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38 注意報

『私たちはまだ学校に残っているんだけど、さっきから土井の奴がウロチョロしているのが見えた。それとついさっき河島さんの下駄箱の中を勝手に開けて覗いたあと外に出て行ったので要注意!!』


 人の下駄箱を勝手に覗くなんて恥も外聞もない奴だな。開けていいのは恋文を入れるときだけだと昔から決まっているだろうに。


 しかし外に出たということはここに来る可能性が出てきたってことだよな? 願わくばそのまま帰ってもらいたいのだが・・・・


「やばいっす鈴原先輩」


「ん、どうしたの?」


「さっそく土井注意報が発令されました」


「うわっキモイ!」


 冗談っぽくではなく心底嫌そうな表情で言う先輩。



「ホントキモイっすよね。それでもしアイツが入部したいって言ってきたら・・・・」


 文字さんから送られてきたメッセージの内容を鈴原先輩に話した後どう対応すればよいのか相談してみることにした。


「大丈夫、菜園部は男子禁制ってことで断るから」


 確かにここに居る正式な部員は女子しかいない。今日も来ていない他の二人も女子と聞いていたので筋は通っているように見えるのだが・・・・


「でも現実問題俺がここに居る時点でその理由だと厳しいんじゃ・・・何ならどっか適当に隠れてます?  まだここに来るかはわかりませんが」


「その必要はないよ。だって君はまだ部員じゃないし、そうなると本当に部員は今のところ女子しかいないから。君は今日私に雑用を頼まれたからここに居ると言えばいいから。あ、もちろんその後正式に入部するのは大歓迎だからね」


「先輩も中々引かないっすね。それじゃあもし土井が来たらお任せしますよ。それと河島さんにも伝えておきますね」


「ちょっと待って」


 作業をしている河島さんに今の話を伝えに行こうとすると、鈴原先輩は俺に向かって右手を前に差し出し待てのポーズを決める。


「何か問題でも?」


「問題はない。だけど男子禁制以外にも対策は講じておいた方がいいと思うの」


「と言うと?」


「その土井って子が来るとしたら時間の問題なんだよね? だったら今すぐ君とすみれちゃんの靴を入り口から取ってきた方がいい」


「もしかして居留守・・・ではないけど俺達が来ていない体にするってこと?」


「話を聞いた限りそれが一番手っ取り早いと思う。それと本当に来たらそのまま渡り廊下側の出入り口からコッソリ出てしまえば今日はもう会うことはないはずだし」


 渡り廊下側というのは俺が最初勘違いしていた方の開かなかったドアのことだな。確かにそこから出れば見つかる可能性はかなり低そうだ。


「俺が言うことじゃないかもだけど。部活を放り投げて帰っちゃってもいいんですか?」


「いいのいいの。そもそも今週は来れないって聞いてたしそこは問題ないよ」


 そう言うことなら遠慮なく逃げさせていただくとするか。


「なんかスイマセンね、変な事に巻き込んでしまって」


「そんなのいいから早く持ってきなよ。じゃないと最悪入り口でご対面ってこともあるんだから急いで」


 そうなったらこの上なく面倒な事になること請け合いだな。


 小走りで玄関まで行き自分の靴と河島さんの靴を拾い上げ中に戻る。すると先輩が説明してくれたのか河島さんは既に手に鞄を持っており、いつでも移動できる状態だったが、その表情はどこか暗いものだった。


「高遠君・・なんかゴメンね」


「気にすんな」


「他のみんなもゴメンなさい。いきなりやって来て勝手に帰ってしまうことになって・・・」


「部員を守るのは部長である私の役目だから。それと他のみんなも今日のことは口外しないこと、いい?」


 さっきまで河島さんと一緒に作業していた他の三人が各々に返事をする。みんな大人しそうな人ばかりなので変に話が拗れることもなさそうだ。


 すると玄関の方からキィーと扉が開く音が聞こえてきた。


「私が時間を稼ぐから二人とも早く行って。あっちのドアを抜けた先がもう一つの玄関に繋がってるから」


 先輩が指差したのは道場内の畳が敷かれているエリアの更にその奥で、確かにそこにはドアがあった。


「了解っす。じゃあお先しまーす」


「お、お疲れさまでした」


「「「お疲れさまでした!」」」


 俺達が挨拶をすると新入部員三人がニコニコ顔で俺達を見送ってくれ、鈴原先輩は返事こそしなかったが軽く手を上げそのまま玄関の方へと消えていった。


 なんであの三人は嬉しそうというか楽しそうにしてたんだ?


