50 都市伝説?
「それでどういう経緯で千堂さんはここに来たんだ?」
「さっき言った通りだよ。偶然会って無理やりついてきた」
部屋に戻ってすぐ、部屋の本棚から勝手に取り出した漫画を読んでいた剛志を問い詰める。本に夢中になっているので視線は下に向いたままだ。
「偶然ってどこでだよ?」
「すぐそこに自販機があるだろ。そこの前に立ってた。俺もそんな話したこと無いし軽く挨拶して通り過ぎようかなと思ったんだけどさ、何処に行くのか聞かれて普通に律樹の家って言ったら、じゃあ私も行くってなったんだよ」
何だよそれ、完全に剛志を待ち伏せしてたようにしか思えないんだが・・・・
「今日うちに来るのって誰かに話したか?」
「誰にも言ってないかな。だから本当に偶然だと思うぜ」
学区が違うとはいえ家はそこまで離れてはいないはず。現に自転車で五分くらいと言っていたしこの辺をうろついていてもおかしくはない。だけど用件があってここを訪れてきた以上偶然という二には無理がある。
「まあいい。それでどれくらい情報を集められたんだ?」
「その前に真のことをもう少し詳しく教えてくれよ。さっきは千堂のやつがいた手前訊けなかったけどさ、今は問題ないだろ?」
「そのつもりで呼んだって言うのもあるから構わないけど、他言無用で頼むぞ。もちろんあの優男にもな」
ここでようやく漫画を床に置き視線を上げる剛志。
「大丈夫、誰にも言わないさ」
そこから真がこの家に来るまでの経緯を説明する。隠さなけらばならないことが多かったので思ったより早く話は終わった。
「まさか家庭内暴力だったとわね。しかも義理の兄姉から受けてたとは・・・・。俺はてっきり学校や友達のことで思い悩んでいるのだとばかり思っていたけど、そうじゃなかったんだな」
「学校の方もあまり上手くはいっていないな感じみたいだ。それと俺が言うのもなんだけどさ、うちに来たことで安心できる場所が出来たことは大きいと思う」
「だな。それにその効果はもう出てると思うぜ」
「何かあったのか?」
「ほら以前公園で声掛けた時逃げられたじゃん。だけど今日この家で会った時普通に『こんばんわー』って向こうから挨拶してくれたんだよ。もしかして俺のことを覚えてないのかなと思って聞いてみたんだけどさ、そしたら申し訳なさそうに『あの時は逃げちゃってゴメンナサイ』って謝られてな、やっぱ俺のことは覚えてたんだよ。これってすごい変化だと思わないか?」
「以前の真のことはよく知らんけど、最初に会った時より明るくなったのは確かだな。まあ仲良くなったのは喜ばしいことだし、なんなら真の遊び相手になってくれ。俺もそのつもりでいるけどまだやることが多くてな」
本当は同年代の友人を作れた方が真本人のためになると思うけど、こればっかりはどうしようもない。
「はは、毎日は無理だけど暇なときは顔を出しに来るさ。その時は飯頼むな」
「任せろ。ただしもう千堂さんを連れてくるのはナシな。なんか俺のこと敵視しているみたいだし正直苦手なんだよ」
「見てて何となく分かってたよ。最初ついてきた時はもしかして押しかけ女房? とか思ったけど、全然そんなんじゃなかったしな」
「ただの押しかけだよ。しかもこっちの話には聞く耳持たないくせに無理やり自分の意見は強引に押し通すし・・・」
明日飼い主に厳しく躾けてもらう必要があるな。
「んじゃ俺が集めた情報を教えるけど、後から頼まれた方は・・・・・・・こんなのが役に立つのか?」
「今のところ何とも言えないかな。でも大きなヒントに繋がる可能性はある」
「・・・・・まあいいや。でも必ず約束は守れよな」
「それは心配すんな。どうせ夏休みは帰ると祖父ちゃんと約束してたし、既に許可も取ってあるぜ」
剛志には中二事件に関係しそうな個人のSNSを調べるようお願いしてあったが、追加で別なことも頼んであった。昨日メッセージを送った時ある程度情報が集まったと返信が来たので早速今日会う段取りになった。追加を頼んだ際その見返りとして剛志が提示してきたのは、俺が青森の帰省する際は一緒に自分を連れていけとのことで、何でも今年は北東北の夏祭りを自転車で周りたいらしく、祖父ちゃんの家を拠点として利用することが目的みたいだ。すぐにそのことを祖母ちゃんに連絡を取って確認してみたところ、二つ返事で了承してくれた。
