35 懲りない奴ね
帰りのHRが終わり帰り支度を済ませた俺だったが、諸事情につき自席で待機していた。
『今日一緒に部活行ってくれないかな?』
五時間目と六時間目の間にこんなメッセージが河島さんから届いていた。しかしアドリ部と菜園部、どちらの方だろう? と最初は思ったが、昼休みの時の話の流れからしておそらくアドリ部のはず。
了承の旨を返信し放課後を迎えたわけなのだが、チャイムと同時に河島さんは俺の所ではなく文字さんの席へ向かっていたのだ。HR終了直後と言うこともあり教室内はざわついていたので二人の会話の内容は聞こえなかったが、河島さんが頭を下げていたことからおそらく改めて昼休みの時のお礼をしているのだろうと思った。案の定文字さんの次に河島さんが向かったのは小嶋さんのところで、そこでも同じように頭を下げていた。
「待たせちゃってゴメンね。じゃあ行こうか」
河島さんは小嶋さんとの話が終わるとそのまま俺の所へとやってきた・・・のは良いのだが、見たところ鞄は持っていない。
「行くの良いんだけど鞄は?」
すると河島さんは一歩俺の方へ近づき声を潜めながら答える。
「さりげなく私の席のところ見てみて」
言われた通りチラッと横目で見てみると、彼女の席の近くで立ちながらスマホを弄る土井の姿があった。
「ああそう言うことね」
「失敗したなあ。最初から鞄持って動けばよかった。ああでもそうなるとついてこられそうだし・・・・・」
どちらを選択しても漏れなく土井が付いてくるというある意味一択問題に直面している河島さん。
「どうする、置いたままにして後で取りに来る?」
「それはそれで嫌かも。もしかしたら土井君が持ってくるパターンもあり得るし」
何をしても土井は河島さんに迷惑かけるとは・・・・・
ブブ・・
そこでマナーモードにしてあったスマホが振動した。ちょっと待っててと言いながらロックを解除すると、ある人からRhineメッセージが送られてきていた。
おっ、ナイスタイミング!
「その心配はしなくてもいいかも」
「えっ、どういうこと?」
「んー、それは直ぐにわかるよ。もう少し待ってて」
そのまま相手にメッセージを送る。すると直ぐに返信が来たのでスマホをポケットにしまい自分の鞄を手に取った。
「んじゃ行こうか」
「えっでも鞄が・・・・」
「だから平気だって。教室を出れば分かるから」
「・・・・分かった」
不安そうな表情をさせながらも俺の後ろをついてくる河島さん。教室を出るとき慌てた様子の土井が視界の端に映ったが、気にせずそのまま廊下に出て隣のクラスを越えたところで足を止めた。
「あまり先に行ってもアレだしここで待とうか」
「待つって誰を?」
「ほら彼女達だよ」
元来た方向を指差すと河島さんは釣られて後ろを振り返る。すると直ぐに理解したのか、
「あーなるほど。でもまた助けられちゃったかな」
と、安堵と申し訳なさが入り混じった表情をさせながら言った。
廊下を歩く人のその中に文字さんと小嶋さんの姿があったのだ。
「はい鞄」
俺達のところで足を止め凛とすました表情で鞄を渡す文字さんに対し、
「あ、ありがとうございます」
と、やや恐縮気味になってしまっている河島さんだった。
「土井何か言ってこなかった?」
実は先程のRhineの相手は文字さんで、彼女に河島さんの鞄を持ってきてもらうよう頼んであった。彼女なら土井が近くに居ようが問題なく遂行できると思ったのだが、予想通り上手くやってくれたようだ。
「何も言ってこなかったわよ。ね、小嶋さん」
「言ってはこなかったけどあの様子じゃあ・・・・」
小嶋さんが歯切れの悪いセリフを言うと、
「すみれ、今日一緒に部活行くって約束したじゃん。どうしてそんな奴らと一緒にいるんだよ?」
彼女の不安が的中してしまった。せめて待ち合わせ場所を別なところに決めておくべきだった。
土井が教室から走ってここまでやってきて、俺を一睨みしてから河島さんに詰め寄る。ていうか河島さん、コイツとの約束ぶっちしようとしてたのね。やるじゃん!
「そんな奴ら?」
「ヒッ・・」
『奴ら』と言われれば当然俺だけでなく文字さんもその中に含まれていることになる。それが大そう気に入らなかったのか、文字さんは敵意むき出しに睨むと土井は怯んだ。
さすが文字様、格が違いますなあ。
「な、なんで高遠なんかと一緒にいるんだよ。俺との約束忘れたの?」
しかし敵もさるもの、言い直して河島さんを問い詰める。
その情熱は別なところで使えよ、まったく。
「えーとそんな約束してないと思うんだけど・・・」
そうなの?
