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36 相思相愛班編成

 河島さん達は一階の階段を下りてすぐのところで待っていてくれた。


「遅かったわね」


「まあちょっとな。それと急に変なこと頼んで悪かったな」


「あれくらいなんともないわ。それで少しだけ時間をくれないかしら、直ぐに済むわ」


「なら私は少し離れてようか?」


 気を利かせようとした河島さんだったが文字さんは「大丈夫」と言って続ける。


「実は河島さんにも関係あるというかお願いしようとしてたから」


「私に?」


「そうよ。今度校外学習があるじゃない。その時河島さんと同じ班になれないかなって思ってたの。もちろん高遠君も一緒にね」


「そういうことかあ。ならちょうど良かったかな」


「ちょうど良かった?」


「うん。実は私も文字さんと小嶋さんに一緒の班に誘おうと思ってたところだし」


 河島さんが文字さん達を誘うのは理解できる。現状文字さん達が他の誰かと組むような話は聞こえてきていないからだ。しかしその逆はどうだろうか? 河島さんはいつものメンバーで班を組むのが既定路線だとクラスの誰もが思っているはずなのに、それでも声を掛けるというのは何か理由があるのだろうか?


「もしかしてさっきの奴が原因でしょ?」


 鋭いな。もしかして女の勘って奴か?


「まあそんなところかな。でも高遠君も誘おうとしてたなら尚更ちょうど良かったよ。実は一緒の班になる約束してたから」


「へー」


「なーんだ、やるね高遠君」


 ジト目で見てくる文字さんと何故か褒めてくる小嶋さん。何もやってないんだけどな・・・・


「何か勘違いしているみたいだけど・・」


 言い訳するつもりはないが、せめて経緯は説明させてほしいかったのだが、その必要は無かったようだった。


「知ってるわ。土井から河島さんを守るためなんでしょ。今日のことだけじゃなくても普段から見てれば察しくらいはつくわよ」


「分かっているなら話が早い。まあそう言うことだから」


 守るというのもちょっとニュアンスが違う気がする。単に河島さんと土井をなるべく離したいだけなのだが、藪へ部になりそうなので訂正はしないでおくか。


「じゃあ決まりってことでいいね。よろしくね河島さん、それと高遠君も」


「おう」


「こちらこそよろしくね小嶋さん。これで四人になったけど他にも誘った人いたりするのかな?」


 そう言えばまだ正式に声を掛けていないが俺達は一哉を誘うつもりでいる。しかし文字さんと一緒の班に入ってくれるだろうか? アイツ頑なに文字さんのこと避けているし、難しそうな気がするのだが・・・・


「あー実はもう一人は既に決まってまして・・・」


 なになに? 名前を出すのがまずい人なの? それとも・・・


「えっ、もしかして女子? それだと男は俺一人になるからちょっと寂しいかも」


「何言ってるの? 私達が誘うって言ったらあなたでなければあと一人しかいないじゃない」


 てことはもしかして?


「橋本君を誘ったんだよね。もちろん玲美じゃなくて私がね」


 そりゃそうだろうな。文字さんが直接言っても逃げられるだけだろうし。しかしそれでもよく一哉は了承したな。文字さんと小嶋さんの仲が良いことはアイツも知っているはずだし、もれなく文字さんが付いてくるとは考えなかったのだろうか?


「よくアイツが首を縦に振ったな。さては小嶋さん催眠術か何かを使ったな?」


 実は精神操作系の魔法が使えたりとか? いかんいかん、どうも昨日の件でそっち方面に思考が寄ってしまうな。


「はは、なにそれ。でも意外なことにあっさりとOKしてくれたんだよね。ダメもとだったんだけど私も少し驚いちゃった」


「確かに意外だな。まあでもOKしてくれたなら良かったんじゃん・・・・・・ってもしかして五時間目が始まる前文字さんの機嫌がすごい良かったのってそのせい?」


「私そんな顔してたかしら?」


「自覚ないんかい。めっちゃ笑顔だったぞ」


 不気味なくらいにね。


「まあそうかもしれないわね。でも私が今までどんな気持ちで過ごしてきたのか知っている高遠君なら分かってくれるでしょ?」


「そりゃあもう」


 学校だけでなくそれ以外の所でも完全に拒否られていたからな。そりゃあ嬉しくないわけないよな。


「ところで河島さんは平気かな? 何と言うか橋本君ってクラスで浮いてるし、あの噂のことも・・・・」


「ふふふ、高遠君とも話したけど寧ろ大歓迎だよ。それに私は真実はどうあれ噂のことは気にしてないから」


「だってさ玲美。良かったじゃん」


「え、ええ・・・」


 何故か動揺している文字さん。不安は取り除かれたはずなのにどうしてそう浮かない顔をしているのだろうか?


「どうしたの玲美?」


「い、いえ何でもないわ。それよりありがとう河島さん、アイツのこと受け入れてくれて」


「私は何もしてないよ。それに今日助けられたのは私の方だし、本当にありがとう」


 一哉が入るならこれで班作りはこれにて完了だな。なら気になっていることを聞いてみるか?