 

 先輩が言っていた通り道場の反対側のドアを抜けた先はもう一つの玄関があった。


「あれ? この鍵錆びているのか全然回らねえ」


 しかしそこから出ようにも内鍵が全く回らない。一応そのまま扉を開けてみようと試みたがビクともしなかったのでやはり鍵は掛かっている様だった。


「・・・・・・ねえ、だったらそこの窓から出ればいいんじゃないかな」


 扉が使えないと分かると否や河島さんは横にあった窓を指差して言う。


「だな。ちょっと待って・・・・・おっ、こっちはちゃんと鍵も開くし窓自体も問題なく開いたな」


 最近掃除した形跡もなかったし割と古めな窓だったのでちゃんと開くか心配だったが、それは杞憂に終わった。念のため窓からそっと顔を出し辺りの様子を窺う。遠くの方でチラホラ人の姿は見えたものの、土井らしき人物は見当たらなかった。


「今がチャンスだな。俺が先に行くからちょっと鞄だけ持ってて」


 申し訳ないと思いつつも玄関から上がった場所で靴を履き、窓から身を乗り出し外へと降りた。河島さんから二人分の鞄を受け取り彼女が窓から出てくるのを待つ。


「・・・・・・・・」


 しかし河島さんは窓から俺を覗き込むだけで一向に降りてこようとはしなかった。


「どうしたの?」


「いやその・・・・」


 何かを躊躇っている様子の河島さん。どうしたんだろう? と少しの間考えたところで一つに答えに辿り着いた。


「スマン、配慮が足りなかった。あっち向いてるからその間に降りてきなよ」


 このまま降りると俺にスカートの中を見られると思って躊躇してたんだな。


 そのまま窓とは反対方向に体ごと向ける。


「えっ?」


「河島さんが降りてくるまで絶対に振り返らないから安心して」


 偽善ならぬ偽紳士を装い河島さんを安心させたい、そう思っていたのだが・・・・


「何で後ろ向くの? むしろこっち見てほしいのだけど・・・・」


 まさかのご褒美タイムが発動?


「いやそんな・・・本当にいいの?」


 もしかして河島さんって見られて興奮するタイプなの? いやそんなバカなこと河島さんに限ってあるはずがない。


「いくら高遠君の背が高いと言っても流石に後ろ向きじゃ怖いかな」


 高い? 怖い? もしかして俺は何か勘違いしてしまったか?


 「あのー」と言いながら体を百八十度回転させ河島さんを見上げる。


「もしかしてんだけどそこから一人で降りられないとか?」


「・・・・うん」


 うわーやっちまった。何がスカートの中が見えちゃうからだよ。


「だから俺に手伝ってほしいと?」


「じゃないと降りた時足首捻りそうで怖いの。私って運動音痴だし出来れば手伝ってほしいかな」


 よく考えなくてもここの窓って普通より高いじゃん。ていうか自分でも実際に降りたんだしそれくらい気づけよな俺。


 この道場の玄関はどちらも階段を数段上がったところにある。従って窓の高さが外の地面から普通より高くなっているので、小柄な河島さんでなくても一般的な女性なら怖気づくのも当然といえよう。


 もう一度言おう。


 なんでそんな簡単な事に気付かなかったんだよ俺は!


「オーケー、喜んでお手伝いしようじゃないか」


 気遣いが出来なかったことを誤魔化すためにオーバーアクションを取ったのだが、余計恥ずかしくなってしまった今日この頃・・・・・


「えーと・・・・じゃあお願い」


 スルー気味にされた俺は咳払いを一つしてから上に向かって両手を上げる。それに呼応するように河島さんが窓から身を乗り出し両脇を少しだけ広げてきたのでそこに両手を差し込み彼女を持ち上げる。河島さんが片足を窓の縁に乗せたところで彼女の体を自分の体に引き寄せたため、最終的のは自然と抱きかかえるような形になってしまった。


「・・・・悪気はなかったんだけどね」


「・・・ううん頼んだのは私だし」


 二人の間に微妙な空気が流れる。それといい匂いも。


 俺の煩悩が『しばらくこのままでいろ』と命令を出してきたが、本能が『ポスト土井になる確率70%』と割とシャレになっていない単語を発信してきたのでゆっくりと河島さんを地面に降ろした。


 今日一日を通して表情が優れなくどちらかと言うと顔色もあまり良くなかった河島さんだったが、今この時だけは違っていた。それはきっと俺も同じで、もしかしたら彼女以上かもしれない。 


