43 マジこの人なんなの?
んじゃ夏鈴さんのところに行きますか・・・・・って何処に行けばいいんだ? まあとりあえず職員室に行けば分かるか。
弁当だけ持って教室を出ようとする。すると教室の前の方で河島さんと土井が話をしているのが視界に入ったので、後ろのドアから一旦廊下に出て前のドアへと移動する。中には入らずドアに寄りかかり聞き耳を立てた。
「今日も一緒に食べようぜ」
「えーと今日は用があるから他で食べようと思ってるんだ」
「そうなの? でも他の子たちは教室で食べるんでしょ。用もその後じゃダメなの?」
「先に済ませたいと思ってるから今日は無理かな」
案の定土井からのタゲが外れていない河島さんが今日もしつこく絡まれていた。これはもうハッキリさせないと永遠に纏わりつかれるパターンのようだ。
さてどうするかな。ここで俺がしゃしゃり出てもいいのだが、昨日みたいに食い下がられるのは目に見えている。ならもう少し様子を見るべきか?
「こんなところで何をしているのかしら?」
「ぅおっ!」
突然耳元でそんな声が聞こえたものだから驚いた俺は情けない声を廊下に響かせてしまった。
「びっくりしたー・・・・なんで夏鈴さんがここに? 今からそっちに向かおうとしてたんだけど、もしかしてワザワザ迎えに来たんですか?」
俺が教室内に気を取られているうちにいつの間にか夏鈴さんがすぐ横まで来ていた。
いくら気を取られていったといえ、こんなに近くに来ても気付かなかったなんて・・・・もしかして気配を消す魔法でも使ったのか? これだから異世界人はおっかねーんだよ。
「たまたま四時間目の授業が隣のクラスだっただけよ。教室を出たら律樹が見えたから声を掛けただけ。それであなたはどうしてそんなところで盗み聞きを? 自分のクラスなら堂々としてたらいいじゃない」
やべ、ばれてら。しかし堂々するのがまずいから悪いと思いながらも盗み聞きしてたわけで・・・・
「まあそうなんですがね・・・」
「高遠君? それに夏川先生も」
どう言い訳をしようかと悩んでいたら、教室の中から河島さんがひょっこりと顔を出してきた。
「・・・なるほどそういうことね」
河島さんが登場しただけで何かを察した夏鈴さんはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「どういうことなんですかね」
俺は然も分かっていない振りをするがあまり効果はなさそうだ。
「最初見た時から見覚えある顔だなと思ってたけど、ようやく今思い出したわ。その子あの時律樹が思い浮かべた・・」
「ストーップ。先生、時間が無いので早く行きましょう」
無理やり回れ右をさせて
あぶねーな。本人を前にしてなんてこと言いやがるんだこの異世界人は。
「思浮かべた??」
言わんこっちゃない、河島さんが気にし始めちゃったじゃん。
「あー気にしなくてもいいから。ほら先生早く行きましょう。さあ早く」
夏鈴さんを無理やり回れ右をさせて背中を押す。しかし回すことに成功はしたもののその状態から軽く押しただけでは動く気配が無かった。次に普通の女性に対しては絶対に使わないであろう出力まで上げてみたがそれでもビクともせず、夏鈴さんは顔だけこちら側に向けその視線は俺の後ろの方にあるようだ。
マジ何なのこの人?
「高遠もこの新しい先生と仲良くやってるみたいだし邪魔しちゃ悪いから戻ろうぜ」
河島さんの次に現れたのは土井だった。俺達を見るなり嫌な笑みを浮かべたあとそんなことを河島さんに言った。
ああそういうことね。一時間目の後のあの嫌な表情もこれを河島さんに強調したかったってことか。せこい奴だ。
だが河島さんをよく見てみろ。お前が登場した途端半分死んだ目に変わったぞ。
いい加減助け舟を出した方が良さそうかなと思ったが、その心配は直ぐに消えた。というのも、
「そこの小っちゃい子」
「わ、私ですか?」
「そうよ。あなた英語はどの程度出来るのかしら?」
「英語ですか? そうですねえ・・・・あまり得意ではないかもしれません」
「ならあなたも律樹と一緒に今からワタシの補修を受けなさい。絶対後悔させないわよ」
「は、はい。 ぜひお願いします!」
気を利かせた夏鈴さんが土井の呪縛から解放すべく解呪の呪文を唱えたからだ。しかし敵の呪いも中々のもので、
「すみれは何か用があるんじゃなかったの? もしかして嘘だったとか?」
こびり付いた残滓が如く悪あがきを見せた。
「えっと、その・・・・」
解放されると安堵していたところに土井からの核心をついた痛恨の一撃に河島さんは明らかに狼狽してしまっていた。というか女の子に対して困らせるようなこと言うなよ。普通は分かっていてもスルーするところだぞ。
「それは時間がかかるのかしら?」
そこへまたもや夏鈴さんが解呪の呪文を重ねがけする。重ねがけはゲームによっては有効か無効か分かれるところだが、さあ現実はどうだろうか?
