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71 ??の世界(2)

「どうして一也がここに・・・・・・・・」


 ああダメだ、意識が遠のいていくのを感じる・・・・これは多分・・・・抗えない・・・・・





「・・・・のくせに」


 気が付くと私を睨みつけながらボソッと吐き捨てる小山鞠とその小山を隣で宥めている赤井菜帆が目の前に居た。場所はすぐにあの教室だと分かる。


 どうやら本当にさっきの続きのようね。それが分かったところで私には傍観することしかできないのだけど。


「聞いてるの!? この人殺しの子供がぁ!」


 そうだった、小山のこのセリフを聞いた直後私は・・・・・・・・・・・・・・あれ? あの時と違う?


「なにボーっとしてるのよ。ああそうかやっぱりこの話は本当だったようね。ねえ聞いてよ菜帆、コイツの父親って・・・・・・・」


 嬉々として私の家の事情を話す小山が目の前にいる。それを聞いている赤井はどこか戸惑っているように見える。まあそんな突拍子もない話を突然されて戸惑うのは自然のことかもしれないわね。それにしても・・・・・


 こんな場面は私の記憶の中にはない。


 それに一回目は無意識に映像を見ている感じでこうやって思考することはなかった。だけど今はちゃんと自分の意思を持って行動することが出来ている。つい今しがた右手でコブシを作ってみたり教室の中を見回したりと試してみたら思い通りに体が動いた。


 だけど教室の中に高遠君はおろか一也の姿も見えなかった。だったらさっきのは幻か見間違い? いいえ確かに見たのは一也で間違いないはず。だけどおかしな話ね。この幻のような世界で更に幻だなんて、頭がどうにかなってしまいそうだわ。


「ズラは私に何をさせたいんだか・・・・・」


「はあ? 意味わかんないこと言ってごまかしてるんじゃないわよ!」


 おっといけない、無意識に声に出してしまったようね。


「ごめんなさいね。でも意味が分かっていないのは私も同じなの。ねえそれより今の話って誰から聞いたのかしら?」


 聞いたところで無駄なのは分かっている。事実として現実でも小山の耳に入っていたことは間違いないのだし、何かが変わるとも思えない。だけどこの辺りであのことを知るのはごく限られた人間しかいないはずから情報源は気になるところ。


「誰から聞いたかなんてもう忘れたわ。どうせアンタを妬んだくだらない噂だと思ってしね。だけどいつも鼻につくくらいクールなアンタがあんな反応をしたんだからあの噂は本当のことだって確信したわよ」


 もしあの時力を抑えることが出来たとしても結果的には小山に手を出していたかもしれないわね。それだけあの時の私は動揺していたし、薄れているとはいえ今だってその気持ちはある。いま冷静でいられるのは二年という歳月とこれが明らかに現実ではないということを確信しているからだ。


 それにしてもそんな噂があったなんて知らなかったわ。まあでも当の本人に直接言うバカはいないだろうし、確たる証拠を誰も突き止められなかったのか、いつの間にか立ち消えしてたって感じかしら。


「あなたの言う通りよ。私の父親は人を殺したわ。それがあなたを不快にさせたというなら謝罪くらいしてもいいのだけど、でもその前に一つだけ言わせて」


「へっ?」


 ふふふ、私があっさり認めたものだからポカンとしてるわ。口では自信満々なこと言ってたけど、どうやら心の中ではまだ噂を疑っていたようね。気持ちは分かるわ。普通に生活していて同級生に殺人犯の娘がいるなんて殆どフィクションの世界だし、今のネット社会では犯罪者のプライベートに人権はなく家族はおろか親族まで晒されてしまう世の中だ。逆に言えばその社会の中で堂々と私が学校へ通っていたことがある意味抑止力になっていた可能性もあったのかも。そして今回は私を貶すために小山がカマを張っていたことは明白。その証拠に彼女の口から出た言葉に父親が人を殺したこと以外で何一つ正しい事実は出てきていなかった。


 いまこうやって冷静に考えると、あの時暴走してしまった私はやはりどうかしてたとしか言いようがない。後の祭りとはよく言ったものね。


「何をそんなに驚いてるの? あなたが聞いた噂は間違いないと言っているのよ」


 父が人を殺したことだけはね。


「そ、そうね、思った通りだわ。それで言いたいことって何よ。もしかして私に今までのことを謝れとでも?」


「アナタから謝罪をされても何一つ心に響かないから必要ないわ。私が言いたいのは今後この噂を吹聴して回るようなら容赦はしない、ただそれだけよ。どうせこのことがばれた時点で私の人生は詰んでしまうのだし、だったらこの学校を去る前にお礼だけはキッチリさせてもらうから」


 生まれつき目つきが悪く軽く睨んだだけで他者より強い恐怖を与えてしまうことは自分自身がよく知っている。昔楓紀は全然怖くないからと言ってくれたけど、結局あの時のことが切っ掛けで私を恐れるようになってしまった。どっちに転んでも私はそういう扱いをされてしまう運命なのだとすでに受け入れている。


「ヒィー・・」


 何故か小山ではなく赤井が後ずさりしながら怯えている。別にあなたに向けたわけではないのだけど。


「お、お礼って・・・・」


「言葉通りよ。なぜ何も悪いことをしていない私だけが理不尽な目に遭わないといけないの? 同じ目に遭わせるのは当然のことじゃない」


 ああ自分で言っていてバカらしくなってきた。


 これは現実じゃない。いくらここで小山を脅しても現実が変わるわけではない。これはあくまでも『もしも』の世界。ズラの思惑はいまだに不明だけどこれだけはハッキリしている。


