27 あっけない → ウェルカム → 真相の一分前
「ようこそ我が家へ。今日からここがマコトの家よ」
「えーと・・・よろしくお願いします」
「かっかっか、そう遠慮することないぞ。本当に自分の家と思って過ごせばいい」
「君が真君だね。話は聞いてるよ。私は小笠原光男、よろしくね。律樹君を除けば最初の住人ってことになるのかな」
「じゃあマコトは四人目の住人ね。分からないことがあれば何でも聞くといいわ。みな優しい人ばかりだから安心してもいいわよ」
「夏鈴さん何しれっと自分が住人三号の体で言ってるんですか。勝手に決めないでください」
「おや、律樹は何も聞いてないの? もう既に源六さんからの許可はもらってるわ」
「はあ!? 祖父ちゃんどういうことだよ、ここって女人禁制じゃなかったの?」
「別に禁止してないぞ。限定してただけだ」
「いや意味同じでしょ。だったらあの募集要項は一体何だったんだよ」
「ああアレはな・・・・・まあええじゃないかそんな細かいことは。それともワシが決めたことに文句あるのか?」
「・・・・・ありません」
家の中が華やかになるのは悪いことではないし、俺としても男だけというのは寂しいと感じてたのは否定できない。
「なら良かろう。して真はあと一つ空いている部屋に住んでもらうでいいのだな?」
「ああ、一応定期的に掃除してたから直ぐに入れるよ。でもまさか今日の今日で引っ越してくるとは思わなかったけど・・・・」
奥谷家突撃訪問の後早速真がこのシェアハウスの一員に加わることになった。
真の両親との話し合いの中でこちら側が用意した条件、即ち真をこちら側で預かるという提案を真の両親は反対も渋ることもせずあっさりとこれを受け入れたからだ。
ではいつから? という話の流れになったのだが、そこに今まで話の中に一度も入ってこなかった祖父ちゃんが、
「そんなの今すぐに決まってる。孫七、既に手配してあるんだろ?」
と、いきなりそんなことを言い放った。
流石に真の両親も急すぎる話に最初は驚いていたが、結局それもあっさりと承諾した。この二人の対応と態度に思うところ尽くめだったが、流れに水を差したくなかったのでグッと堪えた。
祖父ちゃんが言っていた手配というのは引っ越しのことで、孫七さんがスマホで誰かに電話をすると直ぐに奥谷家のインターフォンが鳴り、三人の屈強な男たちが現れた。そしてその三人は孫七さんの指示のもとあっという間に真の荷物を運び出し帰っていった。そして俺が自分の家に帰ると玄関を上がったところにその荷物が置かれていたのだ。おそらく祖父ちゃんか孫七さんが鍵を渡しておいたのであろう。
こうして真の引っ越しは完了したのだが、いくら何でも手際よすぎでしょ。それといきなり現れたあの三人、どう見てもどこぞの筋の方々にしか見えなかったんですけど・・・・・・・
「ああそのことなんだけど、ワタシは孫七お爺ちゃんの部屋に移動するから、マコトは好きな方を自分で選べばいいわ」
「え、孫七さんと一緒の部屋ですか?」
「何か問題あるかしら? あそこが一番大きい部屋だしベットが一つ増えるくらい余裕よ」
「そういう意味じゃなくてですね・・・・まあいいですよ、どうせ俺には決定権はありませんから」
そう言いながら祖父ちゃんんを見る。すると祖父ちゃんは俺の頭をガシガシと乱暴に撫でてきた。
「はは、なに拗ねてるんだ律樹は、そんなことではここの管理人は務まらんぞ。して夏鈴よ、お主は本当にそれで良いのか? もしワシらに遠慮しているだけなら無理する必要はないぞ」
「ううん平気よ源六さん。許可をもらったとはいえ居候みたいな身分だし、部屋が空いた分あともう一人は入居できるでしょ? どうせだったらもっと賑やかにしたいもの」
もう十分賑やかな気がするんですけど? 特に夏鈴さん、あなたのことを言ってるんですよ。
「そうか。なら引き続き募集は出したままにしておくとするかのう」
真が入居したものの、これで空室は残り一部屋のままとなった。一か月も経過していないのに本当にあっという間だな。
「真君・・・・はなんだか他人行儀みたいだしこれから一緒に生活していくのに変な壁作りたくないから真って呼ぶぞ」
「うん、僕もその方がいいです。お兄ちゃん・・・律樹さん?」
「好きに呼べばいいさ。何なら律樹って呼び捨てでも俺は構わんぞ。それと俺とお前の間では敬語も禁止にしようか」
「分かった。律兄、これからよろしくね」
律兄か。なんか妹と一緒の呼ばれ方で親近感が湧くな。
「おう。じゃあ俺も手伝うから部屋に荷物運んでしまうか」
「うん」
「ゲコッ」
まずはその虫カゴをどこかに置くところからだな。
「なら私も手伝いましょう」
