29 二人目?の正体
「結論から言おう。真は夏鈴と違っていたって普通の少年じゃ」
俺の問いかけに対し答えたのは孫七さんだった。
真は普通の人間。まあそうなのかもしれない。だけどそれだけではないはずだ。
すると予想通り「しかし」と孫七さんは言葉を続ける。
「律坊が考えている通り周りがそうではないことは確かだ。奥谷家でワシが言ったセリフを覚えておるか?」
孫七さんが言っていたこと。それって確か・・・
「どうして俺が真の両親やあの兄弟とテーブルを挟んで対峙する必要があるのか尋ねた時、孫七さんは俺に対して『明確な理由がある』と言ってました。
「そうじゃ。だから今からその理由を話そうと思う。どうせ源六もそのつもりでこっちへ来たはずだしな」
「余計なことは言わんでいい」
「何が余計な事じゃ。律坊をここに住ませる時点で話しておけばもっと楽に事を進められただろうに」
「ワシにはワシのやり方があるんだよ。それにいきなりこんな話をしても疑り深いコイツはどうせ信じん。だから段階を踏んで教える必要があったってことだ」
「何を偉そうに言いやがって。それだからお前は・・」
「お爺ちゃん喧嘩するなら後にしてよ、律樹が困ってるじゃない。それに源六さんもいちいち反応しないの」
二人の雰囲気が悪くなりかけているのを見かねて夏鈴さんが間に入る。じいちゃんズは互いに謝ることはしなかったが、これ以上不毛な言い合いには発展しなさそうで安心した。
「すまんな律坊。それでその理由なんだが、まずは実際に間近で見てほしかった、それが一つ目じゃ」
「間近で? それと二つ目もあるってことですよね?」
「そうだな。だがまずは一つ目の説明をしておくぞ。お前は真の周りが何か異常だと言ってたな?」
「はい。直感みたいなものもあるかもしれませんが違和感の方が大きいかも。特に母親は感情と言動にずれがあると思ったし、父親の方もなんか嫌な感じがしました。付け加えるなら真の兄や姉にも母親と同じような不安定なものを感じましたね」
虐待行為自体はそう珍しいことではないが、二人とも異常すぎる気がした。それもあり得ない話ではないのだけれど、あの家族全体が異様なものに見えたこともあり、、別な理由を考えていたことも事実だった。
「それは正しい評価だ。そしてそれを人一倍感じ取れるのが律坊、お前なんだよ」
人一倍感じる? それにどうして孫七さんは俺のことなのに断言できるんだ?
「・・・・ちょっと意味が分かんないです」
「高遠家には少し変わった遺伝があるんだよ。遺伝というよりもはや呪いと言ってもいいかもしれん」
そう言ったのは孫七さんではなく祖父ちゃんだった。コップに残っていた日本酒をグイッと飲み干し、そのまま続ける。
「お前にも身に覚えがあるはずだぞ。例えば普通の人間には見えない何か見えるとか、妙に勘が冴える時があるとかな」
俺にそんな能力なんてないぞ。普通は見えないものって幽霊とかだろ? そんなの一度も見たことないぞ。それに勘が冴えるとか漠然としすぎだろ。
「いや心当たりはないぞ祖父ちゃん」
「ならそれ以外で思い当たることは?」
そんなこと言われても答えは変わらないと思うけど、少し考えてみるか。
変わったこと。それって超能力とかそれこそ夏鈴さんみたいに魔法が使えるとかだよな・・・・・・・うーんいくら考えても思いつかない。超能力だとしたら瞬間移動できるとか触れなくても物を動かせるとか、あとよく漫画やアニメにあるのは未来予知とかだよな・・・・・・・ん未来予知?