「ところで俺は分かるけどどうして河島さんを誘おうと思ったんだ? こういう言い方は良くないけど、女子でも中々班に入れなさそうな人はいたと思うんだが」


「それは私の口からは何とも言えないかな・・・」


 そう言いながら小嶋さんは文字さんの方を見る。でもそれって自分は理由を知っていますと言っているようなものだ。そしてバトンを渡された文字さんが答え始める。


「理由は二つよ。一つ目は河島さんがアイツに付き纏われている状況を助けてあげたかった。でもこれは下手したら大きなお節介や迷惑になると思ってたの。だから高遠君を誘ってから声を掛けるつもりだったわ」


「俺の後に? どっちでも大差はないと思うんだけど」


「ハァ・・・まあそう言うことにしておくわ、それで二つ目は・・・・つまりはそう言うことよ」


「何も分かんないんだが? 河島さんもそうだろ?」


 河島さんに同意を求めようとしたのだったが、


「・・・・・えっ、あ、うん、そうだね」


 何か別のことを考えていたのか曖昧な返事が返ってくるだけだった。


「ゴメンなさいね。余計なことだとは思ったのだけど、高遠君を誘うならこの際と思って」


「ううん大丈夫だよ。それにさっき私が言ったことも変な意味は無いから安心してね」


「・・・・・頭では理解しているつもりだったの。だけど河島さんとても可愛らしいしつい・・・」


「ぜ、全然可愛くないから。文字さんの方が凄い綺麗で美人だし・・」


「ち、違うの、これはたまたまだから」


 何のことを言っているのか俺にはサッパリ分からなかったが、二人とも謙遜することはないと思う。それと文字さん、たまたまって何だよ? 全く意味が分からん。


「ねえ話は終わったしそろそろ行こうよ。あまり千堂さん待たせるのも悪いし」


 小嶋さんのその言葉で今更ながらこの場に千堂さんがいないことに気付く。


「彼女はどっかに行ったの?」


「ミツがいると話がややこしくなるから外で待たせてるわ。どうもあなたのことを敵視しているみたいだけど気にしないで。今から少し躾けておくから」


 躾けとかホントに犬扱いだな。それと確かに俺達が同じ班になると知ったらまた噛みついてきそうだし賢明な判断だと思う。


「そう言うことだから私達はもう行くね。二人ともバイバイ。ほら玲美早く行こ」


「ちょっそんなに押されなくても行くから」


 そして二人はこの場から立ち去り俺と河島さんだけが残った。



「ハァ、やっぱり私ってダメだなあ・・・」


 それでこれからどうする? と俺が訪ねる前に河島さんがため息をつきながら言った。


「ダメ? 班作りも上手くいったし何もダメじゃないと思うけど」


「そうじゃなくてね、ほらさっきの土井君に対してのこと」


「あれも上手く言ったじゃん。現についてきてないわけだし。ああでもここを通るかもしれないから取り敢えず移動しようぜ」


 土井がアドリ部に顔を出すとは考えにくいが、そのまま帰宅するにせよこの場所を通るはずなので今のうちに動いた方が良さそうだ。


「だね。それじゃあちょっとついてきてくれるかなあ?」



 言われるがままについていくとそこは昼間河島さんと話をした食堂近くの自販機だった。河島さんはその正面に立ち自販機に千円札を入れた。


「高遠君はどれにする? お昼のお返しだよ」


 律儀だなあと思いつつもお言葉に甘えてその好意を素直に受けることにした。




「それで何がダメダメなんだ?」


 奢ってもらったジュースを一口飲んでからそう切り出す。するとタイミングが悪かったのかフタを開けようとしていた河島さんの手が止まる。


「せっかくの大きいチャンスを生かせなかったなって・・・・・」


 チャンスってなんだろ? 土井を撃退できたわけだし申し分ないと思うのだが、河島さんはあまり満足していない様子だった。


「チャンスねえ・・・」


 俺が答えを探している間に河島さんが続けて言った。


「本当ならあそこで『迷惑だから付き纏わないで』とかハッキリ言えれば良かったと思うの。そう思わない?」


 ああなる程そう言うことね。よく考えればそれを言える流れみたいなものは確かにあったな。


「思うって言えば思うのかな? でも出来なかったことをダメだなあとは俺は思わないぞ」


「ありがとう。でもそれじゃあいつまで経ってもダメな私のまま。そんな私ではやっぱり・・・」


 どうやらだいぶ自信を無くしているように見える。と言っても俺が彼女にしてあげられることは極めて少ない。


「なあ、そこまで嫌がっているのにハッキリ言えない理由てやっぱり人間関係なんでしょ? 話せる範囲でいいから教えてくれないかな」


 少ないと言っても何もしない理由にはならない。とりあえず性格的なものは別として彼女の生涯になっている理由だけは詳しく知りたかった。知ったうえで何が出来るのか改めて考えればいいだけだ。


「そう、だね・・・・。大きく言えば人間関係なんだけど、その中でも恋愛に関することって言ったら分かってくれるかな?」


 秒で理解した。つまりこういうことだな。


「河島さんの仲の良い友人の誰かが土井と一緒にいる仲間の誰かに好意を持っていると、そう言いたいんだろ?」


 大本命は大空大地ってところかな。土井とはあまり仲が良いわけではないと本人は言っていたが、結構な頻度で一緒にいるところを見ている周りの奴らからしてみればそうは思わないだろう。


「正解。だからもし私のせいであっちのグループとの関係が悪くなってしまうと考えたらあと一歩が踏み出せなくて・・・」


 それくらいのことで関係が悪化するとは俺は思えないが、当事者ではない俺が下手なことを言う訳にはいかない。


 しかし助言くらいなら許されるのでは?


 そう思い立ちとある提案を彼女にしてみることにした。


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