。しかし家では『高遠君』『河島さん』と呼び合い当然ながら部屋も別々だ。


 まったくおかしな話もあったもんだ、と我ながら呆れるばかりだが、それは結局なし崩しに身を任せていた俺の責任としか言いようがない。


 おっと、そんなこと考えている場合じゃなかったな。さっさと行かないとまた河島さんに叱られてしまう。


 それに一也のことも心配だし本気で走るか。








「それで、中一の体育祭振りの全力でこの公園まで走ってきた俺は、一体いま何を見せられてるんだ? いや、何を見せつけられてるのか? の間違いだったかな」


「いやーそのー・・アイテテテ・・・・中二と中三は何があった?」


 的確なツッコミ入れられるくらいの余裕はあるようだし救急車は不要のようだな。


「ほらまだ動いちゃダメよ一也。まだ体痛むんでしょ?」


「体を起こしたり曲げようとしたりするとちょっとな」


「ならもう少しこのままでいなさい」


「ああ・・・・スマンな律樹」


「いや別にいいんだけど、俺の質問は完全無視かよ・・・・」


 公園に到着するとすぐに園内の端に植えられた木の下に横たわっている一也の姿を発見し、近くまで駆け寄り怪我の状況を確認したが思ったよりは大したことなさそうだった。


「ゴメンなさい高遠君。気が動転して事を大げさにしすぎてしまったわ」


「それは仕方がないからいいんんだ。一也が無事ならそれでいい。だけど・・」


「いやあんま無事ではないんだが・・・・・」


「一也は少し黙ってなさい。まだ喋るのもきついんでしょ」


「そうよ。なんならその場所私が代わってもいいのよ」


 文字さんの腿の上に頭を乗せ仰向けで寝そべっている一也。つまり膝枕だ。


 そこまではいい。羨ましい気もするがロクに動けないことを考えるとそれくらいの事は許してやるさ。だが・・・・


「なんでここに千堂さんがいるんだ?」


 膝枕をしている文字さんの後ろから抱き着く千堂光海がそこにはいた。抱き着かれている文字さんはそれを鬱陶しそうにしているが、一也を膝枕しているため身動きが取れず半ば諦めているように見える。


「玲美の隣に私がいるのはごく自然のことよ。あんたこそ何しに来たのよ」


「普通に心配してきたに決まってるだろ。もしかして文字さんが彼女を連れてきたのか?」


「そんなわけないでしょ。コイツが勝手にコッソリついてきただけよ」


「だってー、玲美が一也に全部話すって言ってたから心配になるのは当然じゃん。私は嫌だったけど玲美が決めたなら黙って見守るしかないかなって・・・」


「どうやら今朝私たちが話していたところを目撃して盗み聞きしたみたい。まったくこの子ったら油断も隙もあったものじゃないわ」


 確かに一也に打ち明けると文字さんから直接聞いたのは今日の朝、駐輪場でのこと。近くに誰もいなかったはずだが、まったく何処に隠れて聞いていたのやら・・・


「ぐ、偶然だよ偶然。玲美を驚かそうと思って隠れてたらコイツが現れてさ。そしたら何か二人して真剣な話始めたし、これは何かあるなと思ってそのまま聞いてただけ。私少しくらい離れていても玲美の声だけはちゃんと聞こえるから!」


 相変わらずの文字さんラブだな。あとちょっと怖い。


「まあそんな感じでここで起きたことを光海は全部見てたってことよ。まあ分かっていると思うけど光海はあの事件や他のことも全部知っているから不都合はないわ」


「不幸中の幸い? かどうかは分からんけど、じゃあ俺に電話してきた時には隣にいたんだな」


 その場にいて尚且つ事情を知っているのならもっと文字さんのサポートしてやれよ、と言ってやりたい。


「それが光海が私たちの前に出てきたのは高遠君が来る少し前なのよ」


「はあ? それじゃあなにか、文字さんが取り乱している時千堂さんはそれを黙って見てたのか?」


「ち、違うから。動きたくても動けなかったのよ。頭では動かなきゃって思ってても体が言うこと聞かないというか、震えてないんだけど震えている感覚? とにかく声すら出なかったんだから」


 震えてないけど震えるような感覚? なんじゃそりゃ。


「光海、別に私はそのことで怒ってないから。それに勝手についてきたとはいえ光海がここにいてくれたことに感謝してるのよ。アナタが出てきてくれた時どれだけ安心できたことか・・・・」


「玲美・・・・愛してるよー!」


「苦しいからこれ以上強く抱き着くのは止めなさい。じゃないと今度は怒るわよ」


 強くしなきゃ抱き着くのは良いんだ。あーまた調子に乗って今度は頬ずりしてるし、「やめなさい」とか言いつつも表情はいつもより柔らかく見えるのは気のせいだろうか?

 

「ハァハァ・・・えーと・・・・・これは一体どういう状況なのかな?」


 額に汗を浮かべた河島さんが公園に到着。どうやら彼女も全速力でここまでやってきたようだ。


 ちょっと状況が理解できないんだけど? という視線を送られてもなあ。見たまんまなんですよこれが。


「文字ハーレム結成の壮行式、的な?」


「ふふふ、律樹君は面白いこと言うなあ」


 め、目が笑ってない、ストレートに怖い・・・・


「ゴメンなさい・・・・」


 と言っても説明出来るほど把握している訳じゃないんだよな。それに、


「すみれにも迷惑かけてしまったわね。でもこの通り一也は平気よ。それですみれはやっぱり・・・・」


「その点に関しては私も謝らないよいけないかな」


 まだ文字さんには河島さんが事件の真相を知っていることを話してはいない。もちろん河島さんには文字さんの父親のことは伏せて伝えてあるので、知っているのは事件のことと押切と兄妹だったことだけだ。


「それはいいの。二人が一緒に住み始めたこととあの夢の世界のことを考えればある程度想像できるから」


「そっかー」


「二人は一緒になるべくしてなった。そんな感じに私は見えるのだけど、間違ってるかしら?」


 ん、なんか妙な言い回しだな。俺達が一緒になるのは決まっていたような言い方だよな?


「それは・・・・」


「ねえ二人して何の話してるの? 私には全然分かんないんだけどー」


「おバカなアナタは知らなくていいことよ」


「うぅ、バカって言った・・・・でもそんな玲美も好きー」


「ハァ、この子には何を言っても無駄ね。ああ別に深く聞くつもりはないの。合ってるとか間違ってるとかそんなこと私にとってそんな重要なことじゃないから。それよりここで何があったのか知りたいんでしょ。と言ってもここにいる人間には新鮮さに欠ける話だけど、それでも聞きたい?」


「文字さんが話してくれるなら」


「そうだね。玲美が話してくれるならちゃんと最後まで聞く覚悟はあるつもりだよ」


 ということで話はまとまり、ここで起きた出来事を聞くことになった。






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