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55 父親?

「そういうことだから今日からヨロシクね」


「いやヨロシク、じゃねえから」


 波乱のバーベキューのあと俺は寄り道もせず真直ぐ帰宅した。帰りがけに通るスーパーで肉の特売をしていたので本当は明日か明後日に予定している我が家でのバーベキューのために買い物をしたかったのだが、そんなことをしている場合ではなかったし精神的にも余裕もなかった。


 時刻は六時を過ぎており、俺より早く帰って来ていたのは真だけでトウラもまだ帰って来ていないらしい。夏鈴さんは寄り道すると言っていたので一緒ではなかったが、その代わり別の人物と帰宅の途を共にしていたのだが・・・・・


 その人物とは同士であり同志でもある河島すみれだ。

 同志河島曰く今日からこの高遠シェアハウスで俺と同居するつもりらしい。もちろん二人だけではないが。


 そして当然ながらそのことは俺にとっては寝耳に水で、対する彼女は犬が西向きゃ尾は東と言った表情で堂々としていた。いつもなら誰に対しても基本控えな河島さんなのだが、何故か今はそう言った様子は見受けられない。


 もしかしたらさっきの事で色々と吹っ切れたのかもしれないが、大事なものまで飛ばしていないことを祈ろう。


 

 しかし本当にあの時の河島さんの発言は本当に驚かされた。今でも信じられないしだから今こうして詳しい話を聞きだしているのだが・・・・・・



 ==========================



「私は土井君の気持ちには答えられない」


 ようやく言えたその一言で全てが解決するはず・・・・・・だった。


「なんでだよ? 入学してからずっと俺に気がある素振り見せてたじゃないか! あれは何だったんだよ?」


 直撃した河島さんのその言葉は土井を怒り狂わせるのに十分の威力があった。だがそれでも臆することなく河島さんは続ける。


「勘違いさせてたのなら誤ります。だけど土井君だから優しくしたわけじゃないんだよ。あれは助けを求められたからそれに応じただけ。同じクラスメイトが困ってたら助けるのは普通のことだ私は思うの。だけどそれで勘違いさせてしまうようならもう私はあなたとは関わりません!」


 目には目を、怒りには怒りを。河島さんは土井に負けじと強い口調で言い放った。


「なっ・・・・」


 納得できない。だが反論する言葉が見つからないと言った感じだろうか、土井は握りコブシを作り全身をワナワナと震わせている。受けたダメージは相当大きい。


 ここで更に畳みかけるつもりなのか河島さんが再び口を開く。だがその言葉は俺だけでなくこの場にいる夏鈴さん以外の全員にとって衝撃的なものとなった。


「それに実は私・・・・樹君と同じ家に私の部屋があるの。つまり同じ屋根の下ってことなの」


「「「えええぇー!!!」」」


 その場にいた殆どの人間がまるで示し合わせたかのように吃驚の声をあげた。


「ちょっ、どういう・・・」


 そこで言葉を止める。いや、止めざるを得なかったと言うべきか。俺が河島さんに尋ねようとしたところで彼女は『話を合わせて』と目配せしてきたのだ。代わりに別の人物が話に割って入ってきたのだが、それは河島さんの発言の真意を確かめるものではなく、逆にその突拍子もない発言の信用性を高めるものだった。


「すみれが言ったことは本当よ。知っている人も多いと思うけどワタシは律樹の家にお世話になってるのよ。従ってその私が言うのだから信じなさい」


 信じられない! でも夏鈴さんが嘘を吐くとは思えないし一体どういうことなんだ?


(後ですみれから説明があると思うから今は話を合わせなさい)


 近くに寄って来て耳元でそう囁く夏鈴さん。彼女がそう言うなら今は従う他ないが、どうもニヤついた表情が気に入らない。


「バ、バカな。そんな話誰が信じるって言うんだ・・・・・そうか分かったぞ、高遠に脅されてるんだろ。いいかすみれ、俺がお前を守ってやるからコイツの言うことなんか聞かなくてもいい」


「そうだね、律樹君の言うことは聞く必要はないかも」


「だろ。だから・・」

「これは他でもない私が決めたこと。誰かに脅されたり命令されたわけじゃないの。つまり私の意思が律樹君と暮らすことを選んだんだよ。あなたではなく律樹君をね」


「そんなバカな話・・・・」


「別に分かってもらわなくても構わないと思ってる。でも私達のことに口を挟んで欲しくない。もうこれ以上土井君と話することはないから。これからは必要な時以外話し掛けないでね。ほら律樹君その肉冷めちゃってるしもう一度焼いた方が美味しいよ。貸して私がやってあげる」


「お、おう・・・・」


 テーブルに置いてあった俺の皿のを手に取り肉を網の上にのせていく。焼き直している間に今度は河島さんの方から俺の手を取ってきて、それはいつの間にか土井が居なくなったその時まで離れることはなかった。

 


===================


 てな感じな事があって現在に至っているわけなのだが、何一つまだ理解できていない状況だ。


 幸いと言ってしまったら変な話になるが、当たり前のように河島さんはここまでついて来て家の中まで上がり込んでいるので思う存分話をすることが出来る。俺の中で今はまだ客人扱いなのでリビングのソファーに座ってもらっていた。


 さあさあ説明してもらおうかね! 



