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34 追い込み

「お二人さん、仲の良いことで羨ましいな、おい」


 と、そこで現れたのは大空だった。やってきた方向的に学食からの帰りなのだろう。


「お前ちゃんと土井の手綱握っとけよな。おかげで河島さんが被害被ったみたいだぞ。それと怒らしちゃダメな人怒らせたようだし」


 大空の戯言はスルーして土井の監督者(仮)に文句を言う。


「ちょっ高遠君・・・・」


「ん、もしかしてまた河島さんに迷惑かけたの? ハァ・・・アイツも懲りない奴だな」


「分かってるなら何とかしろよ。友達なんだろ?」


 確かコイツと土井って同じ中学だったはず。


「うーん友達ねえ・・・実際のところアイツが勝手についてきてるだけなんだよね。まあ友達とも言えなくもないけど」


「ハッキリしないな。とにかくアイツを何とかしろ」


「俺からアイツに何を言っても無駄だぞ。保育園からの付き合いの俺自身が言うんだから間違いない」


「マジか? 俺だったら小二で縁を切ってるぞ」


「ははは、俺もそうしたかったよ。しかし相変わらずだなお前も」


「何がだ?」


 チラッと横目で河島さんを見る大空。それだけでコイツが何を言いたいのか理解した。


「そういうことね。まあお前がどう思おうとどうでもいいけどな」


「俺も割とどうでもいいかもねー」


「なら最初から言うなつーの」


「何となく? まあそれは置いといて、無駄だとは思うけど一応注意はしておく。河島さんも悪かったな、土井が迷惑かけて」


 そう言えば幼馴染って言う割には土井のこと下の名前で呼ばないんだな。もしかして本当に友達と思っていないのかも。


「ううん。大丈夫だよ」


 全然大丈夫じゃないと思うが、河島さんらしいと言えば河島さんらしいのか。


「でも河島さんも悪いと思うぜ」


「え?」


 別に自分が悲劇のヒロインと思っていたわけではないだろうが、それでも自分に非があると言われて動揺を隠せないでいる河島さん。しかし大空が言いたいだろうことは俺が既に指摘済みだ。


「嫌だってハッキリ言わないからだろ?」


「違う、もっと前の段階だよ」


「前の・・・・」


「どうやら無自覚のようだな。仕方ない教えてやるとするか。河島さんはアイツに優しくし過ぎだったと思うぞ」


「え? 私土井君に優しくしてたつもりはないよ」


 大空のその言葉に目を丸くする河島さん。本当に身に覚えがない様子だ。


「まあアイツの悪い癖が重なったことも大きいけどさ、ほら課題忘れた時自分のを見せてやったり勉強で分かんないところ教えたりしてただろ、そういうところだよ」


 言われて思い出したのか、河島さんは「あー・・・」と力なく言ったあとそのまま続けた。


「でも特段彼に優しくしたつもりは私的には無いんだけどなあ・・・」


「それが無自覚だって言ってるんだけどなあ。アイツってあんな性格だから人から優しくされること少ないんだよ。それプラス思い込みが激しいから合わせ技一本で勘違い野郎が爆誕しちまった」


「まさかたったそれだけのことで・・・・・本当に私そんな気はなかったんだよ。課題は頼まれたから見せただけだし、勉強だって聞かれたから答えただけだよ。それくらい私じゃなくても・・・」


「勘違いするにも程があるだろ。今までどんだけ虐げられてきたんだってレベルじゃねえか」


 もしかして真の父親みたいに何かが憑いていて性格がねじ曲がってしまったとか? でも大空は昔からだって言ってたしそれはないか。 いや、昨日のことを踏まえればそう安易に否定も出来ないか・・・・


「虐げられたって言うより普通に相手にされてなかったって感じ? だけど鈍そこまで鈍くはないからハッキリNOって突きつけてやればアイツも大人しく引き下がると思うぜ」


「今の時点で十分鈍感野郎だと思うけどな。まあ親友の大空が言うならその通りなんだろ。良かったじゃん河島さん、これで問題解決だね」


「う、うん・・・」


 頷いてはいたが不安は払拭されていないようだ。その気持ちはよく分るぞ。


「だから親友じゃないって。腐ってないただの幼馴染だ」


「そこは普通に腐れ縁でいいだろ」


「これがまた腐るほどの関りはないんだなあ。本当にただ一緒だったって言うだけの話。最近一緒に行動しているのは流れだよ流れ。おっとそろそろ俺は戻らなきゃだな、先行ってるぞ」


 先日もそうだったがいきなり現れて勝手に去っていく。ホント自由気ままな性格をしてる。



「それでどうする? 今日とは言わないけど近いうちにハッキリと言う? 何なら俺から文字さんに頼んで協力してもらうのもアリだと思う」


「うーん・・・少しだけ考えさせて。出来ればあまり迷惑かけたくないかな」


「そう? 一番良い案だと思ったんだけど河島さんがそう言うならゴリ押しはしないよ。だけど早いうちに何とかしないともっと面倒な事になることだけは確かだと思うぞ。なんなら俺も手伝おうか?」


「ゴメン言い方が悪かったね。迷惑かけたくないのもそうだけど、自分で何とかしたいというのが一番の理由なんだ」


「高尚な心掛けだけど無理はしない方がいいぞ。と言ってもそこまで言われてしまったら俺は引き下がるしか出来んけどな」


「えっ?」


「へっ?」


 どういうこと? 今何かおかしなこと言ったっけ? 


