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52 朝食

 剛志が帰った後トウラと真を呼んだ。光男さんは今日は帰ってくると連絡があったので、トウラが喋っている場面を見られないよう念のため自分の部屋を使っている。仔犬はぐっすりと寝ているらしく部屋に置いてきたようだ。


「さてトウラ、学校じゃ時間が無かったから問い詰めなかったが、あの子犬は一体何なんだ?」


「だから間違ってそっちのバックに入れてしまっただけだー」


「それは聞いた。そうじゃなくてその子犬は何処から拾ってきたって意味だ。お前の非常食か?」


「えっ?」


「アホー、そんなわけあるかー! 弱っていたからオレッチ様が保護したんだぞー。それと真、お前本気でオレッチがこの犬を食うと思ったのかー?」


「だって言うこと聞かないと食っちまうぞってさっきペンシーに言ってたじゃん」


「それは脅しただけだー、本当に食うわけないだろー」


「まさか中学校の池に大きなカエルが居るって噂なんだが、まさか前のことじゃないよな?」


 さっき剛志から聞いた話を思い出した。今は握りこぶしより少し大きいくらいだが、マジカル要素があるコイツなら自分の大きさくらい変えてしまいそうだ。


「中学校? 池?・・・・・・・・・ああアイツのことかー」


「お、おい、まさか本当にいるのかよ。ていうか何でお前知ってるんだ。もしかして今日早速調べに行ったのか?」


「今日はお前の学校ぐらいしか行ってないぞー。だがこの地にオレッチは長く住んでるからなー。それくらい知ってて当然だー」


「そう言えばそうだったな。んでそいつは人を食ったりするのか?」


「人を食うー? たぶんそれは無いと思うぞー。そもそも人に直接害をなす奴ではないからー。アイツは托卵ガエルと言って様々なものを孵化させる妖だぞー」


「妖? お前みたいなものなのか?」


「オレッチはれっきとした人間だー! 妖と一緒にするなー」


 托卵ガエルのこともスゲー気になるけど、害がないと言うなら詳しいことは後で聞けばいいか。


「冗談だ。それで素朴な疑問なんだが、妖と幽霊の違いってなんだ?」


 イメージ的には幽霊は人の姿をしたもので、妖は動物の姿をしたものが多い。もちろんその限りではないが、一般的にはそんな感じだ。


「あーそれ僕も気になってた。どっちも僕には見えないけどトウラは見えるんだよね。出会ってから何度も話を聞かされたけど、やっぱ見えないとイマイチよく分らないんだ」


「オレッチが知っている限り何かしらの役割や使命を持った奴、それと業を背負った奴が妖だなー。幽霊は知らん。見たことないかもしれんし、オレッチが見た中にいたのかもしれんー。だけど幽霊と妖は全くの別物だと聞いたことあるぞー」


「その仮説が正しければお前は妖は見えるけど幽霊は見えないってことか。それは姿が変わってからか?」


「当然だー。向こうの世界では見たことないぞー。幽霊ならあの槍の娘が見えるんじゃないかー?」


「夏鈴さんが? でも祖父ちゃんと同じで幽霊は見えないって言ってた気がするんだが?」


 夏鈴さんは祖父ちゃんと同じものが見えると言っていたが、その祖父ちゃんは幽霊は見えないとハッキリ言っていた。だとしたら彼女は見えないと言うことになるのだが・・・・・いや違うな。同じものとは妖の類のことで、別に幽霊が見えないとは一言も言ってなかったな。


「だが今日小僧の学校から帰る途中オレッチに見えないものをあの娘は見ていたぞー」


「悪い、俺の勘違いだったみたいだ。幽霊のことは後で夏鈴さんに聞いてみるさ」

 

 どの辺りにどんな幽霊が居たのか気になるし、気付いたら憑りつかれてましたとかマジ笑えん。


「んで話を戻すが仔犬のことなんで黙ってたんだよ。別に隠すようなことでもないだろうに」


「ゴメン、それは僕が悪いんだ」


「なんで真が謝る。拾ってきたのはトウラなんだろ?」


「助けたいって言い出したのは僕なんだ。だからトウラを責めないであげて」


「んーあー何ていうか責めてるんじゃないんだよ。俺はなんで黙っていたのかを聞きたいだけだ。それと保護したのはいつ頃だ?」


「昨日この家の近くで見つけたんだ。ちょっと外に出たいなと思って少しだけ散歩してたら茂みの中から鳴き声が聞こえたんだ。それと黙っていたのはもしかしたら飼うのがダメって言われると思ったから。だってここ僕の家じゃないし、もしかしたら怒られるかもと思って」