光男さんがそう申し出ると続けて夏鈴さんも手伝ってくれる流れになった。その間に祖父ちゃんはスマホ片手に家の外へ出て行き、孫七さんに至っては奥谷家を一緒に出てからまだここへは帰ってきてはいない。
大竹先生と小寺先生の二人は一旦学校に戻ると言って奥谷家で別れた。先生達に、特に大竹先生に聞きたいこがあったのだが、真の引っ越しを優先しなくてはならなかったので後回しにせざるを得なかった。
真の荷物はそう多くなかったので運び込みと簡単な荷解きは直ぐに終わった。しかしそこで俺はあることに気付く。
「そう言えば夕飯の準備すっかり忘れててな。今から作ると遅くなるしみんなを待たせるのもなあ・・・」
「ワタシはいくらでも待つわよ」
「僕も平気。夏鈴姉さんが言っていたけど、律兄の料理おいしいんでしょ? 僕楽しみだなあ」
「その楽しみはまた明日以降に取っておくといいよ。今日はおそらく・・」
ピンポーン
するとそこでインターフォンが鳴る。
「ああ丁度来たようだね」
「何がですか?」
「まあ下に行けば分かると思うよ」
一階に降りると玄関で祖父ちゃんが見知らぬ人と話をしていた。その相手をよく見ると白い割烹着を着た中年の男で、祖父ちゃんの足元には黒っぽくて丸い容器が三段重ねておかれていた。
「もしかして出前取ったの?」
「まあな。流石にこの人数分を今から用意するのは大変だろ。だから今日はワシの奢りで寿司を頼んだ。それに今日は真の入居祝いでもあるしな」
さては光男さん、最初からこのこと知ってたな。
「いいねえ。でもそれなら教えておいてくれても良かったじゃん」
「言っておらんかったか?」
「まったく」
「なら今言った」
「子供かよ」
「ただのジジイだよ」
「知ってる」
夏鈴さん達三人も下に降りてくる。
「二人とも仲が良いわね。あら今日はお寿司? 嬉しいわー、この国に来て最初は生の魚を食べるなんて信じられないと思ったけど、今では鉱物の一つよ。あっ、でも一番はやっぱり律樹が作るごはんかしら」
嘘嫌いな彼女が言うなら本当のことなんだろうと思うと心底嬉しい気分になるな。
「そろそろ孫七も帰ってくる頃合いだし、準備して待っておくか」
「じゃあその間に酒のつまみになりそうな簡単な物を用意しておくよ。この面子ならどうせアホみたいに酒飲むんでしょ?」
この家の成人居住者もそうだが、北国生まれである祖父ちゃんもかなりお酒は強い。そんな人たちが同じ卓に着いたその先で何が起きるのかは火を見るより明らかだ。
「僕はお皿とか出すの手伝う。夏鈴お姉さん、何処にあるか教えて」
「よし任せなさい・・・・・ってお皿とかどこにあるのだったかしら?」
いやそれくらい覚えておけよ。ていうか今まで何してたんだって話だぞ。
「お皿とかは私が準備するから二人はテーブルを片付けてそこにあるお寿司を運んでおいてください」
流石光男さん、第一入居者だけはあるね。
程なくして孫七さんがエコバックを携えて帰ってきた。どうやら買い物に行っていたようで、バックの中から数本のお酒を取り出した。
「源六が好きな酒を買ってきたぞ」
「おお相変わらず気が利くなお前さんは」
そう言いながら嬉しそうにそのお酒を受け取る我が祖父。確かにそれは向こうの家でも良く飲んでいたものだった。
そこから真の歓迎会と称したただの宴が始まった。相変わらずの飲みっぷりの祖父ちゃん、それに負けず劣らず酌み交わす他三名。その中で光男さんのペースが若干遅いように見えたが、それでも普通よりは明らかに早いのだろう。お酒を飲んだことないので知らんけど。
十時を回り真が最初に部屋へと戻っていった。もちろんカエルのトウラも一緒だ。真は家に居る間もトウラを肌身離さず抱えていた。宴会の途中真は俺の勧めもあって風呂に入ったのだが、その時も一緒だった。
茹でガエルにならないか割と真面目に心配したが、それは結局杞憂に終わり風呂上り後も虫カゴの中で平然と鎮座していた。だけど風呂に入る前と比べトウラの肌がツヤツヤだったことから湯舟に入ったかはともかくとして、体を洗ってあげたのは間違いなさそうだった。衛生上の問題があるので出来れば浴槽にトウラを入れないよう後で注意する必要がある。せめて風呂桶の中で済ませて欲しいところだ。
俺は不要になった食器などを片付けながらも宴に参加し続けていた。本当だったら先日のように先に部屋に戻ってゆっくりしたいところだったが、今回に関してはそうもいかない事情があった。
「明日はいつもより早く出ないといけないので今日はここまでにしますね」
前回もそうだったが光男さんが大人の中で一番最初に席を立ちリビングを後にする。
俺はこの時を待っていた。
「光男さんも居なくなったことだし、これで心置きなく話が出来るよね、祖父ちゃん。それと孫七さんと夏鈴さんもね」
俺の言葉に三人とも飲んでいたものをテーブルの上に置いた。




