20 混沌と混乱とゲコッ
「まだ帰ってはだめよ律樹」
「いや帰りますよ、夏鈴さんも一緒にね」
何しに来たのか知らんけど、騒ぎになる前に無理にでもここから連れ出さなければ・・・・
「ワタシは用があってここに来たの。だから帰れと言われてもそうはいかないわ」
「オーストリアは知りませんが、日本の学校では原則部外者の立ち入りが禁止されているんですよ。表にも書いてあったはずです」
「用があればそれ即ち関係者と同様よ。ほら律樹、早くここの一番偉い人を連れてきなさい」
「・・・・・話にならないですね。すいません先生方、直ぐにこの人連れて帰るので警察には通報しないでください、お願いします」
「警察? ワタシは何も悪いことはしてないわ」
「あなたは少し黙っててください」
例え夏鈴さんに悪気が無かったとしても既に不法侵入を犯している。それに隣にいるカエル少年をどこで拾って来のか知りたくもないけど、今のご時世、誘拐と騒がれてもおかしくない。
「高遠、この外国の方はお前の知り合いか?」
「ええまあ。今一緒に住んでいる方のお孫さんで、少しの間だけ俺の家に住むことになってます」
孫七さんも祖父ちゃんとは連絡が取れなかったようで、仕方がないのであと一週間住むことを許可していた。もちろん祖父ちゃんにはRhineで報告している。
「そうか・・・・・分かった、なら私が話を聞こう」
「いやそれは大丈夫ですから。この人少し変わった人っていうのもあるんですけど、日本にまだ慣れていないから余計言動が不審者っぽいと言うか何というか・・・・・」
「あなたがここで一番偉い人?・・・・・・・・・確かにそれらしきものは感じるわね。いいわ、あなたと話をしましょう」
「しませんから!」
大竹先生に近づこうとする夏鈴さんを手で制し妨害すると、夏鈴さんは俺に顔を近付け、
「いい律樹、ワタシはマコトに悪さした奴を成敗しに来たの。それを邪魔するならアナタにも容赦しないわよ」
と、とても冗談とは思えぬほどの迫力で脅しをかけてくる。思わず一歩後退りしてしまったが、今ここで引くわけにはいかない。
ところで成敗って何するつもりですか? それと夏鈴さんの背中に細長いものが見えますが、本物の刃は付いてないと思いますが。それでも絶対中身出しちゃいけませんからね、絶対ですよ!
「マコトって隣にいるカエルを持った子のことです?」
せめてもう少し事情を把握しようと質問してみた。すると答えたのは夏鈴さんではなく、
「ゲコッ」
虫かごの中で鎮座していたカエルだった。まあ答えたというよりただタイミングよく鳴いただけなんだけどね。
「そうよ。この子の名前は奥谷真。さっき知り合って事情を聞いたらこの学校の生徒に脅されたって聞いて居ても立っても居られなかったからここに来たのよ」
うん、とてもシンプルな説明ありがとうございます・・・・・・ってかなり端折り過ぎじゃね? あとさっき知り合ったって言ったよね?
「それならまずその子の親に連絡を・・・」
「高遠」
頭の中で整理しながら話していると、突然大竹先生が制止してきた。
「は、はい」
「それを確認するのは我々教師の仕事だ。それとさっき私が話を聞くと言ったんだ、お前は下がってなさい」
反論は認めない。先生の視線がそれを物語っていた。確かに出しゃばりすぎたかもしれない。しかし・・・・
「彼女は一応身内みたいなものなので同席くらいなら許してくれますよね? それに夏鈴さんのお爺さんにも事情を説明する必要があるので」
このまま放置するわけにもいかなかった。
「・・・・まあそれくらいならいいだろ。それと場所を変えるぞ。松本先生、我々は応接室を使わせてもらうので、もし石渡が見つかれば今度はちゃんと生徒指導室を使ってください。いくら何でも生徒への配慮が無さすぎですよ」
言われてようやくそのことに気付いたのか、松本先生とその周囲は大竹先生の言葉に俯いてしまった。
確かに職員室は生徒の出入りが多い場所だ。特に噂好きや騒がしい生徒に目撃されたらあっという間に話は広がってしまうだろう。
「うわーすっごい美人!! アメリカ人?」
そうそう、こんな風に騒がしい人が来たら・・・・・ってこの声ってまさか。
「あっリッキー入部届出しに来たのかなあ?」
「・・・・・ヨミ先輩空気読んでください、それと出しませんから」
ホント毎度毎度騒がしい先輩だな。
「律樹、この可愛い子はあなたのガールフレンドか?」
「夏鈴さんはあとも~少し黙ってましょうか。大竹先生早く行きましょう。てなわけで橋本君また明日な」
「・・・ああまた明日」
いつも学校では気丈に振舞っている一哉も、流石に今日の一件は相当堪えてるようで覇気を失っているみたいだ。出ていく後姿が何となく小さくて寂しそうだ。夜にでも電話するか。
「失礼しまーす、武道場の鍵を借りに来ました・・・・・・えっ? もの凄いスタイルの外人さんがいるんですけど、もしかして新しいALT?」
今度は誰だよ!? と若干イラつき始めた俺の視界に映ったのは菜園部部長、鈴原先輩だった。とにかくまた面倒そうな人が増えてしまったということだ。
一難去らずにまた一難って感じ?
