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夢の国とも言えるガラス渡りが作り出した空間から帰還して一週間以上が経過し、学校のあちらこちらからある噂話を良く耳にするようになった。しかし噂元があるある意味記憶の改変を受けた人物から発信された影響か、同じ噂話でも微妙に違いがあったりと内容が多岐にわたって拡散されていた。
「ねえあの話聞いた?」
「二組の橋本ってやつの噂だろ、聞いたぜ。なんでもあの事件ってアイツだけじゃなく他にも暴れた奴が一人だけじゃなく大勢居たって話みたいだよな」
「そうそう。でもなぜか処分されたのは彼一人だったとか意味分かんなくない?」
それでも多少思惑と違ったけれど、噂の多くは概ねこちらが期待した内容で人から人へと伝わっていた。
しかしそれでも、
「他にもやらかした奴がいたって言うけどさ、結局ガラス割ったり鞄ぶん投げたのはアイツだったから他はお咎めなかったんじゃねえの? じゃなきゃ普通一人だけ処分とか会え言えないだろ」
「俺もそう思うぜ。どうせ最近出回っている噂ってその時のことを逆恨みした橋本が今になって自分で拡げたに違いない」
一定数の生徒はやはり入学当初からあった最初の噂を信じ、後発の噂をデマだと一蹴していた。
SNSでも似たような感じだった。大きく違う点で言うと、当初は記憶が被っていた影響なのかどっちが真実でどっちが正しくないのか混乱している発信が多く見受けられた。だが次第にガラス渡りが植え付けた記憶が事実として拡がっていき、それが学校内に波及していった。
因みにあの空間に現れなかった当時在籍していた生徒や教師、つまり事件に何も関わっていない学校関係者に対しても可能な限り偽の記憶を追加させてある。ガラス渡りから「そのことは任せろズラ」と自信満々に言われたので、追加する記憶の内容も含め全てを彼に一任することにした。
拡散速度や拡散している噂の内容を考えるとガラス渡りは俺が想像した以上に上手くやったのだろう。まあプロと自称するだけのことはあるってことだ。
「センパーイ」
ああまた来やがった。これで先週から何度目だ?
「なんだよ出来の悪い教え子」
「ひどーい。昨日の物理の小テスト三十点だったんだからね。どうだ、偉いでしょー」
「それはすごいな。芋虫から毛が生えてとうとう毛虫に進化したな」
「でしょ? アタイちょっと頑張ればこれくらい出来るんだから」
皮肉で言ったつもりなのに全然理解してねえなコイツ。
「ちょっとじゃ足りてないことをもっと自覚しろ、中田牧子」
「あーまたフルネームで呼んだー。マキマキかナカマキで呼んでって言ったよね?」
ガラス渡りの元(?)相棒である中田牧子はここ最近俺に纏わりつくようになっていた。それはガラス渡りとの交換条件であるこの学力残念少女に勉強を教えるということが起因しているので多少は仕方がないことなのだが、それでも、
「知らん! そんな事より前の時計を見ろ。今何時だ?」
「九時三十六分」
「そうだな。んじゃ今は何をする時間で残り時間は?」
「先輩に勉強を教えてもらう時間で残り九分。あっいま時計動いたから残り八分でーす」
「はい時間以外は不正解。今は休憩&次の授業の準備をする時間だ」
「えーだってそんなの体育とか移動教室じゃない限り秒で終わるじゃん」
「トイレは秒で終わらんから。とにかく俺が言いたいのはこの十分しかないこの時間は決して隣の教室まで赴いて勉強を教わる時間じゃないってこと。約束だから教えること自体は構わんけど、普通は昼休みとか放課後だろ。あと学校に早く来てやるというのも一つの手だ」
「・・・・・・」
どうした、正論過ぎて返す言葉が見つからないのか?
「えーと、覚えきれないからもう一度最初から言ってもらっていい?」
ガタ!
「ニュアンスで察しろ!」
「だって先輩早口で何言ってるのか分かんないんだもん」
「その先輩って言うのもやめろって言ってんだろうが。同級生でそれはおかしいつーの。あっ、もしかしてお前飛び級してこの高校に入ったな・・・・・・ってお前のその学力じゃ太陽が西から昇るくらいあり得ないかあ」
「えっ? 太陽って西から昇るんじゃないの?」
「んな分けあるか! 逆だよ逆、東から昇るの。それと俺が言うのも変な話だけど、もう少しディスられてる自覚持てよ。ポジティブ過ぎんだろ」
ポジティブというよりコイツの場合完全に鈍感って気もするが。
「えーだっていつも家だと逗麻西の方に朝日が見えるよ。もしかして西中というのは間違いで本当は逗麻東中だったのー!?」
コイツ真正のアホだな。やっぱこの先勉強教えていくの厳しいかも・・・・・
「あのなー、単にお前の家の方が逗麻西より更に西にあるだけで学校名も間違ってない。世の中自分の家中心に周っていると思うなよ」
「・・・・・そうか! やっぱ先輩かしこーい」
その言い方は俺の賢さにダメージ与えるから止めてくれ。
「おお分かってくれたか不肖な教え子よ」
「フショウ? アタイどこも怪我してないけど?」
「怪我の負傷じゃなく愚かな方の不肖だつーの!」
「仄かなフショウ? 軽傷って意味?」
「ちげーよ。お・ろ・か・だ」
「マ・キ・マ・キ?」
「何となくの雰囲気だけでアンサーすんな。ていうか絶対呼ばないからな」
クスクス
あーまたやっちまった。コイツが来るといつもまあまあな確率でこんな感じになってしまう。その度に教室内にいる生徒から、
「ほらまたあの二人漫才やってる」
