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6 お誘い

リビングのソファーの上でまったりとしながらテレビを見ている人物がいるが一体誰だ?


「あーお帰り律樹」


 その人物は俺が入ってきても慌てることもなく、平然とそう言った。


「えっと・・・・どちら様ですか?」


 違う何言ってるんだ俺は。どう考えても不法侵入だろ。いやでも俺の名前を知っているってことは・・・・・・


「随分大きくなったもんだな。まさかこんなに成長しているとは思わなかったぞ。最後に会ったのはもう十年以上前だったか?」


 俺はこの人と会っている? ということは・・・・


「もしかして祖父ちゃんの知り合いですか?」


「あれ、聞いてないのか? 今日からしばらくここで世話になることになっているんだが」


 やっぱりそうだったか。あれから丁度一週間が経過している。タイミング的には彼が二人目の入居者ってことだよな。年齢は祖父ちゃんと同じくらいだろうか?


「あ、いえ。聞いてるには聞いてたんですけど、まさか連絡もなしにやってくるとは思ってなくて」


 ていうか光男さんの時も同じだったし、祖父ちゃん俺に対してワザと黙ってるんじゃないのか? だとしたら後で文句を言ってやろう。


「なら問題ないな。ところで今日の晩飯はなんだ?」


 おい、自己紹介もなしにそれかよ。


「えーとその前に名前を聞いても?」


「おっとすまない。自己紹介どころか挨拶もろくにしてなかったな。ワシは岡本孫七だ、孫七って呼んでもいいぞ。それと源六とは古くからの知り合いでな、少し前奴と久しぶりに会ったんだが、その時にここの話を聞いて暫く厄介になることに決めた。まあそんなわけで宜しくな律樹君、いや昔みたいに律坊でいいか?」


