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21 ウソトマコト

 一旦話を整理しよう。


 まず俺は一哉の中学時代のガラスと少年事件を調べていた。事の発端は文字さんの怒りが爆発寸前だったことなのだが、最終的には俺と小嶋さんで探ることのなっている。二人だけでは厳しいので小学校の時の同級生で仲の良かった狐顔の下村剛志にコンタクトをとった。その当日に優メンの押切楓紀とも接触に成功。彼は事件を掘り返すことに消極的な姿勢で、寧ろ嫌がっている節がある。おそらく何かを隠しているとも割れる。


 週明けの月曜日、学校で体育倉庫が荒らされるという一哉の時と似た事件が勃発。どの程度荒らされたのかは不明だが、教師陣の様子からして結構な荒らされ方をされたのだと考えられるが、反省文で済むようだったので備品の破損などは無かったと思われる。因みに発見されたのは五時限目のなので、犯行は昼休み

中のはずだ。


 そして真っ先に疑われたのは一哉だったが、事務の佐々木さんが無実を証明してくれたおかげで今のt頃は無罪放免となっている。しかし一部の教師はまだ一哉の犯行だと疑っていることは間違いない。

 新たに犯人として浮上したのが同じクラスの石渡で、コイツは見てもいないのに一哉が倉庫から出てきたと嘘をついた人物だ。そして中学の時の事件の第一発見者でもあり、何もなければ今日の放課後接触を試みるつもりだった相手でもあった。


 以上が途中までの流れなのだが、ここで予想外の事態が発生する。


 美人女槍術士 {(異世界からの転生者)俺の脳内設定 } こと緑川夏鈴がつい先日知ったカエル少年こと奥谷真を連れて学校に殴り込みに・・・・もとい学校に乗り込んできた。真がうちの生徒に悪さをされたので成敗しに来たのが理由らしく、彼女の性格を多少なりとも知っている俺は、それが本気で言っているのことなのだと理解した。


 その後もアドリ部のヨミ先輩や菜園部の鈴原先輩が職員室に現れ、一時的にカオス化してしまって収拾がつかなくなるところだったが、何とか乗り越えることが出来た。


 部活に入るかは今のところ保留中だが、アドリ部は最終的になし崩しな感じで入部させられてしまいそうな気がする。菜園部の方は部員数が少なく河島さんが心配なので自主的に入る可能性があるかもしれない。


 とは言うものの、最近急に慌ただしくなってきたので直ぐに入ることは無いだろう・・・・たぶん。



「律樹なにボーっとしてるんだ?」


「あ、いや少し考え事をね」


 半分くらいはあなたのことなんですけどね。


「それにしてもこの学校には妙な気配が多いな。まさか・・・・・」


 また夏鈴さんがおかしなことを言い始めたぞ。あんた二十歳超えてるんだし、中二病は卒業しましょうか。それともオーストリアでは中二病は二十歳からなのか?


「恥ずかしいから変なこと言わないでくださいよ。仕方がないので家だったら多少は付き合ってあげますからここでは自重してください」


 大竹先生が来る前に釘を刺しておく。だが彼女は「何を言ってるんだ?」と不可解な面持ちで言ってから続ける。


「ワタシは嘘が嫌いだ。もちろん相手を想っての嘘が悪いとは言わない。だけど例え相手を傷つけない嘘だとしても無意味な嘘は許せないの。だからワタシは嘘を吐かない」


「ハァ・・そうですか。でも相手が不快になったり不気味になるような発言は控えた方がいいです。あなたが大丈夫でも相手がそうだとは限りませんから」


 これで通じてくれるだろうか?


「・・・・・律樹の言う通りかもな。確かに相手を不快にさせる発言をしていたかもしれない。以後気を付けるようにしよう」


 おっ分かってくれたのか?


 トントン


「失礼するよ」


 そこへ大竹先生がやってきた。先生は四人掛けのテーブルで唯一空いていた俺の隣で夏鈴さんの正面の席に座る。今回俺はオマケみたいなものだし、この席順が妥当だろう。


「それではお話をお伺います。その子の親に連絡するのはその後で構わないでしょう」


 そうなの? まあ学校という公共の場だし親が心配するような時間でもないからいいのか。


「分かったわ。まずこの子を見つけた経緯から話すけど、ワタシがランニングをしている最中にここから近い公園の隅でマコトが座っているのを見つけたの。そこはベンチもないただ草が生えているだけのところね。ワタシと目が合うなり立ち上がって逃げようとしたから追いかけて捕まえたわ」


 おいおい、それじゃあまるで本当に誘拐したみたいじゃねえか。それと公園というのは長靴公園のことだな。


「ほう、それで?」


 いや大竹先生、あんたは何でそんなに冷静に話し聞いていられるの? 誘拐案件ですよ!


