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67  色眼鏡補正

中田牧子と約束を交わしたあとバーベキューの輪に混じる流れになった。本当は今すぐにでも卒アルを開きガラス渡りに確認してもらいたかったのだが、「そんなの後でもいいじゃない」と夏鈴さんに強制的に参加させられてしまった。


「光男さんは明日の朝出発?」


「ああ。と言っても一度荷物を取りにアパートへ戻るけどね」


 俺は光男さんと真の間の比較的落ち着いた席に座ることが出来ていたのだが、河島さんは中田さんに半ば強制的に一番賑やかで騒がしい水堀さんや夏鈴さんの方へと連れていかれていた。 頑張れ。


 光男さんは仕事の関係で来週から大阪へと単身赴任することが決まっている。なんの仕事をしているのか一度だけ本人に聞いたことがあるが、「普通のサラリーマンだよ」としか言われなかった。


 光男さんから自分と入れ替えで河島さんが家に住むことを直前まで伝えなかったことを謝ってきたが、河島さんから事情を聞いていたので気にしないでくださいとだけ返しておいた。それよりあの乙女チックな部屋にどんな気持ちで過ごしていたのか気になっていたので本人に尋ねてみた。すると光男さんは「母の影響もあってああいうのは割と好きなんだよ」と意外な答えが返ってきた。この人の母親となると祖父ちゃん達とそう大して年が変わらないはずだが、人の趣味をとやかく言うつもりはない。


「すみれのことよろしく頼むよ。自分が言うのもアレだけどああ見えて割と何でもそつなくこなすからいいように使ってくれ。ああでもたまに自分の世界に入ると周りが見えなくなるからそこは気を付けた方がいいかな」


 それは今日実体験済みですよ。


「たまには帰ってくるんですよね?」


「しばらくは忙しくなりそうだから早くても帰って来れるのは夏休み頃になるかな。ところで二人は上手くやれそうかい?」


「まあ住人同士って意味でなら問題ないんじゃないんですかね」


「それ以外では?」


 光男さんは俺に何かを期待している、そんな目をしていた。


「それ親である光男さんが聞くことです?」


「親かあ・・・・子供ってあっという間に大きくなるよね」


 なんかポイントがズレた返答だが河島さんを想う気持ちは十分伝わってくる。


「律樹君もそのうち分かると思うよ。ああ特に深い意味はないから」


「自分が親になる想像なんて出来ないですよ。そもそも結婚出来るかも怪しいし」


「はは、君なら大丈夫。きっといい父親になれるさ」


「だといいんですけどね」


「僕が保証するから安心していいよ」


「まったく根拠が見当たらないけどここは素直に受け入れておきますか」


「それがいい。そう言えば詳しい事情は知らないけど今日すみれや夏鈴さんと中学校に行ってきたんでしょ。どうだったんだい?」


「予想以上の収穫があった、かもしれないですね」


「かもってことはまだ不確かなことがあるんだね。僕に何か手伝えることはある?」


 ガラス渡りに卒アルを見せるだけなので光男さんに頼る必要はないのだが・・・・・いや待てよ、せっかくのこの申し出を上手く利用させてもらうか。


「だったら・・・」


 水堀さんに抱きつかれ中田さんに肩をバシバシされ困り果てている様子の河島さんを見ながら光男さんにあるお願いをした。




「もー助けてくれるの遅いよー。それに私があそこに連れて行かれた時高遠君憐れんだ表情してたでしょ?」


「悪かったって。でもこうして上手く抜け出せたんだから結果オーライじゃん」


「それってお父さんが上手くやってくれただけだし全然オーライじゃないからね」


「夫婦喧嘩は構わないけど、早くその卒アルとやらを見なくてもいいズラか?」


 光男さんが機転を利かせくれたおかげで俺と河島さんは上手く抜け出すことが出来た。俺だけであれば知らん顔して抜け出せたのだが、水堀さんに絡まれていた河島さんはそうもいかなかった。


 何はともあれ今はこうして俺の部屋で俺と河島さん、そしてガラス渡りの三者で確認作業を開始られる段階までこれた。まあ一人ご立腹な人物がいるがそれもすぐ収まるだろう。


「ガラス渡りが早くしろって言ってるしさっそく始めようぜ」


 それと夫婦じゃないからな、とはせっかく河島さんにはガラス渡りの声が聞こえてないのに敢えて言う必要もないか。


「そうやってすぐ誤魔化そうとする・・・・・でも重要なことだし仕方ないかあ」


「んじゃ一組から順にめくっていくから魔女がいたら教えてな」


 また何かを切っ掛けにプンスカ始まる前にアルバムを床に置いて目的のページを探し始める。


「これは集合写真だな」


「個別のは次のページじゃないかな。私の中学はそうだったはず」


「俺の学校もそうだっかも。あんまし覚えてないけど。おっとこれだな。どうだ、この中に魔女はいるか?」


「・・・・・いないズラ」


「じゃあ次二組な」


 こんな感じで進めていくと四組の集合写真のところでガラス渡りの様子が変わった。卒アルの写真は事件があった二年の時ではなく三年の時に撮ったものなので当然クラスは変わっているが、魔女が転校していない限り必ずこのアルバムに収まっているはずだ。そしてその難しくもない推測は当たっていた。


