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58 ライドオン

「あんな小物が気になるのかー?」


「小物と言えど立派な妖だろ。それにそいつのこと良く知らないと言うことはガラスを渡り歩く他に何か能力があるかもしれない。それが俺の知りたいことに繋がるかは自信がないけどさ、何もないよりはマシだろ」


「・・・・分かったー。明日にでも行ってやるぞー。その代わり学校までオレッチ様を連れてけよー」


「それくらいお安い御用だ。もしかして今日孫七さんに学校への送り迎えしてもらったのか?」


「朝は光男だぞー。この姿で歩くのは大変なんだー。だからオレッチ様をもっと労わりやがれー」


「分かってるって。ちゃんとお前の分の酒は別でとっておいてあるから」


「ゲコッ苦しゅうないー。と言うか今すぐ出せー」


「話が終わってからな。あっこらペンシー、猫じゃあるまい壁をガリガリするな」


 さっきから気になっていたのだが、ペンシーはまるで猫のように部屋のあちらこちらを爪でガリガリしていた。大した傷はついていないが、ここはちゃんと躾しておかねばなるまい。


「アン!」


「分かればよろしい。ほらこっちこっち来い」


「アンアン」


「おーよしよしいい子だぞー。いいか、家の中でガリガリしちゃだめだからな」


「アン!」


「お前ってホント返事だけはいいよな。ちゃんと理解してるのか心配だなあ」


「アン!」


「・・・・まあいい。もう少し時間かかるから暇ならリビングの方に行って誰かに遊んでもらってこい」


 部屋のドアを開けると俺とその開かれたドアをキョロキョロと交互に見るペンシー。そして「アンアン」と鳴きながら出て行った。


「なんか言葉を理解している感じがするんだが、俺の気のせいか? まさかあいつも・・・・」


「オレッチが断言するがー、ペンシはーただの犬だと思うぞー」


 妖が見えるトウラが言うなら俺の勘違いだな。


「妖のことは大体理解した。それじゃあ最後に噂の方を教えてくれ」


「任せろー。多かったのは・・・・・」


 

 たった一日調べただけなのに結構な量の噂をトウラは集めてきたようだ。


 コイツ何気に諜報員とか向いてるんじゃね? トウラのクセに生意気って感じはするけど、それを差し引いても余りある成果をコイツは見せつけてくれた。



「なるほど、その中学生くらいの少女の幽霊が一番目撃情報が多いんだな。二番目の年齢不詳の片足男は目撃者数的に他とそう大差ないところをみると、やはり調べるべきはその少女だな。なあ幽霊なのに底抜けに明るいって本当なのか?」


 情報によるとその少女の幽霊はいつも楽しそうに笑っているらしい。逆に怖い気もするのだが、見た人の殆どが恐怖を感じなかったという何とも奇怪な幽霊さんのようだ。


「ただの噂だぞー。オレッチは見てないし、多分これからも見えないと思うぞー」


 まあ数百年生きていて一度も見たことがないと言うならトウラにはそっちの資質はないのかもしれないな。ていうかコイツの存在自体がもう妖だろ。


「流石に見えないんじゃどうしようもないかあ・・・・」


「それに本当にいるかどうかは分からないぞー。確かめたいなら槍の娘を連れて行くのが一番いいと思うー」


「まあそれしかないよな。だけどそう簡単に部外者が潜り込めるとは思えんしなあ・・・」


「だったらあの爺さん達に頼んだらどうだー?」


 祖父ちゃんたちか・・・・確かに一日学校に入る手配くらい難なくやってしまいそうだが、そう簡単に頼る訳にもいかないんだよなあ。


「あの人達に頼るのは止めておこう」


「ゲコッならどうするのだー? オレッチのようにカエルになって忍び込むかー?」


「笑えん冗談はよせ。とは言っても卒業生でもない俺や夏鈴さんが入れるわけないし・・・・ん卒業生?」


「何かいいアイデア思いついたのかー?」


「思いついただけな。OKしてくれるかはまた別の話だ」


 何もグレーな方法を採らなくても学校へもぐりこむ方法は少なからずある。


「なら早くそいつに連絡して何が何でもOKさせるのだー」


「無理強いをしたら返って心象悪くさせるからダメだ。それに物事には段取りってものがあるんだよ、トウラ君」


「なんかムカつくー。それで槍の娘は連れて行くのだろー?」


「それはゴメンー。今のところ夏鈴さんしか当てがないからな。噂が真実なら在校生か、少なくとも卒業生の中に幽霊が見える人物が存在することになるんだが、流石にそこまで探す余裕はないから」


