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24 兄姉とホラー教師

 と言うことで()はとある家へと赴いていた。


 どういうことだって? 


 そんな俺が聞きたいくらい、いや文句を言いたいくらいだ。



 応接室で話をしたのはおよそ一時間前のこと。そして残念なことにそこで夏鈴さんの提案が賛成多数で採用されてしまったのである。


 因みに石渡の件だが、彼は既に下校していた為教師たちは話を聞くことが出来なかったらしい。メンタルな部分も含め一哉のことが心配だったので、ヘイ太に連絡して話を聞いた。かなりっショックを受けている様子だったようだが取り敢えずは大丈夫とのこと。それを聞いて安心した俺は次に文字さんと連絡を取り掻い摘んで説明した。電話越しでもかなりお怒りなご様子だったのは容易に想像できた。最後の方は電話の向こうで何かがぶつかった様な激しい音が聞こえたが、文字さんが怖かったので確かめることはしなかった。


 


「律樹、なにをそんなにビクビクしている? ワタシ達は正義なんだ、もっと堂々としてなさい」


 緑川夏鈴さん・・・賛成(提案者)


「そんなこと言っても本当に上手くいくんですか? いやそんな事より・・・」


 俺・・・反対


「家の中がかなり綺麗に片付いているな。家主は割と几帳面なのかもしれないね」


 大竹先生・・・賛成


「あまりジロジロ見るのは失礼ですよ先生」


 小寺先生・・・中立


「今何か飲み物持ってきますのでちょっと待っててください」


 奥谷真・・・賛成(但し条件付き)


「ゲコッ」


 トウラさん・・・不明(たぶん賛成?)


「なあに気遣いはは無用じゃボウズ」


 岡本孫七・・・・協力してもらうために夏鈴さんが呼んだ。



 まあここまでは良いとしよう。だが問題はこの人だ!!


「律樹にもこんな可愛らしい時期があったのう。ああボウズ、温かいのがあればそれで頼む。なければ、水でも何でもいいわい」


 高遠源六・・・音信不通 → いきなり登場。


「どうして祖父ちゃんがここに居るんだよ? ていうか何で電話に出ないんだよ、意味が分かんねえんだけど?」


 実に三遊間近く連絡が取れなかった祖父ちゃんが何故かここに居る。散々俺のことシカトしておいて

からの他人の家での登場。一体何が何やら・・・・・


「その話今必要か? これからボウズを助けるために何か企んでおるのじゃろ、だったらちゃんと集中せんか」


「うっ・・俺は反対したんだけど・・・」


「だからもっと堂々としてなさいと言ったはずよ。それとワタシの策は完璧だし、みんなも賛成してくれたんだから安心保証付きなのは間違いないわ」


 いやだから俺は反対したって今言ったんだけど、と言っても聞く耳持つわけないよね。それと学校で「最悪失敗しても~」とか言ってなかったっけ?


「すいませんお待たせしました。冷たいお茶しかなかったけど良かったですか?」


 キッチンの方へと飲み物を取りに行っていた真が2リットルのペットボトルとコップを人数分持って戻ってきた。


「ありがとう真君。後は私がやるから座ってて。すごい緊張しているの分かるわよ」


 優しく微笑みながらコップとペットボトルを受け取る小先生。確かに真の表情はぎこちないものだった。


 そりゃ緊張するなって言う方が無理がある。だってこれから彼はとある選択を強いられるのだから。


 この家は俺の家から徒歩で十分掛からないところにある一般的な一軒家で、今まさにその家に大勢で押しかけている状態だ。普通の広さと思えるこのリビングダイニングも俺を含めた大人六人と真がいれば若干手狭に感じる。それにこれから大人二人と中学生と高校生が一人ずつ加わったら総勢十一人となり手狭どころの話ではなくなるのだろう。


