37 提案
「えっ、高遠君それ本気で言ってるの?」
「本気も本気。ていうか一番シンプルだし人間関係も壊れない可能性がかなり高い。もちろんいうタイミングにもよるけどね。みんなが揃っている前で喋るのが一番理想で効果的だと思うぜ」
「・・・・・言われてみればそうかも。でもなあ・・・」
「問題はその相手を誰にするかだよね。でもぶっちゃけイマジナリーでもいいと思うんだ。ていうか地元が全然違うんだしそっちに住んでいる人って言うのが安全かも」
「理屈ではそうだけど、どこかのタイミングでボロが出てしまわないか心配だし自信ないなあ」
「でもこれはあくまで一つの案だからね。完全に諦めさせるにはやっぱりハッキリ言うほかないと思うぞ。ましてやあの土井だし、河島さんに彼氏が出来たくらいでそう簡単に諦めるとは考えにくい気がするそれに・・・」
俺が河島さんに助言と言うか提案したのは所謂時間稼ぎというやつだ。
河島さんに彼氏が出来た、もしくは既に居るということを仲の良いメンバーが集まっているタイミングで話す。そうすれば普通の人間だったら諦めて身を引くはずなのだが、ところがどっこい一筋縄ではいかなそうな土井に対してはそれだけでは足りないと思う。もちろんそこで引いてくれることが理想なのだが、その望みは低いと思われる。
しかし彼氏がいる人間に対して付き纏う奴を周りはどう見るだろうか?
当然良い印象は持たれず悪印象だけがそいつに与えられる。しかもこの提案のメリットはそれだけではない。河島さん以外の女子も安堵するのではないかと俺は推測している。誰が誰に好意を持っているのか知らないが、少なくても河島さんに取られる心配は格段に減るわけだし、女性陣の中の不和は起こりにくいだろう。
そうするとどうなるか?
答えは簡単。土井がもし諦めずに河島さんにしつこく迫ってきたとしても、それはアイツが加害者で河島さんが被害者だという明確な構図が出来上がる。今までは河島さんが曖昧な態度を取っていたせいで見えにくかったものが、完全に浮き彫りになるはず。そしてその状態でハッキリとNOを突きつければ少なくとも女性陣は味方してくれるだろうし、河島さんに好きな男子を取られてしまうという可能性が低いことが根底にあるので、彼女がいない裏側でも悪く言わないような気がする。気がするというのはあくまでも男目線で考えた場合の話で女子目線だった場合はそうではないのかもしれないが、こればっかりは俺にはどうしようもない。
それはさておき男子側はどうだろうか? 同じ男子として普通はドン引きするレベルだし(既にそうなのだが・・・)、 味方に付くとは考えにくいし、それが原因で河島さんグループと仲が悪くなるとも考えにくい。そもそもな話、俺達男子は女子と一緒に行動できるというだけで浮かれてしまう種族なので、最初から心配はないと思ってる。
こうすることで土井に今すぐNOと突きつける必要はないし、あわよくばその時点で身を引いてくれる可能性も僅かながらにある。もしくは諦めなかったとしてもその勢いは多少なりとも衰えていくことも考えられる。
俺が考えていることをある程度説明し最終的な判断は河島さんに委ねることにした。
「彼氏かあ・・・」
「因みに実際は?」
「居るわけないし、今まで居たこともないよ。そういう高遠君は?」
可愛いのに居るわけないというのもどうかと思うが、この様子だと本当のことなのだろう。
「中学の時に少しだけ付き合ってたかな。でも今は連絡すら取ってないぞ」
「へえ居たんだ彼女」
「そんなにおかしいか?」
「ううん、そんなことない。だって高遠君妙に女の子慣れしてるし居ない方が不思議だと思ってた」
「いや全然慣れてないし。正直今も平静を取り繕うのに必死だし」
これは嘘ではない。文字さんや小嶋さんと二人きりだった時だって結構緊張はしていた。ただそう見られないよう意識はしていたし自分でも割と上手くいってると自覚していたのでそう思われても仕方がないのかもしれないな。
「そうは見えないけどなあ」
「見えなくても納得してもらうしかない。それより自分のことをちゃんと考えないと」
「そうだった。うーんでもどうしようかなあ? 誰か都合のいい人いればいいんだけど・・・」
そう言いながら上目遣いで俺を見てくる河島さん。他のお願いだったら叶えられたかもしれないが、今回に関しては俺が矢面に立つのは色々と不都合がありすぎる。ていうかたまにこうやってあざとくなるのはズルい!