「ゲゴッ、小僧生意気すぎると本気で食っちまうそー」


「それは構わんがそうなると今度はお前が夏鈴さんに串焼きにされて食われると思うぞ」


「・・・・・・・・あの娘ならやりかねんー」


「槍使いだけにな」


「・・・・・・・」


「いやせめて何か言えよ。俺が恥ずかしいじゃねえか」


「小僧ー、哀れだなー」


「・・・・すまん全面的に俺が悪かった、許してくれ」


「ゲコッ全然怒ってなかったぞー」


 嘘つけ。いつもは「ゲコッ」なのにさっきは「ゲゴッ」って低く鳴いてたぞ。真から聞いたけど鳴き方が低いときは機嫌が悪い証拠らしい。まあ俺が揶揄ったのがいけないんだけどね。


「どっちでもいいさ。おっ、もう返信来たぞー。OKだってさ」


「さっきからスマホ弄ってたのは誰かに送ってたんだなー」


「まあな。了承もらったし早速アイツに連絡するか」


「ん、学校に潜り込む算段がついたんじゃないのかー?」


「それはまだこれからだ。ちょっと待ってろ・・・・送信っと」


「どういうことなのか説明を求めるー」


「まあ待ってろって。話が決まったらすぐ話してやるから。おっコイツも返信早いな。やっぱモテる男はこう言うところマメなんだよなあ。どれどれ・・・・・・よし! 思った通り食いついてくれた」


「食いついたー? 餌でもまいたのかー?」


「本人にそんなこと言ったら絶対怒られそうだな。でもまあそんな感じだ。しかも都合が良い事に早速明日学校に潜り込めそうだ」


「決まったなら早く教えろー」


「簡潔に言うと明日の午前中バスケ部の練習に参加できることになった」


「バスケー? 本来の目的はどうするつもりだ―?」


「飛び入りみたいなもんだし何もずっと練習に参加する必要もないだろ。タイミングを見計らって抜け出すさ」


「あの槍の娘も連れて行くんだよなー、大丈夫なのかー?」


「まあそこまで厳しくないだろうしどうとでもなるだろ。まあ先に夏鈴さんがついて来てくれるか聞かないといけないけどな」


「明日なら問題ないわよ」


「ゲェェグォッ!」

「うおっ!」


「む、娘いつの間にー・・・・」


「夏鈴さん心臓に悪いから気配消して入ってくるのやめてくださいよ」


 またもや前触れもなくいきなり夏鈴さんが部屋に現れ、俺達が驚く様子を見てケラケラと笑っていた。


「でもワタシに用があったのでしょ? なら丁度良かったじゃない」


「・・・・・どこら辺から話を聞いてたんですか?」


「律樹がスマホを弄り始める少し前かしら。ワタシ耳が良いからこの部屋の前を通った時二人が話しているの聞こえてきて気になったの。聞き耳を立てるのも悪いと思って部屋に入ったのだけど、まさかここまで気付かれないとは思っていなかった。お爺ちゃん達なら間違いなくすぐ気付いてたわ」


 悪いと思ってるのなら普通に入ってくればいいのに、なんでわざわざ気配消すんだよ。この人絶対驚かす気満々だったろ。


「あの二人が普通じゃないだけじゃ? それにしてもトウラまで気付けなかったとは意外だったな」


 曲がりにもコイツは数百年生きている半分妖みたいな存在だし察知できてもおかしくないと思うのだが、それ以上に夏鈴さんが優秀だったってことなのか?