「でももう決まったことだし、実は残りの荷物も既に運んでもらってるんだよね」


「はあ? 誰にだよ。ていうか残りってどういうことだよ」


「お父さん。それと残りは残りだよ。服とか学校の荷物とか」


「父親が? 親子そろって何考えてるんだ! それに今の言い方だと大方の荷物は以前からはこんであったってことだよな? そんなもの見た記憶はねえぞ」


「えーとだからね、お父さんがしばらく単身赴任することになったから一緒について行くかそれとも一人暮らしをしないといけなくなったの。結果的にはせっかく入った学校だし転校したくないから一人暮らしする方を選んだんだけど、一つ問題があってね」


「なんだよそのラノベ的展開。それと荷物のことサラッとスルーしてるがちゃんと答えろよ」


「そこ拘る必要あるかなあ?」


「あるから聞いてるんだが・・・・・・まあそれは後でいい。んで問題ってなんだよ。もしかして料理が壊滅的なのか?」


「料理は割と得意だってさっき言ったんだけどなあ。まあ高遠君ほどではないかもだけど。それで問題というのは単純に金銭的なことなの。元々アパートに住んでいたのだけど、お父さん曰く二部屋分を借りる余裕はなかったらしいの」


「つまりここなら金銭的な負担は少ないしオマケに学校も近いから交通費も節約できると?」


「なおかつ私がバイトしてここの家賃と食費を払えばお父さんの負担は実質ゼロ。ほら良いことづくめでしょ?」


「理由は分かった。他にも色々聞きたいことがあるが、それよりまず肝心なことから確認するぞ」


「何でも聞いて」


「住むと言ってもここは賃貸契約を結ぶ決まりになっているんだが、それはどうなってる?」


「お父さんが契約してるよ。確か高遠君のお祖父さんの源六さんとだったかな?」


 まあそれしか考えられんよな。しかし祖父ちゃんの野郎また俺に黙って話進めやがって。誰が入るのかを決めるのは祖父ちゃんが決めることかもだけど、せめて事前に話くらいは知ろよな、まったく・・・・


「源六で合ってる。保護者が契約しているのならそこは問題ないけどさ、俺がこの家に住んでることは知ってたようだけど、本当に良いのか?」


「もちろん。こんな好条件他じゃ絶対あり得ないし、別に二人だけで住むわけじゃないでしょ?」


 河島さんと二人かあ・・・・・それはそれで夢みたいな話だけど、高校生の男女が二人だけで暮らすのは現実的にはほぼあり得ないよな。


「もしそうだったらそっちの方が問題だな。それに祖父ちゃんが契約してしまった以上正直俺にはどうにも出来ん」


「それにほら、私ってアレだし・・・・」


「アレ? もしかして寂しいと死んじゃう体質とか?」


「ウサギじゃあるまいしそんなことある訳ないでしょ。私も高遠君も普通の人は持っていないものを持っているって話だよ」


「ああそういうことね」


 実際自分がどんな力を持っているのか俺自身まだ何も知らないから失念してた。それに河島さんの異質な力も未だにシークレットだし、ぶっちゃけ実感がないんだよなあ。


「ここには私達以外にも特殊な力を持っている人が住んでいるって聞いてるし、夏鈴さんに至っては異世界人なんでしょ? ここなら自分の力のこと隠す必要がないからそういう意味でもうってつけなの」


「一人だけ例外がいるけどな」


 光男さんだけは普通の人間だ。その証拠に今までここの住人が光男さんの前で力の話をしたところを見たことがない。それどころか間違いなく彼に対して皆自分の素性を隠して生活している。


「さっき会った真君だっけ? あの子の友達が喋るカエルってことは知ってるよ」


 ああそう言えば真も普通の人間だったな。トウラと一緒に居るせいかつい忘れてたよ。


「じゃあ例外は二人だな。もう一人は知っているか分からないけど小笠原光男さんって言う四十過ぎのおっさんがいるんだ。彼は何処にでもいる普通のサラリーマンで一番最初の入居者だ」


「知ってるよ。だってその人が私のお父さんだから」


「なんだやっぱり知ってたのか・・・・・・・今何て言った?」


 聞き間違いでなければ河島さんは今『お父さん』と言った気がするんだが、そんなバカな話ある訳ないよな?