 小寺先生が飲み物を配り終えたところで玄関のドアが開閉する音が聞こえた。この家の住人の誰かが帰ってきたのだろうが、「ただいま」の声は聞こえず代わりに、


「あん? なんだこの靴、誰か来てんのか? おい真、テメーの靴もあるってことは帰ってきてんだろ?」


 と、いかにもという態度の声は男の声が聞こえた。若い声だったので兄で間違いなさそうだ。俺の一個上で高二と聞いている。名前は・・・どうでもいいな。


「邪魔だよ兄貴、突っ立ってないで早くそこどいてよ」


 続いて若い女の声が同じところから聞こえ、兄貴と呼んでいたので妹ということになる。俺の二個下で中二と聞いているが、やはり名前はどうでもいいな。


 残る役者は両親の二人なのだが、まだ帰っては来ないらしい。というよりまずはこの二人と話をするために夏鈴さんは小細工をした。何をしたのかは聞いていないが、とにかく両親が帰ってくるのまでに三十分くらい時間があると言っていた。即ちその三十分で何かしらの決着を付けようと言うことだ。


 要はラスボス前の中ボス戦ってところなんだろうけど、俺からしてみればゲームを開始してレベルも上げず初期装備のままボス戦に突入した気分だ。


 色々すっ飛ばし過ぎじゃね? 安全マージンもへったくりもあったもんじゃない。


「あ? なんだテメーらは? 人の家に勝手に上がり込みやがって」


ドンドンドンと大きな足音を立てながら俺達が待機しているリビングに兄がやってくる。そして俺達を見るなり表情を一層険しいものして言い放った。


「勝手ではないですよ、真君とその両親には許可を頂いています」


 口も態度も悪いが確かに真の兄が言っていることは尤もだ。しかし大竹先生はそんなことは意に介さず淡々と応答する。


「どうしたん兄貴、パパのお客さんか何か?」


 もしそうだったらとっくにお前らの父親の面目は丸潰れだぞ。


「知らねーよ。おい答えろ真、こいつら誰なんだよ・・・まさかお前!」


 と言ってそこで言葉を止める兄。何か思い当たることがあったのか戸惑い始めているようだ。そして真は兄の恫喝めいた言葉に完全に委縮してしまっているが、隣に居た小寺先生が背中から抱きしめると少し落ち着きを取り戻した。


「私たちが何者なのか心当たりがありそうですね。それはさておき、これから大事な話をしたいのでまずはお二人ともお座りください」


 自分の年齢の半分にも満たない相手に対しあくまで丁寧に話しかける大竹先生。もし俺が向こうの立場だとしたら薄気味悪く感じていたと思う。


「はあ? アタシ関係ないし。兄貴一人いればいいでしょ? アタシこれから遊びに行くからどうぞごゆっくり」


 そう言って鞄を持ったままリビングから出て行こうとする姉だったが、すかさず夏鈴さんが腕を掴み阻んだ。


「痛ったいなー放してよ! アタシ関係ないって言ってるでしょ」


「何を勘違いしているのか知らないけど、アナタにも関係ある話よ。因みになん話だと思ったのか聞かせてくれないかしら?」


「知らないし離してって言ってるでしょ!」


 掴まれていなもう片方の手で夏鈴さんの右手を引き剥がそうとしている姉だったが、全くビクともしない。傍目から見て夏鈴さんはあまり力を入れている様には見えなかったが、姉の方は顔を真っ赤にさせ息遣いも荒くなってきていた。


「諦めて言う通りにしなさい。そうしたら離してあげるわ」


「おい真、このバカ力の外人女をどうにかしなさいよ。じゃないとアンタどうなると・・アイタタタタ・・・・」


 夏鈴さんは更に力を加えたのか、より一層痛がる姉。


「マコトにどうするつもりなのか説明してもらおうか。言っておくがワタシはまだ一割も力を入れてないわよ。それとももう少し強くしないと話す気になれないかしら?」


「い、痛い痛いー分かった出て行かないから、大人しく座るからもう勘弁してよー」


「まあいいわ。でも嘘を言ったら今度はこれだけでは済まされないということをよく覚えていなさい。アナタも同じよ、分かったかしら?」


 夏鈴さんは自分の妹を助けようともせず傍観していた兄に対しても忠告する。


 ていうかあれで一割未満ってハッタリだよね?


「フザケンナ、女だからと言って調子乗ってんじゃねえぞ!」


 姉の手を離した夏鈴さんに対しチンピラ風のセリフを吐きながら襲い掛かる兄。右拳が夏鈴さんの顔面を目掛けて飛んでいく。


 危ない! 