「どうやら何か思い当たることがあるようだな」
「違うかもしれないけど中学の時から同じ夢を見るんだ。その殆どは覚えてないんだけど、不思議と同じ夢だと言うことは認識してるんだよなあ。ああでも所々動画じゃなくて写真みたいな感じで覚えてることがあるんだけど、その一つが今通っている学校の外から見た風景なんだ」
「なるほど、お前はワシとは少し違った力があるようだな。ワシの場合簡単に言えば、さっき言った普通の人間には見えないものが見える。それに理由は分からんがそれが見えた時異常なまでに勘が働く」
「普通の人間には見えないものって幽霊のことだろ。それは生まれつきなの?」
「ワシには幽霊は見えんよ。見えるのはもっと別なもの。ワシが見ることが出来るのは怪異みたいな朧げなものだ。因みに高遠の血筋で無くても見える者には見える。それは怪異だけではなく幽霊も然りだ。それと生まれつきなのか? と言う話だが、答えは半分正解ってとこだな。ワシが自覚し始めたのはお前と同じ年頃の時だ。だから素質があってもそれが直ぐ目覚めるとは限らないってことだな。聞いた話では幼少の時には既に自覚していた奴もおるので、おそらくは個人差か育った環境が影響しているのかもしれん」
「じゃあ孫七さんも?」
「ワシか? ワシのその類のものは見えん。じゃが別なものは見える。それが何なのかは・・・・すまんがまだ教えるわけにはいかん」
他に何が見えるっていうんだ? 人の寿命とか生命力とかか?
「ワタシにも源六さんと同じもの見ることが出来るわ。でも元の世界では見たことないのよね。似たようなものは数多く存在していたけど、その大半が魔力が関係していてね、だから魔力そのものが無いこの世界のそれとは全く違う概念のものだと思う。でもこの世界の生まれではないワタシが見えるのだから、何か共通したものがあるのかもしれないわね」
夏鈴さんにも見える。それは魔力とは無関係で、しかし俺立ちと共通した何かがあると・・・・
「もしかしてこの間孫七さんが話してくれた五感が関係しているですか? 祖父ちゃんが言った勘も含めれば六感になるのかな? しかも孫七さんの持論からすればそれらは鍛えることができ、その結果祖父ちゃんみたいに見ることが出来るようになる。そしてそれは生まれ持ったものが大きいとしたら高遠家の血筋が影響しているのも納得できます」
「フム。やはり律坊は優秀のようじゃな。しかも冷静さも兼ね備えているときた。ワシが知る限り同類の奴らは皆その考えに一度は辿り着く。しかしこんな早く自力で辿り着けるとはのう」
「一度はってことは俺の推測は間違ってるってこと?」
「そうではない。というより誰も本当の答えを知らないのじゃよ。特に第六感何てものは証明しようがないからな。夏鈴のように目に見える魔法みたいのが使えれば話は別だが、精々相手に対して干渉出来るくらいなものだ。あと有力なものと言えばその現象物との波長が合うという説もある」
それだけでも十分証明に値すると思うけど、孫七さんが言っているのはそういうことではないのだろう。
「だけど俺にそんな素質や能力があるなんて信じられませんね。同じ夢を見るって話はそう珍しいことではありませんし、それ以外何も無いですから」
「それはこれからじゃ。高遠の血を引く律坊なら経験さえ積めば自然と身についてくるはず。ワシや源六のようにな。少なくともワシの見立てでは自覚していないだけで既に開花し始めていると睨んでいる」
「いやそんな経験あまりしたくないんですけど。一応一つ目の理由は何となく理解しました。それで結局俺が感じた違和感みたいなものや嫌悪感の正体って何なんですか?」
「それこそが二つ目の理由じゃ。何かを感じたらその正体を知りたくなる。それは人として当たり前のことだ。性分なのか本能なのか、それは人によって意見が分かれるところだが、どちらにせよまず知ることが重要なのじゃよ。して律坊が感じたものの正体だが・・・・・・」
いやそこ大事なとこだし溜めないで早く言ってくれよ。
「一言で言えば感染する悪意無き悪意だ」
「悪意無き悪意? それって思いっきり矛盾してません?」
