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22 ガキの領分と狂いのない正義

「どうしてマコトは泣いているんだ? もしかしてどこか痛むのか?」


「ううんそうじゃなくて・・・・」


 真のことを本当に心配しているのか、今にも涙が零れ落ちそうな真より夏鈴さんの方が余程悲しい表情をしているように見える。


「ハッキリ言わないとワタシはマコトに何もしてあげられないわ。辛いかもしれないけどワタシが何とかしてあげるから言ってごらん」


「・・・・・・・」


「ワタシでは信用ならないか・・・・だけどいつまでもマコトの味方でいる約束だけは必ず守るから安心して」


 きっとそれはここへ来る前に約束したのだろう。それは良いのだが、真の事に関して夏鈴さんは気付いている事と、気付いていない事の二つがある。現状後者の方の問題を解決しない限り先へは進めないだろう。ならば少々強引な手段を取らざるを得ない。


「ここは一旦先生方にお任せして俺と夏鈴さんは少しの間外へ行きませんか?」


「どうしてだ?」


 俺の提案にムッとする夏鈴さん。だけど夏鈴さんがいると都合が悪いのは明白だ。


「理由は後でか分かると思います。だから俺と一緒に・・」


「それなら高遠君は残った方がいいわ。私が夏鈴さんを外に連れて行った方が良いと思うの」


「小寺先生の仰る通りその方が良いかもしれませんね。それに男同士の方が都合がいい場合もありますし、小寺先生宜しくお願いします」


 二人とも俺の意図に気付いてくれたようだ。まさか俺が残ることになるとは思っていなかったが、かえって好都合だったので問題は無い。


「そういうことなので夏鈴さん、ここは私と高遠に任せて少しの間席を外していただけませんか?」


「それは必要なことなの?」


「ええ。高遠が言った通り後でその理由が分かると思いますよ」


 大竹先生の言葉に「フム」と目を瞑り腕組みをして、思索に耽気始めた。そして数秒後、彼女は「ふー」と息を吐いてから続ける。


「分かった、ここは素直に応じることにするわ。でもその前に一つだけ確認するけど、真をこんな目に遭わせた奴を必ず私の前に突き出してくれるかしら?」


「その約束は致しかねますが、隠さないことはお約束しましょう」


「・・・・それで構わないわ」


 そう言って立ち上がり小寺さんと一緒に応接室を出て行った。



「さて、ここはオッサンの私なんかより年齢の近いお前が真君と話をした方が良いのかな?」


「精神年齢が、とか言わないですよね? そんなこと言われたら俺泣きますよ。それと真君、これ使っていいよ」


 ハンカチをそっと差し出す。ケツポケットから取り出したやつなので生暖かいかもしれないけどそこは我慢してね。


「ありがとうございます」


 手を伸ばしてそれを受け取ると真はハンカチで目の周りをゴシゴシと擦る。


「気にすんな」


「ゲコッ」


 お前に渡したんじゃねえ。ヌメヌメになりそうだから絶対コイツには触らせないでくれよ。


「その虫カゴいつもそうやって肌身離さず持ち歩いているのか?」


 ここに来てから体を調べるとき以外はずっと大事そうに虫かごを抱えていた。それはまるで悪い奴から守るような、そんな感じに見えた。


「・・・学校以外はずっと一緒です」


 風呂やトイレも? と反射的に訊き返そうとしてしまったが踏み止まる。代わりにこんなことを訊いてみる。


「そっかー。真君とトウラとは友達なんだな」


 すると今までずっと暗い雰囲気だった真が急に目を見開き、


「うん、僕とトウラは友達なんだ」


 と嬉しそうに答える。


 カエルが友達かあ。確かに風格があり個性的だけど、俺には無理だな。だけど真にとっては心の拠り所なのかもしれない。


「因みにいつから飼い始め・・・友達になったんだ?」


「えーと、去年の春ごろだから丁度一年前だよ。長靴公園の茂みで弱っていたトウラを見つけたんだ。」


 そう言えばさっき見たカエル少年が高校生四人を吹き飛ばしたという話の掲示板の日付は、確か去年の六月頃だった気がする。時系列的には合ってるが、せっかく心を開き始めているのところに水は差したくないのでこの話題には触れないでおこう。


「真君はトウラを助けたんだね」


「うん」


 おいトウラさんや、流れ的に今絶好のタイミングだったのになぜ鳴かん?


