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74 改変の素?

「玲美は何を言っているんだい?」


 今目の前に立っているのはこの不思議な世界に誘い込んだ高遠律樹ではなく、小学校時代の三年間兄妹として暮らしていた男だった。その横には出所は不明だ私の父親が犯した罪を知る小山鞠とその友人の赤井菜帆がいる。そして少し離れたところには今の私にとって親友と呼べる存在、千堂光海がいた。まあこのことを本人に言ったら調子に乗るには目に見えているので絶対に言わないけど。


 さて状況を整理しようかしら。


 義理ではあるがかつて兄妹だった男が放ったセリフやいつの間にかまた舞台が中学校の教室に変わっていることを踏まえると、どうやらさっきの続きのようだ。


「気にしないで。少なくてもあなたに言ったんじゃないってことだけは確かよ」


 ここは現実にはなかったifの世界でここで何が起ころうと現実の世界には何の影響も出ない。だからこそあの二人が、特に高遠君の意図が全くと言っていいほど見えてこない。


 彼は一体何をしようというのだろうか?


「事実を突きつけられて頭でもおかしくなっちゃった? それとも訳の分からないことを言って逃れるつもり?」


 現実世界だったら逃げ出したくなったかもしれないけど、ここでそんなことをする必要はないわ。それと寧ろ頭がどうかしちゃっているのは意中の人が急に現れて動揺を隠しきれていないあなたの方ではなくて? 


「ハァ、成績は良いのにどうしてこう理解力に乏しいのかしら」


「喧嘩売ってんの!?」


「普段から誰かさんに媚びを大安売りしている人に言われたくないわ。でもあなたが買いたいというなら売ってあげてもいいわよ」


 あの事件の当事者で父親のことを知っているこの女はある意味私にとっての爆弾ともいえる。そんな彼女と事を構えるなんて現実では絶対にあり得なかった。ずっとバラされるのではないかと怯えていた鬱憤をここで晴らしておくのもそれはそれで楽しそうだわ。その点に関してはあの二人に感謝ね。


「っく・・・・・」


 あら買わないの? やっぱり好きな人の前ではこれ以上自分の醜態は晒せないってことかしら。


「二人とも落ち着きなって。それに玲美も本気で喧嘩を売っている訳じゃないんだろ?」


 残念ながら売る気満々よ。でも買ってくれないのならこれ以上どうしようもないけどね。


「あーいたいた。もー捜したぜ楓紀。約束すっぽかしてどこ行ったかとみんな心配してたんだぜ。おーい楓紀見つけたぞー」


「島田? 僕は約束なんてした覚えはないけど・・・・」


 いきなり現れてなに? いや別に突然魔法のように目の前に現れたのではなく普通に廊下から教室に入ってきただけなのだけど、これってあの二人の差し金?


「ホントだー。ねえ今日は部活休みだから放課後遊ぶ約束したのに何でこんなところで油売ってるのよー」


 また現れたわ。しかもゾロゾロと教室の中に大勢押し寄せてくるし、一体何人いるのよ?


「ちょっとなに? いま大事な話してるんだから後にしてくれない?」


 そう思っているのは多分あなただけだと思うけど、後にしてというのは同感だわ。


「何言ってるの? 先に約束してたのは私達だしそっちこそ後回しにするのが常識でしょ」


「そうだそうだ」


 一人の女子生徒の言葉に周りの人間が同調し一致団結の雰囲気が出ている。どうやら人数的にこちらの方が圧倒的に不利なようね。決して見方ではないけどこちらは五人。対する相手は優に二十人は超えているし、まだまだ増え続けている。


 これはもう明らかにあの二人の仕業に違いない。どんどん現れる人物全員に見覚えはあるが、ハッキリ言って統一性が感じられない。学年はバラバラだし派手系から大人しめまで様々の人種が揃いに揃っている。いくら人望の厚い楓紀と言ってもこれは明らかに異常だ。しかも仮に楓紀がこの大所帯を集めたとして、彼が何をしたいのか全く見当がつかないわ。


 でも・・・・・・


「あーっはっはっはっはっはー」


「なに、本当に頭おかしくなっちゃたの?」


 これを笑わずにいろというのは無理な話というもの。


「そうね、頭をおかしくしないと理解できないかも」


「はあ? 意味わかんないんですけど」


「分からなくてもいいわ。でもそうね・・・・・そろそろじゃないかしら?」


 ここに集まってきた人らが何をしたいのかは分からないけど、あの二人が何をしたいのかは見えてきた。


「多分この教室かなり荒らされるわよ」


 これは絶対に必要なはず。それともう一つ、


「赤井さん、そこの窓から少し離れた方がいいわ」


「な、なんで?」


「いいから。怪我をしたくなかったら言う通りにしなさい」


 まあ架空の世界とはいえ高遠君が誰かを怪我させるとは思えないけど、元々彼女に恨みはない訳だし忠告くらいはしておくべきだわ。


「分かった・・・・」


 これで準備は良いのではないかしら? その証拠にゾロゾロと後から増殖してきた生徒の誰一人窓に近づいてはいないしね。


 ガシャーン!!


