70 ??の世界(1)
「ねえ何とか言いなさいよ」
「だから最初から質問の答えはNOだとハッキリ言っているのだけど?」
「バカにしてる? 何もないのにあんな噂が出るわけないでしょ! 本当のこと言って」
「ハア・・・例えその噂が本当だとしてあなたに何の関係があるのかしら?」
「関係あるなしじゃない、隠していたことが気にくわないの」
「ならそれでいいわ。別にあなたに好かれたいと一ミリも思ってないから勝手にして」
「あーもうホントムカつく! そういう話じゃないって何度も言わせないでよ。アンタと楓紀、本当は付き合ってるんでしょ。この間の日曜日横浜で一緒に歩いているところ見たって人がいるんだからね」
この不毛なやり取りはいつまで続くのだろうか?
それに私と楓紀が付き合ってるだって? そんな訳ないじゃない。だってあの日を境に彼は私のことを普通の人間としては見てくれなくなったのだから。
「それは偶然バッタリ会って流れで何となく少しお茶しただけよ。あなた達が想像しているようなことは何もないわ」
本当は偶然なんかではない。その日は楓紀に話があると呼び出されていた。ここから一時間はかかる横浜をわざわざ指定してきたのは知り合いの目を避けるためだったのだろう。当然横浜へは一人で行ったのだが駅で待ち合わせしていたのでそこから喫茶店へ向かう僅かな時間に誰かに見られてしまったようだ。まったく運が悪い。
「普通偶然会っただけで喫茶店には入らないわ」
そんなことはないと思うけど、それを言ったところで目の前にいる小山鞠は否定するだけ。だったら余計なことを言わない方がそれだけ不毛で無駄なこの状況から早く解放されるというものだ。
「分かった正直に言うわ。あの日は押切君に相談があると言われ呼び出された。でも話をした後はそのお店で別れたからそれ以上何も無いわ」
見られていた以上全部ではないが正直に話すしかない。まあそれで納得してくれるとは到底思えないけど。
「ほら見なさい、やっぱり付き合ってたんじゃない」
この子頭大丈夫かしら? 人の話ちゃんと聞きなさいよ。
「外で会って話をしただけで付き合ってるとかアナタの頭の中はお花畑なの?」
しまった、ついうっかり余計なことを言ってしまった。
小山は顔を真っ赤にさせながらあーだこーだ訳の分からない事を言ってきてきたが、私は黙って聞いている振りをする。まるで子供が癇癪を起しているみたいだ。まあ自分で言うのもなんだけど中二なんてまだ子供もいいところだ。傾向的にこの年頃は男子の方が子供っぽいと言うけれど、私からすれば目の前にいる女も同じに見える。成績は良いみたいだけどそれはあまり関係なさそうね。
「言いたいことはそれで終わり? 私も暇じゃないしもう帰ってもいいかしら?」
これ以上は付き合いきれない。小山から聞かれたことは答えたし本来ならもう私に用はないはず。
「まだ話が済んでないのに勝手に終わらせないでくれる?」
ハア・・・・あなたが楓紀のことを好きで何をしようと勝手だけど、私をこれ以上巻き込まないでほしい。ていうかハッキリ言って迷惑だわ。隣にいる赤井菜帆も流石にドン引きしているわよ。
「これ以上何を話せばいいのかしら? 私たちは付き合ってない、この間は少し話をしただけ。これ以上もう教えられることは何も無いわ」
「いいえあるわ。何を話したのか私に教えなさい。そもそもなんで相談相手が普段全然関わりのないアナタなのか意味分かんないんですけど?」
本気で言ってるの? わざわざ遠く離れた場所で会ってたのだからそれくらい察しなさいよ。それに誰が誰に相談しようが本人の勝手でしょうに。
「アナタにプライベートのことを教える義理はないわ。知りたいなら押切君に直接聞けば済むだけの話よ」
まああの話を楓紀が教えるとは思えないけどね。
「それが出来ないからアンタに聞いてるのよ! 正直に言いなさい、本当は既に付き合ってたかその日に告白されたんじゃないの?」
何バカなことを。私が何を言っても無理やりそっちの方向に話をもっていくってムリゲーもいいところじゃない。
「告白されてないし付き合ってない。もういい加減終わりにしてよ。そんなに気になるならさっさと告白すればいいじゃない」
楓紀の好みなんて全然知らないけど、小山は性格はアレだが顔立ちはかなり良い方だ。普段から風紀に絡んでいるようだし可能性が全く無いわけではないはず。
「・・・・・」
あらどうしちゃったのかしら? もしかして強気な性格に見えて恋愛方面になると全然とか? でも普段から風紀に対して露骨にアピールしているのにそれはあり得ないわ。
「黙ってないで何か言ったらどうかしら?」
今度は私の番、って訳ではないけどこのまま押し黙ったままなら帰るチャンスね。でも隣にいる赤井の様子がおかしいのは少し気になる。
「ねえ鞠、もういいんじゃないかな。文字さんも何も無いって言ってるんだしこれ以上聞いても無駄だと思うよ。それにほらあの噂だって本当かどうか分からないしさ」
あの噂ねえ。それは話の流れからしてこの間の横浜の件ではないはず。誰が発端か知らないけど楓紀が想いを寄せている相手が私か一個上の先輩という噂の方だろう。迷惑甚だしいわ。
「・・・・のくせに」
「っえ?」
赤井に諭されていた小山が突然ボソッと言い放ったセリフが耳に入った瞬間、心臓を乱暴に握られたような感覚が襲う。
今のは聞き間違い? いやでも今確かに聞こえた。なんで小山がそのことを知っているの?
