57 恐ろしいものは
俺と河島さん、それに夏鈴さんを加えた三人以外の夕食を作った。今回は河島さんも手伝ってくれこともあり皆を待たせることなく夕食を食卓に並べることが出来た。流石自分で得意と言っていただけあり河島さんの料理の腕は確かだったので精神的に参っていた俺にとって非常にありがたかった。。
そして食事が終わったのを見計らいトウラを自分の部屋に呼び出したのだが、何故かペンシーまでついてきた。
「真は?」
「一緒に来た方が良かったのかー?」
「いつも一緒に居るから何となく思っただけだ。ペンシーはなんで連れてきたんだ?」
「真は学校の宿題をしているのだ―。それとコイツは勝手に付いてきただけなのだ―」
誰にでも懐くと思っていたがまさかカエルにまで懐くとは思わなかった。
「まあいいさ。ペンシー、多少はしゃぐのは良いけどあまり散らかすなよ」
「アン」
返事は良いのだが、コイツちゃんと理解しているのか? 今のところ部屋の中をぐるぐると回りながら匂いを嗅いでいるだけで一応大人しくはしている。
「小僧、早速だが今日オレッチ様が調べてきたこと話すぞー、覚悟はいいかー?」
「覚悟が必要なほどやばいものが見つかったのか?」
「それは小僧次第だぞー。貴様にも関係ある話だしなー」
俺に関係ある? 一体何のことだろうか。
「分かった、一応心構えはしておくさ」
「因みに小僧に関係ある話と関係ない話、どっちから聞きたいかー?」
「そうだなあ、やっぱ気になるし関係ある方からだな」
「分かったのだー。まずは真の兄と姉なんだが今学校で大変なことのなってるぞー」
真の兄と姉か。確かに無関係ではない話だな。
「具体的には?」
「ゲフッ・・・兄と姉どっちから聞きたいー?」
今コイツ笑ってなかったか? 人間と違ってカエルの表情は分かりづらいけど、雰囲気的に下卑た笑いをしたように見えたのは気のせいか? それに『ゲフッ』とか漏らしてたし。
「姉から出頼む」
何となくだが姉と比べ兄の方が大変なことになっていそうな気がしたので、ここは段階を踏んだ方が気持ち的にも良さそうだ。
「姉だなー。アイツは交通事故に遭って怪我をしてるぞー」
「おいマジかよ! まさかかなり重傷なのか?」
「学校には来てるぞー」
ならそこまで酷くないってことか。でもこのタイミングで交通事故って、まさか・・・・
「おいそれって・・」
「待て小僧、話しには続きがあるから黙って聞くのだ―」
「お、おう」
「オレッチの調べによると姉が怪我をしたのは今のところ全部で六回で交通事故は最初の一回のようだぞー。そして腹、背中、左腕、右腕、左足、右足をそれぞれ順番に怪我したのだ―。ゲフッ、小僧これはどう思うー?」
「異常すぎるだろ。ていうかよくそれで学校に行けるよな。もしかして大して怪我じゃないってことか?」
「一つ一つの怪我はそう大したものじゃない―。だが小僧、姉の怪我は見た目では分からないんだなー」
見た目では分からない怪我? 精神的な痛みとか? いやでも六ヶ所怪我をしたとハッキリ言ってたから違う気がする。
「でも怪我はしてるんだろ。体の内側とかそういう所ばかりってことか?」
「違う違う、違うぞ小僧―。よく考えろ、真はアイツらにどんな風に怪我を負わされたか考えるのだ―」
なんでここで真の話が出てくるんだ?・・・・・・・・いや待てよ、見えない怪我ってひょっとして・・・・
「服の下ってことか」
「そうだ―。姉は真と同じく服を着ていたら分からない所を怪我したんだ―」
「・・・・・偶然じゃないんだよな」
イジメや虐待ではよく聞く話だが、真は周囲にバレにくい服で隠れる場所だけ怪我を負っていた。当然アイツらはそれを狙って虐待していたわけだが、同じような場所だけ加害者であった姉が怪我をしたというなら思いつくことは一つ。
「そう考えるのが当たり前なんだなー。それとオレッチの予想だとまだまだ姉の不慮の怪我は続くはずなんだ―」
「不慮の怪我ねえ・・・・続くというその根拠は」
「それはさっき小僧が聞こうとしたことに繋がるのだが―、絶対何かしらの力が影響していると思うのだ―。それをどうにかしない限り姉の不幸は続くー」
「だがその何かしらの力の正体がトウラにも分からないと言っているように聞こえるんだが?」
「その通りなんだなー。しっかーし! おおよその見当は付いてるぞー。あの爺さん達、もしくはその関係者が何かしたことは間違いないんだなー」
「祖父ちゃん達がか・・・・まあ流れからしてそう考えるのが妥当だな。罰は受けてもらうとか言っていたし、俄かには信じられんがおそらく今聞いた話がそうなんだろう。何をどうやったのかはあまり想像したくないがどう転んでもあまり褒められたやり方をしていないことだけは分かる」