「ゆ、油断してただけなのだー。次は絶対気付けるのだ―」


 口では強気なことを言っているがどことなく自信なさげだな。


「聞いていたなら話が早い。夏鈴さんには中学校に幽霊がいるかどうかを確認してもらいたいんだけど、本当に見えるんですよね?」


「見えるわよ。でも全部が見えるとは限らない」


「どういうことですか?」


「ワタシがいた世界だと互いの魔力の波長が合うと念話なんかが使えるの。これを魔調と呼ぶのだけど、こっちの世界でいう電波みたいなものかしらね。これはワタシの推測だけど、対象の幽霊と波長みたいなのが近いことで初めて視認することが出来ると思うの」


「その過程が正しければあの学校にも波長が合う人物がいて、その人が幽霊を目撃した可能性も十分あるってことか」


「全ての目撃情報が真実とは限らないけど十人いたら一人くらいは本当に見ていてもおかしくはないわね。それ以外は噂に乗っかった出まかせと言うところかしら」


 それが一番妥当な気がする。それに例え自分に見えたとしてもそれを証明できる奴はもっと少ないのだろう。大抵はホラ吹き呼ばわりされて終わりだ。


「見えなくても感じるとかはないですか? 波長が微妙に違うせいで視認は出来ないけど気配は分かるとか」


「そうね、経験上で言ったら律樹の言う通りよ。寧ろそっちの方が多いと言ってもいいわ。だからハッキリとは見えなくても近くまで行けば感じることはできるかもしれない」


 理屈では理解していても未だにピンと来てないんだよなあ。


「ちょっと疑問なんだけど、幽霊と妖って違うんですよね。だとしたらその区別もついたりできるんですか?」


「これはワタシの勘でしかないけど、私は全ての妖を視認することが出来ると思う。逃げられた時は除き気配を感じて見えなかったことは一度もない。それに幽霊と妖とでは気配の質が全く違うから間違うことはまずありえないと言ってもいいわ」


 見ることが出来だけでなく気配だけで区別できるなんて、やっぱこの人尋常じゃねえ。


「なるほどねえ。因みに妖と意思の疎通は可能なんですか?」


「相手にその意思と手段があれば可能ね。妖の中には人の言葉を話せるものもいるし、例え話せなくてもその個体特有の言語みたいなのも存在するわ。後者の方はどちらかと言うと好戦的な奴が多いわね。反対に意思疎通の手段を持たない者は概ね不思議な現象を起こすだけの存在と思っていたら間違いないと思う。人や動物ではない何かがが不思議な力を起こす存在を総称して怪異と呼び、その中でも一定以上の知能を持つものを妖と思えばいいわ」


「そうなるとトウラの場合どのカテゴリーに入るのかなあ?」


「ムム、オレッチは人間だ―! 決して妖なんかじゃなぞ」


「どっち付かずってところね。強いて言うならカエルに憑依した元人間の幽霊ってとこかしら」


「ゲゴッ! 『元』じゃない、今も歴とした人間だー。おい槍の娘!」


「何かしら?」

 何か二人の間に不穏な空気が流れている。気がする。


 片方はカエルなので表情が分かりにくく、もう片方はニヒルな表情をさせているだけで表面上の凄みはない。しかし互いに視線は外さずまさにお見合い状態だ。(睨み合ってはいない)


「ゲコッ・・」


 おっトウラの方から何か仕掛けそうな雰囲気が?


「ゲコッ、ゲコゲコゲコッ!・・・・・・・・・・・あっちで飲み直すのだ―」


「そうね、ワタシもまだ飲み足りなと思っていたところだし付き合うわよ」


 ああこれは完全にトウラが怖気づいたって感じだな。これにて格付け終了ってか?


「ゲコッ、ペンシー!」


「いきなりでけえ声出すなよ。それにどうせ向こう行くんだからわざわざ呼ぶ必要ないだろうに」


「ゲッゲッゲー、まあ見てろよー」


「アンアン!」


 呼ばれて走ってペンシー登場。トウラは一体何のために呼び寄せたんだ?


「ライドオンだー!」


「アォーン!」


 遠吠えした後床に突っ伏すペンシー。そしてその上にトウラがピョーンと飛び乗った。どうやらペンシーを自分の足代わりに使うようだ。


「へー中々似合ってるわよ。それにこの子賢いわね」


「犬に乗るカエルねえ・・・・。上がキモイ生き物で下が可愛い生き物。これが本当のキモ可愛いってやつだな」


 そんなどうでもいいことを考えているうちに右前足(右手?)を挙げトウラが号令をかける。


「よし進むのだ―」


「アン!」


 ペンシーの体系の割りに上に乗るトウラが大きいせいか、廊下のフローリング面に出るとズルッズルッと足を滑らせながら歩いていく。それでも何とか踏ん張りながらペンシーはリビングの中へと入って行った。


 あ、写真撮っておけば良かった・・・・・・・



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