48 コイツは・・・
「僕は橋本の冤罪をどうにかしたいと君が言うから鞠を仕方なく鞠を紹介したんだけど、どういうことなのか説明してくれるよねえ?」
イケメンスマイルで言われると、裏で何を考えているか分かりずらくて怖えー。本気で怒らせるのはやめておいた方が絶対に良さそうだな。
「どうもこうも特等席でずっと見てただろ。あれが全てだ」
「答えになってないよ。別に僕は怒ってるんじゃない。どういうつもりだったのか聞いてるだけ」
「・・・・本人が横にいるのに告白の件を持ち出したは悪かった」
最初から教えていたら押切は小山さんを紹介してくれなかったはず。そうなるとかなり遠回りをしなくてはならなかった。ここは一発殴られる覚悟をしておいた方がいいかもしれん。
そんな心構えで話していたのだが、それは俺の勘違いだったらしい。
「最初からその辺のことは諦めてたし、鞠自体もなんだかんだ言ってそこまで気にしてなかったと思う。じゃなきゃ今日この場に来てないよ」
「お前らって割とドライなんだな。普通告った方と振った方って結構ギクシャクするもんじゃないの?」
「相手にもよると思うよ。彼女の場合は告白されたのはあの時だけじゃないし、何だったら春休み中も遊びに行ったよ。でもだからと言って弄んでいるつもりはないし、向こうから誘わない限り会うことはないよ。じゃないと思わせ振りさせているただのクズ男になっちゃうからね」
「相手の気持ちを知ってる上で誘われてホイホイと行く時点で俺的にはどうかと思うんだが」
「毎回それとなくその気がないことは伝えてあるから大丈夫。それに彼女だってそれくらい気付いてるよ」
「理解できん関係だな。まあお前が誰かに後ろから刺されないことを祈ろう」
「縁起でもないこと言うなよ。どちらかというと刺されそうなのは君の方だと思うけどね」
「バカ言え。俺が誰かからヤキモチ焼かれる程モテるわけねえだろ。それで説明が欲しいのは石渡のことか?」
「本気で言ってるの? そんなわけないし、君だって分かってるんだろ」
知ってた。告白の件じゃなければ残るの可能性は一つしかない。
「最後のあの話だよな」
「常識とはかけ離れた、とかいうやつ。あれはいったいどういう意味なんだい? 鞠があんなに狼狽えたの久しぶりに見たよ」
「アレはただの心理テスト・・」
「じゃないのは僕でも分かるよ」
「・・・・・・」
やっぱり誤魔化しきれないか。さあどう押切に説明したものか・・・・
「あの質問の真意は一体何だったんだい?」
「悪いがその説明は出来ない。だが小山さんに危害を加えたり陥れようと考えている訳ではない事だけは信じてくれ」
完全に否定しても押切は信用しないだろう。かといって本当のことを話す訳にはいかない。だとしたら否定はせず核心を隠したまま押し進むしかない。
「・・・・・それを僕に信じろと?」
「実際向こうから連絡先を交換してきただろ、つまりそこまで俺のことを警戒してないってことにならないか?」
「どうだろうね。鞠がどういうつもりで交換したのかは分からないけど、橋本以外の理由で自ら申し出たように僕は見えたよ」
鋭い奴だな。ただニコニコしているだけの優男ではないってことか。
「俺を一目見て気に入ったとか?」
まああり得ない話だけどな。
「はは、君もそんなこと言うんだね。もしそうなら僕はこれ以上何も言わないよ。本当だったらの話だけど」
「それはないな。わりー今のはナシ」
「まあいいさ。どうせ素直に教えてもらえるなんてこれぽっちも思ってなかったし。だけど一つだけ気になることがあるんだが聞いてくれないか?」
「とりあえず聞くだけならな」
「鞠は左腕を気にしてただろ? 君は怪我をしているのかと心配してたけど、だったら最初からそれっぽい仕草を見せていても良かったと思うんだけど、僕が見た限りそんな仕草をし始めたのは途中からだったと思う」