「直ぐに終わります! 職員室に行ったついでに先輩が居る部室に顔を出そうと思ってただけなので全然問題ないです」
夏鈴さんの呪文を上手く受けたようだな。筋は通っているしベストな回答だと俺は思う。そう言えばヨミ先輩とモモ先輩の二人は部室で食べてるって言ってたっけな。だとしたら最初からそのつもりだったのかもしれない。
「なら早く用事を済ませてきなさい。ワタシたちは先に生徒指導に行ってるから」
「生徒指導室ですね。分かりました」
これで円満に事が運ぶと思っては・・・・いなかったし案の定土井が割り込んできた。
「なら俺も行ってもいいっしょ? 俺も先生の補修受けたいしダメな理由ないですっよね?」
「・・・あなた名前は?」
「土井っす」
これは俺の勝ちっしょ。とでも思っているのか、土井は意気揚々と答える。
「なるほどあなたが・・・」
夏鈴さんは俺の体をいとも簡単にグイっと押し退け土井の前に出ると値踏みするように観察し始める。
そうか! 土井のことは昨日話してあるし、夏鈴さんはコイツに何か怪異的な何かが無いか見極めようとしているんだな。
「律樹」
もう答えが出たのか、夏鈴さんは視線はそのままに俺に呼びかける。
「はい夏鈴さん」
「やはりあなたの思い違いね」
「そうですか・・・・」
何かあるかもしれないと思ったのは俺の勘違いだったか。つまりコイツの性格は生まれ持ったもので、外的要因があった訳ではないんだな。まあそれはそれで問題大ありだけど。
「なんの話っすか?」
「気にしないでいいわ。それと今日の補修は二人までよ。それ以上は時間的にも無理だし、悪いけどあなたは別の機会ということで構わないかしら?」
「そんな、二人も三人も変わんないじゃないですか。何なら俺とすみれが別の機会にして今日はこいつ一人でいいんじゃないですか?」
「何を言ってるの? すみれを誘ったのはワタシ。そしてそのすみれはワタシの誘いに乗った。この時点で既に成立しているのにどうしてあなたの一存で変える必要があるのか理解できないわ」
「そ、それは・・・・」
「もういいだろ? 時間の無駄だし俺達は行くから」
夏鈴さんがここまで言っても素直に引き下がろうとしない土井に付き合う理由はない。
「チッ、調子に乗りやがって」
自分が一緒に行けないことをようやく悟ったのか、低ボキャブラリーよろしく、そんな捨てセリフを飛ばしてくる。
「まるで自分が三下ですよってアピールしているようなセリフだな」
「なんだとてめー イテテテ・・・」
軽い挑発のつもりだったが思った以上に激怒した土井は夏鈴さんを押し退け俺に向かってこようとした・・・・のだが、夏鈴さんをどかすどころか反対に彼女に腕を掴まれそのまま捻られてしまった。
ああこれかなり痛いやつだ。まあ自業自得だけどね。
「は、放せ」
「放せ?」
痛そうにする土井のお願いに対して表情を変えずオウム返しをする夏鈴さん。きっと偉そうに言うからちょっと怒ってるのかも。ちゃんと敬語を使ったらサッと放してあげるパターンだなこりゃ。
「テテテ・・・は、放してください」
土井もそのことに気付いたのかすぐに言い直す。これで夏鈴さんも土井を解放してあげ・・・・ない!?