「同感なのだ―。だから敵に回してはならないのだ―」
別に最初からあの二人を敵に回すつもりも必要性も全く無いのだけどね。でも二人を恐ろしく感じてしまったことも確かだ。
まさか取り返しのつかないことまではしないと思うが、あとで孫七さんに確認する必要はあるな。最悪の事態になったら真は責任を感じてしまうだろうし、じいちゃんズがそれを理解していないとは思えないので深刻に考える必要はないのかもしれない。
しかしトウラが笑っていたように見えたのは気のせいではなさそうだな。姉の話をしているときどこか楽しそうに喋っていたし、仕返しを真に止められていたこともあり、コイツもあの兄姉に対して憤慨していたことは容易に想像できる。
「姉の方は大体分かった。この分だと兄の方はもっと悲惨なことになってるんだろ?」
「結論から言うと兄の方はイジメられてるんだなー」
「イジメと言っても色々あるが、現状どの程度なんだ? それとその原因もやはり祖父ちゃん達が?」
「それは間違いないのだ―。それと兄は暴力を振るわれているのは当然ながら、理不尽に教師から怒られたりもしてたぞー。あと物を隠されたり捨てられたりもしているみたいだな―。傑作だったのは故意か分からないが兄の給食だけ無かったりもしてたなー」
客観的に見れば不幸の主人公に引けを取らない境遇だが、今までの行いを鑑みれば因果応報としか言いようが無ないし、可哀そうだとは一ミリも思わない。ところで給食が一食分足りなかったのはもしかしてお前が食べたとかじゃねえよな?
「そのイジメも原因をどうにかしないと収まらないってことか」
「ゲコッ、それはどうかなー」
「ん、どういうことだ? 仮に祖父ちゃん達が何らかの力を解除したらそれでピタリと止むんじゃないのか?」
「姉の方は多分そうだなー。しかし兄の方はそうとも言い切れないぞー」
「その二人の差ってなんだ?」
「よく考えてみろ小僧―。姉の方はただ不慮の事故に遭って怪我をしているだけだー。爺さん達が解除なりをしたらもうそこで終わりで事故は起こらない―。しかし兄の方は違うぞー。アイツの場合既に他人が絡んでいるー。例え解除をしても動き出したその他人までもが止まるとは限らないのだ―」
「簡単に言うと何かしらの力を使って周囲の人間を唆していただけの場合は制御不能ってことか」
「一応言っておくがあの爺さん達が直接何かしらの力を使ったからアイツらに不幸が訪れたわけではないぞー。あくまでも何かの力を利用しているだけなのだ―」
「それは何となく分かってたさ。だからこそ恐ろしくもあるんだけどな」
自分で直接手を下すならまだ良い方だ。しかし間接的にとなるとやはり陰湿的なイメージが付き纏う。もちろん今回の行為自体に異論はないと思ってるし、俺にも同じことが出来たのなら間違いなく実行していただろう。だがそれでも祖父ちゃん達に対して僅かではあるが嫌悪感を覚えてしまっている自分がいる。
「本当はその正体まで突き止めようとしたのだがー、確たる証拠は何もつかめなかったのだ―、面目ないー」
「気にすんな。そもそもあの兄姉の話自体オマケみたいなものだしな。本題は別にあるんだろ?」
「そうそうここからが本番だ―。今度は覚悟しないでもいいぞー」
それもなんか違う気がしないでもないが、まあそれは気にしないでおくか。
「まずあの学校には幽霊が出るという噂があるんだなー」
「幽霊かあ。でも托卵ガエルだったか? アイツは幽霊じゃなくて怪異なんだろ。だとしたら噂の正体は怪異って可能性もあるって判断でいいのか?」
「五分五分なんだなー。あくまでも一番多かった噂ってだけで本当のことは分からない―。そもそもオレッチ様には幽霊は見えんから何とも言えないんだなー。この家で見えるのはおそらくあの槍の娘ただ一人だと思うぞー」
「了解だ。それで噂になってるのってどんな幽霊なんだ?」
「小僧―、貴様は21人いるって映画は見たことあるか―?」
「何か急に話が飛んだな。その映画なら見たことあるぞ。確かとある密閉された建物の中に本当は20人しかいないのに21人いないと辻褄が合わない事象が何度も起きるっていうパニック映画だったはず」
だいぶ前に見たからあまり記憶には無いが、大筋ではこんな感じだったはず。夏鈴さんならリアルで21人目を演出できそうだな。
「そうそうそんな感じー。それと同じことがここ最近何度も起きているみたいだぞ―」
・・・・・なんかつい最近似たような話を聞いた気がするんだが、何だったかな?