 まあ遠慮してしまう気持ちは分からなくもないが、それよりも了見が狭い人間に見られていたことが地味にショックだ。


「ゲコッ、オレッチは隠さないで堂々と言えって言ったー。だけど真は頑なにダメだって言うから仕方なく隠すの手伝ったのさー」


「でも夏鈴お姉ちゃんにはすぐにバレちゃったけどね。でもそのおかげで僕の時と同じように怪我を治してくれたからあっという間にペンシーも元気になったんだ」


「ん、ちょっと待て真。同じってことはひょっとして夏鈴さんは魔法を使って治した?」


「うん、ほら見てみて」


 そう言いながらTシャツを首の所まで捲り上げる。すると数日前まであったはずの痣や傷が綺麗さっぱり無くなっていた。痣はともかく傷の方はたった数日で無くなるようなものではなかったはず。


「スゲーの一言だな」


 治療魔法が使えるとは聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかった。一体どの程度の傷までなら治せるのだろうか?


「ホントすごいよね。夏鈴お姉ちゃんお医者さんになればいいのに」


 人前で使ったら絶対騒がれるしそれは難しいだろうな。だが医大に入るくらいならあの人は簡単にやってのけそうで怖い。


「元気になったのならそれでいい。それと真がちゃんと世話が出来るのなら別に犬の一匹くらい飼うのは構わんぞ」


「ホント?」


「ああ本当だ。ところでペンシーと言うのは誰が名付けたんだ?」


「えーとね夏鈴お姉ちゃん」


 やっぱりか。昼休みに河島さんが勝手にそう呼んでいたのでもしやとは思ったが、まさかその名前がそのまま採用されるとは・・・


「世話をするのはお前だぞ。本当にそれでいいのか?」


「まだ決めてなかったし僕もなんだか可愛い名前だなって思ったから大丈夫だよ」


「可愛いかどうかはともかくとして真が良いならそれでいいさ」


 特に不満そうな顔はしていないので本心なのだろう。


「それで少し気になってたんだが、この巾着・・・いやこの袋に生きているものを入れても大丈夫なのか?」


 少し違うが夏鈴さんは生きているものを呼び寄せることはできないと言っていた。しかしこの巾着は中に生きているものを入れることが出来る。メカニズムはこの際無視するとして、一体この巾着の中は何処に繋がっているのか気になる。


「オレッチもどうなってるかなんて知らないんだなー。ああでも中に入れたものは普通に腐るから時間が止まってるとかはないぞー」


「時間止まってたらスゲー便利なんだけどな。でもそうなると余計不思議なんだが」


「だったら小僧、試しにお前が入ってみるといいんだなー。大丈夫、犬だけじゃなくて虫とか何度も入れたけど殆ど無事生きて出てきたからー」


「入るか!」


 コイツどさくさに紛れて俺で人体実験しようとしてないか?


「ねえ律樹お兄ちゃんは幽霊とか見えるの?」


「ん、どうしたいきなり?」


「だってここに住んでる人ってみんな不思議な力があるんでしょ? トウラが言ってた」


「夏鈴さんや孫七さんはそうらしいな。まあ夏鈴さんに至っては真も実際に見ているわけだが、俺に関しては今のところ何も出来ないぞ。まあ一応素質みたいなのはあるらしいが」


「そうなんだ。じゃあ光男おじさんは?」


「あの人は普通の人間だと思うぞ。夏鈴さんや孫七さんからトウラが喋れること光男さんには言っちゃだめって言われてるだろ?」


 もしあの人も祖父ちゃん関係でここへ入居したのなら何かしらの力を持っていると考えるべきなのだが、あの二人が光男さんには内緒にしておけって言っている以上その可能性は低いとみるべきだ。


「うん。おじさんが一緒の時はトウラとお喋りしちゃダメって言われた」


「ならそういうことだろうな。当然だけど俺達のことも秘密で頼むな」


「分かってる。絶対に誰にも言わないよ」


 うん本当に真は聞き分けが良くて助かる。心配するべきはやはり傍若無人なトウラの方だろう。


「なんだ小僧、オレッチの顔に何か付いてるのか―?」


「いや何も。案外可愛いフォルムしてるなってちょっと思っただけさ」


「だろー、オレッチ様はカッコイイ上にプリティーなんだぞー」


 はいはい。


「それで中学校へは明日調べに行ってくれるのか? お願いしてるのはこっちだし別に急げとは言わんが、こっちもそれなりに情報が集まってきた感じだし出来れば早い方が助かる」