「だから小笠原光男は私のお父さん。苗字が違うから驚くのも当然だよね。ちょっと込み入った家庭の事情があってね、少し前までお父さんと二人で暮らしてたんだよ」


「ちょっと待て、光男さんが河島さんの父親? と言うことはつまり二人は親子なのか?」


「そうだよ。ゴメン、そのことは敢えて隠してたんだ。実はね、ここに住むかどうか正直少し前まで決めかねてたの。どちらにせよいつかは話さないといけないとは思ってたんだけど、私の決心がつくまでは内緒にしてもらってた。それとおっさんって言われるとお父さん傷つくから本人の前では言わないであげてね」


 知らなかったとはいえ娘の前で光男さんのことおっさん呼びしたのは大失態だ。以後気を付けねば。


「うーん、ちょっと分からないんだけどさ、逗麻高へ入ったのとここに住むことは本当に別々に考えてもいいの? と言うのもわざわざ県外から来てるってことは何か目的みたいなのがあったんじゃないかと思っちゃうんだよね。そんでもってその近くには都合よく格安で住めるこの家があった。運よく偶然見つけたって可能性もあるけど、俺からしてみれば何か裏があるんじゃないかと邪推したくなるのはおかしいことかな?」


 もし河島さんが嘘を言っているのなら前提そのものが変わってくる。逗麻高に通うためにこの家に住むのか、それともこの家に住むために逗麻港に通うことにしたのか。どちらかが目的でどちらかが手段となり、その意味合いは大きく違ってくる。前者であれば彼女が逗麻高へ来た理由は気になるものの概ね説明された通りでここに住むことは本当にただの偶然なのかもしれない。しかし後者だった場合はここに住むことが目的となり、そうなると河島さんには何か別の思惑があると言うことになる。


「律樹が今言ったことはまったくおかしくないわ」


「うおっ」

「キャッ」


 そこへ突如夏鈴さんが現れた。一体いつの間に?


 リビングのドアが開いた音は一切しなかった。それに視界の端に入る位置にドアはあるので、誰かが入って来たら間違いなく気付くはず。それなのに彼女はまるで神出鬼没を実行したかのようにいきなり出てきたのだ。河島さんも驚いていると言うことは彼女もまったく気づいていなかったのだろう。


「い、いつからそこに?」


「今来たばかりよ。ふふ、二人ともまだまだ修行が足りないわね」


 修行ってなんだよ。そんな特殊な訓練受けた覚えはないぞ。それに夏鈴さんが言うと魔物と戦ったりするガチの修行を想像しちゃうからマジで怖い。


「いやホント全然気付かなかったって。姿を消す魔法でも使ったの?」


「消すのとは違うけど周囲の景色と同化させる魔法は存在するわ。残念ながらワタシには使えないけど。今のはただ気配を消しただけで魔法でもなんでもないわ。おそらく鍛錬すればあなた達も使えるようになるわよ。どう、ワタシが教えてあげるから覚えてみる気はないかしら?」


 習得出来たらそれはそれで非常に便利そうだけど、その分その鍛錬とやらが尋常じゃなくハードそうなので遠慮しておこう。


「それはまた別の機会ってことで。それでおかしくないってことはやっぱり・・・」


「ええ、多分律樹が想像している通りだと思うわ。その様子だとまだすみれは本当のこと話していないようね」


「一応いま順を追って説明してたのですが、やはり全部話さなきゃいけないですかね?」


「今話せることだけで良いのではないかしら。でもだからと言って嘘はダメよ。些細な嘘でも人は簡単に死んでしまうことがあるの。これだけはよく覚えておいて」


「はい・・・」


 そんな大袈裟な、と思ってしまったが、夏鈴さんの表情は真剣そのものだった。もしかしたら夏鈴さんが嘘を吐かないことに拘る理由が今の言葉に集約されているのかもしれない。


 夏鈴さんの言葉の重みに耐えかねているのか、それとも俺に隠し事をしていたことがバレたことを気に病んでいるのか分からないが、河島さんは明らかに気持ちが沈んでいた。


「あーいや、何もそこまで深刻にしなくてもいいから。言えないことがあっても俺は気にしないし、なにもこの家に住むことに反対したいわけじゃないんだ。急過ぎる展開で俺自身もテンパってるだけで、河島さんを責める気持ちはないから」


「ありがとう高遠君。でもさっき言ったことは全部が嘘って訳じゃないの。と言うよりなるべく嘘を言わないように気を付けていたのだけど、どうしても今はまだ言えないことがあるから・・・・・」


「いいよいいよ、話せることだけで良いから」


 そして幾分か明るさを取り戻した河島さんはここに至るまでの経緯を話し始めた。


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