42 バイト先って・・・
「えっどういうこと? もしかして転校生?」
「そんな訳ないでしょ。制服着てないし歳だって高一には見えないじゃん」
「そうそう。それに転校生だとしたらHRでタケちゃんが紹介してるし」
「ていうかどこの国の人なの? しかもメッチャ美人だし胸も結構あるぞ」
「そこの男子、教室内で変なこと言わないでよ。ああでも美人なのは分かるわー」
「なあアレって噂の臨時講師なんじゃね? 一昨日だかに職員室にいたって言う」
「ああなんか言ってたな。あの噂本当だったんだな。ということはALTみたいな感じ?」
あんたなんでここにいるの? バイトの面接に行くとか言ってなかったっけ?
「はいそこまで。みんな騒ぐ気持ちは分かるけど授業が始められないから静かにするように」
私語をすぐに止めさせるのではなく、ある程度みんなに喋らせてから注意したおかげか、その一言で教室内は見事に静まり返った。その手法を見て思わず感心してしまったのだが、先生には申し訳ないが今はそんなことに感心している場合ではない。
「事前の予告もなくみんな戸惑っているだろうがよく聞いてくれ。彼女は今日からしばらくこの高校で英語の授業の補助をしてくれることになった夏川先生だ。では先生自己紹介をお願いします」
「OK」
促された夏鈴さんは教壇に上り見事な英語で自己紹介を始める。クラス中が彼女のその言葉に耳を傾けているが、多くの女子生徒が羨望の眼差しで、大半の男子生徒は・・・・まあ男子特有のアレな視線を送っていた。
「ワタシは日本語も普通に話せます。なので英語が得意な子じゃなくても気軽に話しかけてきて」
最後に俺がいつも聞いている流暢な日本語で彼女が話をすると、また教室内が騒がしくなった。
これは一体どういうことだ? 夏鈴さんが英語を話せるのは理解できる。おそらく魔法的なものを使っているのだろうから。しかしここで働くとは聞いてないぞ!
みんなが騒がしくしている間、俺はジッと夏鈴さんを睨みつけていた。すると夏鈴さんは俺の存在に気付きパチリとウィンクを送ってきたが、俺はサッと目を逸らしガン無視を決める。だがその行為が命取りとなってしまう。
目を逸らされたことが面白くなかったのか、英語の先生に制止する余裕も与えすズカズカと俺の目の前にやって来くる。
何考えてるんだ、来るんじゃねえ!
慌てて首を横に振って『来るな』とアピールしたが時すでに遅し。夏鈴さんは机に右手を乗せグッと顔を近づけて言い放つ。
「ワタシを無視するなんていい度胸じゃない律樹。今日の昼休み補習確定よ。返事は?」
「・・・・・」
俺が返答を拒むと更に顔を近づけさせる夏鈴さん。もう鼻の先同士がくっ付く勢いだ。同時に「キャー」とか「おお?」とか、クラスのあちこちからそんな声が聞こえてくる。
「へ・ん・じ・は?」
三度目は無いわよ。と言わんばかりに強要してくるその強引さに俺は諦めるしかなかった。
「・・・了解っす」
「よろしい」
満足したのか夏鈴さんはサッと踵を返し教壇の方へと戻っていく。その際髪の毛がフワリト時鼻先を掠めいい匂いがしたが、この時初めて彼女は俺のシャンプーを使っているんだなと気付いた。同じものを使っていても使用者によってその効力が変わるとは、さすが異世界人ってとこか?
いやいやそんな訳ないし、これはどうでもいい話だったね。
「高遠君と夏川さんってどういう関係?」
「彼女・・・はさすがに無いかあ。でもあの組み合わせはアリ寄りのナシかなあ」
「くぅ、羨ますぃー」
「俺にもやってくんねえかなあ・・・・」
夏鈴さんのせいで悪目立ちしてしまったじゃないか。責任取ってくれます?
クラス中の視線を集めることになった俺だが、その中に河島さんのものもあった。とりあえず今出来るの精一杯の愛想笑いを河島さんに送ったが、何故かプイっと目を逸らされた。文字さんと小島さんはやや呆れた表情を浮かべており、一哉は『ほら言った通りだろ』と言っている気がした。大空に関しては終始笑っていた気がする。
その後は普通に授業が進められ無事一時間目が終了する。そして砂糖に群がる蟻の如く、多くの生徒が授業の終了とともに俺の席に一斉に集まって来た。
「ねえねえ高遠君、夏鈴さんと知り合いなの?」
「まあ一応」
ホントつい最近知り合ったばかりだけどね。
「律樹って呼んでたし絶対普通の関係じゃないよね?」
「いや普通の関係だし」
普通じゃないってなんだよ? まああの人自身が普通ではないけどな。
「夏川夏鈴ってメッチャ日本人の名前だけど本当は日本人てことなの?」
「帰化したって聞いてる」
それも超グレーと言うか完全にアウトな方法でね。
「先生の年齢は?」
「それは本人に聞いてくれ」
女性の年齢を勝手に言うのはまずいだろ。
「先生って何処の国の人なの?」
「オーストリア」
に似た名前の異世界にある国だけどね。
「夏川先生の趣味って知ってる?」
「んーどうだろ? しいて言えば槍かな」
趣味と言うか職業って言ってた気がする。
スリーなサイズは?