「本当は今日行こうと思ってたんだなー。だけど先に犬を探さないと真が泣いちまうと思ってなー」


「ぼ、僕はそんなことじゃ泣かないから」


「はは、トウラはホント主人想いの良いやつだな」


「ゲコッ主人はオレッチ様の方だー! 真はオレッチの従順なしもべなのだ―」


 傍から見れば真が飼い主でトウラはペットにしか見えないんだけどね。


「まあ原因はお前がうっかり違う方に入れてしまったことにあるんだがな」


「それはー・・・・・・と、とにかく明日期待して待ってるんだなー。話は終わったー、部屋に戻るぞ真」


 期待はしてるさ。トウラが妖を見れることを知ったいま、最初に考えていた以上の結果を持ってきてくれると俺は信じている。


「うん、律樹お兄ちゃんおやすみなさい」


「ああおやすみ」


「ゲコッ」


 

さて、今度は夏鈴さんや孫七さんに相談したいことがあるのだが・・・・・リビングには居ないようだし二人とも部屋に戻ったのかな?


 今からだと遅い時間になってしまうし、まだ学校で出た課題にも手を付けていない。それに風呂も入らなきゃ出し今日は諦めた方が良さそうだ。




 翌日。

 

 今日から夏鈴さんの弁当も一緒に作ることになっている。と言っても今日は金曜日なのでまた二日ほど間があく。明日か明後日にでも夏鈴さん専用の弁当箱を買いに行こうかな。


「おはよう律樹君」


「光男さんおはようございます。なんか久しぶりって感じですね」


 昨夜遅く帰ってきた光男さん。帰ってきたことは物音で気付いてはいたが特に顔を合わせることはしなかった。


「ちょっと色々あったからね。まあでも決心がついたようだし僕が出来ることはもうないかな」


「何かあったんですか?」


「おっとすまない気にしないでくれ。それより暖かいうちに朝食をもらうとするか」


 光男さんって世話焼きっぽいし、ここ数日部下か誰かのフォローをしていて。それで忙しかったのかもしれない。


 頂きますと手を合わせ食べ始める光男さん。そのあと少しして孫七さんと夏鈴さんが降りてきて、最後に真が眠そうな目を擦りながら席に着いた。トウラとペンシーのペットコンビは部屋で待機のようだ。せっかく住人全員が揃ったので俺も弁当を作っていた手を止め一緒に食べることにする。


 高遠ハウスの朝食は基本白飯を出している。要望があればパンとそれに合わせた物を作るつもりでいるが、今のところ誰も言わないのでしばらくはこのスタイルが続きそうだ。


「そう言えば夏鈴さんって律樹君の学校で働くことになったみたいだね」


「ええ。みんな良い子だしワタシも楽しくやらせてもらっているわ。そうそう今日学校でバーベキューをやるみたいで二年生の女の子に誘われたのだけど、せっかくだし参加しようと思ってるの。律樹も出るのでしょ?」


「ええまあその予定でいますけど。因みに誘ってきた人ってヨミ先輩ですか?」


「みんながその子のことヨミって呼んでいたから間違いないわ」


 そう言えば真と一緒に職員室に来た時にもヨミ先輩は夏鈴さんのこと誘っていた気がする。どんだけ気に入ったんだか・・・・


「へーいいねー、バーベキューかあ。今日は暖かいみたいだししビールを飲むには最高だね」


「光男さん、バーベキューと言っても学校内でやるんだから当然ですけどお酒は出ないと思いますよ」


「ははは、それもそうか」


「あらそうなの? なら自分の分だけでも用意しようかしら」


「今の話聞いてました?そんなことしたら大問題になりますんでやめてください。それに先生は勤務時間内に飲んだら完全にアウトですから」


「それは残念だわ。ワタシの居た国だと授業中以外ならお酒を飲んでも問題なかったのだけど、飲むのはは家に帰るまで我慢ね」


 それって成人した人の話だよね? まさか学生も飲んでるわけじゃ・・・・・ってまあ向こうの学校のシステムも分からんし、昔の日本と同じで成人とされる年齢が低いのかもしれないな。


「そうしてください。買い置きならまだ結構残ってたはずですし、家でならいくらでも飲んでも構いませんから」


 俺は年齢的に購入できないので管理はしていない。毎日飲んでいるのに俺が見る限り在庫は殆ど減っていないので、おそらく孫七さんあたりがマメに買ってきているのだろう。


「外で飲むことに意義があるのよ。ねえお爺ちゃん」


「そんなに外で飲みたいのならここでもバーベキューをやったらどうだ。今この家には車も置いてないしスペースとしては十分じゃろ。なんなら費用はワシが持つぞ」


「それが良いわ! ほら律樹、今週末で決定だから準備は頼むわよ」


 決定ってなんだよ、あんたが勝手に言ってるだけじゃん。ていうか今週末って今日は金曜日だし、明日か明後日ってことだろ? いくら何でも早急過ぎるっつーの。しかも準備丸投げしようとしてるし。