確かにその通りだな。別段激しく動いてたわけでもなかったし、あのタイミングで左手を擦り始めたのは何か理由があったのかもしれない。例えば動揺した時とか深く思考しているときの癖とか。
「彼女とは付き合いが長いんだろ? だったら思い当たることとかないのか?」
「君はあの仕草が彼女の何かしらの癖か何かだと考えてるんだね。だけど僕が知る限り今までそんな仕草を見た記憶はな・・・・・いや待てよ、。そう言えば以前・・・」
何か心当たりがあるらしく一人でブツブツと言い始める。完全に冷たくなってしまった残り僅かのコーヒーを啜りながらその様子を見守る。
「そうだ、あの時鞠は怪我をしていたんだ。しかも今日彼女が気にしていた左腕を」
その言葉を聞き、カップの中身を全部飲み干す。
「あの時というのは?」
「橋本の事件の時だよ」
一哉の事件か。そうなると増々怪しくなってきたな。
「正確な日時は分かるか? 日付じゃなくてもいい。事件の前とか後とかでも構わない」
「事件の後だと思う。もしかしたら怪我をしたのは事件当日だったかもしれないが、流石にそこまでは覚えてないかな。少なくても僕に告白してきた事件の二日前には怪我はしてなかったよ。夏服で半袖だったし、包帯を巻くほどの怪我だったから間違いない」
二日間という不明確なタイムラグがあるものの、本当に事件当日に怪我をしたのならば、教室が滅茶苦茶になった時に怪我を負ってしまったと考えるのは無理筋ではなさそうだ。もしかしたら彼女本人が犯人で、実行時に誤って怪我をしてしまったことだって考えられるが、これはあくまでも推測でしかなく、確たる証拠は何一つない。
しかし新たな容疑者が浮上したのもまた事実だ。
実のところ小山さんのことはあまり疑ってはいなかった。今日の目的は当時の状況を別な角度から考察することで、あわよくば何か見えてくるかも、その程度のものだった。
「同じ左腕をねえ・・・」
そうポツリと俺が呟くと、両肘をテーブルに着け両手を組み、その上に顎を乗せながら見透かしたように押切が言う。
「君は鞠が本当の犯人と考えてるのかい?」
「ほかの要素を無視すれば十分可能性はあると思ってる。確認だが彼女は当時容疑者として名前は挙がらなかったのか?」
確か一哉以外にも数人の生徒の名前が一時的に挙がっていたと聞いているが、詳しいことは何一つ聞いていない。もしその中に小山さんの名前があったとしたら筆頭容疑者として扱う必要が出てくる。
「どうだろ? 僕は違うクラスだったしそこまで詳しくはないんだけど、噂で聞いた中では鞠の名前は出てなかったと思うよ。」
「因みに誰の名前が出てたか覚えてるか?」
「そうだなあ、僕が覚えているのは石渡と横山って奴だけかな。でも二人とも完璧なアリバイがあったし、早々に橋本が犯人として扱われたから疑いは直ぐに晴れたみたいだね」
同じ名前が他にいなければ横山って奴は俺と同じ小学校出身のはず。あまり話したこともなく印象も薄いが、記憶には残っている。
「石渡は第一発見者ってことで疑われたのは分かる。横山は何か理由があったのか?」
「ちょっとした問題児だったからね。そのせいで疑われてしまったんだと思う」
「問題児?」
「悪さをしてたとかそういうのじゃなくて、なんて言うか・・・まあ変わった奴ではあったかな。でも部活の顧問の先生が横山のアリバイを証言したから直ぐに消えたと記憶してるよ」
俺の知っている横山は割と普通だったイメージがあるのだが、まあ五年も時間が経過すれば変っていてもおかしくはないか。どう変わったのか気になるところではあるが、事件とは関係なさそうなのでスルーだな。
「しかしそうなると今のところ一哉以外で怪しいのは小山さんだけということなるが、ぶっちゃけ押切はどう思う?」
石渡の線も十分考えられるが、まずは彼女のことを聞いた方が良さそうだ。
「僕は鞠がやったとは思えない」
「理由は?」
「色々あるけど一番は鞠にアリバイがあるってことかな」
まあそうだろうな。一哉はそれが無いからこそ犯人に仕立てられた訳だし。