「ほらマコトのここを見て」


 そう言って真の長袖のシャツの胸の下辺りまで裾を捲り上げる。


「!」

「!」


 それを見せられた瞬間俺と大竹先生は「ハッ」と息を飲んだあと互いの顔を見合う。そして徐に視線を戻した先生が口を開いた。


「これは明らかに暴行を受けて出来た痣ですね・・・・・これをうちの生徒が?」


「マコトはそう言っている。本当は直ぐにでも治療しようと思ったけど、命に別状は無さそうだったので先にこちらへ赴いたというわけよ」


「そうでしたか・・・真君、本当に大丈夫かい? 直ぐにでも病院に連れて行ってもいいんだよ」


 しかし真はブンブンと大きく首を横に振る。どうやら病院には行きたくないようだ。


「そうですか。でも心配だからここの保険の先生にお願いして本当に大丈夫か診てもらおうと思うけど、それくらいならいいかな?」


 真は少しだけ考えた後首を縦に振った。


「じゃあ今連絡するから少し待っててね」


 先生はポケットからスマホを取り出し電話を掛ける。すると電話を切って一分もしないうちに養護の先生が応接へとやってきた。その人は事務の佐々木さんと同じかそれより少し上くらいの年齢で、なかなか恰幅の良いご婦人だ。


「すいませんお忙しいところ、実はこの子の体を見て欲しいのですがお願いできますか?」


 電話で大竹先生は何も詳細を語っていなかったのでこのご婦人は何も知らずにここへ来た。しかし既に何かを察したのか神妙な面持ちに変わっていた。


「分かりました。えーと僕の名前を聞いてもいいかな?」


 真を安心させるためなのか、直ぐに確認するようなことはせず柔和な表情で会話を始めた。


「奥谷真」


 おっ、初めて喋ったぞ。でも普通の声だったな、まあ当たり前か。


「真君ね。どこの小学校で今何年生かな?」


「逗麻小、四年」


 長靴公園は逗麻小と織谷小の学区の丁度境目辺りにあるからどちらかだろうとは思っていた。後輩ということは案外俺の家の近くに住んでいるのかもしれないな。


「四年生かあ。兄弟はいるのかな?」


「・・・・・・・・」


「もしかしていないのかな? それじゃあその・・」


「兄が一人と姉が二人」


「そう、真君は末っ子なのね。じゃあ次はその可愛いカエルさんの名前を教えてもらってもいい?」


「・・・トウラ」


「トウラちゃんね」


「違う・・・違います。トウラは子ども扱いすると怒るからトウラでいい・・・です」


 カエルが怒る? 確かにオタマジャクシではないから大人なんだろうけど・・・・まあ子供だしそういう設定なのかな?


「ゴメンなさいね。トウラね、分かったわ。それで真君の体を少し見たいのだけどいいかな? もしみんなの前で裸を見られるのが嫌だったら私と一緒に保健室に行ってもいいのよ。どうしたい?」


「・・・ここで大丈夫・・です」


 それを聞いた養護の先生は大竹先生と顔を見合わせ頷きう。そして真を椅子から立たせ首の所まで長袖を脱がせた。さっきはお腹だけだったが、今度は上半身全てを見ることになる。


「もう大丈夫よ真君。見せてくれてありがとうね・・・・・・・大竹先生、これは児相に通報するべきです」


 真の上半身の前後全てを見た養護の先生が言う。何も事情を知らなければ俺でもそう判断しただろう。しかし今回は別の事情があった。


「少し待ってください小寺先生、実はこの子の怪我はうちの生徒の仕業かもしれないのです」


「かも、じゃなく本人が言っているのだから真実だ。だからその生徒を捕まえてワタシが制裁を加えてやると言っている」


「うちの生徒が・・・本当なんですか?」


 子供にこんなことするなんて普通の神経ではあり得ないし、疑いたくなる気持ちはよく分る。


「ワタシは嘘を言わない。だから早く真をこんな目に遭わせた奴をここに連れてきて。もしそっちが動かないと言うならワタシ自ら行っても良いのだけど、その場合相手の命の保証はしないわ」