 昔みたいにって言われても俺は全然アンタのこと覚えてないし、恐らく本当に小さいころに会ったんだろうな。


「全然構わないです。一応俺も。高遠源六の孫で律樹と言います。今年高校に入ったばかりでこっちには六年ぶりに帰ってきました」


「そのようだな、源六からはそう聞いておる。それからワシの他にあと一人同居人がいると聞いておったんだが、学生か? それとも社会人か?」


「普通のサラリーマンみたいですよ。いつも七時過ぎ頃帰ってくるのでもうしばらくは帰ってこないかな」


「なら晩飯はその時でいいぞ。皆で一緒に食べた方が律坊も楽だろ」


「そうしてくれると・・・・っと、ちょっとすいません」


 スマホが電話の着信を伝える。もしかしたら祖父ちゃんかもしれない。と思ったが予想は外れたようだ。


「珍しいですね光男さんがこんな時間に掛けてくるなんて。何かありましたか?」


 掛けてきたのは光男さんだった。ここ一週間で何回か掛けてくることはあったが、いつもは夕方頃で、大体は少し帰るのが遅れそうとかそんな内容だった。


『急で申し訳ないんだけど、今日同僚と食べに行くことになったから夕ご飯はいらないかな』


「了解です。帰っては来るんですよね?」


「ああ、遅くても十時には帰ると思う」


「なら明日の朝食は必要ですね」

『そっちは頼むよ。君と暮らし始めてから朝食べるの習慣になってしまって、食べないとなんだか物足りなくてね。あ、そろそろ戻らないと、じゃあ宜しく」


忙しいのだろうか、直ぐに通話が切れた。


「残念ながら光男さん・・・さっき言ってた最初の入居者の小笠原光男さんって言うんですが、彼は今日ご飯いらないそうなんでもっと早くしてもいいですよ」


「そうか、なら律坊の都合に合わせるぞ。で、晩飯はなんだ?」


 この爺さんやけに食い意地張ってるな。そんなに腹減ってるのか?」


「今日は照り焼きチキンとあと抵当に二品くらい作ろうと思ってるんですけど、嫌いな物とか食べられないものってあります?」


「強いて言えばキノコ類が得意ではないが、出されたら何でも食うぞ」


 キノコかあ。俺結構好きだから割と使うんだけど、今度から考えなきゃな。


「了解です。とりあえず六時を目途に作りますね。家事の分担は明日以降決めたいと思うので今日はゆっくりしてください。荷物の整理とかもあると思うので」


「もうとっくに終わってるぞ。実は十時頃にはここに着いてたからな。ああそうそう、念のため言っておくがここの鍵は源六から預かっていたからちゃんと普通に入ったぞ」


 逆に普通じゃない入り方ってなんだよ。気になるけどなんか聞くの怖いしやめとくか。


「ははは、祖父ちゃんの知り合いって聞いた時点で何となくわかってましたから。じゃあ俺は部屋に行くんで・・・・・・って因みにどの部屋を使ったんですか?」


「ん? 悪いが一番広い部屋を使わせてもらってるぞ。二階の部屋全部覗いてみたが八畳はあそこだけらしいな。それにベットも広い。ワシは寝相が悪いから丁度良かったわい、わっはっはー」


 え、全部?


「・・・・・・・・・ならよかったです。どうせ早い者勝ちだし好きに使ってください。じゃあ行きますね」


「おう」


 そのまま自室に入り着替えを済ませる。そして直ぐに二階へと上がり、とある部屋に向かう。孫七さんが入居したのは二階の右奥の部屋。しかし用があるのはその正面にある光男さんの部屋だ。

 孫七さんは二階全ての部屋を見たと言っていた。家主が帰ってくる前にその行動もどうかと思うが、今はそんなことよりもっと重要なことがあった。それは以前うっかり目撃してしまった大変メルヘンチックな光男部屋を孫七さんが見てしまったかどうかだ。彼のあの様子だと鍵がかかってなければ無遠慮に開けズカズカトと入り込みそうだし、開いて無くても普通じゃない方法でこじ開ける可能性だって無きにしろ有らずだ。そこは孫七さんの良心やモラルに委ねるしかない。いや流石に閉まっている部屋を勝手に開けるまではしないか。



「・・・・・開いてるし」


 ドアノブは抵抗が掛かることなく回ってしまった。


 つまりこれって・・・・・・・・見たってことだよね。そして多分光男さんは鍵を閉め忘れて出て行ったんだ。


 ということはつまり孫七さんは十中八九見たってことになるんだが・・・・・・


 もしかしたらあの時から部屋の様子は変わってるかもしれない。それか俺の見間違えで実は最初から普通のごく一般的な男の部屋だった可能性も・・・・・・・・


 ある訳なかった。申し訳ないと思いながらも中をチラッとだけ覗いてみたが、以前と全く同じ・・・いや寧ろ強調されているというか、メルヘンが1.5倍増しに見えたのは気のせいだろうか? うん気のせいだなきっと・・・・・・・


 そっとドアを閉め一階に下り自室に戻った。


 光男さん・・・・・・とりあえずちゃんとドアの鍵閉めましょうね。





 翌日


 朝の家事を済ませ学校へと向かう。今日から一人分多く作らなくてはならなかったが、二人も三人も手間は大して変わらなかった。

 朝のHRは八時半からなので今日は八時過ぎに出発していた。


 そう言えば昨日光男さんと孫七さんが顔を合わせた時至って普通だったな。まあそれが当たり前なんだけどさ。でも孫七さんは汚物を見るような、まではいかなくても訝しむ視線を光男さんに送ると思って

いたが、そんな様子は微塵も見せず二人して楽しく酒を酌み交わしていた。


 まあ二人ともいい大人だしそんなものなのかもしれないな。


 


 教室に着くと大半の生徒が既に登校しており各々自由に過ごしており、そこには弛緩した空気が漂ってた。一哉はまだ来ていないが河島さんは登校しているようだ。昨日の放課後同様彼女の席の周りに数人の女子生徒の姿がある。