「それは良いことをしたな、偉いぞ」


「・・・・・・」


 何か不味いことを言っただろうか? 真は俺の顔をじっと見て言いたげだった。


「ん、どうした? 褒められて恥ずかしくなったのか?」


「お兄ちゃんは僕のこと気持ち悪いと思わないの?」


「気持ち悪い? なんで?」


「だってみんなトウラを見て気持ち悪いとか、いつも一緒に居ることをバカにしてくるんだ。ねえ正直に答えてよ、僕ってやっぱり変わってるのかなあ?」


 そう言うことか。まあ確かにそう思うのが大半だろう。


 それにしても今までじゃれ合っていたところに、いきなりハードパンチを食らったような気分だな。


「正直にか?」


「うん」


「そっか・・・・・ならご希望通り思ったことを隠さず言うぞ」


 真は無言で首を縦に振り真剣な目で俺を見てくる。一応確認しようと大竹先生を見る。すると先生もコクリと頷いたので視線を真に戻し話を続けた。


「カエルは自体は好きでも嫌いでもない。ああだけどヌメっとしたのは苦手だから、もしトウラが粘液をぶちまける特技を持ってたら俺にはかけないようちゃんと言っておけよ。おっと話が逸れたな、気持ち悪いと思うかどうかだが・・・・・・結論から言うとそんなことは無いな」


「本当?」


「まあ待て、俺はまだ結論を言っただけだ」


「え?」


「そんな顔すんな、ちゃんと説明してやるから。仮の話だけど、もし俺と真君が同じくらいの歳だったら間違いなく友達にはなってなかったと思うぞ。理由は簡単、他の友達を失いたくないからだ」


「友達・・・失う・・・」


「何となく意味わかったか?」


「僕と一緒に居ると僕のせいで友達がいなくなるってことでしょ。それくらい僕だって分かってるよ」


「ならいいんだ。だけど違う見方をしたら何か見えてくると思わないか?」


「・・・・・・・分かんない」


「まあ小学生には少し難しかったかもな」


「ゲコッ」


 ここで鳴くんかい! ていうか俺は分かったとでも言いたいのか? それとよく見ると体から変な汁みたいの出てないかい? 俺の気のせい?


「ゴホン。要するに本当は真君がトウラと一緒に居ることを気持ち悪いと思っていない奴もいるってことだ。だけどそのことが周りに知られると自分が同じ目に遭うかもしれないから近づくことを避けるんだ。それだけならまだいいけど、多くの子は君に意地悪している連中に影響されて、同じように君に対して意地悪をしてしまうんだ、自分が仲間外れにされないためにね」


 最初は精神的には未熟だけど発言力の高い連中が始め、周りがそれにつられてしまうのが一番よくあるパターンだ。根っからの性悪な奴なんて実際はそんなに居ないと俺は思っている。単純に相手の気持ちを慮れず幼稚なだけだ。


「そう・・・・なのかな」


「絶対と言いたいところだけど、あくまで俺の経験からくる想像でしかないから話半分でいいさ。でも俺が言いたいのはそう言うことだから。だけどトウラを拾って一緒になってからも君と遊んでくれる友達は一人か二人くらいは居たんじゃないか?」


「・・・夏休みまでは二人いた。だけど二学期になってから急に態度が変わって・・・」


「意地悪するようになった?」


「一人はそんな感じだけど、もう一人はただ離れていっただけ」


「じゃあもしかしたらその子は君に申し訳ないと思ってるかもしれないね。真君を嫌いになった訳ではないけど、周りの目があるから一緒には居られないだけだと思う。言葉を変えればその子は嘘を吐いていることになるかな」