「連れて来いと言われましても、名前とか特徴を教えていただけないことにはどうしようもありません。何かありますか?」


「ああそうだったな、それは失礼。ここの先生ならこれを見れば分かるはずよ」


 夏鈴さんがポケットから取り出したのは手のひらサイズの四枚の紙切れだった。彼女はそれを手早く机に上に並べ、俺と先生は覗き込むようにそれを見た。


「これは・・・・真君が書いたの?」


「違います・・・・これはお姉ちゃんが」


「お姉ちゃん? それは君の本当のお姉さん? それともここに居る、えーと緑川さんでしたっけ?」


「夏鈴でいいわ。それを書いたのはワタシよ。ほら、この絵があればもう誰だか分かるでしょ、早くコイツらを連れてきて」


 夏鈴さんマジっすか? この紙に書かれてるのって絵というより殆ど写真に近いんですけど・・・・


「大竹先生この子達って確か・・」


「分かってます。ですのでもう少し詳しく聞く必要が出てきましたね」


「何言ってるんだ。話ならそいつらを連れてきてからでも出来るでしょ」


「落ち着いてください夏鈴さん、そういうことではないのです。まず真君に聞きたいんだけど、ここにある四人の生徒に怪我をさせられたのはいつ頃かな?」


 早くしろと捲し立ててくる夏鈴さんを宥めつつ真に質問をぶつける大竹先生。どうやら先生たちは何かに気付いたみたいだ。


「・・・・・分からない」


「大体でいいから教えてくれないかい」


「・・・・・・・・・」


「話せないかあ、なら質問を変えようかな。夏鈴さん、この絵はいつ描かれたのです?」


「もちろん今日よ。真と会って話を聞いてその後描いたからほんの一時間前くらいかしら」


「この絵の精度とそれを描くスピードは置いておくとして、何を見て描いたのです? もし本人を見て描いたのであれば、あなたの様子から言ってそれはあり得ないと思うのですよ。もし本人たちが顔の認識ができる距離にいたとしたら、夏鈴さんだったらどうしましたか?」


「無論その場で制裁よ」


「と言うことはあなたは顔を見ていないと言うことになりますよね? では改めて教えてください、夏鈴さんはこの四人の顔をどこで見たのですか?」


「それはえーと・・・・・真から特徴を教えてもらって描いたの。本当よ、嘘は言ってないし神に誓ってもいいわ」


 以前見た誓いのポーズらしき仕草をする夏鈴さん。


 いくら何でもそれは無理があると思う。だけど夏鈴さんが嘘が嫌いって言うのも何となくだけどホントっぽいんだよな・・・・・うーんよく分からんけど、事情があって仕方なく嘘を言っているのかもしれない。


「今回の場合それが嘘かどうかは重要ではないのでこの話は一旦置いておきましょう。事実ここにある絵に描かれた人物は私もそれから小寺先生も知っている生徒ですし、全くの嘘という訳ではないことは本当なのでしょう。しかし問題は彼ら全員が先月ここを卒業していったと言うことです」


 ああそう言うことね。これで先生たちが何を考えていたのかおおよその見当がついた。


「先月卒業した・・・・・・ちょっと待って、この子の傷は明らかにここ数日で出来たものもある。それに卒業したと言ってもこの辺に住んでいることには変わらないんでしょ? だったらやっぱりこいつらがやったとしか考えられない」


「それも無いです。絶対とは言い切れませんが調べれば直ぐにわかることです。なぜなら四人とも県外の大学へと進学していったからです。どの大学も県内から通うのは困難なのでまず間違いなくこの辺りには住んでいないでしょう」


「しかし古い痣や傷跡はコイツらがやった可能性が・・・・」


 本当は夏鈴さんだって気付き始めているはずだ。だけどそれはある意味何かを否定しなければならないことでもあるし、目を背けたいだけなのかもしれない。


「すいません先生、少しだけ口を挟みますね。夏鈴さん隣にいる真君の顔をよく見てください」


「マコトを?」


 夏鈴さんが真の方を向く。


「ゴメンお姉ちゃん・・・・」


 真の両目は潤み今にも零れそうだった。

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