いやもうここまでくれば完全にカオスだな。
先輩に見つかると面倒だし顔隠してやりすごすか、と思ったが時すでに遅し。
「おー高遠君。今日はすみれちゃんと一緒じゃないんだー」
俺を発見、即発言の鈴原先輩。
だめだ先輩、そんなことを言ったら・・・
「すみれ? 一緒? もしかしてその子こそが律樹のガールフレンド、いや彼女なのか?」
ほら夏鈴さんがまた余計な事口走った。仕方ないこうなったら古典的な方法を使うしかなさそうだ。
「夏鈴さん、今日の晩御飯はトマトづくしにしますよ。知ってます? 味噌汁の具にトマトって意外に合うんですよー」
ニヒヒとわざと下卑た表情で気持ち悪さを強調させる。
「うぅ・・分かった。静かにしているから勘弁してくれ」
よし、これで一難は取り除いたぞ。夏鈴さんが大のトマト嫌いで助かったぜ。
「焼いたトマトもおいしいよねー。リッキーにも食べさせてあげるから週末のバーベキュー絶対に来てねー。ああそこのカエルの少年、君もどうかね? それと美人なアメリカさんも」
そう言えばこの人まだ居たんだった。ああ面倒くせえ。それにカエル少年こと真君がヨミ先輩のゴーイングマイウェイスタイルにドン引きして夏鈴さんの後ろに隠れてしまったじゃないか。
「分かりました、行きますんでヨミ先輩も少し静かにしていてください」
「はいはーい」
ああこれ絶対に分かってなくて適当に返事しているパターンだ。
「それと鈴原先輩お疲れ様です。また今度菜園部に遊びに行くので今日のところは何も言わないでください。マジで頼みますから」
「う、うん。なんかよく分らないけど了解したよ。でも絶対遊びに来るんだよ、絶対だからね」
そう言って先輩は鍵を保管庫から取り出して職員室から出ていった。
よし三難目も排除。
「あーアタシも鍵取りに来たんだった。んじゃまたねリッキー」
二難目は自主撤退。
これでカオスは解消された。
「高遠、お前の周りって騒がしい奴ばっかりだな」
いつの間にか大竹先生はいつものような表情に戻っていた。だけど先生・・・・
「・・・それは言わないでください」
「はは、でも少し安心したよ」
「安心ですか?」
「いつも教室でクールを気取っているお前だが、こうも簡単に周りに振り回されるとは思っていなかったぞ。アタフタしているその姿の方が俺は好きだな」
男に、しかもおっさんに「好き」とか言われてもなあ・・・・
「とにかく場所移動だ。俺は教頭先生にこのこと報告してから向かうから、先にその二人を案内しておいてくれ。応接室は校長室の隣だ」
「校長室の隣ですね、了解っす」
「おっ、その口調の方が学生ぽくていいぞ。それじゃあ頼むな」
先生と初めてちゃんと話した影響か、自然と硬さ取れ掛けてきたのかも。
「という訳で案内しますんでそれでいいですか?」
「話が出来るなら場所は選ばんよ。マコトも大丈夫か?」
真は顎を上げ身長差が半端ない夏鈴さんとしっかり目を合わせた後コクリと頷くいた。
そう言えばまだこの子の声まだ一度も聞いてない。まさか喋れないってことは無いよな? いや夏鈴は話をしたみたいだしそれは無さそうだが、どんな声なんだか少しだけ気になる。
「ゲコッ」
お前じゃねえよ!
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