祖父ちゃんの許可? あの家の頂点は裏も表も祖母ちゃんなので全く問題はない。
「いいねえー、正直宿代が浮くのはメッチャ助かるぜ。じゃあまずはSNSの方なんだが、こっちは殆ど誹謗中傷と信憑性の低い噂話だけだったな。だけどいくつか気になるものはあった」
「誹謗中傷とかは省くとして念のためその信憑性の低い噂から聞かせてくれ。その後に剛志が気になることを教えてもらった方が整理しやすいかも。と、その前に・・・・・よしいいぞ話してくれ」
覚えきれないかもしれないので念のため机の引き出しから使っていないノートを取り出す。
「準備は良いようだな。最初は噂についてだったな。俺が調べた中で一番多かったのが・・」
剛志の方もある程度情報を整理してあったのか、内容はかなり分かりやすかった。だがそれでも想像以上に噂の種類が多くてノートに書いていくのが大変だった。
「えーと大まかに分けると、一哉に関するものとそうじゃないものになるが、一哉のものを細分化してみると大半は完全なデマって分かるものばかりって感じだな」
「だな。特に一番笑酷くて笑えたのが、実は橋本の正体が魔法少女で夜の街を徘徊してるってやつ。ただの女装した中学生が夜の街をうろついている姿しか想像できないんですけど」
「そうそう、まず前提がおかしいもんな。せめて魔法少年くらいにしておけばもう少し信憑性が・・・」
「ん、どうした律樹?」
「・・いや何でもない気にすんな」
そう言えばうちには魔法を使える御方が一人と一匹いたっけな。カエルの方は『使える』と言えるのかは微妙なところだが、金髪美人の方は当確している。そう考えると素直に笑えないよね・・・・・
「魔法少女と言えば別な噂もあったけな。これは全く一哉とは関係ないんだけど、同じような内容を割と多く見かけたからちょっと見てみるか?」
「そこまで言ったら気になるだろ。手短に教えてくれ」
「ちょっと待ってて・・・・おっ、あったあった。ほら見てこれ」
「どれどれ・・・なになに、県内を中心に魔法少女の目撃多数か。でもこれって結構前の投稿じゃん」
「そうなんだよ。俺が確認した中で一番新しいのはおよそ二年前。反対に古いものはもう五年以上前になるな」
「てことはつまり一哉の魔法少女疑惑はここから派生したやつっぽいな」
「そう考えるが自然の流れだと思う。それにしても魔法少女なんてどっから噂が出たんだか」
「お前はこの噂知らなかったのか?」
「結構前にちょっとだけ聞いた記憶があるけどさ、都市伝説みたいなもんだしあんま興味もなかったから、今回のことが無ければ永遠に忘れてたよ」
「今他のものも見てるんだけどさ、結構投稿数もレスも多いよな」
「目撃情報や考察何かは別のサイトでまとめてあったぞ。まあそれは後で暇なときにでも見るんだな。とりあえず噂の方はこんな感じなんだが、聞きたいことはあるか?」
前置きの通り噂は噂でしかないようなものばかりだった。だがそれはあくまで常識の範囲内で考えた場合で、その範囲を飛び越えた先の世界ならあり得るかもしれない。一哉の件とは関係なかったとしても、今聞いた全ての情報が無駄になるとは言い切れない。
「いや特にないかな」
「ならここからが本題だな。これは俺の憶測もかなり入ってるからそのつもりで頼む」
剛志が語ったのはSNS上での投稿や書き込みの中でもマイノリティーな部類に入るものを繋ぎ合わせて導き出した推測だった。簡単に要約すると犯人は一哉ではなく他の人物という前提で話が進められていき、そこで三人の班員候補者が挙がった。
一人目、石渡。
第一発見者で少数意見の中でも一番コイツに関する投稿や書き込みが多かった。当然の結果と言えるが今回は俺の知らない情報も多数出てきた。まずは一哉が告白した相手のことを石渡も好意を寄せていたということ。事件当時石渡と同じ教室にいてアリバイを証言した人物に中に一哉と確執を持ったやつが存在していたこと。この二つが大きな理由として挙げられていたが、他にも石渡は教師の弱みを握っていてそれを利用して罪を一哉に擦り付けたとかというのもあったが、その弱みやが何なのかまでは書かれていなかった。