「だって今日昼めし食ってるとき『今日の部活、すみれは先輩に行くって言ってあるんでしょ?』って聞いたら『うん』って答えたじゃん。それに俺が入部してることも教えたし、俺も今日行くとも話しただろ? 流れ的に一緒に行くもんだと普通想うじゃん」
でもそれって約束したことにはなってないじゃん。
「でも後から別な用事が出来たからそっちに行くことになったの。だからアドリ部には土井君だけで行ってていいよ」
ん、アドリ部に行くんじゃなかったの? もしかして一緒に行くことを断る口実とか? でもそれだと結局部室で会うことになるしなあ・・・・
「そんなわけにはいかないって。ほら準備が忙しいから人手が欲しいって先輩言ってたし、先に約束したわけだからこっちを優先した方がいいって」
相変わらずしつこいが言っていることは正論だな。さあどうする河島さん。
「先輩方には後でちゃんと謝るつもりだよ。だから私はこれから高遠君たちと行くところがあるから、また明日ね」
そうだね、悪いことしたら謝ればいい・・・・って、たち? もしかして文字さん達が一緒にいる状況を利用したな。
「どこ行くの? なんなら俺も一緒に行った方がいいんじゃない? ほら、誰かより頼りになると思うし」
どういう理屈だよ! ていうか押してダメなら引いてみる戦法か? もはやドン引きしているのは俺達の方で、土井自体は引くというよりしがみ付くだな。あと今俺ディスられたっぽいけど全然ダメージはないな。
しかしこの調子だとまた文字さんがお怒りになられてスタンスキルを発動させるのでは?
そう思い恐る恐る文字さんを見ると何故か彼女は俺見て笑っていた。
また? しかもなんで俺を見て笑ってらっしゃるの?
昼休みにみた不敵で不気味なものとは少し違うようだが、とにかく普段顔を緩ませることが少ない彼女が微笑むと無条件で怖さが五割アップするので注意していただきたい。
「私だけじゃないから教えるのは難しいかな。それと頼りになるならないは私が決めることだから」
「そんなこと言わずに教えてくれたっていいじゃん。ねえ何処に行くの? もしかしてこの間二人で行ってた部活? えっとたしか園芸部だったっけ?」
菜園部な。園芸部だったらお前一人で行けばいい。と言ってもこの学校には存在しないんだけどね。
しかしそろそろ助け舟を出しても良い頃合いだと思うが、文字さんに動く気配がない以上ここは俺が動くしかないか。なんかしんないけど小嶋さんもいつの間にか俺を見てニタついているし、二人ともあてには出来なさそうだ。
「もういいか? 俺や文字さん、それと小嶋さんも何処に行くのかお前に教えたくないって思ってるぞ。二人ともそうだよな?」
「ええ」
「そうだね」
二人とも空気を読んで俺に同意してくれたのは良いが、そのニヤケ顔はどうにかならないものかねえ・・・
「という訳で俺達はもう行くから。じゃあな」
「おい勝手に決めんな。ていうかお前何様のつもりだよ?」
「何様でもないけど河島さんとは友達でこっちの二人は知り合いかな。あ、お前とはただのクラスメイトな、一応」
「え、私達いつから友達になったの? 知り合いでいましょうって言ってなかったっけ?」
と、冗談ぽくお道化て言う河島さん。冗談でも心に突き刺さってダメージが・・・・
「そうね、私と彼は知り合いだわ。厳密に言うと顔見知りだけど」
あくまでも知り合いではなく顔見知りだと強調する文字さん。そこまだ拘るのね。
「えっとえっと私は・・・・」
流れ的に何か上手いことを言おうといている小嶋さん。無理しなくてもいいんだよ。
「高遠と友達じゃないなら俺を優先してもいいじゃん。だって俺とすみれは友達だろ? なら今日はこっちを優先しても良いと思うぜ」
なにその理屈。付き合いの深さだけで優先順位が決まるとでも思ってるのかコイツは?
「あんたまたやってるの? 昼休み玲美に怒られたのにホント懲りないやつね」
俺達は今隣のクラスの教室の近くで話をしていた訳だが、その教室のドアから現れた人物が土井に向かって呆れたように言った。
ゴールデンな土佐犬こと千堂光海の登場である。因みに今は土佐犬モードのようだ。ガンガン噛みついてやれ!
「他のクラスの奴には関係ねえだろ」
「途中から話聞いてたけど同じクラスがとか関係ないでしょ。あっ、因みに高遠と私はライバルだから」
なにそれ、どこ情報? ていうか何のライバル?