「へーそれは興味深いな。実際どんなことが起きたんだ?」
「映画と似たような感じだぞー。人数分用意したプリントが足りなかったりー、何故か教室に誰も使っていない机が突如現れたりー、とにかく人数や数が合わない事件が多発しているみたいだー」
ああ思いだしたぞ。剛志から同じような話を聞いたんだった。あの話は一個上の先輩のクラスで起きた事件で、結局未解決のまま有耶無耶になったって言ってたな。
「その事象は同じ教室または同じクラスで起きてるのか?」
もしそうならそのクラスの教室を調べれば何か分かるかもしれない。一哉の事件とは関係ない教室だったようだが、それでも不思議な現象は更に不思議な現象を引き付けるとか言ってたし、トウラにお願いしたのそっち方面からも調べたいと思ったからだ。
「どうもそうでは無いらしいぞー。学年もクラスもバラバラだし当然教室もバラバラなのだー」
「そうか・・・・」
剛志から聞いたのは例の一クラスだけで、しかもその一回しか聞いていない。その時のと今回とでは原因が違うのかもしれないが、内容としては同じ様な話なので切り離して考えるのは早計とも思える。
「なんだ、あまり興味がないのかー?」
「いやそうじゃない。逆に同じような話をつい最近聞いてな。場所はトウラが今日行った同じ中学校なんだが、それが起きたのはもう三年も前のことなんだ。だからその間はどうだったのか気になってな」
もし似たようなことが毎年続いていたなら原因は同じと考えられるが、剛志の話ではそう言った事象は少なくともアイツが卒業した今年の三月までの二年間は起きていなかった。情報の取りこぼしも考えられなくもないが、剛志自身その学校に通ってた以上その可能性はかなり低いとみていいだろう。
「ならもう一回行ってもう少し詳しく調べてくるか―? でもオレッチが再び行ったところでこれ以上のことは何も分からないと思うぞー」
「それは後で考えようぜ。んで幽霊の噂はそれだけか?」
「もちろんまだまだあるぞー。と言っても全部が幽霊話ではないけどなー」
「なら噂していた人数が多い順で頼む。その方が信憑性も高そうだし。特に目撃証言が多いのならなおさらだ。というかお前妖とか怪異が見えるならそれを先に教えろよな」
「ゲコッそれもそうだなー。ならあの学校でオレッチが見た妖は全部で三体だー。一つ目はこの間教えた托卵ガエルー。二つ目は合わせ鉈ー。三つめは名前は知らんが透明なものを渡り歩く妖だなー」
「逆に名前が分かるその合わせ鉈とか言う妖がどういう奴なのか知っているってことだよな?」
「簡単に言うと合わせ鉈の奴は半分になった物をそいつが持つ鉈の一振りで元の状態にくっつける妖だー。人間に害をなす類ではないから安心するのだー」
「切るのではなく、くっつける妖ねえ。害がないのはいいが人間には干渉しないのか?」
「さあー? だがあの蛇みたいな嫌な感じはしなかったぞー。それにオレッチも全部が分かるわけではないのだー」
「なに偉そうに言ってんだか・・・・・それで透明な物を渡り歩く妖はどんな感じなんだ?」
「そいつは人間に対してかなり怒ってるようだったぞー」
「おいそれってまずいんじゃ・・」
「ゲコゲコッ大丈夫だー。そいつは弱っちくて人間に対して何か出来る力はないのだー。主に学校のガラスを渡り歩いているだけの小物なのさー」
「ならいいんだが。因みになんで人間に恨みがあるのか分かるか?」
「それも知らないんだなー。オレッチがそいつのこと見えると気づいた途端逃げて行ってしまったからなー。ふふん、オレッチ様に恐れをなしたのだぞー」
トウラのその真偽はともかく最後の奴は気になるな。名前は・・・・仮にガラス渡りとでも名付けておくか。
「ならやはりもう一度行って調べてもらう必要がありそうだな」
さてどうしたものか・・・・・