「いたのか?」


「・・・・ズラ」


「なんだって?」


「いるズラ」


 当りだ! 


「コイツズラ。この女がオラを吹き飛ばした魔女ズラ!」


 そう言ってガラス渡りは一人の女子生徒を指し示した。


「・・・・・本当にこの人物で間違いないのか?」


 全身がざわついたのと同時に頭の片隅にあった空白の部分に何かがスッと収まる感覚が襲った。


ページを捲り彼女の写真が目に飛び込んだ時は『ああ四組だったんだ』くらいにしか思わなかったのだが、実際は思考の奥底で何かがずっと引っ掛かっていたことを今こうして事実を突きつけられたことで初めて認めることができた。

 

 要はフラットに物事を見ていたつもりがいつの間にか感情が先行してしまい、色眼鏡補正が掛かってしまっていたのだ。


 だがそれでも俄かには信じられないという気持ちは残っていた。

「オラが見間違うはずないズラよ。間違いなくこの女ズラ」


 ガラス渡りの勘違いかもしれないという僅かな希望もすぐに消えこれ以上確認するのは無駄なことだと結論付ける。


「このクラスの中に・・・・」


「ああ」


「そう、なんだ・・・」


 真犯人が見つかったのなら喜びはせずとも普通は前向きな言動をするものだが、俺の独り言に見えるガラス渡りとの会話とこのページに彼女も良く知る人物が写っていたことから河島さんもある程度察したようだった。その証拠に喜ぶどころか反対に不安な表情をさせ落ち着かない様子だ。


「だけど俺達にとってはあまり良い結果とは言えないな」


「じゃあやっぱり彼女が・・・・」


 河島さんはアルバムの中に写る一人の人物を指す。それはガラス渡りの小さな手と重なった。


「コイツの言うことが嘘でなければの話だけどな。だが正直なところこれからどうすればいいのか頭が真っ白だ」


 これが知らない奴だったり関りが薄い奴ならいくらでもやりようはあったのだが、彼女相手ではそう簡単に割り切ることが出来ない。


「このまま事件の真相は分からなかったことには?」


 それも一つの手だ。しかし本当にそれでいいのだろうか?


「どうだろうな? 根拠は? と聞かれたら困るけど、誰もその結果を望んでいない、俺はそんな気がするんだ」


「じゃあどうするつもりなの? どちらに転んでも後味が悪いことには変わらないと思うよ。それに・・・」


「分かってる。そもそも真相を皆に開示したところで誰も信じないだろうしな。そうだろ、ガラス渡り」


「さあ? オラは人間の考えていることなんて分からねえズラ。でもオラが知ってる人間ならまず間違いなく何言ってんだって鼻で笑うズラね」


 問題はまさにそれだ。この家の住人だけなら説明のしようがあるが、一週間前の俺と同じ何も知らない人間であればこんな突拍子もない話なんて誰も信じないだろう。まあ真犯人である彼女だけはその限りではないが・・・・・・・・ちょっと待て、何か見落としている気が・・・・・