「おーモンちゃんに律樹。こんなところで何してんの?」
「ホントだー。ミツもいるし。もしかしてまた律樹に喧嘩吹っ掛けてるの? 懲りないねえ」
今度は俺達が来た方向からヘイ太と比呂とがやってきた。
味方が増えて嬉しい一方、一気に人が増えたことで面倒事が起きそうな予感が・・・・・
「今はその逆よ。この男が河島さんていう子にちょっかい掛けてたからお節介してたところ」
「ホントお節介だからミツはどっかに行っててちょうだい」
「玲美・・そんなこと言わないでよー・・・うぅ・・」
文字さんのたった一言でイケイケ土佐犬からションボリレトリバーへとなり下がり文字さんの腕にしがみ付く千堂さん。それを文字さんは無理やり引き剥がそうとするもガッチリ掴まれていた為失敗に終わる。そして諦めた彼女は、
「分かったからあなたはそのまま大人しくしてなさい」
引き剥がそうとするのをやめ代わりに待機命令を出す。すると千堂さんは「分かったー」と言いながらさらに体を寄せ文字さんの腕に頬ずりし始める。どうやらそれだけで満足したらしく満面の笑みを浮かべていた。
「相変わらずミツはモンちゃん大好きっ子だな」
「だな。しかし誰かは知らんけどモンちゃんに怒られてもめげないなんて強者だな」
「失礼ね。私はただ注意しただけよ。それとあんたたちもお呼びじゃないないんだからサッサと行きなさいよ」
注意しただけで教室の空気が止まったりするかね? まあ見てないから知らんけど。
「はいはい。じゃあな律樹」
「また今度泊りに行くから宜しくな」
大して絡むこともせず二人はそのまま通り過ぎていった。
二人ともあっさりと去ってくれて助かったぜ。それとこの流れをうまく利用すれば・・・・
「んじゃ俺達も行こうぜ」
「だから勝手に決めんなって言ってるだろうが」
そうは問屋が卸さず、土井は行こうとする俺達の進路を塞いできた。
お前サッカーとかのディフェンスやったら案外上手くいくんじゃね? くらいの食らいつきとしつこさだ。
「もう話は終わってる。俺達は行く、お前は諦めて一人で部活に行く。それでいいだろうが。これ以上しつこくするなら俺にも考えがある」
これ以上話していても平行線のままだろうし、ここは強引にでもこの場を離れるしかない。実は全く何も考えてなかったりだけど、コイツ相手ならハッタリと出たとこ勝負で十分だろ。
「っ・・・・」
「何もないようだな。河島さん行こうか。小嶋さんと文字さんもね。えーと千堂さんは?」
「玲美が行くなら私も行くに決まってるでしょ。あんた頭悪いの?」
決まっているならしょうがない。これからどこへ向かうのかハッキリしていないけど一緒に行こうではないか。その代わり俺に噛みついてこないでくれよな。
「ゴメンね土井君。そう言うことだから」
そう一言だけ言って先に歩き始めた文字さん達を追いかけるように土井の横を通り過ぎていく河島さん。そこで謝ってしまうのが河島さんらしい、とはまだそこまでの付き合いではないので分からないけど、その優しさに付け込まれているのは間違いなさそうだ。
父意を一瞥してから俺も移動を始める。そしてすれ違いざまに土井から、
「味方が大勢いたからって調子に乗ってんじゃねえぞ。誰かとつるまなきゃ何もできないクソザコがぁ」
と、捨て台詞を吐きかけられた。その言葉に対し俺は歩みを止めクルリと百八十度体を回転させ土井と正面を切って対峙する形にさせた。
「な、なんだよ」
俺が足を止めると思っていなかったのか動揺をそのまま言葉に吐き出してしまった土井。対して俺は飛び切りの笑顔をプレゼントしてあげた。
大した意味はない。ちょっと今日の文字さんの真似をしてみたくなっただけである。
しかしその効果は抜群だったらしく、土井は俺の顔を見て薄気味悪いと思ったのか、「薄ら笑いしやがってバカじゃねえの」と言い残し踵を返してどこかへ行ってしまった。
まさかここまで効果あるとは思ってなかったが、『何を考えているのか分からない怖い奴」みたいな印象を与えられたのなら万々歳だ。まあ本家のアレには到底及ばないけどね。
そう言えば文字さん、Rhineで話があるとか送ってきたけど、内容って高確率であの不気味な笑顔の理由絡みだよな。
聞いたらまた面倒な事のなりそうだなあ・・・・・・
昨日の件や一哉のことで手一杯なのに、これ以上の厄介事はごめんだぞ、文字さん。