「言っておくけど俺は無理だぞ」
「何で? 言い出したのは高遠君だし、私的にも頼みやすいというか、頼める人が他に思い浮かばないと言いますか・・・・」
「さっきも言ったけど別に架空の彼氏でもいいんだぜ。そのことを知っているのは俺だけになるし、秘密が漏れる心配もしなくてもいいんだぞ」
俺が彼氏役だって? そんなラノベみたいなこと出来るかつーの。まあ嫌いな展開ではないけどね。
「それはそうなんだけど、ほら何かの拍子に居ないことがバレたら色々と面倒な事になるでしょ」
「だからといって俺はダメだ。まずあの土井が認めるとは思えないし絶対今より面倒な事になる。それに今まであまり教室内で話してこなかっただろ? それなのにいきなり付き合ってますって言ったら疑う奴も出てくるだろうに」
それに加え普段からそれっぽく見せる必要が出てくる。俺としては正直なところ嫌ではないのだが、出来れば中途半端なことはしたくないというのが本音だ。
「そっかー、そうだよね・・・・ゴメンね変な事言っちゃって」
「まあ提案したのは俺だし本来は頼まれたらやるべきなのかもしれないけど、気持ちの問題と言うか・・・すまん、とにかく俺以外にしてくれ。それ以外のサポートなら何でもするから」
「分かった。でも少し考えさせて。彼氏がいるって伝えるのもそれはそれで結構なエネルギーが必要だし、他にやれることがないか考えてみるね」
「それでいいと思うぜ。なにも俺の提案だけが全てじゃないしな。それはそうとこれからどこに行くつもりだ?」
「アドリ部は少し時間をおいて行こうかなって。だから菜園部に顔を出しに行こうと思ってるんだけどせっかくだし一緒にどうかな?」
「結局アドリ部には行くんだ? てっきり今日は行かないものだと思ってた」
「行かないとは一言も言ってないよ」
「そうだったっけ?」
確か自分は行かないから一人で行ってって土井に言ってた気がするんだが・・・
「そうだよ。別なところには行くとは言ったけど、アドリ部に行かないとは一言も言ってないから。ね、嘘は言ってないでしょ?」
「ははは、誰が聞いても行かないようにしか聞こえなかったけどまあいいか。どうせ入部届出さなきゃいけないかったし俺は構わんよ」
入部届の用紙は余るくらい貰ってるしな。
「なら決まりだね」
移動することになり俺は飲みかけのジュースを一気に流し込む。河島さんは結局フタすら開けなかったのでミルクティーを鞄にしまっていた。
菜園部に向かう途中文字さんからRhineが届き、その内容を確認した瞬間少し浮つき始めていた俺の心が二段階程低下してしまう。やっぱりあの文字さんの不吉な笑みが俺に厄介事を運んできてしまったようだ。
『言い忘れてたけど一哉と私の間をちゃんと取り持つように。出来なければ分かってるわよね?』
文字さん、あんたどんだけ自分が無理難題言っているのか自覚あります?
とは返信できなかったので、
『善処します』
とだけ送っておいた。
数日振りに菜園部にやってきたわけだが、驚いたこと新入部員が増えていた。しかも三人も。
先輩たちが三人、それに河島さんと他三名が加わり合計七人となり菜園部はめでたく部として存続できることになる。
菜園部は武道場を部室として使用しているわけだが、外から入る玄関やエントランス的な場所、そして道場内の約半分を占領している。その半分のエリアには畳が敷かれていないが、使用していないエリアには今も敷かれており、端っこの方には数十枚の畳が重ねられていた。おそらく部室で使うスペースに敷かれていたものと思われる。
「いや良かったですね鈴原先輩。これで問題は解決したみたいですし、俺が入る必要はこれで無くなりましたね」
少し離れた場所で何か作業をしている河島さんと、彼女と一緒に居るその他の新入部員を眺めながら鈴原先輩に言ったのだが、この何気ない一言が命取りになるということを俺は後に思い知らせられることになる。
「あと1.5人入ってくれればね」
帳簿らしきものを書いていた手を止め鈴原先輩は苦々しい表情で俺にそう返してきた。
「1.5人?」
「アレ? 前来た時に説明してたと思うけど、忘れちゃった?」
何だったっけな・・・・・ああ兼部か。
「そう言えば河島さんはアドリ部と兼部だから人数的には0.5人勘定でしたね。ということは後二人が?」
「そうよ。新入部員四人のうち兼部は3人。つまり実質2.5人しか増えていないことになるのよ。君が入ってくれたら残り0.5人になるんだけど、考えてみてくれないかなあ」
「残念ながらアドリ部に入るつもりなんで入ったとしても残りはあと一人ですよ。まあ入らないですけど」
夏鈴さんやカエルのトウラのこともあるし、これから起こり得る不測の事態に備えて出来るだけ時間に余裕を持たせておきたいんだよなあ。
「そこを何とかお願い! もう時間が無いのよ」
「そう言われてもなあ・・・」
俺が入ったところであと一人足りない。先輩の様子からして他にあてが無いように見えるのでかなり厳しいようにみえるし、期限は今週いっぱいのはずなので尚更だ。
「じゃあ君じゃなくてもいいから他に入ってくれそうな子に心当たりはない?」
小島さんは分からないが文字さんは確か部活には入らないようなことを言っていたな。裏を返せばまだどこにも属していないことになる。後は一哉だが・・・・・お互いのことを考えればアイツはやめておいた方がよさそうだな。