「キャー!」


 私にとっては予想通りだが、それ以外の全員にとっては突然のことだと思っているはず。そのことは教室内にいる生徒の表情を見れば一目瞭然。その中で唯一驚きよりも『やってしまった』感を出している生徒がいた。それがきっと窓ガラスを割った張本人なのだろう。


「あーあ何やってんだよ吉田」


「佐藤、お前がちゃんとキャッチしなかったのが悪いんだろうが!」


 坊主頭の男子生徒が言い合いを始める。この学校で坊主と言えば野球部員だと相場は決まっているけど、どう考えても教室内でキャッチボールをしていた時点で二人とも同罪だわ。というかこんなところで何やってるのって話。まあどうせこれは高遠君が考えたシナリオなんだろうし、あの二人には同情しかないわね。


 ガシャーン!


 また? 


「おい今度は誰だよ?」


「悪い、机の脚に躓いてボール飛ばしてしまった」


 今度はバスケ部員らしき男だわ。なんでボールを持ち歩いてたかは考えても仕方がなさそうね。だけどそんなにガラスを割る必要あるかしら・・・・・・・・


 ああそう言えばあの時割れたのって一つだけではなかったっけ。そうなると・・・・・・


 ガシャーン!


「ゴ、ゴメンなさい。驚いて文鎮手放しちゃって・・・・・」


 予想通り三枚目もいったわね。というか文鎮って、彼女は書道部か何かなの? 


 ガシャーン!


「はあ? 今度は誰だよ?」


 呆れるのも仕方がない。普通はこんな偶然が重なることなんてありえないから。でもこの世界の支配者はあの二人。きっとこの人達は彼らに踊らされているに違いないわ。


「いやさ、ガラスの破片マジ危ねえじゃん。だから下で怪我した奴いないか窓を覗こうとしたら山田が押してきやがったんだよ。そしてら体制崩してしまって思わず持ってた剣山でガラス叩いちまって・・・・」


 いやそれはどう考えてもあり得ないでしょ? この中学に華道部なんてないし、あったとしてもあんたみたいなゴッツイ男が入部するわけないわ。


 それにしても合計四枚かあ。あの時と同じ枚数だし見事に割ってくれたわね。でもまだ重要なことが残っていないかしら?


「おい吉田! 何人のせいにしてるんだよ。俺が窓を覗こうとしたら勝手にお前が割り込んできたんだろうが!」


「はあ? どう考えても俺の方が窓に近かっただろうが。いい加減なこと言ってんじゃねえぞ!」


 また野球部の吉田が絡んでいるのね。高遠君彼に何か恨みでもあるのかしら?


 それにしても今度は言い合いでは済まなそうな雰囲気になってるわね。現に二人は互いの胸ぐらを掴み合い一触即発状態だし、このままいけば私が何もしなくてもあの光景を再現してくれるはず。


「調子に乗るなこのハゲ!」


「なんだと、このチビ助が!」


 醜い争いね。しかももうこうなった原因とか関係なくなってるし。これでぽっちゃりした人が参戦するか止めに入りでもすれば素敵な三竦みの出来上がりだわ。


「ちょっと止めなさいよ二人とも。そんなことろで喧嘩してまたガラス割ったらどうするのよ?」


 残念。止めに入ったのはポッチャリ系ではなくしっかり系の委員長だったかあ。これに関しては順当すぎてあまり面白くないわね・・・・・・・・って、私なにを考えてるのかしら。もうなんか既にこの教室内では蚊帳の外って感じになっちゃってるし、目の前に起きていることが何か他人事のようにしか思えなくなってるわね。


「うるせえな、この陰キャブスが。すっこんでろ」


「何でお前みてえな奴の言うこと聞かなきゃなんねーんだよ。邪魔だどけ!」


 ドン!


「いったあ・・・・」


 あっ、それは不味いわよ二人とも。その子見た目は大人しいし、普段の言動も見た目そのものなんだけど、私とごく一部の同級生は知ってるの。その子を怒らせると・・・・・・


「はん、ガラス割るとかそんな馬鹿な真似しねえつーの」


 いや一番最初に割ったの他でもないあなたでしょ。なに無かったことにしようとしているの? まあすぐに報いは受けることになると思うから言わないでおいてあげるわ。


「それよりテメエ、小せえクセにイキがってんじゃ ガハッ!」


 ほら見なさい、言わんこっちゃないわ。って何も言ってないんだけどね。でもさすが静かなるクラッシャーと呼ばれるだけあるわ。女子であんな細い体なのに片手で机を持ち上げて吉田の背中に思い切り投げつけるなんてやっぱ普通じゃない。しかも至って冷静な表情で躊躇することなく後ろからだなんて・・・・・・・・・・嫌いじゃないわ、委員長。