「・・・ここに居ると土井に見つかる可能性があるから取り敢えず場所変えようか』


 気恥ずかしいけど今の空気感や余韻をこの人気のない場所でもう少し味わっていたかったのだが、今はそんな悠長なことを考えている場合ではなかった。 


 クソ、全部土井のせいだ。


「ならアドリ部に行こうよ」


「そうするか。さっき来たのがアイツかどうかは分からないけど、河島さんが校舎内に居ないことが知られていることが寧ろ好都合ってことだな」


「えっどういうこと? もしかして私GPSか何かを何処かに仕込まれてる?」


 それは流石に発想が飛躍しすぎ・・・・・とは言い切れんし、アイツならやりかねん。


「時間なかったから聞いてなかったみたいだな。実は河島さんの下駄箱勝手に開けて校舎内に居るかどうか確認してたみたいだぞ。これ文字さん情報な」


「っ・・・・・・・」


 呆れと驚きで声を失っているな。だがこれは紛れもいない真実なのでどうか現実を受け入れてほしい。それとまた血の気が引いてきたのか表情だけでなく顔色も悪くなってきているし。


「まあ流石に何かを盗むとかそこまではしないと思うけど、一応自分のロッカーとかも注意しておいた方がいいぞ」


「そうする。ハァ、やっぱりちゃんとしなきゃダメかあ・・・・そうなるとやっぱりあの話を真剣に考えた方が良いのかなあ・・・・」


「あの話って?」


「あっううん、独り言だから気にしないで。それより早く行こ」


 気にするなと言われれば余計気になるのが人間の性だよね。取り敢えず今日帰ったら土井のこと孫七さんや夏鈴さんに相談してみるかな。大空曰く土井は昔からあんな感じだとは言っていたし、可能性は低いが生まれつき何かを抱えていることだってあり得る。アイツを助けるつもりは一ミリもないが、これ以上河島さんに悪影響を及ぼすなら何かしらの対策を本気で考えなきゃだしな。



 予想通りアドリ部には土井の姿はなかったのだが、モモ先輩の証言でまた不快な思いをすることになる。

 土井は一度部室に現れたらしのだが、室内を見渡した後「用を思い出したので返ります」と言ってすぐに去ったらしい。当然河島さんの姿が無かったから帰っただけなのだが、事情を知らない先輩や他の部員たちは、何だアイツ、と思ったそうだ。一瞬先輩たちだけにでも事情を話そうかと思ったが、俺から言うことでもないので辞めておいた。


 俺達が顔を出した時ちょうどヨミ先輩は部室から離れていたので、これ幸いとモモ先輩に入部届を出した瞬間、何処となくいきなり現れたヨミ先輩に「信じてたよリッキー」と後ろから抱きつかれてしまった。


 ホントどっから現れやがったんだよ! ってマジで思った。


 その後もマシンガン宜しく、一方的なコミュニケーションが始まったのだが、これは通過儀礼みたいなものだと思い諦めて適当に流し、その間『逃さんぞ』とばかりにずっと抱きつかれたままだった。タイミングを見計らってモモ先輩に助けを求めやっと解放されたわけだが、悲しいことに隣に居たはずの河島さんはいつの間にか他の部員と作業を始めていたのだった。


 見捨てるなんて酷いじゃないか!


 なんやかんやあって結局俺達は最終下校時刻までアドリ部で過ごした。その後は念のため駅まで河島さんを送っていったのだが、別れ際にこんな会話をした。


「今日言ったこと少し撤回するね」


「撤回?」


「高遠君が女の子慣れしているってことだよ」


「それは撤回して正解です。ご理解いただき感謝感謝」


「・・・・そういうとこなんだよなあ、まったく」


「えっ、今なんて?」


「難聴系ヘタレ主人公か!」


「ウソウソちゃんと聞こえてたって。どういうとこか全くわからんけど」


「だからそういうところだよ」


「んーナゾナゾか何か?」


「イメージ的には近いかもですね、リッキー君」


「Y先輩を思い出すからその名で呼ばんといて」


「と言うことは・・・・ううんやっぱり何でもない。それよりここまでで大丈夫だよ。送ってくれてありがとう、また明日ね」


「おうまた明日な」



 結局何のことか分からないまま駅の改札の手前で俺達は別れた。


 ホントなんだったんだろ?



 そこから家に帰る途中再び文字さんからメッセージが届く。



『私に興味を持たせることが出来たら菜園部に入ってもいいわ』


 なにこれ、一体どういう風の吹きまわしなの? ていうかこれ絶対何か裏があるとしか思えない。だとしたらこう返すのが一番・・・だよな。


『謹んでお断りします』


 だってもう俺のキャパ限界だしさ。


 そしてすぐに、


『怒』


 の一文字だけ送られてきた。


 ド直球すぎるだろ、おい!

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