「うーん強いて言えば一人か二人心当たりはありますけど・・・・あっ」
「どうしたの? もしかして入ってくれそうな子が?」
「い、いや、そうじゃないんですが一人だけ勝手に入ってきそうな奴が一人・・・」
河島さんのストーカーである土井なら可能性は高そうだ。それに俺達の後をついてきた様子はなさそうだが、さっきの事と先週この近くを一緒に歩いていたところを見られていたので、ここに目星を付けやってくる可能性は十分に考えられる。だがそうなると河島さんが辞めてしまう可能性があるし、そうなると自動的にアイツも辞めるだろうからトータルでマイナスにしかならない。
「そうなの? ここに居る子以外でそんな子いたかなあ?」
「たぶん来たことはないと思いますよ。だけどこれから来る可能性はあるかもしれないです」
「えーそうなのー? いいじゃんいいじゃん。ていうか知っている子なら連れてきてよ」
「いや出来ればそいつは入れないで欲しいですね。詳しくは言えませんが最終的に部員が減って大変なことになりますよ」
「マジか! それってもしかしなくてもすみれちゃん絡みでしょ?」
マジか! スゲーな鈴原先輩。そこまで分かってるなら話してもいいか。
「はは、いい勘してますね。その通りですよ先輩。なのでもし土井という奴が入部届だしてきたら受け取らない方が部の為だと思います。まあこっちの都合だし部外者の俺が言うことでもないんですけどね」
「ううんそんなことない。逆に教えてくれて感謝しかないし。そっかーすみれちゃんも大変だなあ。だったらなおさら君が入った方が良いと思うよ。君がいればすもれちゃんも安心だろうし、仮にその土井って子が入ってきたとしても君がどうにかしてくれるんでしょ?」
「出来ればアイツには関わりたくないんですけどね。それと土井を受け入れる前提で話してません? 言っておきますけどアイツも兼部になるから俺が入ったとしても0.5人足りませんよ」
「・・・まさかだとは思うけど、土井って子のもう一つの部活ってすみれちゃんと同じじゃないよね?」
「そのまさかですよ」
「うわーマジかー。だったら部のことは一旦置いておいて本気で入部をお断りした方がよさそうだね」
「そうした方が河島さんも喜ぶと思いますよ。もしかしたら自分のせいでアイツが入部出来なかったって自身を責めてしまうかもですけど」
「優しいんだねえすみれちゃんは」
「それもありますが・・・・いや何でもないです、忘れてください。それより俺より頼りになりそうな奴に心当たりはあるので一応今RHINEしますけど、あまり期待はできないんでそこのところは理解してください」
優しいのもあるが、周りを気にし過ぎて自分の首を絞めてしまっているともいえるんだよなあ。
「嬉しー。あっ、全然話は変わるんだけどさあ、昨日一緒に居たあの綺麗な外人さんって君の知り合いなの?」
ホント話が急に変わったな・・・・まあとりあえず文字さんにRHINE送っておくか。ついでに小島さんも。
・・・・・さて、昨日の外人さんといえば間違いなく夏鈴さんのことだろうけど、なんて答えたものか・・・・
「知り合いですね。厳密に言うと俺の祖父ちゃんの知り合いの知り合いという感じですかね」
夏鈴さんではないけど嘘は言っていない。今この学校で夏鈴さんと一緒に住んでいることを知っているのは大竹先生と小寺先生だけだ。それ以外だと俺の家がシェアハウスになっていることはヘイ太や比呂斗、それに一哉を含めた三人だけが知っているが、家での彼女との面識はまだない。まあアイツらにはいずれバレるだろうし近いうちに話はするつもりだ。
「やっぱりそうなんだ。んーでも昨日はいきなりだったし最初はALTの先生かと思ったけど、よく考えたらあの雰囲気は違うよね。近くに居たのって大竹先生以外は体育の先生だったし。でもそうなると何用できたのかずっと気になってたんだよねー」
「あーそこはノーコメントで。色々と事情があるってことで察してください」
「すっごく気になるけどそう言われたら引くしかないかー。でも一つだけ教えて」
「答えられる範囲なら」
「その人の母国語って何かな? というのも英語だったらネイティブな会話を勉強したいのよ。実は大学に行ったら海外留学考えててさ、今のうちにやれることはやっておきたいの」
夏鈴さんの母国語ねえ・・・・まさか異世界のどっかの国の言葉が彼女の母国語なんですよって言えるわけないし、そもそも俺も知らないんだよなあ。
「えーと、知り合ったばっかりで詳しく知らないんで後で聞いておきます」
今はこれが精いっぱいの回答だ。
そういえば夏鈴さんってこっちの世界に来てそんなに日が経っていないのに流暢な日本語を喋ってるよな。もしかしてそれも魔法か何かなのか?
「よろしくねー」
ピコン
マナーモードを解除してあったスマホからRHINEの着信音が鳴ったので画面を開く。
『興味ないわ』
文字さんから送られてきたのはこの短い文章だけだった。つまり彼女は菜園部には入らないということになる。
「夏鈴さんの件は了解っす。それとさっき話なんですがどうやらあてが外れてしまったみたいです。変に期待させてすんません」
「いいっていいって。そりゃあ残念だけど菜園部のために動いてくれたんだし気にしないで」
すると開きっぱなしだったトーク画面に新たな文章が書きこまれる。今度は長文だった。