 一番近くに居た俺が止めに入ろうとした時既に遅く間に合いそうもない。だが・・・


 バシン!


 なんと夏鈴さんは躱すどころか左手で兄の拳を受け止めてしまった。


「はえっ?」


 間抜けな声を出す兄。俺も驚いたが一番あり得ないと感じているのは彼だろう。


「この、離しやがれ!」


 必死に掴まれた右拳を引き抜こうとするが姉の時と同じで全くビクともしない。


「離す? これはおかしなことを。お前が勝手にその右手をワタシに献上したのではないか。これはありがたく頂いておこう。と言ってもこんなの犬の餌にもならんし・・・そうだ、トウラの夕食にすればいい。よし、手首からへし折るぞ、少し痛むと思うが男なのだから我慢しなさい」


「ゲコッゲコッ」


 多分だけどトウラもいらないって言ってると思うよー。


「イテテテテ・・・ひ、ひぃー やめてくれ 本当に折れちゃうー」


 殴りかかる前までの勢いは完全に失い、情けない声で懇願する兄。流石にやり過ぎだ、と一瞬思ったが、真への今までの仕打ちを考えればこれくらい当然の罰だ。


 それより夏鈴さんって一体何者? 相手の拳を受け止めそのまま掴み続けるなんてゴリラ並みの握力だろ。


「情けない声出すんじゃない。お前も大人しく先に着くのであれば一旦開放してやろう。さあどうする?」


「わ、分かった。分かったからその手を離してくれ」


「離してくれ?」


「は、離してください・・・」


「よろしい。以降も言葉遣いには気を付けるのよ」


「・・・・」


「返事は?」


「「はい!」」


夏鈴さんのその言葉に姉の方も体をビクッとさせ一緒になって返事をした。



 六人掛けのテーブルには奥谷兄姉が下座側に並んで座り、その正面の上座側は夏鈴さん、大竹先生、そして何故か俺が座ることになった。老人二人と小寺先生、中心人物である真は四人でソファーの方にいる。因みにトウラさんはいつも通り真の膝の上の定位置で鎮座中。


「さて、ようやく落ち着いたようですね」


「・・・・・」

「・・・・・」


 まず大竹先生が口火を切る。兄姉は訝し気と戸惑いが入り混じったような表情をさせながらもとりあえず大人しくしている。


「まずこれだけは先に言っておきます。今回私達は大事にする気は現段階ではありません。『何を?』とは今は敢えて言いませんが、この方向性は真君の望みでもありますし、部外者の私達としても穏便に事が済むのであれば荒立てる必要が無いからです。ここまでは理解出来ましたか?」


「何のことに対して言っているのか分からないけど、一応理解した・・しました」


「だからアタシは関係ないって ヒッ・・・い、いえ、何でもありません」


 この期に及んでまだ白を切り気味な二人。姉に関しては夏鈴さんが眉根を顰めただけで口を噤んでしまった。


「よろしい。では単刀直入に訊きます。真君に嫌がらせをしたのはどちらですか?」


 計画ではこの辺の進め方は大竹先生に一任されているが、いくら何でもド直球すぎやしないですかね?


「俺は知らねえ・・です。どうせ学校でイジメられたりしてんだろ・・と思います」


「はは、今だけは無理して敬語は使わなくていいですよ。それより本当のことを話してもらうことが重要ですから」


「アタシも知らない。アイツどんくさい奴だからぶつかったり転んだりしたんじゃないの」


 はいお姉ちゃんが半分自白しました。大竹先生は嫌がらせと言っただけで怪我や痣のことは一切触れていない。まさかこんなに早く古典的な罠に引っ掛かるとは思ってなかった。しかも怪我や痣は他人にバレないよう巧妙に服で隠れるところを選んでいるようなので、パッと見では分からない。