お願いだからその話だけはしないで。そうでないと私は・・・・・・・
「・・・・・・今のは夢? でもここは・・・・・」
まだ少し頭が朦朧とするがここが何処なのかはすぐに理解できた。
さっきまで居た教室だ。高遠君に呼び出された逗麻高の一年二組の教室ではなく、私が過ごしたあの逗麻西中二年二組の。
「そうズラ、お前は夢を見ていたズラよ」
「ズラ? と言うか誰? 高遠君・・・ではなさそうね。声も話し方も全然違う」
それと何か不思議というか妙な感覚がする。
「オラのことはどうでもいいズラ。それより今の続きのことは覚えてるズラか?」
今の続きと言うのは紛れもなくあのことだ。忘れたくても忘れられるはずもない言わば私にとっての黒歴史。いいえ、それよりももっとドロドロしていてドス黒く醜いもの。
生まれ持ったレッテルは決して消すことが出来ない。誹謗中傷が嫌なら人と関わらなければいい。そうすれば深い傷を負うことはなく浅い傷を繰り返し負うことで私は強くなれる。
そう信じていた時期があった。だけど結局私は孤独に耐えきれず心の拠り所を求めてしまう。
拒絶を繰り返した分だけ心の支えを追い求める。そんな日々を過ごしていたある日、私はある力に目覚めたのだ。いいえ、目覚めてしまったと表した方が正確かもしれない。
「しっかりと覚えているわ。でもそれがどうかしたのかしら?」
どこの誰だか知らないけど関係ない奴にとやかく言われたくない。姿は見えないけど現れ次第この椅子をぶん投げてあげようかしら。
「うぅ・・やっぱり魔女怖いズラ・・・・分かってるズラ、お前はまだそこで黙って見ているズラよ」
魔女? ひょっとして私のことを言っているのかしら。それに誰かと話をしてる? しかもそいつもこの近くに居るってこと?
「それで今の答えを教えてくれないかしら? それとここが一体何処なのかと言う説明もね」
高遠君は私はほぼ確実に私の力のことを知っている感じだった。だとしたら彼も私とは違う何かの能力を持っていて、この状況はそれが関係している可能性が高い。そう考えるとズラの話し相手は高遠なのかもしれないわね。
「思ったより冷静ズラね。普通はパニックになるものなのだけど魔女ともなれば怖いものはないみたいズラね・・・・・・・ただの確認ズラ。それとここがどこなのかは悪いけど教えられないズラよ」
「ふーん、まあいいわ。それであの日のことを思い出させてあなた達は私に何をしたいの?」
「魔女に選ばせてやるズラ」
「選ぶ? 一体何を」
「今の続きを見せるか見せないかズラ」
今更あの光景を私が見たところで何も変わりはしない。ああでもここには高遠君がいるかもしれなったわね。
「別に好きにしたらいいわ」
彼に見られたって真実を知る人間が一人増えるだけの話。仮に彼が吹聴して回ったとしても信じる者はいるはずがない。二年も過ぎてしまった今では尚更だ。
「それは見せてもいいってことズラね?」
「ええ構わないわ」
「分かった、早速始めるズラ」
今気づいたけどこの声は直接私の頭の中に響いているようね。最初に感じた違和感の正体はおそらくこれだったのだけど、もうそんなことはどうでもいいわ。
ズラの声が聞こえなくなったと思ったら教室の隅に高遠君の姿が現れたのだがそれは予想済みだ。問題は・・・・・・
「どうして一也までここにいるのよ?」
一番見られたくない人物が私の目の前に現れたのだった。
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