「僕も参加していいの?」


 すると隣に座っている真が申し訳なさそうに聞いてくる。そんなに心配しなくても真を仲間外れにするわけないのだが、まだこの家に住むことに対して遠慮が残っているようだ。その謙虚さをトウラも見習ってほしい。


「良いに決まってる。ダメって言ってもどうせトウラが・・・・ゴホン、とにかく真もここの住人なんだから遠慮するな・・・」


 続けて、せっかくなら友達も誘ってもいいぞ、と思わず口走りそうになったがギリギリのところで飲み込む。今の真には嫌味にしか聞こえないだろうし危ないところだった。それに光男さんがいる前でトウラの話をするのも気を付けないといけないな。


「・・・なんなら母親を誘ってみたらどうだ?」


 真と母親の間には大きな確執はない。この家に来てから電話で話をしているみたいだし問題はないと無いと思ったのだが、


「真には悪いが今誘うのは止めた方が賢明じゃな」


 ゆっくりと箸を置いた孫七さんがそんな事を言った。


「どうしてですか? 別に無理にとは言いませんがついでに真が住むこの家を見てもらってもいいと思うんだけど」


 それにそんなこと言ったら真が・・・・


「律樹お兄ちゃん僕は大丈夫だから。お母さん忙しいみたいだし今誘っても来れないと思うんだ」


 俺の考えていることを察したのか真は気丈に振舞う。その目はいつになく力ずよく見える。


「真は強い子じゃな。今回は無理でも落ち着いたら好きな時に呼べばよい。それまでの我慢だ」


「うん」


 もしかして真が居なくなった奥谷家で何か起きているのかもしれない。仮にそれが本当だとして、俺にそのことを話さないと言うことは何か理由があると言うことだろう。だとしたらこれ以上この話を続けるのは上手くないな。


「それで本当に明日か明後日にやるんですか? 食材はいいとしてこの家にバーベキュー用の器具とかはなかったと思うけど、それも今すぐ準備しろと?」


「それもワシが用意しよう。なあに金の心配はせんでもよい。老い先短い割には持っているからのう」


「なら器具に関してはお言葉に甘えますね」


 ここで断ってもどうせ勝手に買ってくる予感しかしないし、それなら最初からお願いした方が波風は立つまい。


「だけどお願いするの器具だけで食材はこの家の家計から出させてください。ぶっちゃけ言うと結構余裕があるんですよね」


 孫七さんから過分に貰っていることもあるが、つい先日祖父ちゃんからシェアハウスの経営費として結構な額の振り込みがあったおかげであと四、五人住人が増えても問題ないくらいだ。まあそんなに部屋はないんだけどね。


「酒はどうする?」


「それもこっちで払います。俺は買えないので必要な額を言ってくれれば先に渡しておきますよ。あっレシートは忘れないでくださいね」


 家を預かっている以上家計簿は不可欠だ。今までの分だって全て記帳してあるし。


「いいですねえ。だけど私は・・・・」


 まるで自分が除け者にされていると勘違いしているのか、羨ましそうに光男さんが言う。


「光男さんも是非参加してくださいよ。もしかして今週末は都合が悪いんですか?」


 それなら仕方がないけど、せっかくなら今みたいに全員でバーベキューしたいものだ。


「なあ光男よ、何もそこまで急ぐ必要はないのではないか」


「ですがしかし・・・・」


「お爺ちゃんの言う通りよ、はい光男さんも参加決定。これは絶対だからね!」


「は、はい・・・・」


 歯切れの悪い光男さんを見かねたのか、夏鈴さんは相手の意思などフルに無視して話を進め、圧に負けた光男さんは首を縦に振るしかなかったようだ。


 しかし孫七さんの言っていた急ぐ必要が無いって言うのはどういう意味だろう? 


 だがその疑問を聞く暇を夏鈴さんは与えてくれなかった。バーベキューでアレが食べたいコレが食べたいとか彼女からのリクエストが多く、それをメモしているだけで時間があっという間に経過してしまった。弁当や学校の支度も終わっていなかったので食後は急いでその準備をしたが、終わった頃には家を出なければならない時間になっていた。


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