「一人で何とかしたいんでしょ? だったら俺は不要では?」


「そうなんだけど、なんと言うか・・・・そう、見守っていて欲しいの」


「見守る?」


「うん。一人で何とかしたいのは本当だよ。ここで私自身が変わらないとこの先もっと大変だと思うし。でもやっぱり不安と言うか・・・・」


 そう言うことか。手出しはして欲しくないけど誰かが味方をしてくれているという安心は欲しいってとこだな。


「いいぜ。それで具体的に俺は何をしたらいいんだ?」


「可能ならアドリ部に入ってほしい。それと今度ある校外学習で同じ班になってもらいたいの」


「正直土井が入部したって聞いた時点で入る気を完全に失ってたんだが・・・」


「ダメ・・かな?」


 くぅー、カワイイ子にそんな上目遣いで見られたら・・・・・


「ダメではないな」


 断れるわけねー。情けねえな俺・・・・


「ホント!? じゃあ校外学習の方も平気?」


 校外学習って県内の施設や企業を見学に行くやつだったよな。確か男女混合で五、六人の班を自由に組めって言われてた気がする。


「別にいいけど俺は誰と行くか全然決まってないぞ。それでもいいのか?」


「いいよ。どちらにしても私達のグループって女子四人で大空君のところも三人か四人だから、少なくても一人は溢れる感じだったから」


「もう大空達のグループと一緒に行くことは確定なのな」


「言わなくても分かるでしょ?」


「ああ、土井の野郎だな。それより他のメンバーに拘りがないなら俺が適当に集めておくけど?」


 クラスには男女問わずどのグループにも属していない者や、属していても人数の問題ではみ出る者が必ずいる。そいつらを手あたり次第声を掛けていけば自然と集まるだろう。


「ううん、それは私に任せてくれないかな?」


「分かった。ああでも一人だけ男子で誘いたい奴いるんだが、いいか?」


「もしかして橋本君?」


「大正解」


「やったね。うん、私は全然構わないし寧ろ大歓迎だよ。実は一度ちゃんと話してみたかったんっだよね。でもほら中々そうゆう機会がなくて・・・周りに流されてしまうこういうところがダメなんだよなあ・・・・」


 クラスで一番浮いているアイツに話しかけるのはかなりハードルが高いからな。全然ダメだとかそんなことないと思うが、これを言ってしまうと彼女の気持ちに水を差すようなことになりかねないので控えておく。


「それを聞いて安心した。でも俺や河島さんが良くても他の奴がどう思うかなんだよなあ。まあどうせ溢れた奴らしか集まらないと思うし問題ないか」


「そうだといいけど・・・・」


「もし何かあったらその時考えればいいじゃん。班編成は多くても六人。こっちは俺と橋本君と河島さんの三人いるんだから多数決で負けることはない。それよりもっと大きな問題があると思うんだが?」


「・・・・・・気づいちゃった?」


 少し余裕が出てきたのか、テヘッ、とお茶目な仕草をする河島さん。


「気づくも何も一番最初に思い浮かぶことだろ。それでどうするつもりなんだ?」


 どうする? というのは土井のことだ。アイツは河島さんと同じ班になる気満々でいるが、当の河島さんは俺と組むことになった。それに対してアイツがどう反応するかは目に見えてるし、最終的に無理やり俺達の班に割り込もうとしてくるはずだ。だからそうなる前に人数を集めるか、それとも根本的な解決を図るかのどちらかになるわけだが・・・・


「だからこれを機に決着をつけたいの。言い換えればこうやって自分を追い込まななければ何もできないんだよね、アハハ・・・」


 力なく自虐的に笑う彼女を見ても釣られて笑うことはしなかった。一見すると彼女の覚悟は脆いものに思えるが、自ら自分を追い込んでいる時点でその覚悟は相当なものと言ってもいいだろう。


「俺はそれでもいいと思うぜ。ところで班決めはいつだったっけ?」


「今週の金曜日のLHRだよ」


「割と直ぐだな。時間ないけど大丈夫か?」


「大丈夫じゃないけど頑張るよ。班員集めは何とかなると思うし、実は土井君に何ていうか決めてあるんだ」


「おおそれは心強い。あとは猫を嚙むだけだな」


「猫?」


「窮鼠猫を噛むってことわざ知らない?」


 自分からとはいえ彼女は追い込まれているわけだし、状況的にピッタリだと思って言ったんだけど、あまりピンと来ていない様子だ。


「知ってるけど、私猫好きだからちょっと嫌かも」


 露骨に嫌そうな表情を見せる河島さん。これは相当な猫好きとみた。


「ただの例えだし真に受けんなって。それと話は大体これで終わりでいいよな。昼休み終わるまでもう少し時間あるけどどうする?」


「出来れば今日はギリギリで戻りたいかも。もう少し付き合ってくれると嬉しいかな」


「別にいいけど、アイツに見られたら面倒にならない?」


「返って好都合だよ。さらに追い込まれるって感じになるでしょ?」


「・・・・ひょっとして自分をイジメるの好きなの?」


「ちょっ、流石に言い過ぎだよ。私だって好き好んでやってるわけじゃないんだからね」


 と、そこからは他愛のない話をして時間を潰し、予定通り昼休み終了ギリギリのタイミングで二人一緒に教室へ戻った。教室に入る際土井から鬼の形相で睨まれたのだが、予想通り過ぎて笑いを堪えるのが大変だった。


 その笑いを嚙み殺したちょっと間抜けな表情のまま今日の昼休みの主役ともいえる文字さんを見る。すると彼女も教室に入ってきたばかりの俺を見ていたらしく目と目が合ってしまったのだが、その瞬間俺の体に悪寒が走った。


 どうしてだって? それは・・・



 文字玲美が不敵かつ不気味に笑っていたからだ。



 何か知らないけど悪い予感しかしないんですけどー?








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