 なんだ既に人気者じゃん。これなら完全に俺の任務は終了だな。何もしていないけど。

 それに一哉のこともあるし今日からは予定通り最低限の付き合いでいいな。そう言えば奴想い人モンちゃんこと文字さんはどこだ・・・・・


「よっ、高遠君」


 文字さんを探そうとしていたら後ろから声が掛かったので振り返る。するとそこには満面の笑みを浮かべた一哉の姿があった。


「・・・おはよう橋本君。ていうかなんで苗字呼び?」


「だって名前で呼び合う程親しくないんだろ俺ら」


「別に知り合い程度でも普通に下で呼ぶだろ」


「んじゃそうする」


 と言ったあと顔を近づけ小声で話し始める。


「どうだこの空気感、俺がどれだけ有名人なのか思い知っただろ?」


 言われなくても分かってる。一哉が俺に声を掛けてきた瞬間、まるで打ち合わせをしたかのように教室内が静かになったから。昨日は入学初日ということでガラスと少年の事件を知らない奴が多かったのだろう。だから今みたいなことは一切なかった。しかし今日は明らかに違う。既にクラス中に知れ渡ってしまっていることはこの状況を見れば明らかだ。それに輪をかけて一哉は割と大きな声で話し掛けてきたので一気に注目を浴びてしまった。


 コイツ、俺にこのことを知らしめるためにわざと大きな声だしただろ。しかも吹っ切れたのかそれとも無理しているのか分からんが妙にテンションが高い、そんでもって少しウザい。


「ハイ終了ー。これ以上話すには友達になる必要があるのでお引き取り下さい」


「たはは、わかったわかった退散するよ。んじゃ後で適当にな」


 まあとりあえずはこれくらいの距離感で様子を見るか。それより文字さんは・・・・・


 彼女も既に登校していたようで自分の席に座っていた。しかし何をするでもなく真直ぐ前を向いて微動だにしない。後ろ姿しか見えなかったのでただボーッとしているだけなのか、それとも精神統一か何かしているのか分からないが(それはさすがにないよな・・)、一哉とは別な意味で浮いているように感じた。


本日も授業は無くLHRを二時間と学校の設備を案内され終了した。LHRでは各種委員が決められたが委員会の数が少なかったかともあり今学期は無事無職のままで過ごせそうだ。

途中一哉と話をしたりしたが、他のクラスメートともぼちぼち話をした。今のところ俺に対しては普通に接してくれているのでまだ一哉と友達認定されていないのかもしれない。


「高遠君ちょっといい?」


 帰り支度をしているところに一人の女子生徒が声を掛けてきた。


「文字さんだよね、どうかした?」


 まさか彼女が俺に話しかけてくるとは思っていなかった。チラッと一哉の方を見るとアイツも彼女の行動が気になったのかこっちを見ていた。


「ここだとちょっと・・・」


 俺に話はあるが周りに人が居るところでは話せないってことか。


「なら外行く? それとも飯でも食いながら話する?」


 なんか教室の一部で少しざわついているが気にしないでおく。


「ご飯はいい。近くのコンビニに行こ」


「了解。文字さんも自転車通学だよね? 二人で一緒に行くのは恥ずかしいから別々でもいい?」


 一哉の手前もあるしな。


「構わないわ。先行ってるから後からきて。別に急がなくてもいいから」


「んじゃ二時間後に行くわ」


「わかった待ってる」


「おい冗談だと気づけよ」


「そうなの? 別に私は構わないのだけれど」


「本当に文字さんはそれでいいのかよ?」


「まあ高遠君が遅れた時間分だけ鬱陶しいその前髪を引っこ抜くけど、構わないかしら?」


「・・・・・直ぐ行く」


「ふふ待ってるわ」


 そう言い残しそのまま教室から出ていく。


 文字さんってこんなキャラだったの? 小学校の時の彼女がどうだったかあまりよく覚えていないけど、少なくてもこんな感じじゃなかったような気がする。後で一哉や比呂斗達にでも聞いてみるか。ていうか俺が訊く前に一哉からの質問攻めにあいそうな気もする。終始こちらの会話を気にしていたようで彼女が教室から出ていくまでの間ずっと視線を送っていたし、今は俺に対して何かを言いたげにこっちを見ている。