「ねえ光海、そこに隠れているのは最初から分かってるのよ。いい加減出てきたらどうかしら?」


 当時は光海が掃除用具のロッカーに隠れていたことを暴走後に気付いた。でも今回は違う。二週目の私は最初から知っているのだ。


 ・・・・・・・ガチャ


 ゆっくりとロッカーの扉が開き中から光海が出てきた。


「どうして分かったの? それにいま私のこと光海って呼んだよね・・・」


 そうだった。この頃の私と光海は大して親しくもなく互いに苗字で呼び合っていたんだっけ。でもそうなると今ここにいる光海は中二ってことになるわね。制服も中学のものだしよく見ると光海だけでなく小山と赤井も若干幼く見える。


 そうなると少なくてもここにいる三人は高校一年ではないということだ。


 だったら私は? 


 「鏡は・・・」と呟きながら探してみるが自分が着ている制服にも近くの机にも見当たらなかった。


 でも今着ている制服はやはり他の三人と同じだったので容姿も当時に戻っているのかもしれない。まあそんなことはどうでもいいわ。


「たまたまよ。それよりおしき・・・楓紀がそこのドアに隠れていることも知っているのよ。別に出てこいとは言わないからどうするかは自分で決めなさい」


 もちろん当時の私は教室から逃げ出すその時まで楓紀がそこに居たことは知らなかった。光海の時同様二週目だから知っている。


 あの時以降私は彼のことを下の名前で呼ばなくなった。それは向こうも同じでずっと文字さんと他人行儀で呼ばれていた。だけど彼をこの場に引っ張り出すなら決して強制的ではなく、そして昔のように楓紀と呼んだ方が向こうの警戒も和らぐはず。これも当時の私では絶対に出来なかったことだ。


「本当は盗み聞きするつもりはなかったんだけど。それに久しぶりに名前で呼んでくれたね・・・」


 「ハハ・・・」と力なく笑いながらドアの陰から楓紀が顔を出す。


 相変わらず取って付けたような笑顔なこと。楓紀のこの表情はあまり好きではなかったけど、それ以外のところは好ましく思っていたのも事実。寧ろ一緒に住み始めたあの頃は彼に想いを寄せていたわ。多分楓紀も私に対して同じ想いを抱いていたのではないかと今でも思っている。


 花は咲けど実は実らず。もし私と楓紀があの時のような関係に戻れたとしても結実する未来はもう見えない。それだけ二人の間には決定的なものが出来てしまったのだ。


「私は全然気にしてないけど彼女がどう思っているかは分からないわ」


 楓紀が登場したことで小山は激しく動揺しており陸に上げられた魚のように口をパクパクさせていた。


「こ、これは違うの楓紀」


 ようやく言葉に出来たと思ったらキョロキョロと挙動不審気味に弁明を始めた小山。それもそのはず、好きな人が聞いているとは露とも知らずに終始私と敵対しそして貶して自分の汚い部分を彼に晒してしまったのだから。


「ああそのことはいいんだ。玲美のことは僕の方がよく知っているからね」


「じゃあやっぱり二人は付き合って・・・」


「それは玲美が否定した通り事実ではないよ」


「な、ならこの間二人で横浜を歩いてたって話も嘘ってこと?」


「それは本当のこと。でも鞠が想像しているようなことは一切ないから。会っていた理由はプライベートなことだから言えないかな。それと今日あったことは全部忘れるから安心して」


 なんて甘い男だ。私が同じ立場なら絶対に容赦はしないし、今後の付き合い方も変える。


 だけどこれは現実ではない。だから今ここにいる男が何を言おうと現実の世界に影響が出るわけではないので口をはさむことはしない。いいえ、例えこれが現実だったとしても私は何も言わずただ傍観していた、そんな気がするわ。


 そんな仮定のことを考えても仕方がない。それにもうすべてのキャストは出揃ったわけだし、これ以上この茶番を続けても無意味な気がする。


「ねえズラ、ここまであなたに付き合ってあげたんだからそろそろ出てきても良いのではないかしら?」


 この教室のどこかで見ているであろう謎の存在にも聞こえるよう大きな声で言う。


「玲美は何を・・・・」


 すると私に向け話し掛けてきた楓紀がその場でスッと消える。まるで存在が消されてしまったかのようにだ。それは楓紀だけでなく他の三人も同様だった。



「まったく魔女はホント怖いもの知らずズラ」


 聞き覚えのある訛った声が聞こえてきたのだけど、今度は頭の中に直接ではなく耳を通してだわ。だとしたら・・・・・


「今度は姿を見せてくれるのかしら?」


 さっきとは状況が違う。私の考えが正しければ現れてくれるはず。


「なんか悪いな先の俺が出てしまって・・・・」


 しかし目の前にスッと現れたのは高遠君だった。


「・・・・一也はいないの?」


 謎の存在もそうだけど、それよりも気になるのは意識が飛ぶ前に見た一也のことだった。


「俺の存在はどうでもいいって感じだなあ、ははは・・・・・まあそのことについては後でちゃんと説明するから取りえず後ろの席を見てみて」


 もしかして後ろに一也が? そう思いながら恐る恐る後ろを振り向くと、そこには机の上に置かれたガラスのコップの上に武士が着るような着物を纏った小さい人間が器用に乗っていた。



 

 


 

 

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