悪意無き悪行なら理解できる。それは思考と行動が分かれているからだ。だけど同じ思考の中で悪意無しと悪意ありが同時進行することはあり得ない。
「普通ならそうじゃな。しかしワシらは今一般的に見て普通ではない話をしている。そして今までの話の流れから何か思い浮かぶことはないか?」
普通ではない・・・つまりあり得ない話ということだ。それなら何となく分かる気がする。
「もしかして何かに取り憑かれているとか?」
「その通り。憑いた何かは悪意を持っていて、憑かれた人間は悪意を持っていないとは言えないが、少なくとも今回の場合に関しては憑いた何かの影響を大きく受けているのは間違いない。そうだろ源六」
「否定はしないがいちいち勿体ぶるな。俺が教えたとおりのことを早く話してやれ」
「簡単に教えたらつまんねえだろうに、まったく。仕方がねえ、源六のやろうが煩いから答えを言うが、今回取り憑かれるているのは父親。そして憑いているその正体は蛇だ」
「蛇、ですか・・・・・なんか執着心が強そうで一筋縄にはいかなそうですね」
と、口では言ったものの、正直心の中では信じ切れてなかったりする。夏鈴さんが異世界人だと言う件は目の前で証明してもらったので信じざるを得ないかった。祖父ちゃんや孫七さんを疑いたくはないが、やはり見たことがないものを信じることは俺にはできない。
「執着心、それこそが今回の大きな要因じゃな。ところでまだワシの話を信じてはいないようじゃな。どうすれば信じてもらえるかのう?」
「孫七の言う通りだな。我が孫ながら何て疑り深い性格をしておるんだ。まったく誰に似たんだか・・・・」
おっと、悟られないよう意識していたつもりだったけどバレてしまっているようだな。それとな祖父ちゃん、少なくとも自由奔放なあんたに似ていないことだけは確かだから安心して。
「だったらお爺ちゃん、ワタシの時と同じように律樹の前で証明すればいいだけの話じゃないかしら?」
「そうは言ってもそう都合よく証明なんぞ出来はせんぞ。いくら律坊に血筋的な素質があるとは言ってもまだ赤子当然だし、見ることはまだ難しいとしか言えないじゃろ」
「本気で言ってるの? ねえ源六さんも分かってるはずなんだしお爺ちゃんに言ってやってよ。この家にうってつけの奴が居るってことをさ」
「すまんが夏鈴が言っている奴に心当たりはないぞ。ワシも知りたいくらいだ」
「えっ、お爺ちゃんは仕方がないとして源六さんも? もしかして気付いてるのって私だけ?」
「ひょっとして以前言っていたこの家の中に俺達以外の何かが居るって奴のことですか?」
「ううん違う。そいつは隠れるのが上手いせいか、なかなか見つからないのよ。だけどうってつけの奴はそうじゃない。というか三人とも知っているしさっきまでここに居たじゃない」
その話が本当なら選択肢は真と光男さんの二択となる。しかし祖父ちゃん曰く二人は普通の人間と言っていたし父親みたいに何かに取り憑かれているとも言っていなかった。つまり二人は無関係と言うことになるのだが・・・・
「それにさっきからずっとワタシたちの話を盗み聞きしてるわよ。ほらドアの向こうに居るのは分かってるんだから早く出てらっしゃい」
夏鈴さんが廊下に続くリビングのドアに向けて言い放つ。
するとドアノブがガチャリと下がりドアがゆっくりと開いていく。しかしそこには誰も居なかった。
もしかして本当に幽霊か何かがそこにいるのか?
そんなことを考えていたらなんだか背筋がゾクゾクしてきた。夏鈴さんを見ると彼女はドアの方を見ながらしたり顔をしていた。祖父ちゃんと孫七さんは二人とも驚いた様子で同じところを見ている。
三人には一体何が見えてるんだ?
するとそこで、
「ケケ、バレちまったか」
明らかに初めて聞く声が耳に届く。誰も居るはずのないのに声が聞こえることに動揺してしまった俺は思わず立ち上がった。そして立ち上がったことで今まで物陰になって見えていなかったドアの下の方が見えるようになり、その正体が顕わになる。
「この際だ、オレッチも混ぜてくれよー ゲコッ」
トウラが虫カゴの中ではなく床の上で鎮座していた。