 向こうから話しかけてきたんだしそう不服そうな顔しなさんな。


『話があるから後でまた連絡する』


 先手を打ってRHINEを一哉に送る。それを確認した一哉はその場で俺を見ながら頷いた。直ぐに出ると駐輪場でかち合いそうなので少し時間をおいて移動することにした。その間に一哉が教室から出て行ったが、もしかして彼女の後をつけたりしないよな? まさかね。



 五分後に移動し始め一階に下りたところで、


「高遠君」


 と声を掛けられる。


 今日はよく話しかけられるな。しかもまたしても女性だし。


「ああ水堀さん、こんにちは。自転車の許可証はまだ連絡がつかなくて・・・」


 聞き覚えがあると思ったら事務の水堀さんだった。


「ああそれは別に急がなくていいの」


 なら良かった。実は昨日祖父ちゃんに電話したが繋がらなかった。家の方に掛けてみたら祖母ちゃんが出て「遠出してるから祖父さんは今日帰ってこないよ」と言われた。まあ何かあった訳じゃなさそうだから安心したけど、スマホ持ってるなら掛け直して来いって話だよな。あれから一折り返しは無い。


「実は君にお願いがあるんだけど」


「お願いですか? ああそう言えば河島さんは大丈夫そうでしたよ。今日もクラスの人と仲良くお喋りしてたし俺が仲良くする必要はなさそうですね」


 寧ろ俺の方が心配だけどね。


「へーそれは意外・・・っていったら失礼か。それなら良かったけど、でもせっかくだしそんなこと言わないで仲良くしたら? すみれちゃん可愛いし・・ってそうじゃなくて、君って何処か部活に入る予定ある?」


「部活? えーと家との都合がつけば入るかもしれませんが、どうしてですか?」


「実は三年生の子に頼まれたのよ。今部員が三人しかいなくて困ってるみたいで私にも勧誘活動手伝ってほしいってね。と言っても私はただの事務員だしあまり生徒と関りがないからさあ、とりあえず知っている新入生に片っ端から声かけてるの」


「それは大変そうですねえ。それで何部ですか?」


「菜園部よ」


「菜園部・・・・普通に考えて野菜とか作ったりする部活ですよね。花とか植物だったら園芸部だし」


「うちには菜園部はないわ。その代わり菜園部で花を育てたりもしてるの。どう? 拘束時間は少ないし取れたての野菜も食べられるわ。それに余った分はみんなで分けて持って帰れるからお財布にも優しいよ」


 ちょっとだけ興味が湧いてきたな。まだ祖父ちゃんと食費などの生活費について詳しく話していないし、実際月にいくらこっちに振り込まれるか未だ謎なんだよな。今後住人が増える可能性もあるし、そうじゃなくても切り詰めれるところは切り詰めたい。

 しかしどうせなら他の部活も見てみたいし保留にしておくか。


「うーん、一応頭には入れておきますよ。今すぐ返事しなくてもいいんですよね」


「もちろん。でもいい返事待ってるわ。ああそれからすみれちゃんにも話しておいてね。高遠君とはこうして偶然会えたけど、基本生徒と会う機会は少ないから」


「わかりました。タイミングが合えば話しておきます」


「えー同じクラスなんだし普通に話しかければいいじゃん。もしかして恥ずかしいのかなあ?」


 揶揄うように言うその表情はまるで小悪魔みたいで不覚にもドキッとしてしまった。狙ってやってるとしたら相当あざとい人だ。


「色々あるんですよ。なので期待半分の半分くらいで待っていてください」


 まあそのうち話しかけられそうな機会があるかもしれないしな。


「仕方ないなあ、それでいいから待ってるわね。じゃあ私仕事に戻るから」


 水堀さんは事務室へ戻っていった。


 そういえば河島さんって美術部に入るとか言ってなかったか? 




 


 

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