「なあガラス渡り、お前が吹き飛ばされたときあの教室にいたのは魔女だけなのか?」


「他に三人いたズラ。でもそいつらは何もしてこなかったズラよ」


「それはお前に対してだろ。んで他に三人いたんだな? そいつらはどんな奴だ?」


「さあ?」


「さあ? じゃねえ。ちゃんとよく思い出すんだ」


「そんなこと言われても困るズラ。オラいきなりのことで魔女以外のことはあんまし覆えてないズラよ。ああでもほかの三人は皆魔女と同じ服を着てたのは覚えているズラ」


 ということはその場にいたのは女子ってことか。


「ここにある顔写真見たら思い出せるか?」


「・・・・自信ないけど一応見てみるズラ」


 もう一度一組のページに戻り確認させる。記憶があいまいと言っていたが写真を見れば何か思い出すかもしれない。



「ああコイツはもしかしたらいたかもしれないズラ」



 全クラス分の写真をを見たがガラス渡りが微かに覚えていたのは一人だけだった。しかもその唯一挙げられた人物さえガラス渡り自身も不確かだと言っていた。


 しかしその人物をガラス渡りが指さしたとき、俺は何かあると直感した。


「この小山鞠で間違いないな?」


 その人物とはつい先日あったばかりで押切に想いを寄せている小山鞠だった。


「そんなこと言われてもオラには多分としか言えないズラ」


「高遠君はこの人を知ってるの?」


「ああ。今日ここに来てる押切に頼んでこの間会ったんだよ。当時の状況を詳しく知りたくて話を聞いたんだが、どうしても気になることがあってな」


「気になること?」


「ああそれは・・・」


 トントン


 俺が考えていることを説明しようと思った矢先、部屋の扉を誰かがノックする。


「誰?」


「あー取り込み中だったらゴメンよ」


「そんなことしてねえから。用があるならさっさと入って来いよ押切」


 何勘違いしてるんだか・・・・・・


 「畳の部屋なんだな」と部屋の中を観察しながら押切が入ってきて、


「もしかしてそれはうちの学校の卒アル?」


 床に広げられたそれが自分の母校のものだと気付いたようだ。


「まあな。別にお前の写真を見て笑ったりしてないから安心していいぞ」


「別に笑いたければ笑っても構わないさ。ところでそんなものを見て何してたんだい?」


 笑えるものなら笑ってみやがれってか? どんだけ自分に自信があるんだよ。


「ちょっとした好奇心だよ。自分が通っていたかもしれない学校どんな奴がいたのか見てみたくなっただけだ」


「律樹は嘘をつくのが下手だなあ。もうちょっとマシな嘘つけないのかい?」


「別に嘘は言ってないぞ」

 

 当たらずも遠からずってところだけどな。


「まあ君たちがそれを使って何をしようと僕がとやかく言えることじゃないからこれ以上は何も言わないけど・・」


「ならこの話はもう終わりだな」


 もっとこのことについて踏み込まれたときのための言い訳を考えていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。一応念押しでアルバムは閉じる。悟られないようそっとさり気なくにだ。


「だけど今日のことはちゃんと説明してくれる約束だろ?」


「ああ今日学校へ行った本当の目的の話だろ? ご察しの通りあの事件について何か分からないか調べてた」


「驚いた。そこは正直に答えるんだね」


 俺が事件について調べていることは押切も既に知っていることだし、下手に他の言い訳をしたとしてもおそらくコイツは信じないだろう。だったら嘘のない範囲で正直の答えた方がベターだ。


「隠す必要もないからな」


「まあ文字さんを餌にしてまで僕を利用したからにはそれなりの事情があるとは思ってたよ」


「でもだったらどうして昨日の時点でそれを聞いてこなかったんだ?」


「聞いたところで君がまともに教えてくれるとは思えなかったし、何より僕としてはそんな事より彼女に会うことの方が重要だったから」


 コイツ平然と言いやがった。お前の方がバカ正直だろうに。


 まあしかし気になっていたことを聞くとしたらこのタイミングしかなさそうだ。


「・・・不躾な質問するぞ。お前と文字さんの間に何があった?」


「ホント不躾だな。でもそれを聞いて律樹はどうしたいんだい? 仮に僕が彼女のことを好きだと言ったらキューピットにでもなってくれるのかな?」


「そうだなあ、場合によってはそれも考えてもいいが、そうじゃないんだろ?」


 今日の二人の様子を見て男と女が付き合って別れた後とのようなぎこちなさに似たものを感じた。だが似ているだけで二人が付き合っていた証拠にはならないしそんな話は誰からも聞いたことがなかった。もちろん隠れて付き合ってたってことなら話は別だが、そんな感じでもない気がする。


 だから決して浅くはない何かしらの関係性が二人にはある、もしくはあったと俺は推測している。


「・・・・君はどこまで知っているんだい?」


 どこまでと言われてもなあ・・・・・


「いや何も。まあよくあるその手の噂とその根拠みたいなのは聞いたことあるかもな。いわゆるラノベ的展開ってやつ?」


 何も知らないのは本当のこと。だが押切は俺が何かを知っていると勘違いしているようだし敢えて含みを持たせておく。まあラノベ云々は余計だったかもしれんが。


「そうか・・・・・やっぱり隠し通せるものでもないよな。誰から聞いたのかは知らないけどそれは間違ってない。僕と文字さん・・・玲美は兄妹だったんだよ」


「「えぇー!?」」


「えっ?」


 その思いもよらない衝撃的な事実に対し俺と河島さんの驚嘆の声が部屋の中に大きく響く響く。


 そして押切は目を丸くし口をポカーンとさせながら唖然としていた。


 



 






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