「それを抜きに考えた場合ならどうだ? 小山さんをよく知っているお前の意見を聞きたい」
「つまり彼女のアリバイは嘘だとでも?」
「そうは言ってない。警察じゃあるまいし今更アリバイ崩しなんて出来るとは思ってないよ。俺が聞きたいのは彼女の性格的にやってもおかしくないか、それともあり得ないのか、それを知りたいだけ」
「絶対にあり得ない・・・・とは正直言い切れないかな・・・・」
「意外だな。ここは是が非でも否定してくると思ったんだが」
「勘違いしないでくれよ。あくまで性格的なことを考慮した場合で判断したまでだ。状況的には絶対にあり得ないと思ってる」
「それが意外だって言ってるんだが」
普通はそれなりに親しくしている人物、ましてや相手は女子ならなおのこと、多少のことは目を瞑ってでも否定してくると思っていたのだが、押切はそうしなかった。
「何か彼女に対して思うところがあるのか?」
「嫌な言い方しないでくれ。君だって今日鞠と会って何か感じたんじゃない?」
「プライドが高そうだなとは思った。だけど教室を滅茶苦茶にしてあまつさえそれを人のせいにするような人間かどうかは判断できないというのが正直なところだ」
「そうだね。鞠は人一倍プライドが高い。でもだからと言って彼女がヒステリーを起こすのを見たこと無いし、普段から割と冷静な方だと思ってるよ。それに誰かに罪を擦り付けるような子じゃないとも思ってる」
「だったらなん彼女はそんなことするような人間じゃないってハッキリ否定しなかったんだ?」
今押切が言った人物像なら余程の理由がない限り事件を起こすとは考えにくい。
「・・・・鞠ってあんな性格しているから何て言うか・・・・結構周りから疎まれているんだ。それに・・」
確かに敵を多く作りそうな性格はしている。だけど本人はそんなことは気にせず我が道を行くタイプにも見える。
ゴーイングマイウェイってやつだ。
「それに何だ? 誰かをイジメてたりしてたのか?」
「イジメとかではないかな。何と言うか・・・」
濁す言葉を探しているようだが、少なくてもグレーなことはしていたとしか考えられない。
「要は高圧的な態度で誰かに詰め寄ったりしてたんだろ。想像するに相手の大半は女子だと思うが、違うか?」
「まあそんな感じかな。このことはあまり人には言わないでくれよ。彼女が悪く無いとは思ってないけど、そもそも僕にとやかく言う権利はないから」
「つまり大半の原因はお前が絡んでるってことだろ。そのことに対して俺が何か言うつもりはない。まあ思うところはあるけどな」
諦めの悪い小山さんが悪いのか、それとも完全拒否しない押切が悪いのか分からんが、途半端な二人の関係性と彼女の性格が悪い方向に出てしまった結果だろう。
「大半かどうかは分からないけど、少なくてもそういったことが一度や二度だけでなく何度かあったからね。でもやっぱり彼女はあの事件とは関係ないと思う。もちろん今喋った理由が元で、僕が知らない何かがあって彼女がやってしまったという可能性は完全には否定しきれないけど、他にも理由があるんだ」
「そうなのか? なら早くそれを言えよ」
「隠していたつもりはないさ。ついさっき思いだしただけ。律樹は橋本が告った相手が何と言って断ったか聞いてるかい?」
「いや聞いてない。そもそも誰に告ったのかすら知らないし。んで理由は何だったんだ?」
「単純だよ。他に好きな人がいるからゴメンなさい、だってさ」
「まあ振る理由の三割くらいはそんな感じだろうな」
「そうかな。僕はもう少し多いと思うけど、参考までに残りの七割は?」
「三割が理由を言わず『ゴメンナサイ』で終わり。残りの四割が『鏡見ろ』か『キモイ』だな」
「それはあり得ないだろ。それがゼロとは言わないけどさ、もう少し他にもあるでしょ」
「今はそんな議論しても仕方がないだろ。それで何が言いたいんだ?」
「僕じゃないんだ」
「は?」
「君は妙なところで察しがいいくせに、どうしてこうゆうところは察しが悪いのか不思議だよ」