「お、おい大丈夫か吉田!」


「・・・・・い、息が・・・」


 どうやら当たりどころが良か・・・・・悪かったようで悶絶してるようね。喧嘩してした相手が心配するぐらいだもの、相当痛かったはずよ。


「なにそれくらいで悶絶しちゃってるの? 私が受けた痛みこんなんじゃないんだけどなあ」


「い、いや・・・・・普通女子が・・・・そこまでしないだろ!?」


 吉田、苦悶しながらも頑張って言い返したところ悪いけど、そのセリフは悪手よ。


「ふーん。でも私に女子としての人権はないのでしょ? だったら別にこれくらいやっても許されると思うんだぁ」 


「ひ、人としてやっちゃダメだろ」


「吉田君が言ったんだよ、私には人権がないってね。だから人じゃない私には関係ない話なんだなあ」


「そんなこと一言も言ってねえ」


「じゃあもう一度さっき私に言ったこと教えてくれないかなあ?」


「うっ、それは・・・・・」


 ほらね。こうなった時の委員長の屁理屈に勝てる相手はこの世の中に数えるほどしか存在しないのよ。

 

 さてこうなった彼女は気が済むまでトコトン相手を詰めるからもうしばらく終わりそうもないわね。


「おいテメエ何しやがる! 人のスマホ踏みつけやがって、弁償しやがれ!」


「お前こそ邪魔なんだよ。危ないから俺がガラスの破片掃除してたっつーのに見えなかったのかよ、この木偶の棒」


 ああ今度はあっちで始まったようね。


「ちょっ、何どさくさに紛れて楓紀君の腕掴んでるのよ」


「し、仕方ないでしょ。いきなり喧嘩が始まったかと思ったら委員長が暴れだすんだもの、怖かったんだから不可抗力よ」


「不可抗力というなら何で近くにいる男子の腕を掴まないのよ? ただ楓紀君に触れたかっただけでしょ!」


 今度はこっちかあ。楓紀も「まあまあ」とか言うだけじゃなくて、もっと男らしくビシッと言いなさいよ、まったく。


 あっ、向こうでも何か揉め始めた。ああ教壇のところでも男女が何か言い争いしているみたい。


 ははは、いい感じに教室内が荒れてきたわね。机と椅子は倒れ散乱しているし、最初にここへやってきた時の光景は既に見る影を失っているわ。


 これぞカオスって感じかしら。


「おい流石にそれはまずいだろ!」


 ん、どうしたのかしら?


「そうよ、誰のか知らないけど人の鞄を外に投げるなんて最低よ」


「投げたの俺じゃねえし。いきなり鞄が飛んできたから手で弾いただけだ」


「じゃあ誰だよ吉田に鞄投げつけた奴は?」


「私じゃないよ。そんな柔らかいものぶつけても意味ないでしょ?」


 あー委員長徹底してるわねえ。というかまた吉田かあ。これは確実に高遠君の私怨が入ってるわね。


 この世界にやってきた時一つだけ机の上の鞄が置いてあった。それは現実のあの時と同じ場所だったし、ほぼ間違いなく持ち主は一也が告白した相手のものだろうな。そう言えばこの中にあの子はいないようだけど、それも何か意味があってのことなのかしら?


「おいお前ら静かにしろ! それと誰もそこから動くなよ)


 やっと先生のお出ましって訳ね。最初のガラスが割れてからまあまあの時間が経っていると思うけど、それもあの二人が操作したのだろうな。


 でもこれってあの時と同じ? 


 実際あの時も何故か人がやってくるのが遅かったし、そのせいで偶然忘れ物を取りに戻っただけの一也が犯人にされてしまった。このことだけが未だに腑に落ちていない。


「聞きたいことは山ほどあるが、まずはガラスを割った奴、正直に手を挙げろ」


 少し遅れてやってきた他の先生が教室に到着するなり最初に現れた先生が犯人探しを始める。

 

 これでこの世界で一也が犯人にされる心配は無くなった。


「もうこの先は見る必要はないと思うのだけど?」


 この後はこの場にいる全員が教師に怒られガラスを割った数人が軽く罰せられる程度でこの事件は収束するはず。これだけの人数がいたのならば一也のような吊し上げに遭う人物も出ないはずだし、それがあの二人の狙いなのだと理解している。


 いま起きたことが現実と入れ替わってくれたら、なんて甘っちょろいことは一切考えたくもない。その希望にしがみ付いてしまえばこの二年間の全てが瓦解してしまう。もしそんなことを彼らが提案してきたら私は確実に拒むわ。


 さあまたあそこに戻って最終ラウンドといきましょうか。

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