弱みの件を除外して考えた時、石渡がその女子に好意を寄せていたことから更に一哉の好感度を下げようと企んで冤罪を吹っ掛けたという一応の説明は出来る。また一哉に対してて敵意を持ってたやつが協力したのなら実行は可能だろう。
だがこの推測には大きな穴がある。それは石渡のアリバイを証言した者の人数だ。確か一人ではなかったはず。数人と聞いているのでもう二人か三人くらいは居たことになる。果たしてそいつら全員が石渡の為にうその証言をするだろうかという疑問が残る。
二人目、一哉のクラスの担任だった男性教師。
この人物はえこ贔屓が激しかったらしく多くの生徒から嫌われていた。そのため不満を覚える生徒も数多く存在し、SNS上では石渡に次ぐ容疑者となっている。だが根拠らしい根拠は何もなく、ただ嫌われているが故に名前が挙がってしまった節がある。
三人目、文字玲美。
最初彼女の名前が挙がった時は驚いたが、担任だった教師とは違い明確な理由があったので一応の納得はした。彼女は事件が起こるよりも前に一哉の告白相手を泣かしたという話があるようで、尚且つその時の目撃者も何人かいるらしい。そして彼女のあの性格も相まって嫌がらせをしたのではないかという憶測が出た。
俺が知っている文字さんは陰湿的な嫌がらせをするような人物ではないが、ハッキリと物を言う性分なので、相手によってはそれが原因で泣いてしまうことは十分考えられる。しかしだからと言って人の鞄を外に放り投げるようなことはしないと俺は思っている。
「こうやって調べて整理していくうちにさ、言われてみればとか、ああコイツだったらあり得るなって感じなものも多かったな。まあ結局橋本が犯人ってことで終わっちまったから当時は深く考えてなかったって言うのもあるけど」
「なあその担任って言うのは剛志から見てどうなんだ?」
「実は一年の時の担任だったんだけどさ、確かに書いてあるようなことは思い当たるぜ。でもだからと言ってそこまでするような人間には見えないんだよなあ。何ていうか自分の言うことを聞くやつに対しては親身になるけど、そうじゃない奴に対しては冷たくあしらう、まあただそれだけって感じだよ。別に嫌がらせをしたりとかそういう話は聞いたことないぜ」
完全な白って訳じゃなさそうだが、調べる優先順位としては下の方だな。
「そう言えば石渡が昔告白されたって話聞いたことないか?」
「石渡が?」
目を見開き聞き返してくるところを見ると、どうやら剛志は告白されたこと自体を知らないようだ。
「いやこれは聞かなかったことにしてくれ」
「何だよ気になるじゃんか」
「俺も小耳にちょいと小耳に挟んだだけだし詳しくは知らないんだよ。でも反対の話は聞いたことあるか?」
「さっきの一哉と同じ相手って話だよな。正直俺は文字さんかと思ってた。どこからそんな話が出てきたのか分かんないけど、俺の見立てだと文字さん一択だな」
「一緒だな。俺も石渡は文字さんに好意を持ってる気がする。だがあくまで今の石渡の話だから昔のことは知らん」
「なら間違いないんじゃねえか? まあ本人しか知りえないことだし断言できないけどな。お前が言いたいのはだとしたら石渡の動機がなくなるって話だろ?」
「そういうこと」
小山さんと同じく恋愛絡みでの動機の可能性は低くなる。もちろん動機となりえるのは何も恋愛だけではない。別の人間関係のトラブルという線だってある。もしかしたら一哉を嫌っているというアリバイ証言者が石渡を唆して一哉を犯人に仕立て上げた可能性だってなくはない。とにかく今聞いた話は全て証拠がなく、他よりは幾分か信憑性が高い憶測でしかない。
「ところで文字さんが泣かせたって言うのは本当の話か?」
「悪いが俺もその話は聞いたことないんだよなあ。どちらも同じクラスになったことないし、話だって数えるくらいしかなかったからな。ああでも文字さんが男子に何度か喧嘩を売ったって話は聞いたことあるぞ」
「マジか!?」
「マジマジ。何でも相手が気に食わないとかそんな理由だった気がする。でも大事にはなってないから手を出したり出されたりとかはなかったと思う」
文字さんらしいと言えばそれまでだが、気に食わないという理由だけで喧嘩を売るだろうか? もしそれが本当だったとしても彼女の場合何かしらの理由がありそうだ。
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