「そうですか。では刃物で脅したり傷つけたりは?」


「そんなのするわけねえだろ」


「そうよ、そんなことしたら犯罪じゃない」


 お前らもう立派な犯罪者なんだよ。もしかしてその自覚すらないのか? まああればあんな酷いことしないか。


「この家や別な場所で、高いところから突き落としたりしたことは?」


「はあ? あんた頭おかしいんじゃね? そんなことしたら下手すりゃ死んじまうだろ」


「兄貴の言う通りよ。第一アイツがそんな大怪我したの見たことないし」


「あなた達の言う通りですね。そんな怪我していたらもっと早い時期に大事になっていたでしょうから。ではロープで首を絞めたり首つり自殺を示唆したことは?」


 何これ、何かのホラー映画なの? 何か先生のこと段々怖くなってきたんですけど・・・・


「はあ? いい加減にしろよ。一体さっきから何が言いてえんだ!」


「言いたいのではなく、聞きたいんですよ私達は。それともお兄さんは真君をロープを使って首を絞めたことが?」


「ある分けねえだろそんなこと」


「アタシだってないわよ。それに弟に対してそんな可哀そうなこと出来るわけないでしょ」


 可哀そうねえ、どの口が言ってるんだか。


「その通りです、あなたたちはやっていません。事前にそのことは真君から聞いて確認済みですから間違いないと思いますよ」


「真が?・・・・だったら俺達の無実は最初から証明されてるじゃねえか。一体何がしてえんだよ?」


「そうよ。それにもう帰って。これ以上あなた達と話すことは何もないわ」


「残念ながらそうもいかないんですよ。本題はこれからなのですから」


「アイツに対して嫌がらせしたのは学校の奴。俺達は関係ない。だからもう話すことなんてないんだよ。そうだよなあ真?」


 コイツ馬鹿か? そんな脅すように言ったら自分に後ろめたいことがあるって言っているようなものだろ。


「・・・・・・」


 ただただ怯えて何も言えなくなっていた真を小寺先生は自分の方へグッと寄せてから、


「大丈夫、今真君が答える必要はないわ」


 と、優しく言葉を投げかけ、コクリと頷いた真の頭を撫でた。


「と言うことで話を戻しますよ」


「だからもう終わりだって言ってんだろうが!」

 

「まあまあそう興奮しないで。夏鈴さん例のやつをお願いします」


 兄を軽くあしらいマイペースで話を進めていく大竹先生。


「分かったわ」


 そう言って夏鈴さんは数枚の紙を取り出す。あの四人組の時とは違い、今度はそれより大きいB5のコピー用紙だ。


「これを見てください。一体何が描かれているか分かりますか?」


 先生は一枚だけテーブルの上に置き兄姉に問う。


「はあ? この絵がなんだって言うん・・・こ、これは・・」


「これってどう見ても兄貴と真じゃん」


 その紙にはモノクロ写真と見間違いそうなくらい高精度な絵が描かれてあり、その中には二人の人物が居た。そしてそれは姉の見立て通り真と兄だ。


「お姉さん、あなたにはこの絵がどのような状況に見えますか?」


「おい、正直なことを言わないと、分るよな?」


 夏鈴さんがあからさまな脅しをかける。姉は「ひぃぃい」と怯えながらコクコクと高速で頷いた。


「あ、兄貴が洗面所で嫌がる真の髪を掴んでます。あ、あと洗面台に水を溜めてそこに真の顔を無理やり・・・」


 無理やり洗面台に顔を突っ込ませている場面だな。


 兄は紙をバッと取りそのままビリビリに破いてその辺に投げ捨てる


「これが何だって言うんだ。こんなの上手いってだけでただの絵じゃねえか。だから・・」


「証拠にならないと?」


「そ、そうだ、当たり前だろ」


 その割には念入りに破いてたよな。まああんなの見せられたら破り捨てたくもなるか。


「実はこの絵、真君が隠し撮りした写真を模写したものなんですよ。つまり証拠の写真はあるんです。しかしそれはとあるところに渡してあるので今は手元にありません」


「なんだと!? テメーは最初大事にしねえって言ったじゃねえか、騙しやがったな!」


「おや、あなたは何もやっていないのですよね? なら私達が騙すも何も無いと思いますが?」


「うっ・・」


 そりゃそうだ。コイツが何もやっていないならこんな風に慌てる必要は何処にもない。なのにこれだけ焦っているってことは自分は真を虐待したと言っているのと同じだ。まあこっちは最初から分かっていたことだけどね。


 さて、そろそろ大竹先生が仕上げに掛かる頃合いかな。

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