「嘘?」


「自分の気持ちと行動が真逆だとしたら、それは自分に嘘を吐いていると同じだと思わないかい?」


「でもそれは勇気がないだけなんじゃ・・・・」


「その勇気がないから人は嘘を吐くんだよ。今の君もそうなんじゃないか?」


「・・・・・・・・」


 無言は肯定とよく聞く言葉だけど、全くその通りだな。


「ハッキリ言って悪いのは夏鈴さんだ。だから君がそんなに申し訳なさそうにする必要は無いから安心していいぞ」


「そんなことは・・・」


「自分を責める必要は無い。だって真君は無遠慮にグイグイ君に迫ってきたあの人に圧倒されて思わず嘘を吐いてしまっただけなんだろ?」


「・・・・・」


「別に夏鈴さんが脅迫してきたとかそんなことを言ってるんじゃないよ。あの人は本気で君のことを想って怒っていたことは誰が見ても分かったからね。まあそれは君が一番よく分ってると思うけど」


「でもお姉ちゃんは嘘が大嫌いだって言ってたし、それなのに僕は・・・」


「夏鈴さんは確かに人一倍嘘が嫌いなことは本人も明言しているし間違いないよ。でもね、彼女の本質は正義なんだ。もっと言えば周りに迷惑をかけまくるタイプの正義バカ。そんでもってアホみたいに真っ直ぐな性格だし」


 あの背中にあるあの細長い物騒なやつみたいにね。


 でも思っていた通り夏鈴さんの手前本当のことを言い出し辛くなっていたんだな。夏鈴さんの嘘嫌いも大きな要素だけど、それと同じくらい本人の想像以上に事態が発展してしまったことことも理由なんだろう。とてもじゃないが小学生には荷が重すぎる話だ。


「だから彼女はアレな性格だけど、今回君が吐いた嘘に対して夏鈴さんは絶対に怒らないから。そもそも真君を追い込んだあの人が悪いんだし。それで本当は・・・・いや違うな。とりあえずこの絵の四人なんだけど、ここ最近で君に酷いことをしたのか、本当のことを教えてくれるかい?」


 ある程度予想はついているが、ここは一つずつゆっくり明らかにしていった方が真君にとってもやりやすいだろう。


「ゴメンなさい、この人達とはずっと会ってないです。だからこの怪我とは関係ありません。嘘ついて本当にゴメンなさい」


「いいっていいて、それよりよく頑張って言えたな、偉いぞ」


 ずっと会っていないと言うことは裏を返せば面識はあるってことだよな。だとしたらこの四人はますますあの掲示板に出てきた飛ばされ高校生の可能性が高くなったぞ。


「じゃあ本当のことを夏鈴さんに教えなかったのは、言いたくなかったからってことだね。その気持ちは今も変わらない?」


 イジメか虐待。もしくはその両方の可能性もある。だけど真の心が完全に折られている様には見えなかった。ただの俺の願望なだけかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。もしかしたら冗談でもなんでもなくて、本当にカエルのトウラがこの子の心の支えになっているのかもしれない。


「・・・・・・・・」


 真は答えるつもりが無いように見える。もし学校でのイジメだとしたら恥ずかしさからくるプライドが邪魔しているのかもしれないし、家族からの虐待でしかも逃げ場所が無いと真が思い込んでいるとしたら、その恐怖で言い出せないのかもしれない。

 話を聞いた感じだと学校では酷い怪我をさせられるような事態には発展していないように感じられる。だとしたらやはり・・・・・・


 これ以上はガキである俺には荷が重すぎるし軽はずみな発言は控えるべきだ。ならばここから先はガキではない大人にバトンを渡すのがベストと判断した。


「大竹先生」


「ああ分かってる。しかし大したものだなお前は」


「いえそんなことは・・」


「謙遜しなくてもいい。とにかくここから先は私が変わろう」


「お願いします」


 

 その言葉を発した後、ちょっとだけ体が軽くなったような気がした。

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