「放してください? 意味が分からないわ」
マジか? これってお決まりのパターンじゃなかったの?
「じゃ、じゃあどうしたら放してくれくれるんだよぅ」
土井は既に半泣き状態だ。そんな土井を見て流石に河島さんも心配そうにしていた。
「そうねえ・・・・ならこうしましょう。あなたが入った部活を今すぐ辞めなさい。これが約束できるなら放してあげてもいいわ」
そうきたか。まさか昨日の話を聞いてそこまでしてくれるとは思ってもいなかった。しかしいくら何でもそれはやり過ぎな気がする。
「そ、それは・・・」
「出来ないならもう少し強くしてあげましょうか?」
「ヒ、ヒィー、勘弁してくれ。わ、分った、言う通りに・・」
「しなくてもいいぞ」
土井が同意の言葉を言い切る前に俺は二人の間に割り込む。それは土井の為ではなく他の理由があったからだ。
「へっ?」
いつもの威勢は何処へ行ったのか、変な汗と鼻水を流す情けない表情をした土井の姿がそこにはあった。
「律樹はそれでいいの? なんならもっと別な手段を使ってもいいのよ」
それは本当にシャレにならなそうなので絶対にさせてはいけない気がするんだが。ほら、土井がブルブルと震えちゃってるじゃん。
「夏鈴さんがどんな手段を使おうと本当の意味での問題の解決にはならないのでもう止めましょ」
「だったらあなたが解決すると?」
「それも違うかな。まあでも全く違うとは言い切れないけど。とにかくそいつを放してやってください。これ以上の騒ぎになると色々と面倒なことになるし。夏鈴さんだってこの仕事を今失いたくないでしょ?」
「それもそうね。いきなりクビにでもなったら源六さんとお爺ちゃんに申し訳が立たないわ」
やっぱり祖父ちゃん達が絡んでたか。ホント何者なんだよあの人たちは。
そこでようやく解放された土井だったが、まだ痛そうにしていた。そんな土井に声を掛けようか迷う素振りをしていた河島さんの手を取ったのは夏鈴さんだった。
「骨は逝ってないからそんなに心配そうにしなくても大丈夫よ。それくらいの加減はしたつもりだし」
誰もそこまで大変なことになってるとは思ってないから。ていうか怖いから当たり前みたいに言わんでくれな。
「そ、そうですか・・・・」
ほらみろ、河島さんも何とも言えない顔しちゃってるし。
「あなたはサッサと教室に入りなさい。それともまだ何か?」
「い、いえ!」
流石に堪えたのか、いつもだったら生活習慣の一部のように俺をひと睨みしてから去っていくのだが、どうやら今回はそんな余裕は残っていなかったようで、まさしく尻尾をまくように教室へ入って行った。
「あ、あのー」
「どうしたのすみれ?」
「そろそろ手を・・・」
「あらもう少し繋いでてもいいじゃない。すみれの手って柔らかくて気持ちいいのよ。ワタシみたいにゴツゴツして硬くないしね」
そりゃあんな物騒な物を毎朝鍛錬と称して振り回してたらそうなるのが普通だろ。あっ、称してじゃなくてガチ鍛錬だったな。
「でも周りに見られてるし恥ずかしいし・・・」
「ほら夏鈴さん、河島さん嫌がってるんだし放してあげたら?」
「あら嫌だったの? それは悪かったわ」
「嫌じゃないです。もうっ高遠君言いかた!」
えっ、助けただけなのになんで?
「ふふ、思っていたより仲が良いじゃない。少し出過ぎた真似しちゃったかも」
「出過ぎたというより最初から夏鈴さんは・・・・いや何でもなもない」
そのまま三人で一階に降り、元から用事があった河島さんと弁当を取りに行くと言っていた夏鈴さんは一旦職員室へと入って行った。俺は中には入らず外で待っていたのだが、少しして出てきたのは夏鈴さんだけだった。
「少しだけなら待とうと思ったけどまだかかりそうだったから先に行くわよ」
河島さんが居ないところで夏鈴さんに聞きたいことが山ほどあるし、俺的にも都合がいい。
そして向かったのは毎度お馴染みの応接室だった。
こんな気軽に使っちゃって大丈夫なの?