「最近休み時間の度に来てるよね。たまに勉強しているみたいだけど殆どは今日みたいな感じだよねー」
「あの女子って確か成績ヤベー奴なんだろ?」
「マジで? でも言っちゃ悪いけど優秀そうには見えないけどなあ」
「バカ違うって逆だよ逆。噂だと一学期で留年が確定しちまうかもって話だ」
「一年の一学期でってどんだけだよ」
「でも見た目地味ギャル系で嫌味がないあの明るい性格だろ。しかも結構出るところは出てるし羨ましいぜ」
「やっぱ噂通りだったんだ」
「噂?」
「ほら聞いたことない? 高遠君って誰彼構わず女の子に手を出してるって言う噂」
「あーそれ何か聞いたことある! でも身長高いし顔もまあ悪くないからモテるのも理解できるかも」
「じゃあアンタも勉強を口実にお近づきになったら? 多分断らないと思うよ」
「それアリ寄りの保留かも」
「アハハハハー、アリ寄りの保留とか初めて聞いたし。だったら行っちゃえば?」
「んーでもほらそうは言っても一応本妻さんが居るわけじゃん。流石に修羅場は勘弁というか・・・・」
てな感じで中田牧子が纏わり付き始めてから、元々受け入れがたがった悪目立ちにターボな拍車が掛かってしまったのだ。昨日少し話したヘイ太曰く、このことは旧ガラスと少年事件改変の噂と同じくらいのスピードで学校中に拡がっているらしい。
ハッキリ言って迷惑この上ない。
そして最近定番となったのは中田牧子の事だけではない。
「ほらマキちゃん、律樹君が困ってるしそれにもう時間だよ。早く戻らないと」
こうやって時間をまったく気にしない中田牧子を河島さんが注意するのもお約束になっていた。
「あーあ、先輩のせいで何も襲われなかったじゃん」
「太陽がどの方角から昇るか覚えただろ。今回はそれで満足しろ。それと次から授業間には来るなよ。仮に来たとしても見えない人扱いだからな、分かったか?」
「イジメだイジメ。いーけないんだいけないんだ」
「小学生か!」
「ハハハ、先輩またねー」
「マジで相手しないからな」
「はいはーい」
ハァ、コイツ本当に分かってるのか?
「いつも助かるよ河・・・すみれ」
「ううん、約束は守らなきゃだし大変なのは律樹君だから」
「一応すみれもアイツに教えるって話じゃなかったっけ?」
「マキちゃんにはそう言ってるんだけど何故か高遠君の所ばかり行くんだよなあ」
あの子と何かあるの? とか考えていそうな目で見ないでくれ。俺だって理由を知りたいくらいだ。
「あっ、そろそろチャイムなるから戻るね」
「おう」
そしてまたクラスの至る所から俺に関する話が聞こえてくる。
「さすが本妻。新しい愛人軽くあしらってるし」
「うんうん。流石一つ屋根の下で暮らしているだけはあるよね。貫禄というかもはや熟年夫婦って感じ?」
「でもいきなり付き合いだしたと思ったら既に同棲とか、大人しそうな割に河島さんもやるよねえ。何か応援したくなっちゃった」
「アハハー、確かに! でも付き合ってたならもっと早くウザ絡みしてた勘違い野郎土井を蹴散らせばよかったのに。俺の女に手を出すんじゃねえ! ってね」
「違う違う。なにうちの女房に手を出してんだコラァ! だってば」
「それにしても高遠と河島さんが付き合ってたとはなー。女癖悪いとは言ってもやっぱ羨ましいよなあ」
「モテる野郎に集まっちまうのかねえ。なんか納得できねえけどこればっかりはなあ・・・・」
「でも高遠って何気に良い奴なんだよな。急用が出来て掃除当番どうしようかと困ってたらすぐに変わってくれたし。まあ女たらしだけど」
「ああ俺も似たようなことあったな。割と嫌な顔せずに頼んだら何とかしてくれるよなあ、スケコマシだけど」
褒めるなら褒める、貶すなら貶す。そこちゃんとメリハリ着けような。持ち上げて落とすとか趣味悪いよまったく。
まあこんな感じで俺たちの関係を噂ではなく事実として認識されてしまっている。
高校生で同棲とかマジでラノベの世界そのものだが、そもそも普通は世間や大人たちが許さないはずだ。だが俺の家は一応シェアハウスとなっているので一般的に言う同棲とは違うのだ。学校側もそのことを理解しているのか今のところお咎めどころか事情聴取すら行われていない。もしかしたら祖父ちゃんや夏鈴さんが俺の知らないところで学校側に働きかけてくれたのかもしれない。まあ大竹先生も色々事情を知っているわけだしその辺については俺もあんまり気にしていなかったりする。
現状学校側から同棲めいたことは黙認されており、生徒たちの間では俺達は恋人同士でしかも同棲していると認識されている
だが実際は河島さんとは一つ屋根の下で暮らしてはいるものの付き合っているわけではない。ではなぜ誤解を解こうとしないかと言えば・・・・
答えは簡単。単純に土井対策でしかない。
今のところかなり大人しくしており、バーベキュー以降俺にも河島さんにも絡んでくることはない。
しかしあれだけ勝手に勘違いして河島さんに対し執拗に迫っていたアイツのことだ、まだ油断はできない。
従って二人で話し合った結果、とりあえず明言は避けるものの付き合っている振りをすることになったのだ。
時間が合うときは必ず一緒に登下校するし、そうでなくてもクラスだけでなく部活も同じなのでほぼ一緒に居ると言っても過言ではない状態だったりするわけで・・・・・・・
まあ俺の話はどうでもよくて、肝心なのは文字さんと一也、それとあの事件に直接関わった人物がその後どうなったかと言えば・・・・・・・・
橋本一也
彼はミイラ男になってしまった