「知らん」
知ってたら逆に怖いだろ。
「もういいか? 質問なら夏鈴さんに直接言えよ。たぶん普通に教えてくれると思うぞ。ていうかなんでさっき聞かなかったんだよ」
俺がそう言うと今日初めて話をした女子生徒が体をクネクネさせながら、
「だってーちょっと近寄りがたい感じだったし。それに高遠君との関係も気になるじゃん」
と、若干の申し訳なさを混ぜながらも目は完全にギラギラさせた状態で答えた。
まあ気持ちは分からなくもないけどさ。あとスリーなサイズってなんだよ? ベタな質問し来るんだったらせめてもう少しエッジの効いたこと聞いて来いよな。女子の皆さんがドン引きするくらいのな。そうすれば注目とヘイトをそいつに移せるんだが・・・・
「もしかして一緒に住んでたりするのかな?」
そうそうこんな感じ・・・・・
「えっ?」
「だからね、一緒に住んでるのかなって?」
まさかの質問をしてきたのはまさかの河島さんだった。ていうかなんでそのことを?
彼女の表情は俺を揶揄ってるとかそんな感じには見えず、どちらかと言うと真剣そのものだった。
河島さん云々は一先ず置いといて、まずはこの質問に対しどう答えるかよく考えるんだ俺。ここでボロを見せたら目も当てられないことになってしまう。ここでの正解を導き出すんだ!
「えーと・・・まあ一緒に住んでいることは確かだけど、それは一時的と言うか、そもそも彼女は俺の祖父ちゃんの友人の孫で、その友人も一緒に住んでいる感じ?」
「ウッソーマジで?」
「マジで」
「ちょっと高遠君それ本当なの?」
「本当」
「あんな美人な人と一緒に暮らしてるのかよ・・・チクショウ」
「・・・・・頑張れ」
否定しても俺の家がこの学校からそう離れていない場所にある以上いつかはバレてしまうだろう。その時変な邪推をさせないためには今ここで正直に話した方がベターな気がする。そして予想通りの反応を見せるクラスメイトだったが、質問した張本人は少し様子が違っていた。
「なんで疑問形なのかは謎だけど一緒に住んでいることは間違いないんだね」
「お、おう。別に隠すつもりはなかったんだけど、自分から言って回ることでもないだろ?」
なんか刺々しい言い方だな。もしかして・・・・いやまさかね。
「うんそうだね。ゴメンね変な質問しちゃって」
まったくだよ。寿命が一か月くらい縮んだ気がしたぜ。
「・・・別にいいんだけどさ、誰からその情報を聞いたの?」
知り合いと聞いただけで「一緒に住んでるの?」とは普通は聞かない。だとしたら河島さんは誰かから聞いたか、それとも実際に見たとしか考えられない。
「えっ? ああ、うん。なんとなくそう思っただけかな」
本当に? と思わず返しそうになったがそれ以上この話をするのも嫌だったのでその言葉は飲み込んだ。
「ねえねえもう少し詳しく聞きたいから今日のお昼一緒に食べない?」
誘ってきたのは先程のクネクネ女子だ。しかしお昼は夏鈴さんの補修を受けなければならないので断るしかない。まあそもそもそれが無くても断るつもりではあったけど。
「悪いが・・」
「高遠君、あなたお昼は夏川先生に呼び出されてたでしょ。ならそっちに行くべきでは?」
後ろから誰かが俺の言葉を遮りそんなこととを言う。反射的に後ろを振り返るとそこにはついさっきまでは居なかったはずの文字さんが腕組みをしている文字さんの姿があった。まさしく仁王立ちとはこのことだろう。本人には絶対言えんけど。
「あーそんなこと言ってたね。じゃあ別の機会にでも話聞かせてよ、約束だよ」
「タイミングがあったらなタイミングが合えばな」
今朝一哉から俺に『たらし』容疑が掛かっていると聞いているので、可能な限り逃げ回るのが得策だな。
文字さん効果なのか、あれだけ集まっていたクラスメイトも散っていった。最後に離れていった文字さんが去り際に俺の耳元で、
「これで貸し一つだからね」
とものすごく低いトーンで言った。
いやいや、断るくらい自分でも出来たし、実際断ろうとしてたんですけど?
そう文句を言おうにも既に去ってしまっていたので、悔しいが借りを作る形が成立してしまった。
まあ大した仮でもないし気にするほどでもないか。それより気になるのは河島さんなのだが、彼女の既に自分の席に戻っている。後ろ姿しか見えないのでどんな表情をしているのか分からないのでなんとなくヤキモキする。代わりに何故かこっちを見ていた土井と一瞬目が合う。直ぐに逸らされてしまったが間違いなく俺を見てニヤついていたのは分かった。理由は知らないがこれ以上周囲に不快をバラまくのは止めてもらいたいものだ。
また夏鈴さんの話を聞かれるのも面倒だったので、昼休みまでの休憩時間中は教室以外のところで適当に時間を潰して過ごした。その甲斐あって誰にも絡まれることはなかった。