「好きなだけディスってくれても構わんけど、もう少し分かるように説明してからにしろよ」
「だから振った相手の子が好きなのは僕じゃないってこと」
「・・・・・・あー理解した」
だったら最初からそう言えよな。変に勿体ぶった言い方するから話がこじれる。
「分かってくれた? ならもう説明は不要だよね」
「鞄を外に投げられたその子に対して小山さんが関わる理由が無いってことか。でもその情報は確かなのか?」
「確かも何もその子は既に彼氏がいたからね」
「まさかかず・・・橋本のやつそれを知ってて告ったのか?」
「そうじゃない。その子に彼氏がいたことは限られたごく一部しか知らないことだったから、橋本は本当に知らなかったんだと思う。僕は事件の少し前に二人がデートしているところに偶然鉢合わせしてね、その時内緒にしてくれと頼まれてたんだよ」
「だけどそのことは小山さん自身は知らないんだろ? なら成立しなくないか?」
「実は鉢合わせした時僕と一緒に居たのが鞠だったんだよ」
「まどろっこしいやつだなホント。何度も言うが最初から結論ありきで説明しろって。もしかして他の女子と同じ様に俺を弄んでるのか?」
「今でもその二人は内緒で付き合ってるみたいだし、あまり大っぴらに出来ないから話してもいいか考えてたんだよ。とにかくこれで鞠が犯人じゃないって分かってくれたかい?」
正直まだ疑っている部分がある。確かに今話した内容に嘘はなさそうだが、かといって完全に白とは言い難い。
「犯人ではないにしろ何か知っている可能性はあると思ってる。だから俺はもう少し小山さんについて調べるつもりだが構わないよな。もし押切的に困るのっていうなら一応考えるが?」
「僕が困ることは何もないよ。強いて言うなら鞠の機嫌が悪くなることかな」
「一応気を遣うつもりで入るが、もしそうなったら悪いがそっち持ちで頼む。俺にどうにか出来るとは思えんしな」
「はは、無責任だなあ」
「でも今日みたいに小山さんの機嫌の一つや二つ、お前ならどうにでもなるんだろ?」
「内容にもよるさ。だからもし彼女に非があったとしても出来るだけ責めないで欲しいんだ」
「それじゃあまるで・・・」
そこでテーブルに置いてあったスマホの画面が光だし着信音が鳴る。RHINEの通知だ。
「すまん、剛志が待っているみたいだからもうそろそろ帰るわ」
「アイツとも約束してたのか?」
「まあな。アイツの時間が読めないから帰り次第俺の家に来ることになってたんだけど、どうやら向こうの方が早かったようだ。今日はありがとな。たぶんまた面倒なこと頼むかもしれんからそん時はヨロシク」
「こんな感じになるんだったら今度はコーヒーだけじゃ足りないかもしれないね」
押切もあまり良い気分ではなかっただろうに、何だかんだコイツもお人好しだよな。
「だったら今度家に招待してやるさ。飯でも食ってけ」
「随分安上がりだな」
「何言ってんだ。俺が腕を振るってやるんだぜ。寧ろ金払えって感じだよ」
「へえ、そんなに自信があるなら今度お邪魔してみるのもいいかもね」
「それだけは期待してもいいぞ。おっと急がないと剛志に怒られるからもう出ようぜ」
会計を済ませて店を出る。押切は駅前の駐輪場まで自転車を取りに行くので店の前で別れた。不足していた食材があることを思い出したので急いでスーパーに向かい買い物を済ませる。そして家に辿り着くと玄関の前に見慣れないママチャリがとめてあるのを確認。状況的におそらく剛志の物だと思われるが、姿は何処にも見当たらない。
もしかして、と思い家の中に入ると案の定玄関にはこの家の住人のものでは無い男物の靴と女物の靴がワンセットずつ丁寧に並べられていた。習慣というべきか、この家では玄関の真ん中には誰も靴を置かない。しかし今見慣れない靴が二足真ん中に置かれている。つまり客人は剛志一人だけでなくもう一人いるということだ。
もしかして剛志のやつ彼女でも連れてきたのか?




